122 農村1
連続で大量の魔術を使った為かその夜はグッスリと眠った。馬車で移動中は熟睡出来なかったので質素な町の宿のベッドでも寝心地は最高だ。
朝、気持ち良く目覚め昨日浴びそこねたシャワーを浴びた。共同シャワーで熱い湯を浴びスッキリすると部屋へ戻って髪を乾かしているとノックが聞こえた。シーラスが来たのかと思っていると女性の声がした。
「ローズマリー様、おはようございます。少し宜しいでしょうか?」
この町に女性の知り合いはいなかったはずだが恐る恐るドアを開けた。私が魔術を使える事はもう町の人ならわかっているだろうから危険はないだろう。
「恐れ入ります。私はシエナと申します、以前助けて頂いたピップの母でございます」
頭を下げきっちりと礼を取り挨拶をしてくれた。
「まぁ、ピップの。あの子は元気になりましたか?」
「はい、ローズマリー様のお陰で少しずつではありますが持病もよくなって来ております。あの、その説は大変お世話になりながらご挨拶も出来ず申し訳ありませんでした」
シエナは魔物に家を壊されピップを預けて夫婦で働きなんとか生活を立て直そうとしていたそうだ。やっと一緒に暮らし始めた矢先のこの出来事だ。さぞ心配だろう。
「いいのよ、それよりどこかに避難はしないの?」
防護壁を造ったとはいえオスロワスの騎士が攻め込んで来ればここの壁なんてあっという間に突破される可能性がある。壁はあくまで魔物避けだ。シエナは首を横にふる。
「行くあてもお金も無いのでここに留まります。それより私は以前貴族のお屋敷で働いた事もありますのでローズマリー様に少しでも恩返しが出来ればと思い参りました。側仕えをお連れになっていらっしゃらないとお聞きしましたので。何か御用はございませんか?」
旅が長かったせいもあり自分の事は何でも出来るが一つ頼み事をする。
「では馬に乗る為の服を用意してもらえないでしょうか?女性騎士が着るような格好がいいのですが」
女性騎士は膝丈のワンピースのような上着の下にスパッツを履いている。普通の上位貴族のお嬢様ならすることはない格好だ。
「え、わ、わかりました。探して参ります」
戸惑ったもののシエナは直ぐに頷くと下がっていった。
「ポッポ」(また良からぬ事を考えておるのか)
「またって人聞きが悪いわね。ただ他の村の様子が知りたいだけよ」
まだ国境の岩山に近いところに二つの農村があると言っていた。そこへ見に行こうと思ったのだ。朝食を取るために一階の食堂へ行くとシーラスが数人の町の人と一緒に食事を取っていた。
「ローズマリー様、もうよろしいのですか?」
シーラスは私に気がつくと直ぐに立ち上がり自分の席の隣へ連れてくると椅子を引き座らせた。同じテーブルにカークもいて私が座ると慌てて席を立った。
「カークさん、座って話を聞かせて下さい。農村があるのでしょう?」
私が貴族である事はとっくに気づいていたようで、親しい間柄のシーラスはともかく私が平民と同じテーブルについた事に驚いたようだ。
「だから言っただろう。ローズマリー様は気になさらないと」
何故かシーラスが自慢気に話しそれを聞いたカークが嬉しそうな顔を見せた。
「シーラス様、いよいよですか。マーサが喜びますよ」
カークはシーラスの屋敷にいる側仕えと知り合いらしい。何を期待されているかはあえて気づかないふりをしてカークに農村の事を聞いた。
二つの農村はここからそう遠くなく馬で飛ばせば半日程、村同士は近くにあり一つはほぼ避難済みでもう一つが問題の避難に消極的な個人で畑をやっている人がいる村だ。話している所へヤンがやって来た。相変わらず軽い感じで私の側に来る。
「ローズマリー様、おはよう、よく眠れた?オレ今から例の農村に行くんだけど一緒に行かない?」
まるで散歩にでも誘うような言い方にシーラスの頬がピクリとした。完全にヤンが気に入らないらしい。
「ちょうど良かったわ。わたくしも行きたいと思っていたのです。ご一緒しますわ」
良しっと喜ぶヤンを睨むシーラス。
