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どなたか王様の秘書セバスチャンを知りませんか?  作者: 蜜柑缶


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121/136

121 カーリへ

 魔術部の力を利用して行く先々の町へ替えの馬を用意しておくように頼んでおいた。彼らは主要な町へ通信装置で連絡を取ることができる。イングバルに詳しいことは何も言わなかったが事情は察しているのだろう。何も聞かずに魔術部に所属する騎士を護衛につけてくれた。

 

 馬車は馬を替え夜通し走り続けながらカーリを目指した。護衛の騎士は途中の町で一度交代し何とかついてきてくれていた。

 パフが先行し危険を素早く察知しながら予定より数時間は早くカーリの町へ着くことが出来た。着いた瞬間騎士達は倒れてしまった。ごめんね、無理させて。

 

 カーリの町中はザワザワと落ち着きがなく避難しようとする人もいて通りは混雑していた。だがタイラーの仲間が知らせてくれたお陰で前のように暗闇の中、急襲されるほどの混乱はしていないだろう。

 

 シーラスは町の中央の見覚えのある三階建ての建物に馬車を向かわせた。そこは前に魔物の攻撃を受けた時、怪我をした人たちが療養していた場所で私が仲良くなったピップもいたところだ。

 馬車を建物の前につけるとシーラスは素早くドアを開け降りていった。私も続いて降りると中から慌てて数人の男達が出てきた。

 

「シーラス様!来てくださったのですか?お屋敷にはいらっしゃらなかったので」

 

「カーク、すまない。遅くなった」

 

 その男は見たことがある。前に私に膝をついて礼を述べてくれた男だ。

 

「あぁ、貴方は」

 

 カークは私を見て声を上げそうになったが慌てて口を押えた。私の事は誰にも話さないで欲しいとお願いしていたことを今も守ってくれていたようだ。

 

「お久しぶりです。大丈夫です、今はもう私が魔術師だということは多くの人の知るところとなってしまいましたから」

 

 彼は申し訳無さそうな顔をした。

 

「もしやこの町をお救いくださったせいでしょうか?」

 

 シーラスが首を横にふる。

 

「違う、この方は他の町も助ける為に魔術をお使いになられた。ご自分の事情より皆を守ることを優先されたのだ。ローズマリー様は素晴らしい方で私の大切な方なのだよ」

 

 シーラスが何故か誇らしげに微笑んだ。いつもと違いとても自然な笑顔に見えた。

 

「ローズマリー?もしかしてあのローズマリー様か」

 

 カークの後ろから一人の男が出てくると私の方へやって来る。シーラスは素早く前に出ると隠し武器であるステッキをかまえた。

 

「見かけない顔だな」

 

 若い冒険者の姿の男は少しおどけたようにカークの後ろに隠れた。

 

「いやいや、怪しいものじゃないです。オレはヤンだ、ローズマリー様、前に村で会ったことがあるが覚えてないか?」

 

 馴れ馴れしい態度にシーラスは眉間にシワを寄せたがそういえば見たことがあるような無いような。

 

「忘れちゃったか?ほら、タイラーとレーンと村に来てたろ」

 

 彼ら二人と村に行ったのは私がセバスチャンの家から攫われた後だけだ。

  

 あっ!

 

「思い出しました!私に近づこうとしてレーンに止められていた人」

 

「おおぅ、そんな覚え方かよ。まぁいい、それより助けに来てくれたのか、ありがたいが他の奴らは?騎士団はどこだ?」

 

 シーラスが私に近づくヤンの行く手をはばむ。

 

「下がれ、ローズマリー様に近づくな」

 

 疲れているせいかシーラスの機嫌悪い。いつもなら町の人に多少の事は許しているのに。

 

「騎士団はまだ来ないわ。わたくし達だけが先に来たの」

 

 どうやらヤンがタイラー達の仲間でこの町へ危険を知らせてくれたようだ。シーラスはまだ警戒を緩めないが詳しい話を聞くために皆で建物の中へ入った。

 町の男達が数人集まってどう魔物やオスロワスに対抗するか話し合いの最中だったようだでテーブルの上に地図を広げていた。

 

「みんな『赤毛の魔術師』のローズマリー様が来てくださったぞ!」

 

