15-3:lightning Soldier Girls Part3
《稲光の戦士》
「ティア・ドロップス コントラケット!!!!」
二つのティア・ブレスの同時起動。
白銀と黄金の光が鳴恵を包み込み、彼女の体は相交わるように作られていな
い二つの力が駆け抜ける。
ティア・ブレスの同時起動など、人一人が制御出来る力ではない。
(オレはずっとママと紅おばさんに憧れてきた。二人の間にある、目に見えな
いけど確かな絆にずっと憧れを抱いていたんだ)
体の内側から雷が突き抜けてきそうな錯覚が激痛となって輝く一撃に襲いか
かってくる。
意識の奥が闇色に白濁していく中、鳴恵は彼女が戦士として戦い続けてきた
原動力である『憧れ』を思い出して、戦士は自問していく。
(その『憧れ』をオレはやっと手にすることが出来た。『憧れ』を手にして、
目標を超えて、それでもオレは何故、ここまでして戦う?)
だが、戦士はけして折れることはなく、心の輝きを失わない。
目標を超えた先の暗闇を前にしても彼女は、けして諦めない。
それは、彼女がこの戦いを通じて、共に戦い続けてきた仲間から受け継いだ
輝く光の意志。
(そう言えば、最初にハルと約束したんだったな。憧れを越えた先に何が見え
るか。オレはその先は真っ暗だと思っていた。憧れを越えた先には何もないっ
て思っていた。でも、それは間違えだったな)
輝く戦士の口元に笑みが浮かんだ。
(ハル、オレは憧れを越えた先に、確かに見たぜ)
そして、ゆっくりと瞳を開け、水色の衣に身を包んだ盟友の姿を確認する。
それは『憧れ』を越えた先に見えた姿と寸分違わなかった。
鳴恵の瞳の奥で、稲妻が迸る。
それは、何者にも怯えず、どんな困難にも逃げず、常に戦う意志を持った者
のみが宿すことの出来る雄々しき意志だ。
「はあぁぁぁっぁぁぁあああっっっっ、つたああああああああ!!」
黄金と白銀。
二色のティア・ブレスをはめた左腕を一振り。
輝くばかりではなく、雄々しくもあるその一振りに、戦士の体を包み込んで
いた二色の光が、鳴恵の体へ吸い込まれていく。
もはや、全身を雷が駆け抜けるような痛みは一切ない。
あるのは、全身から漲るばかりの脈動感。
心臓が体中に巡らせているのは、血液ではなく、雷ではないかと思ってしま
うほどに体中が高揚としていく。
「輝く、雄々しき一撃………」
二色のティア・ブレスを眼前に掲げ、生まれ変わった戦士は新たな名前を
今、ここに宣言する。
「ティア・ライトニング!!」
晴菜から託された雷のティア・ブレスと明里から受け継いだ光のティア・ブ
レス。
その二つを同時に使いこなした今の鳴恵は、美しい白銀と力強い黄金の二色
にとって彩られた衣に身を包んでいる。
その戦士の名前は、輝く雄々しき一撃 ティア・ライトニング。
どんな絶望を前にしてけして諦めず、常に戦い続ける意志を持つ稲妻のごと
き戦士だ。
「二つのティア・ブレスの同時起動………そんな事が出来るなんて………」
「地球人であるあなたが驚愕するのは当然ですわ。わたくしたちの星ですら、
いや、ティア・ブレスが作られて以降、二つのティア・ブレスの同時起動に成
功した例は、一切ありませんわ。全く、わたくしにはそんな発想すら出来ませ
んわ」
内に秘めた意志が具現化したかのように光り輝く戦士を前にして、彼女の友
である二人がそれぞれ感嘆の声を漏らす。
「っよし。いくぜっ!!」
ティア・ライトニングが大地を蹴る。
それに呼応するように闇の存在が左腕を持ち上げる。
すべてを飲み込んでしまう闇色の虚空がその左腕の先に形成されるが、その
時には既に、ティア・ライトニングは闇の存在の懐に入り込んでいた。
