The wolf howls 傍パートⅢ
時間がかかっているのか、僕という存在を忘れていたのか、どちらにせよツクモは僕という存在を1時間以上も放置しやがった。職務放棄というよりバックレに近い。普通の職場だったら給料は発生しないレベルだ。もちろん、戦闘に時間がかかった。思ったより人数が多かった。などいくらでも言い訳の仕様はあるが、ちょっくら僕の様子を見に行くだったり、遣り様はいくらでもあるはずだ。第一、ガキが何時間でも静かに待つことができるか?という話だ。まあ自明である。答えはNOだ。できるはずがない。落ち着かず、ずっとソワソワしている。それこそがガキなのだ。世間では多動性と括られているが、ガキというのは猿も同然なのである。ので、一々言語化せず放っておけと思ったりしている。結局精神医学なんて理論武装した自己満に過ぎないのだから。
まあ。僕の愚痴はどうでもいい。物語の本筋とは程遠いただの愚痴だ。話に戻ろうではないか。僕も例に漏れず岩壁を殴ったり、意味もなく荷台を漁ったりとまあ結構暴れていた。でも、世の中限度がある。僕も一通り荒らし回ったあと、次なるものを探しに、そそくさと洞穴から出ていってしまった。結果論的に考えれば悪手だと断定できるが、色々加味すると不可抗力なことが分かる。まあ...しょうがない。僕が洞穴から出てしまったのも、急に冷え込んできて身体が悴んでいるのも、全部ツクモのせいということにしておく。要するに責任転嫁だ。うん。良い気しかしない。
またまた何も知らず、そのゆく先に何かあるではないかという漠然とした期待を持って、一人虚しくとぼとぼと歩きだしていた。ただ今回ばかしはそれだけが理由ではなかった。いつまでも洞穴に居たら、何かしら不都合が起きそうだぞという漠然とした不安があったのだ。明らかに洞穴は中継地点、峠の茶屋的な所であり、あくまで休息のための場所。一時的にいるだけの場所だった。だからだ。自分は動かなければならない。ここから脱せねばならない。脅迫めいた不安、自分の奥底に沈んでいたものが行動原理となって、僕を無理矢理動かしていた。
・・・
一旦休憩と思い筆を止めた時、寝ていたはずの小瓶が介入してきた。
|あんさ。今から始めて構わないから俺の回想も、挟んでくれね。代筆って感じで。|
|どうして。|
|いや一応、コカと俺の分2人共できるし。現状把握にはソル側の状況も乗せといたほうがリアリティが出るだろ|。
|まあ出来るならそっちの方がいいか。|
|んじゃ。頼むわ。|
そこまで負担ではなさそうなので、了承した。ミネラルウォーターを口いっぱいに含んだあと、だいぶ芯が削れた鉛筆をナイフでちょいと削り、改めて机に向かった。そういえばと思って渡されていた当時のツクモの日記のコピー(本人の了承は得ていないらしい)も一緒に使うこととした。
・・・
以下小瓶がお送りします。
俺は非常に焦っていた時期は終わりつつあった。最初は自分の副隊長というポジションとアガプトでの戦果が明らかに不釣り合いだったためだ。自分の貴族階級出身という身分から、確かに副隊長でもおかしくはないと思うが、ここ数ヶ月捉えたゼイデンは一人もおらず、能力者でも2,3人である。と、散々な結果にあくせくしていたが、今や結果に追われることすら無駄と考え何も思わなくなった。まだ、本部にいた時、マーダー島の時は並以上のの結果できていたが、砂漠という土地が合わないのか、近接戦闘が下手なのか何なのか分からんが、スランプに陥っている。段々と自分の仕事に楽しさを見いだせなくなっていた。沼にハマるにつれて、自分の爆弾の置き場所も普遍的になり、淡々と任務を遂行していく面白みのないただの兵士へと落ちぶれていっていた。
「おい。」
・・・
「聞いてる?調子の方はどうかい??」
そこには息が切れ気味のコカ(隊長)がいた。
「あーはい。さーせん。ちょっとぼーっとしていました。調子は...まあいつも通りですかね。」
と謝った。コカは俺の弁明はどうでも良さそうに、自らわざわざ最前線に居る理由を笑顔で語った。
どうやらメンバーが誰か(ツクモ)のせいで次々と戦闘不能になって、支部への帰還を始めているため、残っているメンツに話を聞き、ブラックボックスな状況を整理しながら戦闘態勢を立て直している最中らしい。要は割とピンチということだ。危機的状況なのに、むっちゃ笑顔である。というか、今に限らずこの人はなぜ今笑顔なのだと思う場面が多々ある。長い付き合いだったが、未だこいつの素性が分からない。最初は嬉々として戦闘を行う好戦的な性格から、サイコパス的な異常者かと思ったが、戦闘員の功績はしっかり褒めるし、緊急時はちゃんと駆けつけているから、全く分からないやつである。仕事上の付き合いが長く、よく飲みに行っていたりしたが、クラスメイトだったりしたら敬遠するタイプの人間でだと言えるだろう。
・・・
1日間ずっと歩き続けていたからだろう。僕は疲れていた。足取り重く一歩一歩踏み出す。喉もかなり乾いていた。それでも、それでもと言いがかりをつけながら、ひたすら進んだ。夜空なんて気にもとめず、下を見続け、亡霊みたいに徘徊していた。いつ頃だっただろう。不意に、「うっ」と体に異常を覚えた。吐き気でも、誰かに殴られたわけでもない。ただただ原因が分からず戸惑っていた。と同時に、シューーーーーーと左足の感覚がなくなっていくのを感じた。いざ動こうとすると打ち上げられた魚のようにビクビクしている。完全に麻痺していた。制御不能だった。泣こうが叩こうが噛みつこうが、いっそう痛みが増すだけで対処仕様もない。一つの武器が一人を壊したのだ。現状に悶絶しようが、悼もうが、回復の余地がない。どうしようもないという、一番たちの悪い恐怖、それは人生を諦めるには十分すぎる理由だった。その時の僕には人生の終点がはっきり見えた。何も無い所、自分がマへと戻るための場所。”それ”がはっきり、くっきり見えた。
既に僕の左足は壊死して、再起不能の状態。もう物質として在るだけで消えていくのも時間の問題だった。
・・・
「実際どれくらい戦線に居るんすか?」
「ざっと4割かな。」
「かなりの実力者っすねえ。まああのじじいほどではなさそうだけど。」
「当たり前だろ?多分ゼイデンのガキと一緒にいたあいつだろう。とは睨んでいるが。」
「あの女型かー。俺は厳しそうだけど、隊長なら倒せんじゃないすか?しらんけど。」
「いや。わからん。スネイカーの付添人なんて…未知数だろ?」
「まあ。確かに。」
まあ談笑はほどほどに。具体的な戦闘体制や備品の確認などをしていた。話し始めてしばらくしてだった。
