71 再び旅
屋敷を出ることをシーラスに告げた。
どういう反応をするのかと身構えていたがアッサリ「そうですか」と認められた。
「ローズマリー様は農村に土地をお持ちとか?」
「えぇ、取りあえずはそこへ向うつもりです。もっと土地を購入する手続きもしなければいけませんし」
シーラスは少し考えるとニッコリと提案してきた。
「では私の土地はどうです?売ることはできませんが格安でお貸しいたしますよ。ちょうど誰も作業するものがいなくて困っていたのです。町から少し遠いですがここからは近い。別棟を住まいとして人を雇って下さって構わないですよ」
後ろにいるジルドと顔を見合わせた。
「そうだな、いきなり土地を広げて人を探すよりまず借りて上手くいくか試してからでも遅くない」
「そうね……でも土地だけは買っておきたいわ。水が引けると分かれば高く売りつけられる。その前に買いたいの」
ジルドもそこは頷いた。
「わかりました。では専門家に何ができるか見てもらってどれほどの人がいるかを確認して人も雇い入れます」
「わかった。こちらでも働き手を探すよ。魔物に家を潰された人に聞いてみよう」
何かを企んでいるとは思うが彼が町の人達の事をちゃんと考えているように見える。
爽やかに微笑むシーラスと別れ屋敷を出ることになった。
「本当に良いの?ルー」
「もちろんです」
ルーは荷物を自分で荷台に乗せると自らも乗り込んだ。
「私がお嬢様から離れるわけにはいきませんから」
マーサのことが気になりここを離れることを躊躇っていたようだ。だけど魔物に家を壊された町の人が数人屋敷で働くことになりそこの心配が無くなり心置きなく私と行くそうだ。
「タイラーのところでもいいのよ」
「お嬢様は余程私を他所へ行かせたいようですね」
ちょっと機嫌悪そうに私を睨む。
「違うわ、側にいて欲しいけど旅を続ける私について来てっていうのは気がひけて……」
野宿や魔物、普通の女性には辛いことが多い。
「お嬢様がいらっしゃるところには私も参ります。ですが気になると仰るならどこかに家をかまえればいいではないですか、私はそこでお世話致しますよ」
ジルドの隣に乗り込み馬車を進める。
家ねぇ……
「ねぇジルド、私が家を持つとしたらどこがいいかしら?」
「ロージーの家か。今のところマルギットとカーリに畑を持つ感じだからな。
前に行った旧ウギマの近くでもいいんじゃないか?少し北へ行くけどどちらへも街道が繋がってるし少し行けば魔物を狩る場所も多い。珍しい奴も探せるから高く売れるよ」
旧ウギマはちょっと雰囲気が悪い感じがしてすぐに立ち去ったが考慮してもいいだろうか?
馬車が休憩する為に街道脇の木陰に止まった時、ジルドとルーから離れパフに相談した。
「パフはさっきの話どう思う?」
「ポッポ」(旧ウギマか……こうなると因縁を感じるのう)
「どういうこと?」
「ポッポ」(ふぅ……旧ウギマの近くに手頃な屋敷があるはずだ)
「手頃って?」
「ポッポ」(旧ウギマとラッテンリットの国境近くだ。シーラスの屋敷位の大きさで街道から少し入ったところにあるゆえ静かであまり人目にさらされぬがマルギットにもカーリにもさほどかからぬ、そして少し距離はあるが王都へも行きやすい)
「どうしてそんな事を知ってるって……言いたくない事なのね」
パフがため息をついた感じがしてそれ以上は追求しなかった。
「わかった。とにかく一度マルギットに行ってからその屋敷を探してみる」
再び馬車を走らせ夕方、小さな村につくと宿を探し部屋を取った。
数日かけてマルギット村に到着し宿を取るとルーをそこで休ませた。流石に疲れたようだったので部屋から出ないよう言い聞かせ、ジルドとジョシュ達の家に向かった。
「わぁ〜見違えたわねぇ」
前回ここに来たときはまだ水が引けてなく、ジョシュ達が食べていくだけの畑を少し作っていた程度だった。だが水を引いたことで全ての畑を耕しあたり一面緑の葉が畝を彩り生き生きとした緑の帯が美しく並んでいた。
