15-2:lightning Soldier Girls Part2
《戦場》
「私は!! 鳴恵さんの親友よ!!」
美咲という少女は、目の前の闇と比べたら、なんと小さな存在なのだろう。
たった1人では怯えて何も出来ない少女から放たれる桜色の力は闇と触れあ
うとそれだけで霧散してしまう。
ここで抵抗しても、きっと何も出来ずに終わるのだろう。
逃げても戦っても同じ結果なら本能が逃げを選ぶ。
だけど、想いがそれを拒む。
だって、ここで逃げ出したら、あの女に負けてしまうから。
今もきっと鳴恵の横で戦っているブルーアイの少女に負けちゃう。
今度会ったとき、あの女に面と向かって宣言してやるためにここで逃げ出し
ちゃ駄目なんだ。
ゆっくりと左の掌を拡げ、闇の存在に向ける。
闇の存在も同じように左の掌を、美咲に向けてくる。
”死”という文字が美咲の体に刻まれた気がした。
でも、雷色の”絆”という文字が美咲を守ってくれた。
「大丈夫。だって、私は鳴恵さんの親友なんだもん。鳴恵さんを信じている。
彼女はきっと私がピンチの時に、最高のタイミングで現れるって。
だから、私は戦える。そして、鳴恵さんと共に過ごした、この世界を守りた
い!!」
二人のティア・ブレスの戦士の左腕に、それぞれの力が収束していく。
必ず散ってしまう儚き桜の花が咲き誇る間はその美を世界に誇示するよう
に、ティア・フラワーは叫ぶ。
ティア・フラワーは儚き一輪。
美咲のその儚い願いはより桜色のティア・ブレスに力を与え、想いを力に変
えた桜色の光が一つに収束した。
「………」
先に動いたのは闇の存在。
何も語らずに放たれた闇色の虚空がすべてを飲み込みながら、世界を浸食す
る。
闇色の虚空は見境無く世界を喰らい、ティア・フラワーを守るように立ちふ
さがる小夜子をも喰わんと迫り行く。
そんな小夜子に桜色のベールが降り注いだ。
「チェリー・シュウ・シェイルド!!」
桜色のベールはティア・フラワーの必殺技。
鳴恵と共に過ごした世界を守りたいと願った美咲の想いが具現化したその力
は、闇の浸食から世界を守るまさにその力だ。
小夜子を、世界を、そして何より鳴恵との想い出を守るために桜色のベール
が世界を包み込み、闇の浸食から守る。
「っく」
もちろん、力の差は歴然として存在している。
どれだけティア・フラワーが願い、想おうとも現実は変えられない。
そんな事はずっと前から解っている。
どれだけ美咲が願おうとも、想うとも、叶わない願い、届かない想いはこの
世界に沢山あるのだ。
これまでだって何度もそんな経験をしてきた。
だけど、どれだけ負けようとも、伝えたい想い、勝ちたい敵がいる。
だから、負けると分かっていても戦う。
もしかしたら勝てるかも知れない。
そんな儚い願いを持ち続け、折れても咲き続ける路上の花のように戦うしか
ないのだ。
「チェリー・シュウ・シェイルド!!」
もう一度、必殺技を叫ぶ。
小夜子を桜色のベールが二重に包み込む。
ティア・フラワーの力では、あの闇の力には敵わないけど、これでもう少し
だけ闇の力から彼女を守ることが出来る。
小夜子が驚愕の顔で美咲を見つめ返す。
何かを叫んでいるみたいだけど、チェリー・シュウ・シェイルドに包まれた
彼女の声は美咲には届かない。
(小夜子さん、何って言おうとしているかは分かるよ。でも、あなたは鳴恵さ
んの”憧れ”なの。だから、絶対に死んだりしたら駄目なんだよ)
闇の存在が動いた。
その漆黒の瞳がティア・フラワーをゆっくりと捉え、静かに左腕を桜色の線
に向ける。
今のティア・フラワーは二つのチェリー・シュウ・シェイルドを同時起動さ
せているのだ。
動きたくても動ける余裕なんて微塵も残っていない。
言うなれば、最高の獲物であるのだ。
闇の力が、全てを飲み込む力が、左腕に収束していく。
そして、闇色の瞳が美咲を捉えた。
(でも、私も死ぬつもりなんてさらさらない。私は勝つんだ。ううん、違う
ね、鳴恵さん。私が勝つんじゃない。私たちが勝つんだ!)
