正式サービス前日
思ったより投稿が遅くなりました。100ptに届きそうですね。PVやブックマークありがとうございます
七月上旬の朝、”有栖川 未来”は若干の蒸し暑さを感じつつ額に汗を滲ませる。学校の廊下を進むなか聞こえるミンミンゼミの蝉噪は、未来の体感的暑さを加速させていた。避暑地を求めて教室のドアを開くと、冷房の涼しい風が未来の全身を駆け抜ける。未来は教室内に入り、クラスメイト達とのあいさつを済ますと自分の席に着いた。
一息付き少し周囲に目を向けると、クラスメイト達から浮ついた雰囲気が感じられた。少し耳を澄ませてみると、いくつかのグループが夏休みの予定について話していることが窺える。
そう、未来の通う学校は明日から夏休みなのだ。
(明日から夏休みなんだよね~、ある意味ちょうどいいよな~)
未来が周囲の雰囲気にのまれ、浮かれ気味にそんなことを考えていると、背後から聞きなれた声が届く。
「おはよう未来、明日から正式サービス開始だよ!夏休みも始まるしタイミング完璧だね!!!」
「…ゆきおはよう、いつも以上にテンション高いねぇ~」
普段の数段高いテンションにあきれつつ未来はそう返した。声のする方向に振り向くと、そこには、机の上に腰かけてパタパタと下敷きを扇いでいる”宇佐美 雪華”が明るい笑顔を未来に向けていた。
「あたりまえだよ!明日は待ちに待った”Under Mirrors Storia“の正式サービス開始だよ。テンション上がらないわけないじゃん」
さらにテンションが上がる雪華を見て、未来は苦笑しつつ”Under Mirrors Storia“について雪華が語っていたことを思い出す。
”Under Mirrors Storia“
UMSやミラスト、下鏡と略されるこのゲームは、Hatter&Haigha社が開発・運営をする、フルダイブ式VR機器専用のMMORPGゲームだ。
開発元であるHatter&Haigha社は、創設以前から自衛隊のVR訓練シミュレータの開発に関わっていたらしく、高い感覚再現技術を有していた。
そのノウハウをフルに活用して作られたこのゲームは、もう一つの世界と話題になるほど、リアルな世界を作り出している。
また、ゲーム内のモンスターやNPCにはかなり高度なAIが使用されており、豊かな表情と、状況や会話に合わせた反応は、従来のAIの域を超えていたというほどの完成度だったらしい。
βテストの時もこれらの技術はいかんなく発揮され、公式やベータテスターがSNSに載せた画像や動画は日本中で話題となり、ニュースなどのメディアにも取り上げられるほどだったという。
ゲームの世界観は、よくある剣と魔法のファンタジー世界なのだが、アビリティ、魔法、アイテムや武器、そのどれもが把握しきれない数があり、様々なプレイスタイルを楽しめる。
何回も繰り返し聞かされたことを思い出し、未来は溜息を漏らした。
「なーに溜息ついてるの??………も、もしかして未来は全然楽しみじゃなかった…誘ったの…迷惑だった…?」
最初不思議そうに未来の顔を覗いてきた雪華だったが、徐々に顔を青ざめさせて、そんなことを聞いてくる。
「ううん、ミラストは楽しみだし!!誘ってくれてうれしいよ!!……た、ただ覚えること多いなーって」
「ホント?ほんとにほんと?」
「う、うん!!!」
若干涙目になっていた雪華を見て慌てて否定した。雪華と一緒に公式動画を見て、Under Mirrors Storiaの自由さを知るうちに、未来も明日のサービス開始は楽しみになっていたのだ。しかし、未来はMMORPGどころかゲーム自体に慣れていない。だから、どうしても不安になってしまう。
「うん…ありがと、ならよかったよ!」
先ほどまで暗い雰囲気を漂わせていた雪華だったが、打って変わって満面の笑みで抱き着いてくる。そんな雪華を支えながら未来は困ったように笑い、雪華の頭を撫でた。
「でも、ほんとに覚えること多いよ~。あびりてぃ?とか、すきる?とか、あとすてーたす?とか、正直全然理解できてない」
「それは、やってみればわかるよ。ここまで、本格的なフルダイブのMMORPGは今までなかったし、ほかの人も手探りでやっていくと思う。正式版から多くの新要素が追加されるみたいだし。だ・か・ら、まずは楽しめばいいんだよ!!」
「うへ~、まだ増えるんだ…。今の状態ですらわからないのに~」
「大丈夫!大丈夫!夜にまた通話で分からないところは教えるし、オンラインゲームで注意してほしいことはメモして送るから」
「うん....ありがとう、ゆき」
二人がUnder Mirrors Storiaについて話していると、「キーンコーンカーンコーン」とチャイムの音が聞こえてくる。二人はそこで会話を切り上げて、雪華は自分の席に戻っていった。
