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伝説の裏側

1日目

電話がかかってきたとき私は自分の部屋にいた。

思えばこの電話があの三週間の始まりだった。


「異世界・・・?。なんだそりゃ?どこの漫画だよ、お前。」


・・・幼馴染の頭が残念になったようです。




2日目

朝からいまいち気分が優れなかった。原因は昨日の電話だ。

ドッキリならとっくにネタばらしをする頃合いだ。あいつはそういうやつだから。


事件性があるなと考えたとき、真っ先に脳内に浮かび上がった人物がいた。


ストーカーのひとり、蔵之内静香だ。

気になって調べたときかなりのお嬢様なことがわかっていたからだ。しかも、正体がいまいち掴めていなかった。


どうすればあいつを探し出せるのか。悩んでうなっていたら友達が心配して声をかけてきた。大丈夫だよと言おうとして顔を上げたとき、ヒントと目があった。

もうひとりのストーカー。


彼女は私に見られているのに気付くとサッと逃げてしまった。


「怪しい。」

私はストーカーのストーカーをすることにした。






「確かに異世界と言えば異世界だ。」


ストーカーを追いかけて1時間。あいつが囚われている建物に着いた。まさに神殿と呼ぶにふさわしい豪華で洗礼された建物だ。・・・内装だけだけど。

森のなかにある巨大なプレハブは悪の秘密基地のようだった。プレハブを警備する人々はあからさま悪人面だ。ばれないように遠くから静かに観察するしかない。


が、今使っている双眼鏡はミシミシと悲鳴を上げていた。


「あーあーいいぃですねぇ。ストーカーの巫女さんは巨乳ですかぁ?」


修行でクタクタになっていた幼馴染は体調を心配してくれる巫女さんの双丘に落ち着かない様子だ。くっ、あんなの脂肪のかたまりじゃないか!!


「もう一度言おうか。死ね!」


その日の電話は憎しみに満ちていた。

貧乳はステータスだ!

よっぽどそう宣言したかったが何かがその台詞を口から飛び出るのを防いでいた。






4日目

さっさとあいつを連れ帰りたかったが敵にまわすものが未知過ぎる。目的は薄々わかっているけど。ここは慎重にいこう。

ありがたいことに私の両親は旅行中なのでそれを使って誤魔化すことにしよう。


「あら、あなたの家にいるなら安心だわ。ふつつかな息子だけどお願いね?」


お任せ下さい、お義母さん。あなたの息子は私が精神誠意込めて大事に見守っています。

もちろんどんな性癖でもね!基本的に私はSだけど逆も悪くないかな?あぁでも私が主導権を握るのも捨てがたい!


でも、同性愛ダメ!ゼッタイ!!!

さすがにそれは受け入れられない。






7日目

巫女さんが自分の過去について話したようだ。キャラ作り込んでんな。ここまでの態度で目的もはっきりしたな。

ようは恋愛成就をさせるための大がかりな計画だ。


まず、異世界に召喚されたと言って頭を混乱させ正常な判断力を奪う。

次に、慣れない場所で厳しくされ心身ともに弱っているところを優しくし好意を抱かせる。

そして、押して押して押したあと、一歩引く。

これが巫女さんが過去(捏造)を話した理由。そうすることで相手は何とかしなきゃいけないと思わされる。


日本人がテンプレや雰囲気に弱いからこそ可能な手段だ。馬鹿げてるとしか思えないけどね。普通に告白すりゃいいのに、イライラする。

頭にお花畑が咲いてる巫女さんの理想が今の状況なんだろう。同じ女子として気持ちがわからなくもな・・・わかんないな。


でも、魔王とかどうすんだろう?勇者(笑)には悪いがなんかワクワクしてきた。

次はどうなるんだろう?






9日目

机に覆いかぶさるように寝ていると友達にまた心配された。


「どうしたの?最近授業中もずっと寝てて?」

「最近情報収集のために睡眠時間を削ってるんだよ。」


昼は学校に行き、夜はプレハブの神殿にいる幼馴染を観察。一週間以上にわたる二重生活で絶賛疲労困憊中だ。

この友達はいつも通りの情報収集と勘違いしているようでニマニマ笑っている。


「ホントよくやるねー。でも、ちゃんと寝なきゃ。肌が荒れたら旦那が帰ったとき困るよ。」


その旦那は今、自称巫女さんに軟禁されて勇者やってま~す。なんて言えない。


あいつは学校では入院してると伝えられている。さすがに無断欠席になるのは気分が悪いから校長に手をまわしておいた。ある写真を見せながらちょっっっとだけお願いをしたら泣きながら了解してくれたよ。