ティア・フラワーはしかと前を見据えた。自分を飲み込まんと迫り来る闇か
ら目を背けない。
怖かった。
涙が溢れてきそうだった。
怖かった。
膝が震えていた。
怖かった。
もう少しで情けなくお漏らしをしてしまう所だった。
怖かった。
だけど、信じていた。
雷が闇夜の中閃くように、強く轟き渡る想いをずっと、ずっと、ずっと信じ
ていたんだ。
「ウォーター・レイ・アーチェリー!!」
闇に向かい真っ直ぐに水の矢が突き刺さった。
だが、相手は全てを飲み込む闇の渦、水の矢はそこにある空気もろともいと
も簡単に闇に飲み込まれて消滅してしまった。
一番最初に聞こえて来たのが彼女の声であったことは癪に障るが、彼女の声
が聞こえてきたというのは、それはつまり美咲の親友もまたここに来た事も意
味している。
もう怖くなかった。
目の前に自分を飲み込もうとしている闇が迫っているというのに、美咲はブ
ルーアイの瞳を持つ彼女の悪口を言うぐらい心に余裕があった。
(何よ、あなたの必殺技なんて全然に役立たないじゃない。それで鳴恵さんの
横に立って戦っているの。あなたぐらいの役立たずが鳴恵のさんの側に立つぐ
らいなら、私だって立つことが出来るわよ)
そして、ついに闇を打ち消す閃光が美咲の前に現れた。
___________________________________
《雷の帰還》
ティア・アクアの生み出した水の矢に乗って、海岸までは一気に戻ってくる
ことが出来た。
戦局も水の矢から海岸に飛び移る際に大まかには把握し、敵の能力も先程テ
ィア・アクアが実戦を持って見せつけてくれた。
総合的に見るまでもなく、分の悪い戦いであったが、それでも鳴恵と晴菜が
ここに戻ってくるまでこの闇を喰い止めてくれたのは、彼女の憧れであり、そ
して彼女の親友であった。
「やっぱり、ママは永遠にオレの憧れだよ」
闇の存在とティア・フラワーの間に降り立ち、ティア・ライトは小さく呟い
た。
それは想いが心からあふれ出てきたような小さな小さな呟きであり、誰にも
聞かれることはなく消えていく。
ティア・ライトは両の掌と掌を合わせる。
「ホワイト・ファイ・ウェーブ」
ゆっくりと両の掌と掌を離していくと五本の指の間にはそれぞれ銀糸が架け
橋となり繋がっている。
生み出された五つの銀糸をこのまま闇の渦にぶつけても先程の水の矢同様に
その渦に飲み込まれて消滅してしまうだけだろう。
ならばどうするか?
簡単だ。鳴恵は一人ではないのだ。
「ハル!!」
銀の衣を纏った鳴恵の呼びかけに青の衣を纏った晴菜が応える。
「だから、気安く呼ばないで下さる!!」
声は不機嫌そうにしかし、その顔には確かに笑みを刻みつけティア・アクア
は左の人差し指と中指に水の力を集めていく。
不思議な感覚だった、鳴恵の考えていることは手に取るように分かるのは先
程のカザミスの戦いも一緒だった。
それなのに、今はそのことが誇らしくて仕方ない。
それは多分、ここにあの三菱美咲がいるからだろう。
鳴恵の親友である彼女に、彼女の盟友である自分を見せつけられることが誇
らしくてしょうがないのだろう。
そして、水の戦士は矢を放った。
それは絆が生み出す力。
鳴恵の盟友として、自分が出来ることを最大限にする想いの表れだ。
「ウォーター・レイ・アーチェリー」
水の矢の狙う先に闇はいない。
その先にいるのは光輝く銀糸だ。
鳴恵一人の力ではあの闇を縛れない。
晴菜一人の力ではあの闇を貫けない。
ならば、二人で切り裂くまでだ。
五本の銀糸に水の矢が絡みつき、それは鋭利な刃となる。
「行くぜ、闇の戦士さんよ。受けてみろ、これがオレが明里から受け継いだ意
志と、晴菜と育んできた絆が生み出す力だ!」
気高き青を纏った輝く銀糸を鳴恵は振り下ろした。
「メビウム・ウィル・シュラッシュ」
銀糸が闇の渦に触れた。
全てを飲み込むはずの闇の渦は、例外なく青と銀で紡がれた糸もその迷宮へ
と続く闇の中に飲み込もうとしていた。
しかし、それは出来なかった。
闇が二色の糸を飲み込むより先に、諦めない意志と気高き絆で編まれた糸
が、闇の渦を切り裂いたのだ。
「………」
闇の戦士が闇の渦を切り裂きなおも迫り来る青と銀の糸に気づいた。
ゆっくりと顔を向け、ゆっくりと左腕を前に出す。
