雨の奪うもの、恵むもの
最新エピソード掲載日:2026/06/09
雨は俺から何もかも奪ってくるな」あたりは真っ暗で、人っ子一人いやしない。友達が各々の家へと走り去り、急な静寂に包まれた世界で、藍綺(あいき)は無言で折り畳み傘を広げる。彼にとって、雨は単なる天候ではない。かつて自分の人生を壊し、すべてを剥ぎ取っていった、冷徹な絶望の象徴だ。急速に縮まっていく視界と、胸を締め付ける圧倒的な孤独。「ああ、またこれだ」――そう諦めかけたその時。すべてを奪い去るはずの大雨の底、暗い公園のベンチに、ポツンと取り残された一人の少女と目が合った。全国トップクラスの進学校の支給品カバン。親への拒絶。「心配しなくて結構ですよ」と無理やり作った引きつった笑顔。自分を見ているようで嫌だった。過去の、あの惨めだった自分を突きつけられているようで、不快でたまらなかった。だからこそ、目を逸らして通り過ぎることもできなかった。放っておけば彼女もまた、この冷たい雨にすべてを壊されてしまうかもしれない。気づけば藍綺は声をかけていた。
雨の日
2026/06/09 20:53