まあ、一言言わしてもらうと大人って汚いなぁ。だから楽なんだけどね、いろいろと。


私が黙ったのを反省してると見たのか、友達は笑いを堪えられず爆笑し始めた。


旦那ってのは幼馴染の現勇者(笑)ね。毎朝一緒に登校しているから茶化してそういわれている。そして、それがとても嬉しい。


小学生の頃はただただ仲の良い友達だった。私がここの町に越してきてしばらくして親友になった。花のトーンが大量に飾り付けられたマンガちっくな出来事があったわけじゃない。でも、私たちは常にふたりで遊んでいた。

一緒にいるだけでとても楽しい気持ちになれた。あいつも同じ気持ちで、そのことがわかるのが子供心に無性に恥ずかしかった。


その照れくささが友情以上になったのはいつからだろう?


きっかけになりそうなのはたくさん思い浮かぶ。

高校であいつのストーカーを見かけたとき頭のなかがどす黒い何かに染まった。

中学であいつが告白されたのを覗いたとき胸が苦しくなった。

修学旅行のときあいつが覗きに失敗して、ホッとする反面少し残念だった。

いや、そんな過去のことより今大事なのは、



「私があいつのことを何年想っているのかわかっているのか!?ポッと出に負けていられるかっ!!」


あの巫女さんに一泡ふかせないと!!そしてあいつを取り戻す!!


再び決意をかためると教室から勢いよく駆け出した。まずあの神殿に忍び込む算段をつけないと。今ならどこでも忍び込めそうな気がする!


・・・そういえば。まだ授業中だったっけ?






10日目

案外簡単に忍び込めたな。


あまりにも馬鹿げた巫女さんの計画のせいか警備員がだらけていたおかげだ。警備員と言っても多くがただの会社員のようだ。特に勇者や巫女さんのメイン人物と関わりがない人ほどその傾向が強い。


どうも全員がアドバンステクノコーポレーションの会社員らしい。思った以上に大きなところだ。蔵之内静香は日本有数の大企業の関係者と見て間違いないだろう。くっ生まれつきの勝ち組か、死ね。


とりあえず勇者の修行でも見るか。ばれないように修行場を覗き込む。

カンッ!ガッ!

木刀どうしが当たり削れる音が響く。修行場の真ん中では両手で木刀を握る幼馴染と見慣れない大男が実戦のようにうちあっていた。幼馴染のまとう雰囲気は鋭く集中しているのがありありとわかり、動きはすでに素人の領域をはるか後方に置き去りにしていた。


その姿は凛々しく男らしさに溢れている。やばい惚れ直した。シャッターを連射したい衝動に駆られるが見つかるとまずいので理性で押し込める。

なんとか気分を落ち着かせたあとせめてもの記念に盗撮アプリで写真を撮る。パソコンの秘蔵ファイル入り決定だ。イエスッ!


にしても相変わらずの天才っぷりだ。基本2、3度見ればなんでもモノにしてしまうその才能は一般人にすれば「ふざけんな」と怒り狂うレベルだ。

師匠の大男が優位なのはひとえに経験の差だろう。それもすぐに追いつかれ追い越されるのは確実だ。おそらく一生をかけて会得した剣術がただの高校生に打ち破られたとき彼はどんな気持ちだろう?

師匠の報われない未来を想像して私は思わず合掌してしまう。






12日目

この前忍び込んだとき仕掛けておいたボイスレコーダーから驚愕の事実が判明した。


蔵之内静香の父親、蔵之内豪はアドバンステクノコーポレーション代表取締役社長だったのだ!!


この真実がマスコミに漏れたらきっと東京テレビ以外は特番になるだろう。日本中がこの話題に食いつきその影響は計り知れない。今まで存在さえ疑われていた『姿なき先導者』が白日のもとに晒されるのだから。

私はこの事実を知ってニヤリと笑ったがすぐに無表情になった。

今の目的は幼馴染を取り戻すこと。邪魔するなら大企業の重役だって関係ない。


情報通を自称する身としては間違いかもしれない。しかし、重要なのはこれによりどのような手が打てるかだ。


「これは使える。」


フハハハッ!と無表情で笑う私の周りには収まりきらない狂気が溢れていた気がする。






14日目

あいつに情報を集めるように促してから数日が経った。神殿内で勇者の伝説は統一されているらしい。つまり巫女さんのシナリオは神殿内の社員にしっかり伝わっている。ボロを出せばいくらか状況を改善できると思ったがそう簡単にはいかないみたいだ。