だが、鳴恵と晴菜の生み出した青と銀の糸の方が早い。
「はあああああああああああああああああああ!!」
ティア・ライトの腕が振り抜かれ、青と銀の糸が砂浜を叩き付け、砂塵が轟
音と共に舞い散った。
「すごい……」
ティア・ライトとティア・アクアの共同必殺技を目の辺りにしてティア・フ
ラワーは呟いていた。
悔しかったけど、これが美咲の正直な感想であった。
実際にティア・ブレスの戦士となり、戦いを経験した今だから分かる。
今の自分には同じようなことをしろと言われても絶対に出来ない。
自分はあの二人のようにティア・ブレスの力を使いこなせていないから。
そんな現実が、ただただ悔しかった。
「いいや、凄いのは、美咲もだよ」
白銀の衣を纏った親友が、笑顔で振り向いた。
学校で母親の自慢をしているときのようなちょっとだけ勝ち誇った顔がとて
も懐かしい。
「ありがとうな、俺のママを守ってくれて。おかげで、俺は憧れを失わずにす
んだよ」
そして、そっと右手を差し出してくれた。
「鳴恵さん………私は……あなたを、それどころか世界を……」
「ああ、知っている。オレも、この手で二人も殺した。しかも、その一人は、
まだ幼い子供だった」
これまで美咲が聞いた如何なる声よりも深く哀しく、声が震えていた。
だけど、差し出された右手の先、ティア・ライトの瞳は、犯した罪を真っ正
面から向き合う強さを併せ持っていた。
「オレのこの手は、もう血で染まっている。後悔はしてないけど、汚れてしま
ったのは事実だ。こんな汚い手、差し出されても迷惑かも知れないけど、オレ
はまだ、お前のこと、親友だって思っているから………」
ティア・フラワーは、親友の声を遮るように、ティア・ライトの右手を握り
替えした。
「美咲………」
自分は彼女のように強くない。
彼女のように、自分の罪を真っ正面から受け止めるのでさえ恐ろしくて躊躇
ってしまうほどだ。
でも、自分の罪から目を逸らしても、絶対に目を逸らしたくない感情がそこ
にはある。
(大丈夫よ)
心の中で言い聞かせる。
鳴恵と再会するまであんなに強気だったのに、再会した途端、水が無く萎れ
た花のようになってしまった自分の感情を奮い立たせる。
そっと、鳴恵の隣にいる水代 晴菜に視線を送る。
彼女は、未だに起き上がることの出来ないティア・フラワーを明らかに見下
していた。
その蔑んだ瞳が、ティア・フラワーの背中を押した。
「私は、鳴恵さんの親友よ!!」
どんな過酷な環境でも、花が咲き誇るように逞しき宣言と共にティア・フラ
ワーは起き上がった。
「美咲……、ありがとうな。そして、ごめんな」
「ううん。お礼を言うのも、謝るのも、私の方よ、鳴恵さん。だから………ご
めんなさい」
互いの手を握りしめ、輝き一撃と儚き一輪、二人の親友がいま、並び立つ。
「鳴恵ちゃんに、美咲ちゃん。感動のシーンはそこまでみたいよ。残念だけ
ど、まだ、終わりではないみたい」
小夜子の指摘に、三人のティア・ブレスの戦士達が一斉に振り返る。
舞い上がっていた砂埃が晴れ渡っていき、その奥に全てを飲み込む闇が残っ
ていた。
「おいおい、まじかよ。さっきのはオレ達の渾身の必殺技だぜ。それなのに、
殆ど無傷じゃないのかよ」
ティア・ライトが圧倒的戦力の前に自嘲する。
だが、すぐさま次の作戦を考える。
波が打ち寄せる音が聞こえた。小さく深呼吸する。
(何処かに必ず、突破口があるはずなんだ。)
どれだけ絶望的な状況でも諦めないその心は鳴恵に力を与える。
心の中で雷鳴が聞こえた。
無意識の内に二歩前に進んでいた。
これが果たして突破口になるのかは分からない。
だけど、やってみるだけの価値はあるはずだ。ゆっくりと左手首に触れる。
そこにある銀色のブレスレットの感触を確かめる。
覚悟を決めた。
「ハル!」
「だから、気安く呼ばないで下さる」
盟友の不機嫌そうな声が鳴恵に勇気をくれた。
「美咲!」
「はい。鳴恵さんは、私が絶対に守って見せます」
親友の儚くも逞しい声が鳴恵を安心させる。
「ママ!」
「良い声よ、鳴恵ちゃん。まるで轟く雷鳴、そのものよ」
そして、幼少の頃より彼女を包み込んでくれた優しき声が、彼女が無くして
いた雄々しさを呼び覚ます。
「みんな、行くぜぇぇっっぇ!!