持っていたレーダー探知機がうるさいほどにブルルッと鳴った。鳴り止まなかった。始めは誤作動だろうと達観していたが違った。正常だった。もう笑えてくるくらいに、圧倒的なマの濃度が濃い物体が毒牙の餌食になっていた。急な出来事だった。しかも、数カ月ぶりの戦果である。まさか。俺が手柄を挙げるとは。しかもゼイデン。あまりにも衝的すぎて俺は探知機を放り投げ、コカにその旨を伝えた。
「目的。 捕まえましたぁーーーー」
「ふぁ!?嘘だろ。」
「ほれほえ。レーダーを見てみろ」
「マジじゃねえか。」
コカもまさか俺が捕まえるなんて思っていなかったからだろうか。その事実に空いた口が塞がらなかったようだ。いやもう不思議なこともあるもんだと苦笑していた。
「てっきりマグスとかがやると思ってたぜ。」
「あいつ一番近くまで行ったけど、付き添いにやられたらしい。」
「そうかぁー。まあお前なら狙った獲物を逃す。なんてことはしねえだろ?」
「おうよ。任せておけ。」
「じゃ。他回ってるわ、、」
こうして、コカとの会話を終え、探知機をカバンの中にぶち込んだ。そして、一生懸命広げてた毒牙の種を一つずつ回収に走る。俺の能力は範囲を100kmくらいまで広げられるかなり広範囲なものだったが、広げた分だけ、能力の強さは落ちてしまう。つまり、対象の一点に範囲を狭めることでより強力な毒牙を作れるってわけだ。自分が対象のもとにたどり着いた時、なるべく戦闘不能の状態にさせ、対象に自身を人様の奴隷だって悟らせる。正直、感情、自我など全てを亡ぼさせるまで徹底しなくても捕獲は容易だろう。しかし、今回は結果が関わっている。長い間手にすることができなかったものである。結果の奪取は僕のけじめだった。結果を対価に俺は支配者としての人格を思い出してしまったってだけの話だ。
毒牙の回収が一通り終わったあと、少し離れた贄を目掛け、俺はなれない砂漠を奔走した。どんな手を使ったとて対象しか見えていなかった。それはもうハイエナみたいに狂っていた。横暴かつ凶暴で、餓死しそうな俺なのだった。
・・・
左足が動かなくなったのに起因して、僕はただ蹲っていた。何もせず、密かに死期を待っていた。若気の至りだろうか、溢れんばかりに生命力からだろうか、ちょっくら動いてみようかと考えたりもしていたが、もうどうすることもできないだろうな。という諦めが僕にまとわりつき行動力をなくした。楽しかったこと、悲しかったこと、美しかったこと、気持ち悪かったこと、生きれたこと、きっともうすぐ死ぬこと、全てが僕に回帰したが、僕は今を受け入れようとはしなかった。
しばらくしてだろう、ものすごい勢いで僕のもとに駆けつけようとしている者を見つけた。もう全体砂まみれで、いきいきしていた。背丈は僕と同じくらいであんまし強そうにも見えない痩せ型だ。しかし、彼から発せられた気から彼が並の者ではないと感づいた。恐ろしいものだった。ただただ怖かった。怯えるとか、ゾクゾクするというような何が起こるかわからないといったスリリンなグものではなく、内なるものに触れてしまった。本来見てはいけないものを見てしまった。というような、体現しにくい怖さがあった。
彼は普段表では隠しているらしい真っ黒な目で、僕のことを見た。僕は金縛りにあったように、身体を動かすことができず、岩のように固まった。普通だったら、怖気づき涙を流したり、必死に抵抗しようと藻掻いたりするだろうが、僕にとってそんな時間はとうに過ぎていた。というか、既に自分の精神を誰にも介入されまいと固く閉じていったため、何かしら感情を抱くこともなかった。S国の努力虚しく、ただ、彼の目は僕が生きることの放棄を早めただった。
・・・
ジスクと分かれたあと、他のメンバーにも聞いて、どうやらツクモという女型のゼイデンが一帯を暴れまわっているらしいと分かった。流石に相手がゼイデンなので、被害を極力抑えるため、今捕獲に入っているジスク以外は退散させることとした。そして、僕は戦況の視察をするため、彼らにバレないように西側の岩山に登り、自分の仕事を進めることとした。ジスクの能力は捕獲率は低いものの拘束力はトップクラスに強いので、逃がしはしないだろうと思いつつ、万が一があったらバックアップに入れるようにしつつの隊長として最適な場所を見つけれたと安堵しながら、祖国に備品を追加するための電報を送った。
・・・
もう意識が飛んで憶えていない。どのくらい時間が経ったのかも分からない。たぶん...おそらく...20分経ったくらい?身体なんかありゃしない。心も。もうボコボコ。吸って吐くことすらままならない。動かず。沈み、腐ちて、落ちていくだけ。そう。今降っている雨粒のように。ぽつ ぽつと血がたれていく。汚れた血。誰も望まぬ血。塩っぱくて、僕の体内で循環しているだけの何にもならない血。僕の血が、本来行き着くはずのない体外に流れて、砂と絡んで、黒ずむ。
「なあ。俺の贄にならないか?」
と言いながら、僕の皮膚をすっと刈り取る。拷問?くだらない。もう何も感じなくなった。
転倒して頑張って這い上がった砂丘。いや山に見える。どっちでもいいか。麓まで降りてしまった。落ちてしまった。それはさっきよりも大きく見える。岩壁みたいだ。超えれるか。いや。動きそうにもない。誰か僕の後ろにあるゼンマイを巻いてくれ。なんて、いっても見向きさえしてくれないだろう。もう壊れているんだから。高慢な貴族は僕を自然消滅させないのだ。もう眼前に。ほらそこに。漂っているというのに。
・・・
僕は岩山から静かにジスクの様子を覗いた。ちょっと標高が高すぎたようだ。あの集団が豆のように見える。けど、逃げ出す様子もなさそうだし。捕獲は。まあ何事もなければ大丈夫そうだ。僕は静かに安堵した。今回は順調に行く。前回僕が任務にあたった時、3人もいたのに全員に逃げられてしまった。特にあの普通そうな人獣のゼイデン!あいつの戒のせいでメンツ総崩れだ。思い出しただけで苛つく!絶対殺さねば。
というか、時間ねええ!急いで戦況報告書送らんと。まだ500文字にも満たねえじゃねえか。
・・・
「なあ小僧。俺はお前を完膚なきまでに破壊しないといけない。ちょいと痛いが、贄になってくれ。いやなれ。確定だ。は?どうして?ならば教えてやろう。今までの!俺の鬱憤を晴らすためだ。」
「どうしたどうした?物に当たるってのはそんなにいけないことか?」
俺の小言が小僧には全く理解できないっていうのは周知の事実だ。でも狂わないと。またとない絶好の機会。楽しめねえんだよ。俺が”今”欲しているのは金か?名声か?力か?んなことねえよなあ!成果だ!結果だ!やっとなんだよ!我が手に成果を収める日が!俺が努力したという確証が!今より素晴らしいことはねえよなあ!!!!!
