六月の
6月下旬。昼過ぎから降り始めた雨は、やがて勢いを増し、窓ガラスを絶え間なく叩いていた
ザーッという雨音が部屋いっぱいに響く。梅雨らしい1日だった
桜は湯のみを片手に、窓辺の席へ腰掛ける。今日のおやつは、この時季になると毎年楽しみにしている和菓子――水無月だった
白いういろうの上に、小豆がたっぷりとのった三角形のお菓子
「いただきます」
小さく手を合わせ、ひと口食べる
もちもちとした食感が心地よく、優しい甘さが口いっぱいに広がる。添えたほうじ茶をひと口飲めば、香ばしい香りが甘さをすっと包み込んだ
「……美味しい」
桜は自然と笑みを浮かべる。6月になると、水無月が食べたくなる
雨音を聞きながら、桜は静かに1首を口ずさんだ
「六月のなごしの祓する人は千とせの命延ぶといふなり……」
6月の終わりに行われる夏越の祓
半年の間に知らず知らず積もった穢れを祓い、残る半年を健やかに過ごせるよう願う神事だ
「昔の人って、本当に季節を大事にしてたんだなぁ」
桜は湯のみを包み込みながら、雨に煙る庭を眺めた
1年は、あっという間に過ぎていく
1月には七草粥を食べ、春には雛人形を飾り、桜を眺め、気づけばもう6月も終わろうとしている
「もう半年かぁ……」
嬉しかったこともあれば、落ち込んだ日もあった
誰かの笑顔に救われた日も、思うようにいかず肩を落とした日もある
けれどそれら全部ひっくるめて、今年の前半なのだ
だからこそ、一度区切りをつける日があるのは素敵なことなのかもしれない
桜は最後のひと口の水無月を味わい、香ばしいほうじ茶をゆっくり飲み干した
「晴れた日に、茅の輪くぐりに行かなきゃ」
神社へ行き、大きな茅の輪をくぐろう
半年間の感謝を伝えて、残る半年も穏やかに過ごせるよう祈ろう
そう思うだけで、心が少し軽くなる
ーー窓の外では、雨はまだ勢いよく降り続いている
けれど桜は知っていた
この雨が上がれば、本格的な夏がやって来ることを
季節は今日も、静かに次の頁へ進もうとしていた
・和歌
六月のなごしの祓する人は
千とせの命延ぶといふなり
(拾遺和歌集 よみ人知らず)