このティア・ブレスで鳴恵が得てきた”絆”と言う最大の武器を言葉に乗
せ、稲妻がごときティア・ブレスの戦士達が”闇”を打ち抜くため前へ出る。
”輝き一撃”
”気高き一滴”
”儚き一輪”
が砂浜を踏みしめ、力無き者が戦士達の無事を祈り、その逞しく雄々しき後
ろ姿を優しく見守る。
「………」
闇の存在は、そっと両手を持ち上げ、その掌を三人のティア・ブレスの戦士
達に向ける。
その掌の先に、全てを飲み込む闇色の虚空が形成されていっても、戦士達は
その足を止めることはない。
稲妻が迷わず、天から地面へと突き進むかのように、彼女たちは止まらな
い。
「………」
辺りの砂浜を飲み込みながら、闇の存在より、闇色の虚空が放たれた。
世界の全てを飲み込むその技を防ぐ方法は、既に分かっている。
桜色の衣を纏ったティア・フラワーが心に念じる。
道ばたで誰にも気づかれることなく咲いている花のごとき、儚くも美しい精
神で、世界を……いや、自分の大切な人を守るために。
例え、世界中の殆どの人は気づかなくても、道ばたに咲く花に足を止める人
がいるように、こんな自分を親友だと言ってくれた彼女と、ちょっと癪だけ
ど、彼女の友を守るために。
ティア・フラワーは、唱える。
「チェリー・シュウ・シェイルド!!」
桜色のベールが三人の戦士達を包み込むように現
れる。桜色のベールと闇色の渦が三度、ぶつかり合う。
未だに、ティア・フラワーと闇色の存在のと力量差は歴然としている。
この必殺技は、いずれ敗れる。
だが、この渦を足止めする時間があれば、充分だ。
「っは」
大地を蹴り、水色の衣を纏ったティア・アクアが空へと舞う。
荒波を立てることなく鏡のように澄み渡った水面ごとき、気高き精神に、一
陣の強き風が舞った。
だが、かつては心揺さぶられたその風も、自分を盟友だと言い切った彼女と
嫌な状況だが、彼女の友のためなら、力にすることが出来る。
ティア・アクアは、叫ぶ。
「ウォーター・レイ・アーチェリー!!」
幾千もの水の矢が、時雨の如く闇の存在へと降り注いでいく。
だが、前触れもなく闇の存在の頭上へ現れた闇色の虚空が水の矢を飲み込
み、無へと返していく。
この必殺技では、闇色の虚空を打ち抜くことは出来ない。
だが、余波で闇の存在の足下に転がるソレが浮かび上がれば、それで充分
だ。
「鳴恵!!」
「鳴恵さん!!」
盟友と親友の声を受け、銀色の衣を纏ったティア・ライトが一気に闇の存在
へと肉薄する。
大切な戦友から受け継いだ太陽よりも眩しく決して折れることのない精神
に、自分が取り戻したあの雷のごとき雄々しき精神を重ね合わしていく。
かつて戦友が何度もしていたように、両の掌と掌を重ね合わせる。
五本の指をそれぞれ繋ぐように現れた銀糸に、希望を乗せて、
ティア・ライトが叫ぶ。
「ホワイト・ファイ・ウェーブ!!」
五つの銀糸が伸び、闇の存在へと伸びるが、またしても闇の存在を守るよう
に闇色の虚空が唐突に出現した。
このままで、五つの銀糸が敢え無く飲み込まれてしまう。
だが、彼女たちの狙いは最初から、闇色の存在ではなかった。
五つの銀糸がその向きを変える。
狙いは最初から、これだった。
鳴恵が一度失い、ドレイルの手に落ちてしまった金色のティア・ブレスを、
銀糸が絡め取る。
ティア・ライトは勢いを殺すことなくそのまま闇色の存在の横を通り過ぎ
た。
大地をふみしめるその一歩の何と雄々しきことか。
充分に減速した後、ティア・ライトは再び闇色の存在へと振り返る。
その戦士の左腕には、受け継いだ”光のティア・ブレス”と彼女が本来持つ
べき”雷のティア・ブレス”がはめられている。
「明里。あの世から見ているか。今から、無表情なお前でも驚かずにいられな
い事してやるから、その閉じた瞳、しっかりと見開いてくれよ」
闇の存在のさらに後ろに、戦友の友の骸が横たわっている。
踏みつぶされ砕けた顔に、かつての無表情でありながらも温かいあの表情は
残っていない。
彼女にもっとも似合う色は白銀だというのに、辺りは流れ出た血で真紅に染
まっている。
その光景を、心の奥底へ焼き付け、鳴恵の声は、雷音となる。
「ティア・ドロップス コントラケット!!!!」