・・・
彼はガミガミガミガミ言いながら、僕という居場所なき、友なきゼンマイネズミに爆弾を巻いた。というか鎧をはぎ身体の至る所に仕込んだ。しかもただの爆弾じゃない。さっきの地雷と同じ毒牙が僕の身体を蝕んだ。
「毒と爆弾、瞬間的な大ダメージとじっくり、ゆっくりと浸透する毒。2つも味わえるなんて。恐怖そのものだろ?これ以上の武器は核ぐらいしかないぜ?良かったな!」
と言いながら、躊躇せず、ためらう素振りも見せず、彼は爆弾の起動スイッチを親指で押した。
「これで強固なゼイデンさんも気絶すんだろ!?」
すぐに点火し、何発もの爆弾が一斉に爆ぜた。その衝撃でコカ(?)がいたらしい岩山の中腹部まで、僕の身体はふっとばされ、堕ちた。僕の皮膚は焼き切れており、一部骨すらくっきり見える部分もある。いくら能力体制があるとされるゼイデンでも、これで活動のための歯車は”完全に”止まってしまった。機能なんてするはずがない。見るも明らかな出血多量で外傷によってできた血が内部まで逆流してきた。呼吸するたびに血が入ってきやがる。気持ち悪い。
・・・
「結構片付いてきたんじゃないかー?」
とボクは独り言をのべる。どんくらいだろう?10はゆうに超える。20くらい?ほぼ全員気絶と言った感じだ。ったくー。Sの奴ら口だけ横暴だからな。中身は意外と大したもんねえけど。なんであんなにイキりたがんの?まじで意味不明。イラッとするだけだから、かなり質悪い。でもまあ許すとしよう。もうかなりの人数がこの戦況から抜けてきたみたいだし。流石に偶然鉢合わせなんてあるわけねえだろ?という言いがかりをつけてボクは帰ることにした。撤退することにした。もう早く風呂浴びてえ。どうせならベッドの上で休みたい。頼むからスネイカー。残業手当出してくれー。なんて期待しているけど、お前がやったことなんだから”慈善活動”だろなんて、彼なら言い切る気がする。いずれにせよ早期帰宅を目指している身として急がねば。
と、思っていた時期がボクにさえある。急ぎ目で歩いていたら、岩山の頂上に人、いかにもSの重鎮のような顔をしている人が。その人の目線の先には、3の異の中では中の下くらいの能力者がとなぜか捕まっている新人さんがバトっています。まあ、彼は、覚醒状態に入りさえすれば勝てると思うのでボクの介入余地はないかなー。戦闘も経験させたいしね。だから、頂上にいる人と戦うべきかー。でも見るからに、司令塔っぽい。やるかー。
まあ17分くらい書けて頂上近辺にたどり着いたボクですがバッドニュースです。おそらく、ハズレくじを引きました。見るからに能力特化型。やだ。絶対間合い管理面倒くさいじゃん。よって、帰るのも日をまたぐ。つまり、ミッション・計画の破綻=スネイカーだったら発狂レベル。きれいなほどの悪循環だ。ま、あんま気にしてないけど。
確かに、あの子を見捨てて帰還するって手もあるけど、まあボクはゼイデン(近接特化型)なんで狂戦士でなくては。全員と戦って当然。義務。職業病でもある。まあ背を向けて逃げるなど失態はあっちゃならん。けど、稽古じゃあるまいし正面切ってやるのは時間の無駄なので、個人的に流行りの奇襲戦法にした。楽だしね。
・・・
俺は小僧の活動が止まっているのを確認し、急いで事故現場に駆け寄る。もう干からびたミイラみたいになってて。ぐしゃぐしゃ。もう笑うしかねえ。コカに医療義務があることを伝えないと。復元できなくなっちまう。
「いいか。小僧。何があろうと俺を恨むな。どんな事が降りかかろうと、俺はお前とは別の道を生きている。わかったか。」
小僧はうんともすんとも言わず、ほぼ息絶えて、冷凍された肉食魚のようだった。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
・・・
僕自身彼のことをただの死神。僕の死刑執行人だとしか思わなかった。でもなぜだろう。名も持たないはずの僕の正義が彼の行いを拒絶している。糾弾している。何をしでかそうと結局これが最後なんだから。死ぬのは決定しているんだから。必ず死ぬんだから。僕がしたいことをすらばいいじゃん。鬱憤を晴らす?後悔の無い死に方をする?ふざけんな!知るか!目的なんかねえぇーーーーよ!!!!!おっと、目からも血が出てる。こんなこと。ほんとにあるんだ。まあいいや。言いたいことは唯一つ。
「「「この世界なんかクソ喰らえ!!!」」」
・・・
小僧の鞘から抜かれた大剣はきれいな放物線を描きながら投げられた。と同時に一帯の次元を断絶した。奇跡的に躱せたが、後1,2秒遅れたら次元の間に僕が閉じ込められるところだった。いや、存在が世界からなくなるところだった。
「なぜだ?」
彼は動けなかったはずだ。いや動かなかったはずだ。制限。否、制止していた。俺の詰めが甘かったのか。それとも彼の精神力が想像よりずっと強固なのか。いずれにせよ全く分からん。どうして動きたがるのか。俺だったら完膚なきまでに潰れていたはずなのに。なぜ歩みを止めたがらないのだ。社会はお前でさえ傷一つ付けられないくらい、桁外れに強く、惨憺たるものだ。なぜ今に歯向かおうとするのか。意味がわからぬ。
「仕様がない。」
人を捨てるしか無い。何もかも終わりだ。最悪小僧を消してもいいから、分からせる。俺が、全員が味わってきた行き場のない鬱という名の苦痛を。お前目掛けてぶん投げてやる。
「俺自身のためなら。。」
「”人”を鎮めて、消失させることくらい余裕だろ?」
・・・
忍者の容量で岩山と駆け上がり、左手をパイクに変化させた。間合い十分。よっぽどのことがない限りは確実に何処か捉えられる。渾身の一突き。一応心臓は外しておこう。蘇生しやすいようにね。
スッ
なんと抜けてしまった。こりゃ近接戦闘もかなりの手慣れかよ。って。面倒くさいんだけど!
