13-1:Re:Light
《輝きに満たされた世界》
「輝き一撃 ティア・ライト!!」
白銀の輝きに包まれた戦士が、絆が生み出した希望が、絶望の闇を眩く照ら
す。
そこにいる誰もが言葉を失っていた。
いや、一人、この未来を予想していた彼女だけは、その頬に悲しみの笑みを
浮かべつつも、吼えた。
今が、明里の生み出してくれた最大のチャンスだから、死してもなお諦めて
いない彼女の輝きに応えるためにも、今動かねばならないのだ。
「鳴恵ちゃん、『闇のティア・ブレス』を!」
その言葉がきっかけとなり、反逆者は衝撃という名の金縛りから解放され
た。
しかし、母親の言葉に咄嗟に反応できたティア・ライトに対して一歩遅れて
しまった。
マロードが、ドレイルが、そしてカザミスが、『闇のティア・ブレス』めが
けて大地を蹴る。
闇のティア・ブレスの誕生が終わりではないのだ。
例え、闇のティア・ブレスが生まれたとしてもそれが敵の手に落ち、発動し
なければ、この星は消滅しないのだ。
未完成とは言えども、生まれでた闇のティア・ブレスには星を喰らい消し去
る力を有している。
絶対に敵の手に落とすわけにはいかないのだ。
___________________________________
《風の舞う海岸》
一陣の風が強く唸る。
ティア・ウィンドがさらに加速した。
小夜子に対する僅かな違和感から、カザミスはこの奇襲を予知していた。
確かに、鳴恵がティア・ライトへ変身したために、行動が一手遅れてしまっ
たが、わずか、一手だ。
その程度の遅れ、強き一陣にとってはハンデとはならない。
風を切り、自らが砂浜に吹き荒れる一陣の風となり、ティア・ウィンドは跳
ぶ。
視界にティア・ライトの姿はない。
光のティア・ブレスを上手く使いこなせていないのだろう。
遅い。
このスピード差なら、一手どころか十手遅れたってティア・ウィンドはティ
ア・ライトより早く、闇のティア・ブレスへたどり着くいたことだろう。
砂浜に埋もれている、闇のティア・ブレスに手を伸ばし、しっかりと握りし
める。
その瞬間、カザミスに繋がっていた、見えない糸が、確かな音を立てて、二
つに切れた。
砂埃を巻き上げながら、急停止する。
手にした闇のティア・ブレスが落ちるのなんて気にもならない。
それよりも、なによりも確かめなければならないことがマリオネットにはあ
る。
「っ!!」
カザミスの口から言葉にならない悲鳴が漏れる。
だから、一手先に行動していたはずの彼女が見えなかったわけだ。
裏をかかれた。
いや、違う。
皆、忘れていたのだ。
彼女―神野 鳴恵―が地球人であるという事を。
外惑星との接触が全くない地球人が、知らないのは無理もない、むしろ知ら
ないのが当然なのだ。
闇のティア・ブレスに星を消滅させる力があるなんて。
闇のティア・ブレスの恐ろしさを知っていれば、闇のティア・ブレスを無視
するなんて絶対出来ない。
だが、無知なる彼女は、この戦場において唯一、闇のティア・ブレスを見て
いなかったのだ。
では、反逆者において、闇のティア・ブレスに次いで危険な存在は何か。
それはルイだ。
三人ものティア・ブレスの戦士をマリオネットとして従わせている人形遣い
だ。
「ルイ!!」
カザミスの咆吼のその先で、ティア・ライトの五指から伸びた銀の糸がルイ
を貫いていた。
___________________________________
《海岸にて散る小さな命》
迷いは無かった。
むしろあったのは疑問だった。
何故、小夜子が『闇のティア・ブレスを!』と叫んだのか鳴恵には理解でき
ていなかった。
