81 旧ウギマ2
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「また魔物が来たぞ!!」
騒ぐ声の中から誰かの叫びが聞えた。
「ヤバイ、また来た。みんな揃ってるか?」
ベンが振り返り人数を確かめる。
「ザックがいない!アイツ今日は防護壁の修繕を手伝う仕事がもらえたって言ってたから」
ザックとはどうやらシーラスにぶつかって足止めした子らしくそのまま仕事に向かったようだ。私はパフを高く飛ばせ騒ぎの場所を確認した。
「パフ!魔物がいる場所は?」
「ポッポ」(ここから近いな、向こうだ)
パフがその方向へ顔を向けた。
「アッチね」
それを見たベンが驚いた。
「鳩が……いや、そっちなのか!?だったらザックがいるかも」
彼はすぐに中庭から飛び出し路地を走っていった。私もそれについて走り出す。
「ポッポ」(助けるのか?)
「どのみち町が襲われているなら確かめなくちゃ、ここには騎士があまりいないって言ってたでしょう?」
「ポッポ」(多少冒険者はいるであろ)
「凄腕がいればいいけど」
パフが先を飛びながら導くままに付いていくと広い道に出た。するとドォーンという音と共に行く先に土煙があがる。
「また防護壁が壊れたぞ!魔物が入ってくる!」
私が行くのと逆方向に皆が走り出す。先の方に私と同じように流れに逆流する人が何人かいた。腕におぼえがある冒険者たちだろうか。そこに少し背が低い子が紛れている、ベンだ。
ベンは逆流して人をかき分け防護壁が壊れたであろう場所を目指しながらザックの名を叫んでいた。
「ザック!いたら返事しろ!」
逃げる人の叫び声で聞き取れるかどうか、それでも呼びかけながら彼は進んでいった。
私も後を追うように進み遂に壊された防護壁が見える場所まで辿り着いた。
町を囲う防護壁はバッタリと押し倒され、その横に修繕しようとしていたのか木で組まれた足場がなぎ倒されていた。
何人か倒れた防護壁の下敷きになって逃げ遅れている。その直ぐ側に何体かのオークがうろつきゴブリンが後からゾロリと入り込んでくる。
防護壁を壊したのはトロールだった。緩慢な動きでまだ壁を壊そうと拳を振り上げている。
「ザック!」
ベンが叫び防護壁のしたから上半身だけ出して倒れているザックを見つけそこへ向かって走り出す。
「ベン!助けて!」
ザックの側に駆け寄ろうとするベンの前にオークが立ちはだかった。
「グッ……クソッ!」
ベンは辺りを見回し棒切れを掴み上げ剣のように構えた。
「ザック!オレが引き付ける、早く逃げろ!」
「無理だ足が抜けない!」
そう叫んだザックに入り込んだゴブリンが近寄っていく。
「うわぁーー!!」
ザックが叫び声をあげた。
「パフ!ザックをお願い」
私はベンの肩を掴み後ろへ下がらせた。
「何すんだ!」
私は近くにいるオークを火球で攻撃し吹き飛ばした。ザックの側にいたゴブリンをパフが礫で攻撃し下がらせるとザックを下敷きにしていた防護壁をバラバラに砕いた。
「ベン、ザックを連れて逃げなさい」
まだ他にも魔物はいる。私はそのまま町に入り込んでいたオークを次々と攻撃し倒していった。ゴブリンの殆どを冒険者達が倒していたがトロールだけは攻めあぐねているようだ。
知能はそんなに無いが一発の攻撃力が大きい巨体のトロールは数人で倒すのが定石らしいが皆が他に手を取られトロールを集中攻撃することが出来ないようだ。その間にもトロールは町を囲む防護壁を壊していく。このままじゃまた修繕している間に魔物の攻撃を受けてしまう。
ベンとザックが無事に避難しパフが私の側に戻ってきた。
「私、アイツには恨みがあるのよ」
前にカーリの町の側で戦った時足場を崩されその後大変な目にあった。
「ポッポ」(ここで晴らすが良かろう)
パフも多少腹を立てているらしい。
礫で攻撃しこちらを向かせた。ゆっくりとした動きで振り返り私を見ると走っているつもりなのかドシドシ地面を踏みしめながら近づいて来る。
「埃っぽいわね」
水の魔術でトロールを防護壁が壊れた所から外へ吹き飛ばした。
「あの巨体を町中で始末するのは後が大変そうだものね」
飛んでいったトロールを追いかけるように壊れた防護壁から外へ出ると奴はゆっくりと起き上がるところだった。けっこう頑丈にできているのね、なんて思いながら礫で集中的に攻撃しまた倒れたところを火の魔術で焼き上げた。トロールは骨ぐらいしか素材にならなかったはず。
「これでいいわね」
ホッとひと息つき振り返ると数人の冒険者や町の人と思しき大人が私をジッと見ていた。町中へ入り込んだ魔物はどうにか倒したようだ。
「魔術師だ……」
誰かがポツリと言った。
「何しにきたんだ」
「またここを壊すのか……」
え?どうしたの?