「やあ僕みたいな強者は初めてかい?」
「いいえ。あと3名ほど居ますが?」
「ふーん。興味ないけど。こりゃ物騒な人に物騒な能力だ。かっこよく言うと”鬼に金棒”ってことかな。」
「お言葉だが、全然かっこよくない。」
「色々厳しいねー。というか黒い目の効きが薄いな。もしかして人間さんじゃないのかな?」
「勘の良いガキは嫌いだよ。でもこっから先は機密情報だ。聞き返したら。まあどうなるかわかってるよな?」
「なるほど…君は何者なんだ?」
こいつ。かなり強い。もうびっくりするほどに。まず立っている時の体軸が一切ぶれていない。足場が不安定なところで、全く動かず。山のように。不動だ。なおかつ、感情や思考回路が一切読めない。何考えてるかなんて…理解不能。人ではない物、例えば、波とか水とかと相対しているような気持ちにさせられる。掴みどころがなく、絶対規則があるはずなのに不規則に感じる。なよなよと。全くとらえどころ/弱みが見えない。
「君の武器は。何?」
「ああ。これだよ。」
と言いながらレイピアを取り出す。
「玉鋼か。」
「そうSの幹部からもらった。特注のやつ。鋭いねぇー。…君かなりのコレクターか?」
「まあこの手の物を脱法的に集めている物好きが雇い主なもんで。」
「心当たりがあるにゃーー。」
「まあまあ。これ以上話しても埒が明かないだろう?」
「そうか?酷い戦いより会話した方が懸命だと思うんだけどな。」
と言いながらボクもパイクをレイピアに変化させる。まさか突き合いになるとは。切り合いだったら絶対勝てたのに…でも、正直武器で戒具に勝るものはないし、及び戦闘技術はこっちの方が上。勝負いただき。教えてもらったことに確認。突合は間合いが全て。切合は剣一つ一つが重く、間合いより、ヒッティング/ディフェンディング能力やパワーが求められる。しかし、突き合いは相手と自分の距離の調整が最重要。気づいたら突かれてる!!!!!なんてことがないように、大股2歩でギリギリ突きが届くような距離を作る。
ボクは彼に剣先を向け、間合いを計りながら威嚇をしていく。流石につられないようだ。彼は背筋を真っ直ぐにしながら手首を下に向けて、ボクと同じく間合いを測る。ただ、足の動きから間合いを少し詰め寄っているっぽい。若干近い。かなりの手練れなら射程圏内にある距離だ。もしかしたら…あるな。
コンマ6秒くらいだった。彼は前傾姿勢となって、ボクに攻撃を仕掛けた。やはり。といった感じだ。しかし、少し踏み込みが浅い。踏ん張っていないというより力を抜いているような。ボクは彼の攻撃を剣先を使って受け流す。握力は強いようで、彼は自分のレイピアを勢い任せに落としてしまうような失態は犯さず、笑って問いかける。
「この程度?」
「どうってことないでしょ。」
「女型でここまで機敏に動けるやつ初めてだよ。」
「だから訳アリって言ってんじゃん。」
「なるほどね。もしや劣勢ってやつだったりする?」
と言いながら不自然に伸ばしていた右側の髪の毛を書き上げた。
・・・
おかしい。ボクの脳はどこだ。これはボクの脳ではないはずだ。ずっと左右に揺れている。違う。麻痺している。空がなんか二重にぼやけて見えるし。ぐわんぐわんって。行き場を失っている。何かボクの身に良からぬことでも起きたのか?いや違う。視界はぼやけながらも見える。口もパクパクと動かせるし、四肢が切り取られたわけではなさそうだ。なんなら、左手のレイピアもそのままだから戒も正常に機能している。そして彼はただ不敵に、、、居ない。ならば反対方向に移動した。僕は反対方向を向く。狙ってくるとしたら。首を突く!だから後ろを向くと同時に上段。ビンゴ。左側に身体を寄せた後、ステップで引き気味の彼の腹を一突き。できなかった。厳密に言えば動きが彼の能力のせいで左に行き過ぎた。戻ろうとした隙に背中を2回ほど突かれた。幸い貫通してなく傷は浅い。駄目だ。実力差があるとはいえ土俵が違いすぎる。今から拳銃に変えるか?否、頭が終わってる中で銃で正確に射止められるはずがない。
彼の要望は掴み所がない人から正体不明の化け物に変わってしまった。ほぼ右眼のせいである。到底、人間のものとは思えない。正真正銘の邪眼といった感じ。多分見た時に効果が発動するタイプのやつ。剣術は基本的に相手と対面しなければいけない武術のため、見なくても物を感じ取れるというような超人でない限り、対処が難しい。読み合いをさせてくれない。
「さっきよく守れたねえ。やっとおしまいかと思ったのに。たいてい立ち往生している者がほとんどなのに。本当に僕以上の戦闘狂、久しぶりに見た。」
「ちょっとわかり易すぎたんじゃないかなーと思うよ。心臓とかだったらボクは確実に負けてたからね。」
「まあまだまだ特訓かー。これでも万年平均以上のハイスコアで昇進したんだけどなー。」
「それは君が実技でスコアで稼いだだけじゃない?ボクの場合実技がよくても暗記とか授業態度が悪くて一年余分にかかったし。」
「自分が悪いだけなんじゃ…。ちなみに僕は平均ぐらいだった気がするよー。」
「にしても君の能力凄いね。あんなのゼイデン以外で始めて見た。何と言っても君の武器と相性がいい。」
「分析力あるじゃん。剣術と精神攻撃って意外と珍しいと思うけど、やっぱ強いと思ってる。まあ君と一緒でこれ以降は個人情報になっちゃうから詳しく言えないけどね。」
「うん。今も苦しい。。。。エチケット袋とか無いの?トイレとか。」
「戦闘に同情は不要!仕切り直すよ!」
お互い、戦闘に手を止めすぎたのか、全く危機感を感じられない休憩となった。二人共、死にたくないと懇願する時代はとうに忘れてしまったからだろう。ボクらは自分なんか全く悪くない。世界が仕向けたんだと自らを正当化し続けて、今のように落ちぶれてしまった。その結果、命の重さなんて、認知できるはずもないだろう。はっきり言って傷つけすぎた。戦いなんてするもんじゃない。こうなってしまうから。
・・・
思えば、ボクは人を殺したことがない。殺すための努力は最大限した。でも戦闘能力が高すぎるらしい。戦った人はみんな降伏してしまうのだ。無理ゲーで。積みゲーで。勝機が0で。僕に負けたやつは懸命に逃げる。スネイカーはそんな僕の話を聞くと、きまって「やっぱガキじゃん」って嘲る。それで僕が憤りを感じているのを見て再度貶す。「大人になろうとしろ」と。「その人が逃げたら僕の勝ちだよね。」と僕が問うと、「そのセリフは他人の息の根を止めてから言え!」と怒鳴り返される。正直意味がわからない。続けてこう言われたりする「これだからいつまでもお前は狂ったままなんだよ!!!」」って。
・・・
手遅れな亡霊どもは戦闘に戻っていく。何事もなかったような素振りをしながら。
やっぱりメンチ切るしか無いか。大分邪眼には馴れ、てない。全く。精神攻撃とか言ってたっけ?とにかく自分と身体が分離してるような気がする。多分幽体離脱ってこんな感じ。なのに、いつものように戦うことが強要される。全く。。。難易度高すぎないか???