最強の戦士であったティア・ウィンドのスピードをさらに凌駕したその速度
に反応出来る者はいない。
ティア・ライトニングの拳が黄金に光り輝き、闇の存在の鳩尾にめり込む。
そのまま勢いを殺すことなく体を反転させると白銀に輝く左足が敵の頭部を
蹴り飛ばした。
砂塵を巻き上げながら闇の存在が飛ばされる。
しかし、ティア・ライトニングの攻撃はこれで終わりではない。
二色に光り輝く戦士は再び、地面を蹴る。
その速度はまさに稲妻が天空から舞い落ちてくるがごとく。
なんとティア・ライトニングは自らが蹴り飛ばした闇の存在を追い越し、そ
の背後に回り込んだのだ。
「はああああああああああああ!!」
右手が黄金に轟き、左手が白銀に輝き、輝く雄々しき一撃は両の拳を闇の存
在に叩き込んだ。
稲妻が大地に届いたかのような雄々しき爆音が戦場に響き渡り、その音は衝
撃波となり世界自体を振るわせる。
闇の存在はもはや二足で立つのがやっとな体だ。
ふらつく足取りでなんとか立ち上がり、ティア・ライトニングから距離をと
る。
本来、闇のティア・ブレスの力が具現化しただけの彼女に感情などは一切無
いはずだ。
しかし、媒体となったドレイルの意志が表面化しているのか、その顔はわず
かに驚愕しているようにも感じられる。
「トドメだ!」
ティア・ライトニングが再び、闇の存在に肉薄し、雄々しく輝く両手を前へ
突き出す。
「シャイニング・ゴウ・イン………っく」
必殺の叫び声が途中で途切れる。
なんと、闇の存在の内側から、闇の存在自体を喰らうようにして闇色の虚空
が出現して来たのだ。
想定外の奇襲をティア・ライトニングは無理矢理体勢を変えることで避ける
が、力任せな方向転換にバランス感覚はついていかず、そのまま地面に倒れ込
んでしまう。
いくらどんなティア・ブレスの戦士よりも早く動けようともそれはあくまで
通常の体勢であればこその話だ。
こんな、地面に背を付けた状態ではその運動能力は他の戦士達と大差はな
い。
胸に人間の顔一個分の穴が開いているというのに、闇の存在は顔色一つ変え
ず、左手を持ち上げ、その先にティア・ライトニングを捕らえる。
ぎりぎりまで肉薄したのが、ここに来て徒となった。
今、この状況で闇色の虚空を生み出されたら、ティア・ライトニングに避け
る術はない。
闇色の虚空がそこに現れた。
「チェリー・シュウ・シェイルド!!」
輝く雄々しき一撃の絶体絶命なピンチを救うように、桜色のベールが天空よ
り舞い降りてきて黄金と白銀の戦士を包み込む。
儚き桜色のベールと闇色の虚空がせめぎ合い、火花を散らす。
「私が、鳴恵さんの親友よ。だから、守ってみせる。世界は守らなくても、鳴
恵さんだけは守ってみせる!! それが罪を犯した、私がまずしなければなら
ないこと。これ以上、過ちは増やさない。だから、水代 晴菜!!!!」
けして譲ることの出来ない儚き想いを胸にティア・フラワーが吼え、ブルー
・アイの戦士が水の矢を引き、闇の存在へ狙いを定める。
「わたくしが、鳴恵の盟友だ。だから、共に戦い抜く。わたくしが見ることの
出来なかった先を教えて欲しいから!! それが、わたくしと鳴恵との約束で
あり、絆。もう二度とあの時の虚無を感じたくはない。だから、三菱 美
咲!!!!」
神野鳴恵の親友と盟友。
かつては、神野鳴恵にとって自分たちがどのような存在であるかで争いあっ
たこともある二人。
二人の間には未だにあの時の感情は残っている。
自分こそが神野鳴恵の横に立つにはもっとも相応しいのだと、あの女に思い
知らせてやりたい。
