いろんな意味で危険なウェットスーツ
──彼方──
「――起きて、起きて……!」
まどろみに身を委ねていると、誰かの声が遠くから聞こえてくる。
誰だろう……誰に呼びかけてるんだろう……?
どこか聞き覚えのある声のような……。
「か――起きて……!」
か……?
か……なに……?
「彼方起きて……!」
この声……ああ、亜希だ、亜希が僕を呼んでいるんだ……。
「ん……んうぅ……」
僕は目を覚まし、意識がはっきりしてくると、なんだか柔らかい何かの上に頭が置かれていることに気がついた。
(なんだコレ……?)
僕はその柔らかな何かに、そっと手を伸ばしてみる。
すると——
「ひゃうっ……!な、何すんのよっ!」
「あたっ……!?」
亜希の声と共に突然の頬への痛みに、僕の意識は完全に覚醒する。
どうやら僕の頭は亜希の脚の付け根に置かれており、しかも僕が触ったのは亜希の太もものようだ。
「……てっ!えぇっ!?」
「きゃあ……っ!?」
僕は慌てて頭を上げると、亜希の可愛い悲鳴が聞こえてきた。
どうやら僕はとんでもないところに頭を置いていたらしい……。
「亜希、ごめん……!寝ていたとは言え僕その……!」
「い……いいわよ、もう……!それに……彼方は寝てたんだし……?」
僕は亜希に頭を下げるも、彼女は赤い顔をしながら少し拗ねているようにも見えた。
そして、亜希の後ろにニヤニヤとした笑みを浮かべる早乙女さんと、デジカメを構える柊さんの姿が見える。
もしかしたら、僕が寝ている間に二人に冷やかされたのかもしれない……。
(悪いことしちゃったな……)
そう思っていると、早乙女さんが僕へと近付いてくると、僕へと耳打ちをしてくる。
「御堂君……亜希の“デルタゾーン”の感触、どうだった……?」
「な……っ!?」
早乙女さんが耳元で囁くように言うと、僕は耳まで真っ赤になる……!
「あはははは……! 御堂君耳まで真っ赤……!」
早乙女さんは僕を指差しながらお腹を抱えて笑っていた。
僕は助けを求めるように亜希へと目をやると、頬を膨らませてそっぽを向いている。
……たぶん亜希も似たような目に遭ってたんだな。
僕は苦笑しながら辺りを見渡すと、バスはすでに停まっており、乗っていた人も僕たちで最後のようだ。
僕はバスの運転手さんに頭を下げながら急いでバスを降りた。
---
バスを降りた僕たちはスタッフの人の案内で更衣室へと向かう。
一応男女別に分かれてはいるのだけど……近い……。
「か……彼方……!着替えてるところ覗かないでよ……っ!?」
「わ……分かってるよ……」
ウェットスーツを手に持った亜希は顔を赤くしながら指を僕へとビシっと向けると、更衣室へと入っていく。
僕も急いで着替えるため、ウェットスーツを受け取ると更衣室へ入った。
「これ本当に入るのかな……むぎ……! むぎぎぎ……!」
僕はスタッフに言われ、水着の上からウェットスーツを着用しようとするも、肌に密着するためなかなか思うように着れない……!
苦戦の末どうにかウェットスーツを着ると、男性スタッフの人に背中のファスナーを閉めてもらう。
ふう……、どうにか着れたよ……。
(亜希たちはもう出てるかな……?)
そう思いながら更衣室を出ると、亜希たちの姿がない。
まだ着替えてる最中なのかな……?
そう思っていると、更衣室の中から声が聞こえてくる……。
「これ……私に入るの……?」
この声は……亜希かな……?
「風原さんはまだいい……わたしと早乙女さんは……絶望的……」
「あはは……、ウチとミオっちは胸が大きいから入るかな……」
「……二人とも私にケンカ売ってるのかしら?」
早乙女さんと柊さんは胸が大きいからウェットスーツを着るのが大変なのか……て、僕は何を想像しているんだ……!
僕は頭を振って煩悩を振り払おうとするも、その後も何かしら声が聞こえてくる。
「ん……んん……! これ……キツイ……!」
「ちょ……! 亜希……! そんなにウチの胸つぶさないでよ……!」
「うっさい……! その大きなモノを持ってるのが悪いのよ……!」
危険だ……!
この場にとどまっているのは僕の精神衛生的にとても危険だ……!
そうは思うも脚が全く動いてくれない。
「……どうにか着れた。でもこれ体のラインが出て恥ずかしい」
「あは……あはは……、下に水着を着てるとは言えさすがに少し恥ずかしい感じかな……」
「……はぁ」
三人は三者三様の言葉を発しながら更衣室から出てくる……。
これはまずい……!
僕は身の危険を感じて、慌てて更衣室を離れた。
---
更衣室を離れた僕は三人が出てくるのを待つ……。
すると少し顔を赤くした三人がやってきた。
「……お……お待たせ」
「あは……あはは……、少し着替えるのに手間取った感じでさ……」
柊さんと早乙女さんの姿に目をやった瞬間、その胸の膨らみに、思わず視線が吸い寄せられそうになる。
(だ……ダメだ……! これは危険だ……!)
僕は慌てて視線を逸らす。
すると、目に入ったのは亜希の姿だった。
その控えめな胸に、なぜか心が落ち着く。
(……うん、これならまだ安全圏)
……って、見てる時点でアウトじゃないか!?
「……彼方、何か失礼な視線を感じるんだけど?」
「……キノセイデス」
僕は亜希からチクチクとした視線を感じながらも、人生初のスキューバダイビングへと挑むのだった。
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