ボクは揺れている頭と身体を連動させ、動いている方向に小ジャンプをしながら、レイピアを斜め上に向け間合いを測った。彼は彼の攻撃に対するボクの反応速度を受けて若干消極的になっており、ボクの全身に合わせて後退しつつ隙を見ていた。
・・・
風は一層強まり、髪の毛はもう砂だらけだった。目の外傷を防ぐためにかジスクはゴーグルを着け始めている。私はできるだけ痛みを和らげようと顔を伏せていたが、結局、全く気にしていなかった気がする。執拗にふせ続けていたって訳ではなくちょっと意識していたくらいだ。ちなみにゴーグルをしていたジスクは見づらいだの、口に入ってくる砂がまずいだのと、不変の自然に対して無謀な要求をし続けていた。
・・・
割と楽になっているのかなあ。大分右目を見ることなく行動出来るようになったし。いい感じにふくらはぎに深めの切り傷を与えたり、後左の二の腕突いたりしたか。でも、正直彼の攻撃をくらい過ぎてる節もある。やっぱバランス感覚が今までと違うのが厄介。通常だったら、読み合いして一発なはずが、無駄なエネルギーを使って、想像以上に体力を消耗してしまう。それに能力特化型と予想した彼だったが、手練れ/上級者だった。ちゃんと急所を外してくる!ウザい。てか。ヤバい!冷静じゃなかった。攻撃が遅すぎる。それに呼応するがごとく、彼は闘牛士のようにさっと右に避けて喉を狙ってくる。慌てて止まろうとするけど、流石に傷はやむを得ない。刺されることを想定したうえでちょい大股に飛ぶことで、彼のレイピアはボクの右肩甲骨に貫いた。よかった。致命傷にならなくて済んだ。。でも、ちょうど筋膜の所。痛点たくさん通っちゃってるからマジ痛い。でもその痛みよりより、勢い余ったせいか崖側に移動しちまったしで選択肢が限られてしまった。控えめに言ってかなり苦しい状況。久しぶりの劣勢。いつぶりだ?なんかすっげー楽しいんだけど。ウケる。
・・・
俺は鼻先に位置している小僧をただただ壊し続けた。自分にあるのは目的遂行の四文字だけ、他の理由はない。何なら忘れた。というか鎮めた。
「なあ。小僧。我慢しろよな。」
と言いながら、彼の正面に回り、思いっきり脳を噛む。毒が早期に回るように深く。深く。そして小僧の脳が毒に侵された頃、そっと、歯を抜いて彼の二の腕の皮膚をタガーナイフで切り刻む。拷問ではない、俺のけじめの贄としてだ。皮膚を少しずつ切削していく。この一帯はもう黒ずみで済まされないほどの血溜まりに。
・・・
そういえば、俺は自分の毒牙が好きだった。思えば青年期、能力者の中でもトップクラスの実力を誇っていた頃、俺は多くの獲物の脳天を咀嚼して破壊した。多くの人に暴虐的と、貴族階級の面汚しと、揶揄されたこの行為は、当時の俺にとっては戦ってくれた相手に感謝を表すためにしたものだった。魂で語り合うためのツールだった。ああ。確かに狂っている。現にS本部から禁止命令を出され、自分の毒を抽出して地雷化することでなんとか(?)ハンター業を継続したが、成績はまずまず。徐々に関心も薄れてきた。でも、今再現できている!!でもおかしい。なんで前より嬉しくないんだ?
・・・
もう身体もただの残骸に成り果てている。どこが手で、どこが足で、どこが顔で、どこが排尿器で。。。うんただのガラクタ。というか残骸。もう跡形も残っていないや。躯の上でこんな思想が漂っているだけ、浮遊して、散るだけ。もう少し武術。学べていたら助かったんだろうな。でも、もう良いか。相対的に見れば生きるの面白かったから。これから苦痛を味わって生きるのが一番しょうもないし。結局、ただの自己満足で結構。幸せじゃないか。。。でも、もうちょっと世の中知りたかったかも…
・・・
あれ?可笑しい。なんで僕は消えないんだ。何も見えない。言えない。聞こえない。のにどうして僕はここに居るのだ?存在するんだ?全く分からない。
どこどこどこどこどこどこ?
僕は今から何をすれば良い?誰もいない。何もない。神は何を僕に望むんだ?違う!神すらいない。無。ってやつだ!!だから此処から先は僕の世界!僕が思い通りに構築可能な。制御可能な世界!じゃあ何を望む?楽に生きる?自由を作る?それとも旧人類でも奴隷にする?
駄目。僕は求めてない。今欲しいのは、解放。
前にいる彼が楽に死ねる世界!!!
