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金曜日に贈る和歌  作者: 朝凪


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27/30

六月の

6月下旬。昼過ぎから降り始めた雨は、やがて勢いを増し、窓ガラスを絶え間なく叩いていた

ザーッという雨音が部屋いっぱいに響く。梅雨らしい1日だった


桜は湯のみを片手に、窓辺の席へ腰掛ける。今日のおやつは、この時季になると毎年楽しみにしている和菓子――水無月だった

白いういろうの上に、小豆がたっぷりとのった三角形のお菓子


「いただきます」


小さく手を合わせ、ひと口食べる

もちもちとした食感が心地よく、優しい甘さが口いっぱいに広がる。添えたほうじ茶をひと口飲めば、香ばしい香りが甘さをすっと包み込んだ


「……美味しい」


桜は自然と笑みを浮かべる。6月になると、水無月が食べたくなる

雨音を聞きながら、桜は静かに1首を口ずさんだ


「六月のなごしの祓する人は千とせの命延ぶといふなり……」


6月の終わりに行われる夏越の祓

半年の間に知らず知らず積もった穢れを祓い、残る半年を健やかに過ごせるよう願う神事だ


「昔の人って、本当に季節を大事にしてたんだなぁ」


桜は湯のみを包み込みながら、雨に煙る庭を眺めた

1年は、あっという間に過ぎていく

1月には七草粥を食べ、春には雛人形を飾り、桜を眺め、気づけばもう6月も終わろうとしている


「もう半年かぁ……」


嬉しかったこともあれば、落ち込んだ日もあった

誰かの笑顔に救われた日も、思うようにいかず肩を落とした日もある

けれどそれら全部ひっくるめて、今年の前半なのだ

だからこそ、一度区切りをつける日があるのは素敵なことなのかもしれない

桜は最後のひと口の水無月を味わい、香ばしいほうじ茶をゆっくり飲み干した


「晴れた日に、茅の輪くぐりに行かなきゃ」


神社へ行き、大きな茅の輪をくぐろう

半年間の感謝を伝えて、残る半年も穏やかに過ごせるよう祈ろう

そう思うだけで、心が少し軽くなる

ーー窓の外では、雨はまだ勢いよく降り続いている

けれど桜は知っていた

この雨が上がれば、本格的な夏がやって来ることを

季節は今日も、静かに次の頁へ進もうとしていた




・和歌

六月のなごしの祓する人は

千とせの命延ぶといふなり

(拾遺和歌集 よみ人知らず)

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