「駄目です、ローズマリー様。ここにいるのだとイングバルにも言ってある。農村はより国境に近く危険度も増す。そんなところへは行かせられません」
直ぐに反対してきたが私はニッコリと拒否する。
「ここに来る前に言いましたよね。ここよりも危険な所があるならそちらを優先すると。ここへ来たのはわたくしの意思ですしどこへ行くかも自分で決めますわ」
カーク達も驚いた顔をして黙ったところでへシエナが包を持って戻ってきた。
いいタイミングだ。直ぐに一緒に私の部屋へ戻りワンピースとスパッツに着替えるとマントを羽織った。冒険者のような姿になるとシエナにお礼を言って階段を降りていった。私の格好を見たシーラスが頭痛を堪えるような顔をした。
「お待ち下さい、私も準備をしてきます」
シーラスが部屋へ行こうとしたのでそれを止めた。
「シーラス様はここにとどまって直ぐにイングバル様へ連絡して援軍を送ってもらって下さい。農村の人達はここへ避難させるのだから護りを固めてもらわないと。それには誰かがいないと町の人が不安がります」
そう言うとシーラスは迷い始めた。
「私にはローズマリー様を守る事が出来ませんか?」
周りに人がいるにも関わらず彼はゆっくりと近づいてくると美しい顔を刹那そうにし優しく私の手を取ると口元へ引き寄せ手の甲にキスをした。
おおぅっと小さく何人かがため息をつき私は顔を熱くした。やはり彼のこういう姿はドキッとする。
「ここを守る為にいらしたのでしょう?」
「ここも大事ですがローズマリー様も守りたい」
いつもの演出なのだと思っているが本心で言われている気がして恥ずかしくなってしまう。流石だ。だけど誰に向けての演出なのだろう。
「シーラス様はローズマリー様が好きなんだな」
サクッと雰囲気をぶち壊して来たのは勿論ヤンだった。シーラスの睨みもあまり気にせず彼は続ける。
「オレはもう行くけど、どうする?ここまで言われたら側にいて守られるのも女の幸せかもよ」
悪気ない感じに笑ってしまう。けっこうポイント掴んでくるな。
「ふふ、わたくし女の幸せはとっくに諦めています、農村へ急ぎましょう。シーラス様、馬の準備をお願いできますか?」
私が言うことを聞かないと思ったのかシーラスは諦めたようにため息をついて複雑な顔をしてカークに馬の準備を頼んだ。
馬には水と食料も積みヤンと私の二人で農村へ向かう事になった。この町には他のタイラーの仲間が数人残ってシーラスや町の人と連携して警戒にあたってくれるようだ。ヤンの話によると仲間の冒険者達が応援に駆けつけて来てくれるようだと聞いて少し安心し、費用を私が出すというと大袈裟に喜んだ。
これからは平民との連携は必須だ。これを機会にうまく組織が成り立てば騎士団ばかりに頼らなくても平民の町を脅かす魔物の討伐には困らないだろう。
荷物を詰み終わりいよいよ出発だ。パフが先行し心配顔のシーラスを残しヤンと馬を走らせた。
カーリの町から北西へ進む。最初は街道があり馬も走りやすかった。私達と逆行し恐らく避難している数台の馬車とすれ違う事があり少し緊張が高まる。馬がバテないように休ませつつ休憩している時には念の為ヤンに気づかれないように馬にそっと癒やしをかけた。勿論自分にも。ヤンは丈夫そうだから良いだろう、発言は軽いが体格はいい。
数時間走ると街道をそれて脇道へ入った。少し荒れた道に速度は緩めたがそこから直ぐに一つ目の農村についた。私達が到着した時に丁度最後の馬車が出発するところで、荷台に数人の人を乗せ荷物ものせていた。
「これが最後だぞ!必要な物だけ持ち込んでくれ、重くなると馬が疲れる!」
そう叫びながら仕切っていたのはタイラーの仲間の一人だったようでその人の所へヤンが近づき状況を確認した。
「ここはもう片付いた。だがアッチは駄目だ、年寄が頑固で動かないらしい」
「わかった、じゃあ気をつけてな。カーリに行けば防護壁があるから大丈夫だ」
ヤンの言葉に驚いた男を置いてすぐにまた馬に乗ると近くの農村を目指した。