「もういい加減にしてくれ!ここには何もないぞ!」
「全部無くなったんだ!魔王の、お前のせいで!!」
皆が怒りの表情で私を睨みつけている。
「待って下さい!私は魔王じゃない!!ただの魔術師です!」
シーラスがこの町で魔術を使うなと言った事を思い出した。もしかして、この町の人達は魔術師を嫌ってる、いや憎んでる。ここが魔王に壊された国だから。
「いいから出てってくれ!やっとここまで回復したんだ」
段々と人が集まりだし騒ぎが大きくなってきた。
「どうしよう、パフ。シーラス様とも離れてしまっているのに」
「ポッポ」(奴は私が連れてくる。とにかく一旦ここを離れぬとロージーの身が危険だ。其方は襲われても人に攻撃は出来ぬであろう?)
「それは……そうだよ」
魔物相手ならともかく人に攻撃だなんて出来るわけない。
人だかりはどんどん大きくなりもう町の中へは戻れそうにない。仕方なくその場を立ち去ろうとすると人混みをかき分け一人の男の子がこちらへ駆け寄ってきた。
「おーい、待ってくれ!」
それはベンだった。
「ベン!無事だったのね、ザックは大丈夫?」
「あぁ、家に連れて行った。ちょっと足を挫いてるけど大丈夫だ」
「良かった。じゃあ、私はここにいてはみんなが怖がるから、行くわね」
パフが警戒するなか、私は町から離れようとした。
「いやチョット待ってくれ、いきなりオレがいなくなったらザック達が困る。少し時間をくれ、他の奴らも行きたいって言ってたし」
「行くって、私と?」
急な言葉に驚いた。
「そっちが働きに来いって言ったんだろ。まさか嘘か?」
「嘘じゃないけど……」
私はベンの後ろを見た。離れた場所から大人達が不審な顔でこちらを窺っている。私が孤児を連れ去ろうとしてるって思っているんじゃないだろうか?
「あぁ、あんなの気にするな。もうとっくに魔王は死んだってのに終わった事をいつまでも根に持ってグチグチ言ってんだ。おかげで防護壁も直して貰えないし見張りも連絡係も置いてもらえない。だからいつまでたってもここは駄目なまんまだ」
町の人が魔王の事があったせいで魔術師を受け入れられない為に上手く復興が進まないらしい。魔王の支配下にあった時、ザックはまだ小さかったせいでその時の記憶は無いため彼には魔術師に対する忌避感は無いようだ。
するとまた人だかりをかき分け一人の男が前に出てきた。
「やはりローズマリー様でしたか。早速注目の的ですね」
シーラスがステッキを手にいつものように微笑む。
「あんたの仲間か、アイツもなかなか強いな。町中へ入り込んだゴブリンを次々と倒してたよ。あのステッキ、隠し武器だったんだな」
ベンが戦うシーラスを見たらしい。するとシーラスの側にいたの男達が声を上げた。
「あぁ!その紋章はバーンスタイン家の……」
「では貴方はウギマの貴族バーンスタインの方なのですか!?」
シーラスはわざとらしくステッキを持ち上げると紋章が皆に見えるようにくるりと回した。
「今だにバーンスタインの事を覚えている人がいるとはね。だが私は遠縁で本家の者ではない。これは亡き祖父の忘れ形見だよ」
悲しげに見えるように少し俯き町の人を振り返る。
「皆、あの方は魔王ではない。町を襲った魔物を倒してくれたではないですか。あの方は私がここにお連れした優秀な魔術師だ。どうか私と共に信頼してくれないか?この紋章に誓って彼女がこの町に危害を加えないと約束出来る」
シーラスの見事な演説を聞いた男がコックリと頷いた。
「みんな、この方を信じようじゃないか。バーンスタイン家縁の方がこう仰ってるんだ」
「そうだ、きっと大丈夫だ。それより町の被害を確かめよう」
集まっていた町の人達もお互いに顔を見合わせ口々に何か言っていたがやがて町中へ帰っていった。