だけど、小夜子の一言で反逆者の意識が全て闇のティア・ブレスに集中した
のは鳴恵にとって好都合だった。
明里の戦闘スタイルを思い出し、鳴恵は大地を蹴り、両の掌をあわせる。
狙いは最初からずっと変わっていない。
この左手に光のティア・ブレスが宿ったときから、いかにして彼女を殺すか
を考えていた。
『憧れ』に近づくために、大切な友を取り戻すために、そして、もう一度あ
の言葉を聞くために。
「ホワイト・ファイ・ウェーブ」
掌と掌の間に、五本の銀糸が生まれる。
仲間の絆を取り戻すための糸だ。
一瞬、アーガを殺したときの感触が蘇ってくる。
鳴恵はもう一度、この手で他人の命を絶つ。
それは、罪。
それは、過ち。
だが、それは、自らの意志。
迷いを押し殺した瞳で、人形遣いの少女を捉える。
少女はティア・ライトに気づいていない。
彼女が見ているのは、闇のティア・ブレス。
そして、彼女の大好きな風のマリオネットだ。
ごめんとは謝らない。
許してとも願わない。
ただ、忘れられないとは確信した。
加速の勢いを右足で吸収し、輝き一撃は命を貫く。
少女の頭を、人形遣いの肺を、ルイの心臓を、輝く銀糸で貫く通す。
「え?」
最後にルイが上げた声は、悲鳴でも、絶叫でもなく、不意に奪われた己の命
に対する疑問だった。
銀糸を伝わり、命が一つ消え失せた事をティア・ライトは知った。
心を牙で掻きむしられるような気持ちに、必死で耐えながら、ティア・ライ
トは少女から銀糸を抜く。
生暖かい血が、白銀の衣に、己が生きていた証を刻むかのように、数滴付着
した。
「ルイ!!」
カザミスの雄叫びが木霊する中、人形遣いは、糸の切れたマリオネットのご
とく地面に倒れふせ、もう二度と動くことはなかった。
___________________________________
《気高き一滴のいる海岸》
悪夢が終わった。
その時、気高き少女に浮かんだ感情は、自分を見失っていた後悔でも、仲間
が死んでしまった嘆きでもなかった。
少女を包み込んでいた感情、それは高揚。
かつての雄々しき一撃が、新たな姿でそこにいる。
もう無いと思っていた未来が今、ここにある。
今、彼女と同じ戦場に立っている。
そう思うだけで、ブルーアイの少女の心は抑えようもなく高鳴っていく。
ティア・ブレスのある左手にそっと触れてみる。
無くしたと思っていた絆が、ここにはまだあったのだ。
「助けに来るのなら、もっと早く助けに来なさいよ」
不満を垂れることで、自然を浮かぶ笑顔を押さえ込もうとするが、無理のよ
うだ。
嬉しくて、笑顔が止まらない。
「私を、こんなにも待たせて。後でしっかりと……」
もう、青の衣を纏いし戦士を操っていた見えない糸はない。
輝き一撃がまたしても、彼女を救ってくれたのだ。
だが、彼女も戦士だ。
守られてばかりの少女ではないのだ。
強き一陣に憧れた気高き一滴は、ただ守られるを良しとはけして認めないの
だ。
「償ってもらうわよ……鳴恵!!」
ティア・アクアから笑顔が消えた。浮かぶは、戦士の表情。
過去を嘆くことも、未来を喜ぶことも、今じゃなくても出来る。
今、ここで戦士がしなくてはならない事は、今を戦い、生き抜くことだ。
輝き一閃が死に、輝き一撃が生まれ、人形遣いが死に、マリオネットが消え
た、今、戦況は大きく変わり、また混乱している。
今、もっとも彼女がしなくてならないこと。
それは鳴恵の援護ではない。
地球人である彼女には出来ないこと。
闇のティア・ブレスの確保だ。
左の人差し指と中指に思いを込める。
自らの心に渦巻く歓喜という名の激流をすべて思いに変え、水の力へと変換
していく。