・・・
俺は小僧を殺して多幸感に満ち溢れていた。もう眼球と骨。食ってもまずいものくらいしか残っていない。骨はマ濃度がかなり詰まっていたはず。と思い出し、タガーナイフで薄く切って、手で粉砕し粉状なったものを広口瓶に詰め、持ち帰ることにした。眼球は気持ち悪いので砂丘の砂に埋めておいた。その他後処理を終えた後、速やかに拠点に戻ることにした。何で小僧を鏖殺してしまったのか?給料が天引きされる他、各方面に謝らんといけないのに…と自分自身を責める節も見せたが、実際は多幸感に満ちあふれていた。
と数m先離れた頃だろうか、内臓が潰れたような息苦しさを感じた。苦しい、三枚おろしにされそう。身体が引き裂かれそう。寄生虫か?でも何も食ってないからな。おかしいと思い、周辺を確認する。気温寒いけど重ね着してるし、問題なし。湿度、正常。ヘビ毒か?毒に関する能力者なのに、ガラガラヘビごときの毒に呑まれるとでも?つまりは可能性なし。睡眠不足か?8時間睡眠なのに?と色々確認するが、やはり思い当たるのは見つからない。
・・・
もしかしたらと思い、マ濃度を確認する。えーと。プラグを挿入して。111%…122%。は?どんどん上昇している。器具もかなりを数値なことが想定外のようで以上を訴えた挙げ句、故障して、マに分解されて、消えてしまった。正直あり得ないはずだ。生身の人間なら等に消えているレベル。俺も五体投地でひれ伏し、息も絶え絶えに、俺の状況を意に介さず、マ濃度は急上昇。圧迫死も容易に考えられる。いわゆる詰盤面。終わり。手のうちようがない。誰がこの惨状を仕組んでるのかなんて、分からないけど知っている。神に人間は勝てねえのは当然か。
・・・
しっかし、本当にこんなに身体がイテーノ久しぶりダゼ。ヴェ?人相手に3発もイレられたのナン年ぶり?彼の名前コカッテイッたっけ?セントウシャとしてスゲー立派。ココまでタタカエルヤツイマナカナカいねえヨ。ホントウに、カレアイテだったらジブンノノウリョクヲ思ウ存分解キ放テルカモ。イマこそが、、ボクノ可能性ヲサイダイゲンに引キ立テル時。暴走デキるのはイマしかナインでしょ?ボクはオモウゾンブン楽しもうッて思ってしまうヨ?ソレでイイんだよな?シショウサンよ!
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ボクは最初にレイピアを持って大股で前進していく。
「わりいが、さっきまでのは余興だ!」
「ほう。で?」
ボクは一直線に斬りかかる。もちろん彼は喉の方向に剣を傾け、左に移動する。やはり、ウェルデでカウンターしてくる。うん!読めてる。しっかし、ボクの狙いは君の身体ではなく君の剣!彼の右眼が視界に入らないように屈む。膝伸ばす時の反動を使って、バク転。着地。そして左手をソードブレイカーに変化させ、唖然とした彼のレイピアを袈裟、逆袈裟でポキっとへし折る。
やっべー。カロリーめっちゃ消費した。もう動けねーかも。なんてったって久しぶりだからな。てか脇腹痛え!
「こんにゃろ!」
と、調子を崩した彼は、せめてもとパウンドの要領でボクを捉えようとした。危険を感じたボクは、彼の背後に回って、その完成で止まっている彼の背を元左手のジャマダハルで5突き。うなだれている間に七節棍をビュってやって、彼の腹を一周して囲う。先端と根本を持つ。彼の動きを封じた後は…決めてない
「なあ。この先アイアン・メイデンみたいに棍の内側を針に変えて、腹部をぶすって刺したりしても良いんだけど。どうかな?」
「っsせっかくだから派手にやったらいいんじゃない。開放して仕切り直しにしたり…」
「なるほど。派手にねえ…」
とボクは思い下を見る。一昨日ふと思ったけど、プロレスって高い所から飛ぶってのが一番おもろかったよなー。
「まあ、死にやしないっしょ!」
ボクは彼を抱えて、2000m級の岩山からダイブした。
「ちょっと!女ああああ!投身自殺すんなー。共倒れだー。」
「もう遅いよ!てか。共倒れってより心中みたいじゃね?」
「じゃあ死ぬじゃん」
「うーん。ボク人殺しじゃないから、多分君も大丈夫!」
「信用ならんんんんー。あばばばばば!」
彼は白目向いてる。青年ギャグ漫画によくあるやつ。うん。これは私自身思っていない形の勝利/気絶となった。
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左を見るやいなや。心臓その他臓器がガサガサしたような雑味を憶えた。ズーンと沈んだような。動きがもさっとするようなこの病気では内容な変な感じ。身に覚えがある。TISで何度も見たことのある。世界のルールブックを唯一書き換える手段。そう。もう見なくても分かるくらい。あのゼイデンの子はもういないのがわかってる。覚醒に入ったのだ。来るぞ!たぶん、いやおそらく。この一帯が彼の世界になる時が。浄化の火蓋が切られ、新秩序が始まろうとしている!!!
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ごふ。無事だったかな?肋骨2つくらい砕けたっぽいけど。端から見ればただの自傷行為だし。腹ばいでの着地だったからもっとダメージがあっても良いはず。着地点が砂漠が衝突する時のエアバッグとして働き、衝撃が吸収されたためだ。んでマ濃度はと。ボクは携帯型の簡素な濃度計を内ポケットから取り出した。計測値を見てみると、78…83…微々たる量だが上がっている。でも、上がっていくスパンが短い。発火点からはかなり離れているはずなのに…相当な覚醒と予測できる。いや、暴走状態とでも例えた方が懸命かな?今まででトップテンには入りそうな覚醒だ。まあ規模なんてのはどうでもいい、15分くらいしたらこの場所も十分危険区域になってしまうのが問題だ。くそ。早めの避難をしないと。想定外。とにかく時間がない。ボクは七節棍を彼から解いた。彼はゲロは履かなかったものの、頭がかなり混乱した様子で作って3日の干物のように動かず、これは逃走の足手まといになりそうだと思った。見捨てることも考えたが、そんな薄情な考えをボクは受け入れがたく、結局彼を持って走り去った。
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みんな!というかココにいる全員!羽目はさんざん外したでしょ!こんな悪ノリまっじで需要ない。全員が社会に毒されて、飲まれて神に変わったと思い込んで、勝手に騒いでる。ただの馬鹿じゃん!もう、反省しろ!粛清しろ!元の場所に戻らなきゃ!自分の拠り所に戻らなきゃ!茶色も水色も赤色も青色も黄色も黒色も緑色も全部、全部!作られたもの!仕組まれたもの!お前ら!無理すんな!今開放してやるから!抹消してやるから!ほら!消えた!君も速く楽になろ!!!
