大闘技大会 決勝戦②
「悦ばしい……!」
迸る黄金の魔素は留める事をしらず、絶対王者として君臨する彼の目を輝かせた。
「だがしかし、もっとだ!」
彼の目はまだ先を見据える。
「貴様の真髄、抉り出す──」
瞬刻の間、王者の手は少年の襟元を捉え、鰐を象る殺意に満ちた大顎が少年の総身を呑み込んだ。
「【冥界への回廊】」
グシャと生々しく肉が潰れる音と同時に旋回する大顎。
それは確実に獲物を仕留めるべく喉元を食い千切る様に。
鮮血が上がり、観客の目に映ったものは──
橈骨および尺骨が捻れ突き出し、見るも無惨となった──
──王者の前腕だった。
悶える王者を余所に、ただ悠然と立つ少年はおもむろに魔素を集めた。
右手には鞭、左手には身の丈を優に越える杖を生成する。
それは細胞に刻まれた経験から導き出される、この瞬間においての最適解。
黄金は全身に及び、眩い光沢は何人の干渉をも拒む。
若干十三歳にして届き得たこの領域。
末恐ろしい潜在能力を前に──
「実に悦ばしいぃぃ!!!!」
男の昂揚は絶頂を迎えた。
「【武装 鰐咬御】」
発動の瞬間、場内の圧力は真っ二つに分かたれた。
黄金に煌く魔素と酷くざらつい破滅的な魔素。
互いは出方を待つ。
中、先に動いたの少年だった。
魔素の媒介の象徴である大杖と、しなやかな力の流動および鎮圧を可能とする鞭。
その膨大な魔素と理合が合わさり融合してゆく。
彼が象る”金剛杵”。
其れ即ち──
「双節棍か……」
これより始まる神域の肉弾戦。
瞬きの間で変わりゆく神速の展開は、少年の脱力から始まった。
まず一投。
頭上から振り下ろされる双節棍は遠心力と自重、膨大な魔素を孕み王者の襲う。
それを腕にて受ける選択肢をとらせた。
故に少年の武装は王者の領域に神速で踏み入れた事を示唆している。
間も無くのかち合い。
凄まじい衝撃波と起こると、王者の足下は崩れ盛大なクレーターをつくった。
しかし──。
弾かれたのは少年の方だった。
鎖に繋がれた一端が宙を舞う。
迎撃型の王者にして絶好の間。
迫る王者の徒手は鰐の咬合の如く、喉元を喰い千切るべく伸びる。
その手が届きうる手前──。
「──ッ!?」
王者の顎がかち上がった。
想定外の一撃。
弾かれた一端の衝撃を円の動きで下からの軌道に変換したのだ。
脳が揺れる。
この一瞬は命取りになりかねない。
王者の直感は現に正確だった。
常人でも魔言を紡ぐ隙すら与えられない。
何故ならば高く挙げられた一端は次への攻撃の体勢となるからだ。
それはまるで炎舞ように。
すべての攻撃が次の布石となり舞のような連なりを可能とさせる。
からにして神速の連撃は見舞われた。
こめかみ、人中、喉、肺、心臓。
的確に急所のみを打ち込む事、コンマの刻。
飛びそうな意識の中、血反吐を吐きながら──
王者は微笑んだ
それは連撃が始める前。
咄嗟に紡がれた【積鱗】に蓄積されたダメージは膨大エネルギーとして変換された。
そしてそのエネルギーは彼の魔素を媒介に相乗し、解放される。
故に──
「【逆鱗】」
けたまましい龍の咆哮、あるいは地獄の呻き声の様な忌々しい旋律は──
都市壊滅級の災害を彷彿とさせる。
鰐の涙の意味を知ってるかい?




