穏やかではない昼休み
昼休み……四時限目の終了のチャイムを聞くと、僕はグゥ~っと背伸びをして、机の横にかけているリュックから弁当箱を取り出す。
(弁当はどこで食べようかな……)
「おい彼方、メシ食おうぜ!」
食べる場所を考えていると、悠人と高藤が声をかけてきた。
二人とも手ぶらなので、どうやら学食で食べるらしい。
「いいけど、僕弁当だよ?」
「学食でも弁当食べてるやつもいるし問題ないだろう」
「そうだね」
高藤の言葉に頷き、席を立とうとしたその時だった。
「あの……御堂君……!」
「風原さん……?」
亜希が声をかけてきた。
「も……もしよかったらだけど……その……私とお弁当……食べない……?」
亜希は顔を少し赤くしながら、上目遣いで僕を見てくる。
その様子に僕は思わずドキッとしてしまった。
「え……でも、悠人と高藤に誘われてるわけだし……」
「そう……分かったわ……」
亜希は気落ちしたように視線を落とす。
その姿になぜか胸が痛む……。
「……彼方、やっぱ俺たちだけで行ってくるわ」
「そうだな。学食は人が多い。弁当を持って学食に行くと変に睨まれたりするからな」
二人はそれだけ言うと、僕を置いて教室を出ていった。
えっと……これって気を遣ってくれたってこと……なのかな……?
「とりあえず風原さん……一緒にお昼食べようか……」
「う……うん……!」
僕の予定が無くなると、亜希はどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
昨日の夜も今朝も一緒にご飯を食べたのに、そんなに嬉しいのかな……?
「とりあえず教室でいい?」
「教室はちょっと……出来れば静かなところがいいわ……」
ふむ……静かなところか……。
僕は顎に手を当てて少し考える。
「じゃあ、中庭とかは……?」
「そこならいいわよ」
僕は亜希と一緒に弁当を持って教室を出ようとすると、柊さんが声をかけてきた。
「待って……わたしも行く……。いいでしょ? 御堂君……」
「えっと……僕はいいけど、風原さんは……」
「……ええ、私もいいわよ」
亜希は了承したものの、どこか不機嫌そうだった。
僕は亜希と柊さんと共に学園の中庭へ向かった。
◆◆◆
僕は亜希と柊さんと共に、中庭の日陰へ昼食を食べに来た……のだけど、なぜか重苦しい空気が辺りを包んでいた。
無言のまま弁当を食べる亜希と柊さん。
時折お互いを見合っては、まるで火花を散らしているかのようだ。
そんな中に僕が口を挟めるはずもなく、ただ重苦しい空気を感じながら真奈美さんの作ってくれた弁当を食べていた。
(うう……なんか空気が重苦しいせいで料理の味がしないよ……。ここは早めに食べて退散したほうがいいかな……)
僕は二人の様子を伺いながら、そそくさと弁当を食べ進める。
「あの……御堂君は確かいつも自分でお弁当作ってたよね……。今日も自分で作ってきたの……?」
そんな僕の様子を見てか、柊さんが話しかけてきた。
「えっと……今日は父さんの再婚相手の真奈美さんって人が作ってくれたんだ」
「そう……。私は自分でお弁当作ってる。実はわたし、お母さんと二人暮らしで、あまりお母さんに負担をかけないように自分で出来ることは出来るだけやってる……」
「え……? そうなんだ……。柊さんもお母さんと二人暮らしだったなんて知らなかった……」
「お父さんは何年か前に病気で亡くなったから……。だから本屋でバイトしてるのもお母さんを助けるため……。て、ごめん……ご飯中に重苦しい話をしちゃった……」
「い……いやそんなことないよ……! でもそっか……柊さんも大変だったんだね……。僕も少し前まで父さんと二人暮らしだったから、その気持ちは分かるよ……。確か風原さんのところもそうだったよね……?」
「え……? あ……う……うん……! 私も本当に昨日までお母さんと妹と三人で暮らしてたから……」
僕が亜希へ話を振ると、彼女は慌てて話を合わせてきた。
「そうだったのね……。でも御堂君、ごめんね……ご飯中にする話じゃなかった……。わたし……」
「い……いや、謝るようなことじゃないよ。誰にだって言いにくいことはあるからさ」
「うん、ありがとう御堂君……」
柊さんはそう言って微笑んだ。
その笑顔は今まで見た彼女の表情の中で一番可愛く見えた。
「そうだ、御堂君……。わたし今お菓子作りを練習しているの。もしよかったら今度クッキーの味見をしてほしいんだけど……どうかな……? もちろん御堂君の作ったものには劣ると思うけど……」
「そんなことないよ……!もしよかったらぜひ食べさせてもらえないかな?」
「ありがとう、御堂君……。作ったら学園に持ってくる……」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」
柊さんのクッキーか……なんか楽しみだな……。
「料理……だめ……。私には料理ができない……。どうする私……」
ふと亜希を見ると、険しい表情で悔しそうに唇を噛みしめ、ブツブツと何か言っていた。
「あ……亜希……?」
僕が声をかけると、亜希はハッとしたように顔を上げた。
「えっと……その……そ……そうだ……! ね……ねえ御堂君!今度一緒に料理してみない……っ!?ほ……ほら、私ももっと料理上達してみたいしさ、も……もちろんタダでとは言わないわ!今度御堂君の苦手な教科を見てあげるから、ど……どうかしら……?」
僕は亜希の言葉に若干の違和感を覚えるも、すぐにその意図を理解した。
確か亜希は完璧女子で通してきたはず。
だから「料理が出来ないから教えて」とは言えず、敢えて“上達したい”という形で言ってきたのだろう。
それに、苦手教科を見てもらえるのは確かにありがたい。
亜希は全教科高得点だから、勉強法を教えてもらえれば随分助かる。
「うん、いいよ。もしよければ今日でも一緒に料理してみようか」
「いいの御堂君……?」
「ま……まあ……同じ家に住んでるわけだし……」
「ありがとう、彼方っ!」
「わ……わあ……っ!? あ……亜希……っ!?」
突然抱きついてきた亜希に、僕は思わず彼女のことを下の名前で呼んでしまったのだった……。
~サイドストーリー~
──亜希──
昼休みが終わった五時限目……私は頭を抱えていた……。
(あの時、最後の最後で彼方のことを名前呼びしてしまったのは迂闊だったわ……)
今まで“御堂君”と呼んで学園では線引きをしようと思っていたのに、つい感情があふれて名前で呼んでしまった……。
でも……考えようによっては、柊さんへのいい牽制になったかもしれない。
昨日までは由奈さえ気をつけていればと思っていたけど、柊さんがあそこまで行動力があるとは思わなかった……。
とんだダークホースだわ……。
でも……負けない……負けるわけにはいかない……!
最後に彼方の隣にいるのは……私なんだから……!
私は授業の内容そっちのけで、恋のライバルへの闘争心を燃やしていたのだった……。
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