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間幕─華想─

「はァ」

 床に着いたまま、僕はもう何度目か解らないため息をついた。

 虚ろな目で開け放たれた戸口の向こう側を見れば、日はまだ高く、外に響く子供特有の甲高い笑い声が不思議に心地よい。

 こんなに心地よい陽気の中、仕事をすることも叶わず伏せって居る自分に嫌気が差して、目を閉じる。

 幼少の頃から人一倍身体が弱く、外で遊ぶよりも伏せって居た日の方が多い。故に肌の色は村の女子おなごよりも白い。

 幸い風邪を引くばかりで、大きな病にかかったことはなかったので、貧しく薬が買えずとも何とか生きながらえてこられた。

さく兄」

 聞き慣れた幼い声に瞼を開ければ、うっすら額に汗したあどけない笑顔。

「どうした、けい

 まだ頭痛がするが、できる限り柔らかいく微笑む。僕にとって蛍は、椿の弟だと言う以上に愛しい存在だ。人の心を暖かく照らしてくれる、蛍は僕にとってそんな子だった。

 蛍は、ふふッと笑って両の手に持った何かを僕の目の前に突き出した。瞬間、苦い匂いが鼻を突く。

「蛍、これは…」

 僕は目を見張った。何故ならそれは、紛れもなく城下の大棚で扱われている高直な薬の包みだったから。

「つばきのひと《・・・・・・》から貰ったの」

「つばきのひと《・・・・・・》」

 言って僕は眉をひそめる。

「いつもね、夜の内にお銭と紅い椿の花を、最近はお薬も僕の家の戸の前に置いて行ってくれるの」

 だから“つばきのひと”と呼ぶのだと、蛍は笑った。

「母様が朔兄にも持って行ってあげなさいって。その方が“つばきのひと”も喜ぶんだって」

 蛍の言葉に、僕は息を呑んだ。

 ──椿がこの村に来ている

 そう確信した。そしておばさんもそれに気づいている。

「朔兄、どうしたの」

「いいや、何でもない。ありがとうな、蛍」

 重い身体を起こし、蛍の頭を撫でる。蛍は少し照れくさそうに笑った。

「朔乃、起きてるか」

 表から快活そうな声と伴に、それに見合った日によく焼けた顔が覗いた。

「あぁ、弥栄葉」

 弥栄葉は蛍を見ると、外で遊んでくるよう促す。

「朔乃、俺、椿のことを知っている人に会った」

 明るい陽の中に駆けてゆく蛍の後ろ姿を見ながら、弥栄葉はぽつりと呟くように言った。

 僕はそれを聞いて、軽く目を閉じる。浮かんでくるのは、幼き日の幼なじみの顔。

 ゆっくりと瞼を開き、弥栄葉の目を見つめる。

「──僕も、椿のことを聞いたよ」

 翌日から僕達は──

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