だから、彼女たちは競い合い、そして、互いに大切な彼女を守るために手を
取り合うことも出来る。
「ウォーター・レイ・アーチェーリー!!」
ティア・アクアから必殺の水の矢が放たれる。
気高き射手の水の矢は狙いを寸分違えず、闇の存在へと突き進んでいく。
だが、やはり闇の存在を守るように闇色の虚空が立ちはだかる。
ウォーター・レイ・アーチェーリーでは闇色の虚空を射抜けないのは、先刻
承知である。
しかし、知能ではなく本能で動いている闇の存在の対応はあまりにも単調す
ぎた。
防御方法が分かっていれば、対応策を考えるのは簡単である。
一直線に進む水の矢に、桜色のベールが降り注いぐ。
「ブロッサム・オン・ウォーター!!」
二人の必殺の叫び声。
チェリー・シュウ・シェイルドによって守られたウォーター・レイ・アーチ
ェーリーが闇色の虚空を易々と貫き、そのまま闇の存在の脳天をも射抜いた。
闇の存在の体勢が崩れる。
その隙を見逃すことなく、ティア・ライトニングが起き上がり体勢を整え
る。
先程の教訓より、深追いはせず一度距離を取り、盟友の横へと並び立つ。
ティア・フラワーの方へ視線を向けると彼女は分かっていると言わんばかり
に力強く頷くと力無き小夜子を守るかのように彼女の元まで後退した。
「全く、嫌な状況ですわ。まさか、このわたくしがあの三菱美咲と手を取り合
う日が来るなんて」
「それよりも、問題なのはあっちだろう。脳天貫いたのに、まだ生きてやがる
ぜ」
ティア・ライトニングが指さした先で、闇の存在がゆっくりと立ち上がる。
脳天には確かに向こう側が見える穴が開いているというのに、息絶えていな
いその姿はまさに異形であり、背筋が振るえるのを禁じ得ない。
だが、恐れはしても、戦士達は挑み続ける。
「あれは、不完全であった闇のティア・ブレスの力が反逆者の一人を触媒とし
て具現化した存在。生き物としてではなく、力の集合体として認識した方がよ
ろしくてよ」
「………難しいことは分からないぜ。それで、あいつを倒すにはどうするのが
一番良いんだ?」
「あれは、単純なる力の集合体。ならば、それ以上の力をぶつけて、力自体を
消滅させれば良いだけのことですわ」
「ようは力業って事か。分かりやすくて良いね。なあ、ハル、今のオレに着い
てこれるか?」
期待を込めて隣にいる盟友を盗み見ると、気高き彼女は過小評価されたこと
に少しばかり不満顔だった。
「だから、気安く呼ばないで下さる。それに、あなたは誰にものを言っている
のですか。確かにティア・ブレスの戦士としての能力は今はあなたの方が上で
すわ。ですが、不用心に懐に飛び込んで窮地に陥る素人のあなたにはない、経
験がわたくしにはありますわ」
そこを話に出されると鳴恵はもう何も言えず頭を掻くしかない。
命を賭けた戦いで、唯一背中を預けられる盟友。気高き意志を持ち、ちょっ
と強情で悩みや苦しみを内に秘めてしまう所が欠点だが、彼女の背中をずっと
見ながら鳴恵はここまで来ることが出来たと改めて思い知らされる。
「なあ、ハル」
そっと彼女の手を握りしめる。
一瞬、ティア・アクアの体がピクリと硬直したがすぐに、力は解れた。
「今は戦闘中ですわよ。それだというのに、何ですの?」
口調は僅かに怒っているようだが、重ね合わせた手を無理矢理振りほどこう
とはしない。
「これがオレとお前の約束だからな。確かに見えたぜ、オレの『憧れ』の先が
な」
「………それは一体、何だというのですか?」
「それは、お前だったよ。水代 晴菜。ママを越えた先の新たなオレの憧れ。
それはお前だったんだ」
愛の告白をしているわけでもないのに、何故か頬が熱くなるのを感じた。
