70 企み
ルーの顔は怖いが私は終始上機嫌だ。だってパフがいる。
シーラスとの夕食を終え急いで部屋へ戻る。流石に食事の席に嫌いな鳩を(パフだけど)連れていは気の毒だ。
「パフ!」
部屋へ入るなりパフを掴まえ抱きかかえる。
「お嬢様、湯浴みをしませんと」
「ポッポ」(ルーが呼んでおるぞ、早く行け。)
……気のせいかな?二人して機嫌が悪い?
パフが戻ってきてから数日。私は毎日ピップの様子をパフに見に行ってもらい、調子が悪そうだった日は直接行って癒やしをかけていた。
パフが無理をするなというからまだふたりしか呼び出していない。
だからここにいるパフがピップと私を行き来しているので帰ってくるまで気が気じゃない。だけどあまり出歩くのも良くないとルーとパフに止められ仕方なくこういう手段を取っている。
タイラーのところに行ったパフが到着したらしく彼の喜ぶ様子を嫌そうにパフが知らせてくれた。
「ポッポ」(何故私があやつに抱きしめ……ウップ、思い出したくも無い。私はロージーではないぞ)
気持ち悪げにパフが言った言葉にひとりでに顔が熱くなる。
側にいたら私が抱きしめられていたって事?そして、その後……違う違う違う、何も無い!!
ブルッと頭を振ると深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ポッポ」(シーラスは見かけほど親切で動いておるわけでは無いぞ。だが優秀な奴だ)
パフは何故か彼のことを知っているようだ。これまでもパフは色々な事を知っているとは思っていたがこんなにピンポイントに辺境に住む没落貴族を知っているなんておかしい。
「王都の『黒窓』で見た時は何もいってなかったじゃない」
私が初めてシーラスを見た時は知ってる素振りは見せなかった。
「ポッポ」(関わらん方がいいと思っておったし関わることも無いと思っておったのだ)
苦々しい感じでパフが横を向く。
「それで何者なの?」
シーラスは彼が言った通り没落貴族の末裔だが没落のきっかけは先代のゾルガーで言わば私の祖父だそうだ。既に亡くなっており会ったことは無いが父同様ゾルガーらしい人だったようだ。
「ゾルガーに恨みがあるみたいだけど私に親切にして何を企んでいるのかしら?」
利用しようとしていることはわかっていたがどう扱われるのかわからない。
「ポッポ」(恐らくゾルガーとしてというより魔術師としてロージーを利用するのが狙いであろう。以前も優秀な魔術師を支援してゾルガーを陥れようと画策しておったからな)
何故以前のシーラスの企みまで知っているの?
それじゃあまるでパフが私に合う前に……?
「パフはパフになる前があるの!?」
以前どうしてそんなに物知りか聞いたことがあった。言いたくないようだったのでそれ以上は聞かなかった。
「ポッポ」(ふぅ……そうなるな。どのような存在であったかは言いたくはない。命令とあれば話すが……其方の『パフ』がこれまでとは違うものになるやもしれぬぞ)
急に真剣にそんな事を言われても戸惑ってしまう。パフはパフでしかありえない私にとって、パフがパフでなくなるというのは堪えられない。
「わかった、あなたが前に何だったのかは聞かない。でも何だったとしてもパフをパフとしてしか私には見れない。この先パフの何かがわかってもどこにも行かないで」
「ポッポ」(言ったであろう。其方が必要とする限り、私はロージーのそばにいる)
そっと膝に乗ってくるパフを優しく抱き上げた。
シーラスは私を魔術師として利用しようしているようだが私が屋敷に滞在している間に特別に何かを指図することはなかった。
体力も魔力も順調に回復しそろそろ今後の事を考えなければいけないと思っている所にジルドがやって来た。
「ロージー!久しぶりだな、すっかり元気になって見違えた」
部屋に入るなりジルドは嬉しそうに近づいてきた。両手を広げた所でルーが間に割って入りソファへ誘導した。
「ジルドさん、こちらへどうぞ。今お茶を用意致しますわ」
私を向かいに座らせ部屋に置いてあるティーセットを用意し始める。
ちょっと気まずそうにしたジルドだったがマルギットの畑の進み具合を報告してくれた。
「畑は順調に種付けも済んで早い物は芽がでてたよ。専門家が土地を調査した結果、畑の周りの森は物によるけど果物を育てるのにも向いてるって。
でもジョシュは畑をもっと広げたいって言って、フェリシーは気候によって畑が上手く行かない時の為に果物にも挑戦したいってケンカしてた」
「そう……だったら取り敢えず買えるだけ土地を買って半分は畑、残りは果物にしましょう」
「買えるだけって、そんな急に広げて大丈夫か?人手は?」
「もちろんこれから探す。私もそろそろここを出るわ」
話を聞いていたルーがギョッとして、持っていたカップをガチャリと鳴らす。
「お嬢様!ここを出るのですか?」
私はルーからカップを受け取りながら頷く。
「ずっとここにいる訳にはいかないでしょう」
「シーラス様と結婚されれば大丈夫ですわ」
「グフッ、ゴホゴホ……結婚!?」
驚いたのはジルドだった。手にしたカップのお茶をこぼすとルーに睨まれている。
「ロ、ロージーはタイラーと婚約してるんだろ?」
「そんなもの関係無いですよ!結婚してしまえばこちらのものです」
ルーが言い返す。
「だけど相手は勇者だぞ」
「いくら勇者でもいざという時にお嬢様をお守りして下さらない方は駄目です。それにタイラー様は平民です」
「ロージーは貴族が嫌で逃げ出してきたんだろ。だったら平民でいいじゃないか!」
「ですがタイラー様は城に詰めていなければいけないのですから貴族に囲まれて暮らすことになります。ですから平民でも駄目な平民です」
私そっちのけで私の結婚相手を決めないで欲しい。駄目な平民てよく意味がわからないし。
「ちょっと二人共、ここを出ると言っただけで一体なんの話を……」
「だったら城に詰めてなくてもいい、貴族でもないオレがロージーと結婚する!!」
突然立ち上がり叫ぶジルド。
「はぁっ!?」
驚いて彼を見るとこれほど人の顔が赤くなるのかというほど赤い顔で言い切った。
「フッ、笑わせないで下さい。貴方ではローズマリー様を守れないではないですか」
ルーがジルドを見下すように不敵に笑った。
「くぅ……」
二の句が告げず彼はガックリと項垂れソファに沈んだ。
勝った!と口にはしなかったがルーがグッと拳を握りしめた。
一体なんの戦いだったのか……
「と、とにかく一旦マルギットへは行かなければいけないので早々にシーラス様にお知らせします。その後ジルドと馬車で出るけどルーはどうする?」
「は?」
勝利に酔いしれていた……かどうかはわからないがルーが驚いた顔をした。
「私……ですか」
「えぇ、私は馬車の旅はもう慣れっこだけどルーには辛いかも。着いてきてもいいし、ここに置いてもらうことも出来ると思う。人手不足みたいだし、マーサとも仲良くなったんでしょう?
タイラーのところに帰っても大丈夫だと思うわ。レーンにアレコレ聞かれると思うけどなんとかなるでしょう。どうする?」
ルーは私の提案に迷っているようだった。
彼女は平民だけどずっと私について貴族のお屋敷で暮らしてきた。最近はタイラーのところで働いていたとはいえ職場は城だ。完全に平民の生活は子供の頃しか経験がない。私ほどではないが世間をあまり知らないのだ。
「少し、考えさせて下さい」
そう言って下がっていった。




