雨の日
それは、ファストフード店からの帰り、友達4人と歩いてたときのこと。
「あれ、雨降ってきた?」「まずくね?傘持ってねぇぞ」「急がないとやばいぞ」
口々に焦りを表し、顔を見合わせる。
「ここでおさらばっ!」「御暇させていただきますっ!」
テンション高めの二人が次々にさよならの言葉を口にする。
「俺も帰るね。門限厳しいし、雨に濡れたら面倒なことになるから」
「じゃぁ私はそれについて帰ります」
各々さよならを告げて、自分の家の方向に走っていく。姿が見えなくなったところで雨が強まる。
藍綺はカバンの中から折り畳み傘を取り出し、無言で広げる。あたりは真っ暗、人っ子一人いやしない。
―――静寂に包まれた藍綺の世界は急速に縮まり、孤独に包まれる。ああ、またこれだ。
「雨は俺から何もかも奪ってくるな」
そう呟いたとき、ふと、公園に目をやると、一人の少女と目が合う。
「家出か知らないけど、ここで寝るなよ。というか早く家に帰れよ」
藍綺は気づけば声をかけていた。というよりかは注意に近いが。
「家へは帰りたくありません。親がいますので」
「親が嫌で家出か、面倒なパターンだな。いっそ学校がやだとかだったら対策をこうじることはできるんだが」
「心配しなくて結構ですよ」
無理やり作ったような引きつった笑顔を見せる。それが不快でたまらなかった。
藍綺は少し悩んで口を開く。
「親いない家だが、それでも良ければ泊めてやる。自分の世話は自分でしてもらうぞ」
カバンからタオルともう一本の傘を取り出しながらそう提案する。公園で雨に打たれながら寝るのよりかは条件はマシだ。
だが、相手は女で自分は男。渋られても仕方ない。その時は警察を呼ぼう。そう考えていたのだが。
「……いいのですか?見も知らぬ女を家に上げて」
「別に見られて困るようなものはない。マンションだからすこし手狭に感じるかもな。いざというときは逃げづらいが、それでいいならついてこい」
タオルと折り畳み傘を手渡す。一応拒否してもいいように、最低限のお金も置く。
「……お願いしてもいいですか」
「わかった」
端的な返事をし、彼女のカバンを持ち上げて思う。
「軽いな。まさかタカ校の支給品のカバンか?」
「話しかけないでください。今考え事してるんです」
確認は取れなかったが、このカバンはおそらく、当県でトップ3には確実に入る、全国的にも偏差値の高い高校のものだった。
「……あの、これは……?」
「鍵だ。見てわかるだろ」
「鍵…なんでですか…」
道中で鍵を渡したら、戸惑いながらもそれを受け取る。
「なんでって、明日から野宿する気か?そのつもりなら止めやしないが」
そう聞くとハッとしたように、顔を思い切り上げる。
「…いいんですか」
「そのつもりだったが、お前の意思を尊重する。別に無理に引き止めやしない。どうすんだ」
「…明日、学校行ってから考えます」
すると、初めて顔を見たときよりかは幾分か柔らかくなった笑顔を見せる。
「……無理やり笑ってないこっちのほうがいいのにな」
「なんかいいました?」
「いや。無理やり笑顔作ってないこっちの顔のほうが、俺は好きって話」
「…そうですか」
その顔もすぐに真顔に戻る。心做しか、呆れているような、失望の表情に近かった。
「ついたぞ。ここだ」
ロビーの中にスムーズに入っていき、少女を案内する。
「ほんとにマンションなんだ……」
見渡しながら藍綺の後をついてくる少女がポツリと零した。
「嘘をついてるように見えたか」
「いや、そういうわけじゃありませんけど…」
その後無言でエレベーターに乗り、無言で部屋の前に到着する。
「どうする。この中に入りたければ入っていいが、ここから立ち去るか」
その瞬間、降りつける雨の勢いが増した、ような気がした。雨音しか聞こえない中、最後の問いをかける。
「…覚悟はできてます」
「…なんの覚悟かは聞かないでおこう」
覚悟を聞いたところで少女から視線を外す。
「それと、自分の格好も理解しておけよ。人がいなくて助かったな」
少女が視線を落とし、自分の置かれている状況を確認して、一気に顔が紅潮する。
「言っとくが俺は見ていない」
鍵を開けながら自分の関与を否定する。
「ッッッッッ!!!」
少女は全力で藍綺の背中をつねり、藍綺はしらを切る。
彼がその目に映したものも知らずに。