それに何故だがティア・アクアの顔もこれまでで始めてくるぐらいに真っ赤
に染まっていた。
ちょっと気まずくなり、手を放そうとするが、その手をティア・アクアが握
り返した。
「憧れを越えたら、次の憧れを手に入れる。考えてみれば当たり前のことです
わね。なんで、そんな当たり前のことをわたくしは気がつきませんでしたので
しょうかね」
晴菜はカザミスに憧れていた。
だが、その憧れはある日突然と消えてしまった。目指していた憧れが消え、
毎日の生活には何処か虚無感がつきまとっていた。
でも、この星に来ていつかしかその虚無感が無くなっていた。
戦闘に関してはちょっと囓った程度の素人だというのに、彼女は何処までも
突き進む。
例えその心が折れたとしても、こうしてもまた立ち上がる強さも持ち、時に
は開いた口が塞がらないような無茶を実行してみせる。
いつからかは分からない。だが、大事なのはそこではない。
大切なのは、晴菜にも今、『憧れ』がいることだ。
「わたくしもやっと分かりましたわ、神野 鳴恵。カザミスを失ったわたくし
の新たなる憧れ。それはあなたなのですわ」
そっとティア・ライトニングの手を握りしめる。
感傷に浸る暇など無い。
今はまだ、戦いは終わっていないのだ。
伝えるべき事を伝え終え、ティア・アクアとティア・ライトニングは、再び
戦士の顔へと戻っていく。
「いくぜ、ハル」
「だから、気安く呼ばないで下さる」
出会ってから、幾度となく繰り返してきた二人のやりとり。それのやりとり
さえ出来れば、どんな困難でも乗り越え、どんな絶望ですら覆してしまう力が
漲ってくる。
気高き一滴と輝く雄々しき一撃の姿が消えた。
いや、消えたように見えたに過ぎない。水が電気を通すように、握りしめた
掌を伝わりティア・アクアの力がティア・ライトニングへと流れ込んでいく。
言い換えれば、晴菜と鳴恵の体を媒体として、光・雷・水の三つのティア・
ブレスが繋がったことになる。
憧れあう二人が生み出した奇跡は、二つの体で三つのティア・ブレスの同時
起動である。
ティア・ライトニングとティア・アクアが光の速度で闇の存在の眼前へと現
れる。
ティア・アクアの左手は気高き青色に、ティア・ライトニングの右手は雄々
しく黄金と白銀に、そして、互いの憧れを力強く握りしめたその拳は三色に眩
く輝いていた。
「スプラッシュ・ゴウ・インフェルノ!!」
気高き青色の拳が、一陣の暴風であるかのように唸りを上げ、圧倒的な光の
濁流に乗り込まれて、闇が消え失せていく。
「シャイニング・ゴウ・インフェルノ!!」
雄々しき二色の拳が、一閃の希望であるかのように光り輝き、太陽に照らさ
れ夜が明けるように静かに、闇が消え去る。
「さあ、一気に決めるぜ、ハル!!」
「だから、気安く呼ばないで下さる!!」
三色に彩られた光の道に闇色は必要ない。
ティア・ライトニングとティア・アクアによる三連打に闇の存在が、跡形を
残すことはなく、霧散していく。
「トリニティー・ゴウ・インフェルノ!!ォォォォォ!!」
重ね合わせた三色の拳が、二人の憧れを示すように道を築き、反逆者がティ
ア・ブレスを盗み出し楽園を求めたことから始まった戦いは、今、ここに終わ
りを告げた。
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《満天の星空が輝く砂浜》
見上げる空には、一番星が輝いていた。
闇の存在を討ち滅ぼした鳴恵はそのまま砂浜へ仰向けに倒れ込んだ。
盟友と繋いだ手はそのままなので、晴菜を巻き込む形になったが、気高き彼
女は文句も言わずに鳴恵の横で、彼女と同じように倒れている。