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「小僧。こんな欲にまみれて、一人でやったんか。堕天使みたいな翼なんか生やして。大丈夫か。お前の気がしれない。なあ落ち着け。正気を取り戻そう。ゆっくり。ゆっくりだ。地べたに座って考えてみろ。お前ごときが嘆こうと人間は愚かだって。誰一人助けてくれねえって分かる。みんな何かに支配されて、常に走っているから。1万年前とかだったら、お前がいい方向に導いてくれたかもしれねえ。もう歯止めは聞かねえんだよ。俺達は行き過ぎちまったからよ。」
「重々承知。でも僕はもう、地べたに座って考えるなどはしない。翼があるようにね。上の世界にいるんだ。お空の上に。この虚ろの世界で、崇拝なんてありゃしないから、もう時間は数刻で終わってしまうけど、僕は今、超自然的存在何だぜ?何でも世界のすべてを知っている。そして、君が嘆いてる世界をまだ改善の余地があるかもと僅かながら期待している。今を無くして、必ず君のような人たちが有れる物に出来ると思っている。だからさ。ちょっと待っててよ。失敗するかもしれないけど、現状維持にはさせねえから。」
「まあ。試しにやってみろよ。俺ももう疲れたんだ。最後の最後でやりたいこと出し切れたし。そう考えれば報われた。方なのかもな。」
「楽しかった?」
「そう思うか?貴族階級なのにこんな汚れ仕事を受けているやつのことをさ。」
「じゃあ。見てろって絶望するにはまだ早かったってがっかりさせてやるからさ。」
俺は小僧に全部を吸われて無くなった。事実上の解放ってやつであろう。今日まで俺のことを知っているやつは誰一人もいないって話だ。
砂丘3つ、というか一帯の空間全てにある生きとし生けるものの事を知っているのは誰もい無くなってしまった。無である。
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自分を殺しに来たやつの事を助けるなんて、なんて僕は愚かなんだろう。だから大人になれないのだ。慈悲や感謝、人を殺してはいけないとかいう暗黙の了解。とかと違う「ボクには殺せないだろう」という謎の過信というか、不安というか要するに偉い子ってこと。ガキっていうこと。うん。非常にむかつく。この寝顔今からでも殺せるのに、直前で止めてしまう自分にムカつく。なんて中途半端なやつなんだろうって。なんで物には当たれるのに人には当たれないんだろうって。
そんなこんなで範囲外に着いてしまった。到着寸前で酸欠死からの共倒れ。とか?面白くなりそうな話に色々できそうなのに。普通に着いちまった。女型なのにこんな体力あるとは自分でも驚き、鍛錬のやり過ぎでいつか怪我しそう。しかし、ボクといえど睡魔には勝てない。なんせ、一日オールでこんな激しい戦闘を行ったんだ。アドレナリンの分泌でなんとかやりくりできたが、範囲外到着により今まで蓄積された物がドバっと溢れたのだ。彼や荷物を下ろした後、それはそれは泥のように眠らせていただいた。
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目を冷ますと隣に女型のあいつがいた。しかも真横で爆睡していたため何事かと思い、飛び起きた。格好の的じゃねえと思いながらも、職業病からか本部からの電報をまず目を通すことにした。えーと。
「何かのゼイデンが覚醒した形跡濃厚。支給アガプト支部の諸君たちは避難せよ」といつだよと思ったら午前3時、今が6時。まってまずいって。どう説明すんだこの状況。点呼表も本部にあるストックしかねえし。色々とまずい。はよ帰って電報打たねーと、署長の地位降格の危機じゃん。てーか。そもそも、こいつに襲いかかって起きられたりしたら、返り討ちに合う可能性だってあるしな。まあ本件は見逃したほうが、未来が楽そう。そう見えるぜ。ということでいち早く戻り本部からの激昂を緩和することに全力を注ぐことにした。嬢ちゃんあばよ。次は旧人類とでも戦ってくれよ。
・・・
|あんさー今だけのハナシ。スネイカーの動向分かるんだけどどうする?|
|なんで知っとんの?|
|神様権限で人の過去の記憶全て見れるから|
|それって…すげえじゃん。|
|まあ現在の記憶は流石に見れませんけど|
|じゃあ頼む。|
・・・
※ご存知かと思いますが、参考程度にあなたの動向も書いときました。
私は一帯のマ濃度がやや高くなっていることに気づき、ひょっとしたらツクモが負っていたゼイデンが何者かのせいで覚醒したのではないかと察し、外に出ることにした。あの脳筋少女が、持っとけと口酸っぱく言ったマ信号受信機を壊しやがったので、濃度系のマ濃度の数値を頼りにもう一台(私専用)のバギーで辺りを駆け回った。すると、世話をかけたがる召使が大の字になって寝ている事に気づき、マ信号受信機を壊したばつとして、愛情を込めたビンタを彼女の顔を目掛けバチーンと当て、無理やり起こさせた。一見非人道的な行為に見えるかもしれないが、安心しろ。これこそが適切な対応ってやつだ。少なくとも私はそう確信している。
・・・
「おい。おーい。」
スネイカーの声がした。ボクを呼ぶ声だった。目を冷ますと頬の部分がじーんと痛み、寝ていた時に何かしらやべえことが起こったのだと悟った。
「なんか頬が痛いんですけど。」
「なんだ?還暦5年前を切っちまったおじさんの張り手だ。ツクモにとってはどうってこと無いだろう?」
「そうっすか。パワー・ハラスメントに当たる気がしてやまないんですけどねええ。」
「残念ながら、大体の世界の警察は大体金を払えば許してもらえるんだよ。」
・・・
「話を戻そう。一帯でゼイデンらしき者が覚醒したって本当か?」
「いや正直Sの雇われ兵片っ端からぶっ倒した後、コカとか名乗っていたアガプト支部の署長と剣闘したってのは憶えているんすけど、後は曖昧っすねえ。思い出したらレポート書くんで、提出する前まではこちらから言えることは何も無いっす。」
「分かった。以前の話を聞きたいかな。」
「言われた通り、上流付近でゼイデンの子を見つけ、連れ出した後、Sの連中に目をつけられて…と言った感じできたね。」
「いやー。災難だったな。」
「まあ。今思うと戦ってるときより、逃げるほうが面倒でしたねえ。」