「あっ!ロージー様!」
私に気がついたジョシュが手を振りながら近寄って来た。側で一人の若者が作業をしていた。
以前よりも日に焼けた顔で汚れた手を腰にぶら下げたタオルで拭っている。
ジョシュの声が聞こえたのか家の中にいたフェリシーも顔を出した。
「ロージー様、戻られたのですね」
二人に笑顔で迎えられ家に招き入れられた。
テーブルにつき人数分のお茶が用意される。
「お体はもう大丈夫なのですか?ジルドさんから聞いて心配していたんです」
フェリシーはクッキーを私に勧めながら尋ねてきた。
「えぇ、今はすっかり元通りよ。それより人を雇ったのね」
「はい、まだ一人ですがよく働きます。仕入のために近くの町へ行った時にたまたま見つけたんです」
この村ではもう働ける人は他の農場に雇われているので他で探してきたらしい。
「村が魔物に襲われて働き口が無くなって困っていたようで」
フェリシーが面接し雇うことになったようだ。
「魔物に襲われたって?西から来たの?」
西の方に魔物が出ると言われ行ってきたばかりだ。予想外に大規模な集団とも遭遇したし。
「いえ、少し北に行った所です。この村からは遠いですが見たことない規模の魔物の大群が押し寄せたそうです」
それって西で起こったことと同じだ。
「ポッポ」(まさか……)
肩に乗っていたパフがボソリと呟く。何か思い当たる節があるのだろうか?だけどここでは聞き出せない。
「そうだったのね、西でも似たような状況だったの。今回は何とかなったけどここも警戒が必要ね」
この農村は栄えている割に防護壁も無く見張りも立てていない。あの規模の大群に襲われたらひとたまりもないだろう。
「今回は?……まさか噂の『赤毛の魔術師』ってロージー様のことですか!?」
「はぁ!?」
私は驚いて声をあげてしまう。
「ど、ど、どこからそんな噂が……」
「さっき言った町です。あいつ、ロンっていうんですが、ロンと知り合った町で噂になっています。西じゃ『赤毛の魔術師』のおかげで誰も死なずに済んだって。一瞬ロージー様の顔が過ぎったんですけど、やっぱり」
「ジルド知ってたの?」
「ま、聞いたことはある。助かった奴ら全員に口止めなんて無理だよ。その髪はけっこう目立つし」
咄嗟に自分の髪に触れた。もう季節は暖かくなってきたため馬車で移動するなど埃を避ける為ぐらいにしかフードを被っていなかった。西から来たと知れれば噂の魔術師と私を結びつける人もいるかもしれない。
「名前までは噂になってませんでしたが……時間の問題ですよ」
フェリシーは私が魔術師という事を隠そうとしているのを知っているので心配そうに言った。
「そうね、あなた達にも迷惑がかかるかもしれないわね。早々に村を出るわ。誰かに何か聞かれたら代表者はジルドだと言っておいて」
「おい、急に何だよ。無理だよ、オレはアントンさんのとこの者だって知ってる人がけっこう多い」
ジルドが慌てて首を横に振る。
「一応守秘義務があって詳しくは話せないって言っておきます。ですがもうそれは肯定と同じな気がします」
フェリシーの言うとおりだ。彼女にフード付きのマントを借りると髪を隠すために被り、急いで村の役場へ行くとジョシュが買った土地に隣接する土地の持ち主を探し出し全て買いあげた。まだジョシュ達の畑が水を引けたことは知られておらず安く買えた。
この先ジョシュの畑に水が引けたことがわかると魔術師が絡んでいるとわかるだろう。そうなれば私を見知った人が噂の『赤毛の魔術師』と結びつける。その前にここを出なきゃ。
宿に戻るとジルドに頼んで今の畑に引いた水で今回買い入れた土地にも水が引けるか聞いてもらう為に彼らのところへ向かわせ、借りたマントも預けた。
私は極力宿の部屋から出ずルーに食事を運んでもらって数日過ごし日用品や食料を買い込むと村を出た。
畑に引く水の心配は無く最短で村を出たがフードを被った私をジロジロと見る人も何人かいたためもう村には滅多なことでは行けないかもしれない。