うーイライラが収まらない。ストレスを発散するため電話帳からある番号を呼び出す。


「なあ橘を困らせたくはないか?」


正確に訳すと「橘をフルボッコにしないか?」である。事件が発覚しないようにある程度人間性を薄めるアフターケア付き。今までいっぱい遊んだんだ、これからの人生は俗世から離れたところで過ごしてもらおう。






16日目

巫女さんはこの世には存在しないたぐいの人種らしい。

金持ち、巨乳、そしてドジッ娘。どんだけ属性持ってるんだ!遠くから眺めるだけでもわかる、あからさまキャラ作りだ。ははっ、鳥肌たってきやがった。やっぱりあいつ嫌いだ。




そんなことより問題なのはあいつのほうだ。

主人公補正を疑いたくなるほどの成長速度。昔からその性質は運動関連で特に効果を発揮する。

あいつはそのことに少なからずコンプレックスを感じている。あっという間に上達する人間に反発して心無い言葉を吐くやつはいつでもどこにでもいるからだ。そういうやつはひとり残らず私が打ちのめしたけど。


ナーバスになっていたあいつに私は宣言した。


「自分がそばにいる。」、と。


あれ……これ告白じゃね……。

悶絶した。

頭を抱えてバタバタしていたら見張りに見つかりそうになった。

れれれ冷静に冷静におおお落ち着け、マイマインドッ!!!


その日は観察をやめて帰ることにした。






18日目

状況が進展し始めた。


もうひとりのストーカーがプレハブ神殿に侵入したのだ。

ただの女子高校生がアドバンステクノお抱えの警備員と相手になるわけもなくあっさり捕まってしまった。が、その光景をあいつが目撃してしまった。


ヤバい。とてつもなくリアルにヤバい。

蔵之内豪は今回のことが世間に知られるのを恐れている。計画外のことが起き秘密の保持が困難になったらどうするか?

答えは関係者を圧力で黙らせる、もしくは永遠に話せないようにする。

いくら娘の想い人でもいざなったら……。あいつの立ち位置はビックバーガーの二段重ねより不安定だ。

気を付けるように注意はしたがこちらも準備を進めたほうがいいな。欲しい情報は全て手に入ってるから後は脱出計画の細部を突き詰めるだけだ。


もうひとりのストーカー?

神殿の奥に監禁されてるみたいだけど関係ないし。むしろ、あいつにつきまとってた罰としては軽すぎると感じるぐらいだ。






21日目

幼馴染が巫女さんに告白されたらしい。


表面上、落ち着いて電話をしてたが内心は荒ぶっていた。例えるなら10年分の台風が一気に日本海におしかけてきたぐらいの大荒れだ。


「お前は実際巫女さんのことどう思ってんだ?」

「・・・彼女のことは嫌いか?」


巫女さんに対するあいつの想いを聞くたび、私は平常心が保てなくなっていった。

手足が震え出しまともに立っていることも難しくなる。あいつが傍にいてくれなくなる光景がまぶたにチカチカと映る。

最後に最後に一番したくない質問を投げつける。


「・・・愛しているか?巫女さんのことを。」


好意はある。たった三週間だけど一緒に過ごした時間は大切なものだ。出来ることなら彼女の気持ちに応えたいと思う。


私の心臓は確かにこのとき一瞬止まった。




が、




「・・・『お前との約束は破れない』、か。」


言葉が頭のなかに染み込んでいき一拍置いて意味を理解する。



何が込み上げてきた。最近よく感じていた黒いものに近いがはるかに暖かいものが。



「ほんとうに

ほんとうにほんとうに

ほんとうにほんとうにほんとうに

ほんとうにほんとうにほんとうにほんとうに

ほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにほんとうに、


嬉しい。」


言葉に出せたのはここまで、でもそれ以上に



愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる狂おしいほど愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる渡さない愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる誰よりも愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるひとりにしない愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるなによりも愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるえいえんに愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる





決して誰にもお前をやらない!!だからっ!!




「帰ろう!!」


感情のままあいつのいる部屋めがけて走り出す。


さあさっさとモンスター(蔵之内親子)倒してゴールド(あいつを)せしめよう(取り戻そう)か!!



月の光を背に浴びながら、私は力強く地面を踏み高く高く跳躍した。


これからの勇者が心配

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