「あああああああああああ~~、疲れたぜええええええ」
吸い込んだ空気を吐き出すと肺が痙攣し、胸に痛みが走る。
だが、体中は酸素を求めており痛みを我慢し何度も体中に酸素を循環させ
る。
ただ、その痛みもこの星を守り抜いた代償だと思えば心地よいものでもあ
る。
「っふ、この程度で音を上げるとはあなたは、本当にまだまだですわね」
一方、隣で同じようにこの星を守り抜いた盟友は、普段と何一つ変わらない
呆れた顔で鳴恵のことを見ている。
「何だよ、この星を守り抜いたんだぞ。この程度はねえだろうが」
「あなたは仮にもわたくしの憧れなのですよ。なら、星の一つや二つ守って当
たり前ですわ」
さも当然であるかのように胸を張って、晴菜は視線を空へと向けた。
彼女と手を繋いだ鳴恵も自分に向けられた期待の大きさに苦笑しつつ、再び
空に浮かぶ一番星へと視線を戻す。
「なあ、ハル」
「ですから、気安く呼ばないで下さる」
「ったく、何時になったらお前は素直になってくれるのかね」
「わたくしは、既に素直ですわ。だからこその言葉だと、分からないあなたで
はないでしょう。それで、何を言いたいのですか。特別に三度だけ、わたくし
をハルと呼ぶことを許しますから、言いなさい」
二人とも、自然と沸き上がってくる笑みを抑えることが出来なかった。
空が徐々に薄闇色に塗り替えられ、波が打ち寄せる音も止まることはない。
鳴恵達が世界を守り抜いたから、こうしてこの世界の時が緩やかに過ぎてい
く。
そんな当たり前の事が、今だけは少しだけ憎らしかった。
「なあ、ハルは思わないか。このまま、世界が止まってしまえば良いって」
鳴恵が、晴菜と繋いだのとは反対の手を空へと向ける。
夜天に輝く一番星を掴むが如く手を伸ばすが、星はあまりにも遠すぎた。
「思いませんわ。それは、今までのわたくし達の否定ですわ。例え、その先に
あるのがわたくしとあなたの別れであるとしても、それはわたくし達が歩んで
きた道の結果なのですわ。
ならば受け入れ、次の道を進まなければならないのですわ。わたくし達が新
たな憧れを見つけたように、ですわ」
「で、本心は?」
「嫌な状況ですが、ほんのちょっぴり、このままあなたと手を繋いだまま、世
界が止まればとも願っておりますわ」
そう言って、離したくないとばかりに繋いだ手をきつく握り替えしてくる。
鳴恵も晴菜も分かっている。この手は永久に繋いでいることは出来ない。
約束という絆で結ばれた盟友は、地球人と宇宙人であるのだ。
二人の別れは、必然以外の何者でもない。
「無意味な事かも知れないが確認だ。オレがこのままお前と一緒に宇宙に行く
って選択肢は残ってないんだよな」
「ええ、その通りですわ。この星は、わたくし達の星で惑星保護条例が適用さ
れておりますわ。もし、この星の原住民を、本人たっての願いとは言え、わた
くしの星に連れて帰ったら、わたくしは刑務所生活、あなたは良くて強制送
還、最悪は死刑か、人選を無視されたモルモット扱いと言ったところでしょう
ね」
「それは、流石に、ごめんだな。もうちょっとマシな扱い受ける方法はないの
かよ」
「そうですわね。仮にあなたがこの星で反逆者に荷担していたなどという事実
があれば、刑務所生活が長く続くかも知れませんわね。
反逆者は全て死にましたから、上層部としても、唯一の情報源を無下に扱う
ことはないでしょう。それでも、わたくしとの面会は謝絶でしょうから、こう
して手を繋ぐなんて事はまず出来ないでしょうけどね」
少し肌寒い風が二人の間をすり抜けた。
潮の匂いを含んだその風を浴びると、心までもが冷めていく気がした。