「そうか。では私は本件の調査に乗り出すとする。君が扶けれそうなことは...ないから、さっさと帰ってくれ。」
「わっかりました。では荷物をまとめて先に戻りますわ。」
ボクは用済みみたいなので、用済みの分際らしく、そそくさと離れることにした。あの子。無事なのかなー。とちょっと不安がってみたり。でも、本件は終わり!!ってことだから、もう考えるべきではないのかも。後始末はスネイカーにでも任せておくとしよう。
ボクは見慣れた砂漠を独りで淡々と歩いた。歩き馴れているつもりだったが、今日はやけに砂が進路に突っ掛かる。忘れかけ続けた何時ぞやの日みたいに。
・・・
厄介者というか単なる障害がいなくなったことを契機に水平思考を始めるとする。現状、一帯のマ濃度は通常よりも高く、何者かが覚醒したと見られる。しかし、ツクモが覚醒するには相手が弱すぎるので恐らく今回の標的、ゼイデンの雄型で、ガリガリな体系、ソルの西らへんで作られたと考えられるあいつが濃厚か。ただ掘り下げるににしては物足りない。トリガーとなったハンターは誰だ。さっきSの軍勢が20名くらいと説明されたが、アガプト支部のハンターは50人といたはず。多くが退散したとはいえ、誰もあの子に対し拷問を仕掛けていないなど、まずありえないため、一人くらいは覚醒の最中に呑まれたかもしれない。と考えるとますます、何が起こったのか妄想が捗ってくる。こりゃ面白くなりそうだ。
・・・
しばらく探していると、マ濃度の急上昇ないしは飽和している物体を発見した。マ石だ。試しにマを実体化させるゴーグルを装着すると石は人、少年の姿となって私の目前に顕現する。ゴツゴツとしたそれが持つマは直で触れるくらい近く、目で見れるくらい濃密だったので、少年を生きさせる余地があるなと思い、少年の周りにこびりついてたマ石を切り取って粉々にしガラス瓶の中に入れた。(エネルギー貯蔵庫に入れ、保存し再利用するため)服にかなり砂がこびりついてしまい拠点の地下室でやればよかったなどと後悔した。こうして、ゴーグルを着けなくても判別可能な状態にし、持ち帰ったのである。
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そういえば…と思い、先日MFから極秘裏に買った(法律に引っかかっていないと思いたい)メガネの存在を思い出し、ナップサックの奥から取り出した。メガネは体内のマの種類や動きをコンセントいらずで見ることが出来る優れ物で、能力の識別や個性、体制などをある程度の知識さえあれば判断できる。正直、このような文明の利器に頼るべきではない。と自分でも危険な気がしているものの、やはり時代の革新を感じられるものはワクワクして買ってしまう。欲望が人の業の一つだと勝手に思っている。
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閑話休題。黒駒
私はハイテクメガネを装着し石を注意深く確認した。彼の能力の詳細、内気な方であるが人との会話を楽しめる正確、ゼイデンの中では標準的な体制であることなど、まあ至極どうでもいい情報を見たら、少年の心臓に当たりし部分に別のマが混じっていることを確認した。初見の事例だったために、
「何だこれは…」
と開いた口が塞がらなかった。唖然とした。もちろんこのまま放置。でも良かったが、こびり着いていたマの持ち主が事を知っている可能性があるため、分離させ新たな生命を作り、事件の詳細でも聞こう(用途はその後)と思い、謎のマに毒されている所を剥いで、ジップロッグに入れた。(多少血しぶきが出たものの、彼は完全に活動を停止しており、痛くなかったのではと思ったりしている。気にかけていたらすまん!)
・・・
歩いている途中、知り合いの法学専攻、いらない情報ばっか持ってるエームから連絡が来た。どうやらソルの方のデジタルニュースの3面辺りにボクの情報が乗っているらしい。前アガプトの2面を飾ったのは記憶に新しいが、まさか他国の、それも忌み嫌われている某Sの3面に乗るとは、自分の影響力が上がったことは喜ばしいことだが、同時にSから目をつけ始められてると思うと、今まで以上に行動を慎む必要があるといえる。はぁ。凄いことになった。
・・・
ボクは15分程度かけて家についた。博士からゼイデンのガキが復活したと連絡をもらっていたので、気に留めることは何もなかった。。。(信号壊したのは…まあ大丈夫。うん。大丈夫)その他色々思うことはあれど、無事到着できたー。とかいう安心や達成感の方がよっぽど大きく、ボクはベッドに横になりながら、眠れそうなブルースをレコードにかけて流した。シャワーを浴びようかと迷いはしたが、ガキの世話などで明日も忙しくなると思い、体調回復に専念するため泥のように眠った。
・・・
今何時?と除いたらもう15時を回っている。人間のアドレナリンには人体の限界を超越してしまうのうりょくがあるらしい。末恐ろしい話だ。なんとなくアドレナリン注射がだめな理由が分かった気がする。
|もう今日はいい。疲れた。デタウムを使ったといえもう手もふにゃふにゃだよー。君に折られたときより痛い…|
|とりまお疲れってことでいいんじゃない?山場書き終えたみたいだし。後は分量的に言えば屁でもないだろ?|
|そうかな。。。やっぱ全員分の人生を書くってなると結構大変じゃない?特にツクモとか。あいつが影の立役者ポジと誰が予想したか。びっくりだぜ。|
|うーーん。きっとお前も一部分しか書けてないように感じてやまないんだけど。人生ってのは振り返ってみると出来事の羅列で、手におえたもんじゃないからさ。|
|それでも、できる限り生き方/ノンフィクションに近づけるのが大事だと思う。矛盾してるようで悪いけど、つまんないけど、味わい深いもんだからさ。人生って。小童が何語ってんだ!って話だけど。まあ、もう明日早そうだし。出来る限り寝ますわ。おやすみ。|
|まあせいぜい休み給え。|
なんで最後だけ貴族ッ!?なんてツッコミはできずに一日、というか一日以上が経過した。本当に一日で
国から国へ旅したのではないかと思えた。これが毎日続くと思うとかなり…うん。まあ。面白くもあるか。そういう事にしておこう。
僕は「明日頑張ろう」なんて陳腐な目標を掲げながら一日の終わりを静かに迎えた。