 カークの声に一斉にこちらを見た者達から歓声があがった。

 

「本当に来てくださったのか!」

 

「これでもう安心だな!」

 

 ここにいる数人だけではどうやっても対抗出来ないだろうと話し合いが煮詰まっていたようだ。

 

「とにかく直ぐに防護壁を造りますので手伝って下さい。話はそれからで」

 

 カークが数人を連れて出ていき、町の周辺の地面に防護壁を建てる場所を空けて印をつける作業を始めた。それを待っている間にヤンから話を聞く。

 

「正確にはどの辺りから侵入してきているのですか?」

 

「タイラーに報告はあがってるはずだけどな。この町の北西だよ、ここからは少し距離があるからどちらかといえばまだここはマシだ。だからここを避難場所として利用出来ないか話をしに来てたんだ」

 

 ヤンが言うにはもっと北西に農村が二つありそこの住民を避難させるのに場所が必要だという。二つの内の一つは中規模な農村だが統制が取れており話し合いの結果今は避難が進んでいるらしいがもう一つの農村は小さく個人が数件細々と運営していて年配の者も多く避難に消極的なのだそうだ。

 

「爺さん達は土地から離れるのを嫌がるからいつも逃げ遅れる。畑を作り直すのは大変だからな。戦争が終わった後の手伝いも考えてやってよ、ローズマリー様」

 

 言葉遣いも態度もなっていないヤンに少し苛ついていたシーラスだが彼の言葉に同意し頷いた。

 

「確かに、命が助かればいいというものではない。その後の生活も整える必要がある」

 

 戦後の処理は旧ウギマでも大きな課題だ。

 しばらくするとカーク達が戻ってきたので防護壁を造るために町の外へ向かった。地面には棒切れで線が引いてありこれに沿って町を囲う壁を造る事になった。シーラスから幾つかの改善点の指摘を受けて、防護壁建設になった。

 

「では皆様少し下がって下さい、行きます」

 

 二度目の防護壁建設は慣れたもので高さ五メートルほどの壁に幅をもたせた通路を作り攻撃が出来る場所や遠くを見渡せる塔を二か所、等間隔で階段を設置した。

 

「スゲーや、これ程の魔術師はそういねぇな」

 

 ヤンが出来上がった防護壁を見上げて口をあんぐりと開けていた。まだ三分の一ほど造っただけなので壁沿いに進み次へ向かう。

 

「ポッポ」(あまり無理をするな)

 

 私の体調に敏感なパフが不満気な様子だ。

 

「前の町より小さいもの。まだ大丈夫よ」

 

 とは言うものの夜通し馬車に揺られた疲れはかなりひびいている。癒やしで体力のほとんど回復はしたが疲労感は残る。シーラスが心苦しそうに私を見下ろしていた。

 

「大丈夫です。とにかく防護壁さえできれば少しは町の人も安心できるでしょう」

 

 続けて大量の魔力を使い、壁が出来上がった時には少し足元がふらついた。

 

「ローズマリー様、失礼しますよ」

 

 心配顔のシーラスが私を抱きかかえ用意された宿へ運んでくれる。カークは慌てて先に走っていき準備をしてくれるようだ。ヤンが付き添いながら話しかけてくる。

 

「ローズマリー様はもっと自分を大切にしたほうがいいな。無理なら無理って言わなきゃ利用されてポイされるぞ」

 

 口は悪いが心配してくれているようだ。

 

「これくらいはひと晩眠れば回復します」

 

「そうかぁ、こんなのよくタイラーが許したな。アイツ結構うるさいのに」

 

 ヤンは私が黙ってここへ来たことを知らないようだ。

 

「どこへ行って何をするかは自分で決めます。ここへも自分で来ると決めたことですから」

 

 そう言うとシーラスが私を抱えている手に力を込めた気がした。

 

「ふ〜ん、見た目とは違うって事か。前は可憐な弱々しい娘って感じだったのにな」

 

「ふふ、今は変わりましたか?」

 

 ヤンがニヤリとした。

 

「今は戦うお嬢様って感じだ。どっちもタイプだけどな」

 

 そう言ってどこかへ行ってしまった。

 

 戦うお嬢様か、いいんじゃない?

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