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12-5:Dis Light Part5


《絶望の果てに》


 神野鳴恵には『憧れ』があった。

 今だって、ちゃんと『憧れ』は持っている。

 でも、眼前の光景を見るとそんなモノがもの凄く陳腐に思えて仕方ない。


「明里………」


 そこにあるモノを何と表現すれば良いのだろうか?

 いや、たった一つ今の彼女を言い表す言葉がある。

 だが、その言葉を認めることは、彼女の死を受け入れるという事だった。


「嘘だろう」


 膝をつき、彼女の肌にそっと触れる。

 そこは温かかった。

 滑りとし、生暖かいその温かみは、真紅の色をしている。


「明里」


 銀色の衣が、白銀の髪が、すべて血で染まっている。


「明里!」


 呼びかけに返事はない。


「明里!!」


 もう、二度とあの、無機質のようでありながら、その実、奥には太陽の輝き

にも似た温かさが隠された、あの声を聞くことは出来ない。


「アアアアアアっっっっっっ!」


 鳴恵の雄叫びが空へと木霊する。

 黄昏の時は終わり、世界の全てを闇に包み込む夜へと変貌しつつある空へ響

き渡る。

 今、神野鳴恵の眼前にあるソレを言い表せる言葉、それはただ一つ、


 死体だ。


「明里、お前……死んだのかよ!」


 現実を受け入れた少女は、仲間の顔を見る。

 吐き気がした。舌の上に塩辛い何かが乗っている。

 そこには、鳴恵が知っている明里はいなかった。


 あるのは、骨格という骨格を全て砕かれ、押しつぶされた中身が砕け散った

骨の隙間からあふれ出し、血溜まりの上にかつて顔に付いていたパーツを浮か

べている、戦士の残骸だった。

 わき上がる嫌悪感を何とか抑え込み、舌の上の違和感も無理矢理飲み込む。


「これが、敗北か」


 声が聞こえる。

 狂気に満ちた勝利の笑い声が鬱陶しい。

 しかし、このマロードの声こそ現実だ。


 鳴恵達は負けたのだ。


 神野鳴恵は、雷のティア・ブレスを失い、水代晴菜は、マリオネットと成り

下がり、九曜明里は、戦いに敗れ死んだ。

 鳴恵はゆっくりと後ろを振り返る。

 その視線の先には、黒い渦があった。

 マロードが生み出している渦なんとかとは比べものにならないほどの、質量

と存在感と禍々しさをもつその闇の渦の奥に、1輪のブレスレットがあった。

 辺りに生まれた闇を貪欲なまでに吸収し続けるあのブレスレットこそ、闇の

ティア・ブレスだ。


「これが、絶望か」


 力無く呟く少女の心は、闇一色に染まっていた。

 力もなく、仲間もいない、絶望という名の現実。


 残されたのは絆という過去だけだった。

 狂姫の声が一段と大きくなる。


 鳴恵は左手を握りしめ、声を掻き消すように砂浜へと拳を叩き付けた。

 そんな蚊帳の外の出来事などマロードは全く気にしていない。

 物語から脱落した者など、もはや死者と同じなのかもしれない。


「これが、結末か」


 その時、鳴恵の心に浮かんだ感情は二つ。


 一つは、諦め。


 明里の死を受け入れ、勝ち目の無くなった戦に対する敗北宣言。


 そして、もう一つは諦めという深淵の奥底においても必死に鳴恵の心にしが

みついていた、輝き心だった。


 どんなに絶望しても、『憧れ』を諦めることの出来ない醜くも美しく輝く心

だった。

 鳴恵に残されたのは、もはや晴菜達との絆だけ。それで何が出来る?