一度はカザミスが確保した闇のティア・ブレス。
だが、今は再び砂浜の上に落ちている。
近くにいるのは、マロードとドレイル。
どちらの手に渡ってしまっても待っているのは、絶望的な未来だ。
晴菜は心を落ち着かせ、ゆっくりと左手を持ち上げる。
時間がないのはよく分かっている。
しかし、少しでも気を抜けば内に秘めた歓喜の激流に全てを持って行かれそ
うになる。
落ち着いて、そして、信じて、青の射手は『闇』へと狙いを定める。
弓の玄を限界まで引っ張るかのように、指先に思いを込める。
この指先から放たれる矢の軌跡を思い描く。
それは闇夜に雷が光るかのごとく鮮明に彼女の中に描かれた。
力の負荷に耐えきれず、指先が小刻みに震え始める。
それでも、狙いを外すなど微塵も思わなかった。
「ウォーター・レイ・アァチェーリー!!」
全ての闇の飲み込み、貫き、消し去る、激流が放たれた。
___________________________________
《闇が潰えるとき》
この結末は一体なんなのだ。
勝負はあの時終わったのではなかったのか。
決着は勝利で終わったはずだ。
そう、マロードは勝ったのだ。
明里を殺し、五つのティア・ブレスと五つの闇を揃えた時に勝負は終わって
いたのだ。
なのに、今はなんだ。
未完成の闇のティア・ブレスなどを手に入れるために、必死に走っている。
銀河一優雅と詠われた銀髪を振り乱しながら、現実に足掻いている。
『私は、輝き一閃。例え、死んでも諦めない』
コクアの声が憎い。
確定していたはずの未来。
誰もが絶望に満たされていた未来。
この手でしかに握りしめていた闇が、たった一人の未練がましい思いに壊さ
れてしまったのだ。
手にはいると信じていた快感に達せないジレンマにマロードは永久に苦し
む。
壊せない。殺せない。奪えない。
この星を壊したい。命を全て殺したい。希望を残さず奪いたい。
そんなマロードの欲望が満たされることはない。
もう、二度と。
「ウォーター・レイ・アァチェーリー!!」
気高い声が聞こえた。
だが、マロードはその意味を考えはしなかった。
彼女の頭を占めるのは闇のティア・ブレスのみ。
あの力で、またこの世の何よりも高みに昇り詰める快感を味わいたい。
この世で、自分だけが体験したことのあるあの極上の世界をもう一度、この
体で………。
「うっ」
水の矢がマロードの体を貫いた。
体にぽかりと空いた大穴から色々な物が一気に崩れ落ちていく。
嫌だった。
死ぬのがではない。水の矢が狙っていたのが自分ではなかったという現実が
嫌だった。
水の射手にとって、マロードはついでなのだ。
彼女の本当の狙いは、その先にあった。
「やめ、て」
激流は狂った姫の願いなど聞いてはくれない。
ロッグを騙し、反逆者を作り、プラント・ゼロから逃げ、ティア・ブレスを
一つの星に集結させ、ルイを懐柔し、ドレイルと協力し、コクアを殺し、やっ
とここまでたどり着いたのだ。
未完成とは言え、あの闇のティア・ブレスにだって力はある。
この地球は無理でも、きっと衛星惑星ぐらいなら消滅させられるはず。
達せなくても良い、せめてこの心を蝕む疼きを和らげることが出来るのな
ら、また一からやり直せる。
だから、
「こわさ……ない、で」
願いが届くことはない。
激流と化したウォーター・レイ・アーチェリーが闇のティア・ブレスを飲み
込んだ。
ティア・ブレスに埋め込まれた、全てを破壊する力を秘めた漆黒の宝玉が塵
のように砕け散る。
終わった。
ティア・ブレスが崩れ去る音と、自分の心が崩壊していく音と、この星が消
滅する幻音を聞きながら、マロードは死という闇に飲み込まれていく。