(この世界を救ったなんて、本当に小さな事だな。世界を守り抜いても、大切
な盟友と分かれる運命を変えられないんだから)
言葉には出さす、鳴恵は心の中で呟き、自分の小ささを実感する。
しかし、彼女の腕に雄々しく輝く黄金と白銀のティア・ブレスは未だに色あ
せていない。
それが意味する事はつまり、彼女はまだ挑み続けることを諦めていないの
だ。
「なあ、ハル。その話を聞くとだ。お前の星である惑星保護条例って言うの
は、お前達がオレの星に干渉するのが問題であって、そう言う行為のみを禁止
しているって解釈で良いのか?」
「おおむね間違っておりませんわ。その名の通り、惑星保護条例ですから。基
本的にその星を保護するのが目的ですわ。その星の住民が何をしようが勝手で
すわ。と言いますか、今回わたくしが潜入したのは特例中の特例ですので、基
本的に裁く手段もないのですがね」
「って事はアレだな。お前がオレを宇宙に連れて行くのは問題あるけど、オレ
がお前に会いに行くのは問題ないってことだな。っよし、決まり」
さらりと爆弾発言である。
それまでの感傷的な気分が全て吹き飛んだ晴菜は、慌てて上半身を起こす
と、信じられない物で見るかのように震えた瞳で隣の盟友を見た。
「あ、あ、あああ、あなた、何を簡単に言っておりますの。わたくしの星は、
ここから100光年以上離れておりますのよ。それなのに、わたくしに会いに来
ますって、そんなのは、この星の科学ではどんなに足掻いても不可能ですわ」
「でも、そうすればお前とまたこうして手を繋ぐことが出来るんだろう」
鳴恵も寝そべっていた状態から上半身を起こすと、晴菜と繋ぎあった手を掲
げて見せた。
「それは、そうなのですが、無茶苦茶………いえ、そうでしたわね、あなたは
わたくしの発想を超えた無茶苦茶をする方でしたわ。そうであるから、わたく
しの憧れなのですわ」
「あ~~、ハル、お前今、オレのこと、絶対に馬鹿にしただろう」
「あら、わたくしがあなたのことを馬鹿にしているのは、いつものことですわ
よ」
一切の邪気がない心の底からの笑顔と悪口に鳴恵は笑うしかなかった。つら
れて、晴菜も口元を抑えながら小さく笑っている。
別れは避けられないけど、また盟友とこうして笑い合いたい。
その願いを叶えるのはけして平坦な道じゃないけど、挑むだけの価値がある
と確信出来る絆が、今ここにある。
鳴恵が晴菜と繋いでいて手をそっと離した。
刹那、晴菜は寂しそうに離れていく鳴恵の手を追うがすぐに、その手を止め
る。
これが最後じゃない。
確固たる絆がその胸にあるから恐れることはない。
「それじゃあ、ハル。俺たちの新しい約束だ」
そう言って、左腕に付けた雷のティア・ブレスと光のティア・ブレスを盟友
に見せつける。
「新しい約束ですか。確かに、わたくしとあなたと繋ぐには、それが一番なの
でしょうね」
晴菜も鳴恵と同じように、左手にはめた水のティア・ブレスを盟友へと見せ
つけた。
「ハル、オレは、絶対にお前に会いに行く。少しばかり、時間はかかるだろう
が、それまで、待っていてくれよ」
「ええ。ですが、わたくしは待つのがあまり得意ではありませんの。あまりに
も遅いと承知致しませんわ。そして、その約束に免じて、今の四度目だけは、
大目に見て差し上げましょう」
鳴恵と晴菜は、笑い合いながら互いのティア・ブレスをぶつけ合う。
三つのティア・ブレスの宝石が擦り合い、水面に波紋が広がるような優雅な
音と、雷鳴が轟くような力強い音と、そして、光が暗闇で輝くような希望に溢
れた音が奏でられ、誓約の音楽を響かせたのだった。