 鳴恵は考える。

 仲間が死んだ。

 この戦いにも負けた。

 でも、それでも、それだからこそ出来ることがあるのではないのか。


 諦めの底で見えてくる光を求めて、鳴恵は絶望と戦う。


 闇を照らす光を探しす探求者は、諦めない。

 いや、諦めるなんて出来ないのだ。

 『憧れ』という目指す道がある。

 例え、志半ばで倒れようとも、その輝く心だけは諦めず一歩一歩を進み行

く。


 それが、今の神野鳴恵だ。


 もう、雄々しいだけの少女ではない。

 晴菜と出会い、明里と出会い、ティア・ブレスを手に戦い、絶望を知り、希

望を知り、彼女は自身で気づかぬ間に変わっていた。


「明里」


 死した仲間を見る。

 そこに道が見えた。

 絶望から希望へと繋がる、絆によって作られた道がここにある。


「これが、希望か」


 そう言うと、鳴恵は仲間の冷たい左腕に触れ、『憧れ』へ突き進むために立

ち上がった。


___________________________________

《闇が生まれた世界》


 笑い声が止まらない。

 ついにマロードはここまでたどり着いたのだ。

 もう一度、この手で星を消滅させれる。

 この世のいかなる快感よりも激しく、この世のいかなる幸福よりも満たさ

れ、この世のいかなる刺激よりも高みへ昇ることが出来る。

 そう、あの一瞬が忘れられなくて、もう一度……いや、この地球を消し去っ

たらまた闇のティア・ブレスを生み出して、何度だって、あの一瞬にこの身を

ゆだねるのだ。


 闇の渦が錬り固められれ、一つのブレスに結集していく。


 待ちきれない。

 早く、早く、速く、あのブレスをこの左腕はめたくて仕方ない。

 星に生きる、何兆、何京もの命を、もうすぐこの手で握りつぶせるのだ。

 マロードの胸のときめきは止まらない。

 焦る気持ちと、ついにここまでたどり着いた充実感が混じり合った今はけし

て悪くない。

 闇の奔流に飲み込まれるかのように、マロードは生まれかけの闇のティア・

ブレスに向かって一歩を踏み出した。


 その時、目の前で突如、闇が止まった。


 何がおきたのかマロードにはすぐ理解できなかった。

 理解できたのはただ一点。

 まだ、闇のティア・ブレスは完成されていないということだ。


「何故なの?」


 砂浜へと落ちた未完成の闇のティア・ブレスを呆然と見つめながらマロード

は考える。

 何がいけなかった。何処でミスを犯した。

 風と水と花はマリオネットと化している。

 その人形遣いであるルイは懐柔したはずだ。

 雷だってドレイルが支配している。

 彼女とは利害が一致している。研究者である彼女は何としても闇のティア・

ブレスを調べ尽くしたいはずだ。

 では、残るは、光。

 だが、コクアは確実に殺した。

 死体に宿る心は一つ、闇のみ。

 それ以外に何もない。

 五つのティア・ブレスの闇は揃っている。

 それならどうして、闇のティア・ブレスの形成は途中で止まってしまったの

だ。

 足音が聞こえた。

 砂浜を一歩一歩確実に踏みしめ、こちらに向かってくる誰かの足音が聞こえ

る。


「神野鳴恵。貴様が止めたのか、私の闇のティア・ブレスを」


 マロードはその時、僅かに違和感を抱いた。

 何かが違う。

 この光景は、自分が計画していた未来とは何かが違う。

 この違和感こそ、闇のティア・ブレスが完成されなかった理由。


「どうやら、結果的にそうなったみたいだな。なあ、その闇のティア・ブレス

って言うのは五つのティア・ブレスとその持ち主をすべて集めるだけじゃ完成

されないみたいだな」


 諦めを知らない少女が自嘲気味に笑う。


「そうよ。闇のティア・ブレスはティア・ブレスの持ち主が全員心に『闇』を

抱かなければ生まれない。だが、その全ては揃っていたはずなのに、私の計画

は完遂されたはずなのに、何故、闇のティア・ブレスは完成されなかったのか

しら?」


 マロードの瞳が怒りで燃える。

 しかし、その怒りをぶつけるべき相手が見つからず、怒りという名の闇が心

の中で圧縮されていく。


「なるほどね。明里の奴、もしかして、ここまで考えていたから、こんな無茶

で馬鹿で無謀な道を選んだのかもしれないな」


 明里という言葉にマロードは過敏に反応した。

 あんな死人に何かが出来るわけではない。

 かつては自分に忠誠な騎士だったというのに、今回は闇のティア・ブレスを

誕生されるのにもっとも手こずった相手。

 これは彼女の計画だというのか。

 彼女は死してなお、自分の前に立ちふさがるというのか。

 死体など残さず、あの場で肉片の全てを粉々に砕き海へと捨てるべきだっ

た。

 マロードは怒りの感情を全て闇に込め、渦を生み出そうとする。

 狙う対象は鳴恵ではない。

 その後ろに転がる滲めな死体にだ。

 しかし、このときやっと、マロードは自分が感じていた違和感の正体に気づ

き、同時に何故闇のティア・ブレスが完成できなかったのか理解した。


 そこに転がっている死体は、コクアの姿をしているのだ。


 死んだときにはティア・ライトの姿をしたコクアの左腕にあるべきはずの物

がそこにない。


「さあ、いくぜ!」


 鳴恵の声にハッとなったマロードは思わず彼女の方へ目をやり、言葉を失っ

た。

 それはマロードだけではない。

 カザミス、ルイ、マロード、ドレイル、三菱美咲、水代晴菜、反逆者の全員

が、あらゆる感情を忘れ、彼女の左腕に釘付けになる。

 神野鳴恵の左腕にある物。


 それは銀色の宝玉を埋め込んだティア・ブレスだった。


 そう、九曜明里の光のティア・ブレスは、今、けして諦めない心を持つ神野

鳴恵へと受け継がれたのだ。


「ティア・ドロップス コントラケット!!」


 誓約の言葉と共に世界が白銀の光に包まれた。


 何処までも前に進み、最後の最後になっても諦めない光が闇に包まれた世界

を明るく照らす。


「輝き一撃」


 光の中から現れたのは、白銀の衣を纏いし戦士。


 ただただ、真っ直ぐに『憧れ』に走り続けている一人の少女だ。


「ティア・ライト!!」


 絶望の淵から生まれた希望が、輝く瞳で宣言した。



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