終業式が終わり部活に出た後、未来は学校から帰宅した。お風呂と夕食を済ました未来は、自室でUnder Mirrors Storiaの非公式攻略サイトを開いていた。帰宅前に雪華から教えてもらったものだ。そこには、βテスト時に確認されたアビリティやスキル、アイテム、素材、魔法について詳しく書かれている。とりあえず未来はアビリティ一覧のページを開いてみるが、その数に圧倒されて目をまわした。
(なんか、いっぱいアビリティあって全然わからない…自分で調べてみようと思ったけど、これ無理………)
未来がアビリティの多さを実際に目にして打ちひしがれていると、ブーブーとスマホのバイブレーションの音が聞こえてくる。画面を見ると雪華と表示されていた。すぐに通話をつなぐと画面越しから陽気な声が聞こえてきた。
「もしもーし未来、そろそろ行き詰ってるかなって思って電話かけてみた。」
「…確かに行き詰ってたけど、そうやって見透かしたようなこと言われると何かむかつく」
「あははー、愛がなせる技だよ!とりあえず、いくつかさらっとおさらいするね。」
「…まあ、お願いします雪華先生」
雪華の言葉が図星だったため未来は少しムッと頬を膨らます。ちょっと不機嫌になる未来だったが、雪華が再度説明してくれるというので、素直にあまえることにした
「まず、ミラストは人間、獣人、妖精と三つの種族があるの。選んだ種族によって取れるアビリティに差があるみたいなんだけど…。今のところ取れるレベルが違うだけであんまり差がないみたい。」
「なんか種族を分ける意味ないよね~、正式版だと変わるのかな?」
「たぶんね…、次にアビリティとスキルね。まずはアビリティについて、アビリティはそのキャラクターが持っている才能みたいなもので、キャラメイク時に15個取れるの。初期に取れるのは100種類程度だけど、どんどん増えていくから自分のプレイスタイルに合わせて取ってね」
「初期の時点で多いよ~」
「はいはい静かに、…で、行動に適したアビリティを持ってないと成功しないの、剣を使いたいなら剣適正、武器を作るなら鍛冶みたいに。それでスキルっていうのは、アビリティごとに設定された技でアビリティのレベルが上がると使えるようになったり、補正がつくの」
「うん、なんとなくはわかるよ、なんとなく」
「ここら辺に関しては"習うより慣れろ"だよ。あとは、レベルについてね。まあ、特に説明することないんだけど……敵と戦う~レベルが上がる~強くなる~みたいな?」
「そんなリズムよく言われても…ってか、急に雑だよ」
「…あとレベルが上がるとCP:キャラクターポイントが手に入って、それがアビリティの取得やスキルの取得、ステータス上昇に使えるの。適当に割り振ると詰むから気を付けてね」
「.....スキルの取得?...え...待って、アビリティ取るのにCP使うのにスキルにも必要なの!?」
「そう、必要なんだ。その分、スキルの取得に関してのCP要求量はかなり少ないからこっちは失敗しても平気だよ」
「そんなの聞いてないよ〜、考えることがおおくなる......」
未来は雪華の説明にツッコミと相槌を入れながら聞いていた。正直まだ理解しきれていない上、新たな事実を知った未来は意気消沈と言った感じだ。
「要素が多すぎるのも考えものだよ...アビリティですら手に負えないのにスキルもなんて......」
項垂れながら悩む 未来 に対し、雪華は不思議そうな声色で聞いてくる。
「あれ?アビリティまだ決まってないんだっけ?…確か未来はやりたいことは決まってたよね?だったら、それに合わせたのを取ればいいんじゃないの?」
「...........うーん、それはそうなんだけど…....なんだっけ?前に教えてくれたやつだよね。鍛冶と採掘と鉱物知識だっけ?」
「そうそう、あと刀を使うための刀アビリティ」
「あー、それも必要だね。でもまだ四つだよー」
「あとはステータス上昇系のアビリティとかあるから、そういうの取ればいいと思うよ。これはスキル無しで直で効果出るやつだし。........まぁ、よくわからなければ未来の直感に任せるのもありだと思う」
「ねぇ、ゆき…なんか投げやりなってない?直感で決めていいならそうしちゃうぞー」
「最初のアビリティくらいだったら潰しがきくし、ガチ攻略とかするわけじゃないんだからいいと思うよ!」
「…やっぱりテキトーなってるよね?」
そんな風に未来たちは雑談を交えつつ、アビリティ構成を決めていく。半分が決まったあたりで未来は眠気を感じ時計を見た。時計の長身が12の数字を超えていることに気づき、そこで解散となっる。「おやすみ~」とあいさつを掛け合い、通話を切って未来は布団に潜った。
(アビリティは半分しか決まらなかったし、スキルの問題が残ってるけどけど、ゆきも残りは直感で決めていいって言ってたし、何とかなるよね.....あっでも新要素もあるんだっけ?)
(何とかなってください!!!)
そんな事を思いつつ眠りにつくのであった




