↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海底機動マクリール (小説版)  作者: 原作:阿僧祇/小説:有松真理亜
PR
4/6

Dive4:マクリール出航す

 格納庫で、キースが溶接機を使って作業していた。ガンガン、バリバリバリとやかましい音が響いている。

 アーウィやサィードも工具や資材を運んで手伝っている。マクリールの強化作業だ。

「キース、何か手伝うことある?」

 後ろからメルが声をかけた。が、キースは彼女を怒鳴りつけた。

「やかましい! 邪魔だ、黒ンぼ!」

「なっ……手伝ってあげるって言ってるのに、何よそれ、この白ブタ!」

 キースはドリルを手にしたまま振り向いて、

「今のキサマの仕事は、出航まで1分でも多く眠っておくことだ!!」

「眠……」

 深度3000mまで潜るには、片道8時間以上が必要となる。その間、メルは一人ですべてを行わなければいけない。すなわち、最低でも往復16時間、眠ることができない。

 言い捨てると、キースはまたマクリールの方を向いて作業を再開した。

「ここにマクリールは一機しかない。誰も一緒に行くことができないんだ。睡眠不足で海底に潜って、事故ったりしたらお前、無駄死にだぞ!?」

 キースの、険を含んだ言葉にメルはふくれっつらとなるが

「……Good night!!」

 と叫んで「廻れ右」をした。あわててアーウィが

「晩安《ワンアン》(おやすみ)!」

 と笑顔で付け加えてフォローした。



 改修作業は翌日までかかってしまったが、それが終わればいよいよ出航。

 格納庫で、コクピットに乗り込むメルをみんなが取り囲んでいた。

「これも……中で」

 アーウィが、大量のスナック菓子が入った袋を渡す。

「ありがとう!」

 好物の山にメルは上機嫌だ。その横からキースも声をかける。

「室内温度と酸素循環の問題がまだ解決していないが……装置を強化して18時間くらいもつようにはした。今回は過過重状態だし、ここにある工具ではこれが限界だ。だから、排泄補助装置と酸素循環の効いてる間に、処置を終えて帰ってこい」

「わかってるわよ、白ブタ」

「口の減らない黒ンぼめ。……まあいい、ゲーム機を出せ」

「え……?」

「出せよ」

 疑問に思いながら、メルは愛用の携帯ゲーム機をポケットから出した。するとキースも自分の機械を取り出し、赤外線でデータを送ってきた。

「ゲームアプリをみっつばかり送った。ダウンロードした漫画とウェブノベルも、3ギガほどコピーしといてやる。TVアニメ『怒り姫アグリィ』の原作漫画、去年ハリウッド映画になった『連盟警備隊冒険者管理局遺品処理課』の続編、本年度ベストセラーNo.1シリーズ『放課後、彼氏にキスしよう』の番外編……そんなあたりだ。上がり下がり中の暇つぶしに……ああ、でも熱中しすぎるなよ? 酸素には限りがあるんだから」

 食べ物。飲み物。暇つぶし道具。防寒具。他にもいろいろなものが、メンバーたちから差し入れられていく。

「なんだか……この大量の餞別、棺桶に入るみたいな気分だな」

「脳タリン! マクリールを棺桶にしたら、グーでブチのめすぞ!」

「……その時は死んでるって」

 口を尖らせるメルに、キースも口を尖らせて応じる。

「そしたら、地獄まで追いかけてって殴ってやる」

「私が行くのは天国だから大丈夫ですっ! 勝手に地獄に行ってな!」

「ならば……引き上げたお前の死体に、言葉ではちょっと言えないようなイタズラをする」

 何をされるのか……メルは恐い想像になってしまったらしい。どんな想像をしたかはもちろん言葉ではちょっと書けない。

「うっ……、そ、それは嫌かも」

「嫌なら帰ってくればいい。マクリールを連れてな」

 キースはまた言い捨て、視線をそらした。

「……Get。」

 メルは小さく返事して、周りを見回した。心配そうに、あるいは期待の目で見ている一同を、ぐるりと見回す。

 これが、この人たちを見る最後になるかもしれない。

 でも彼女はふっきれたように、ニコッと笑顔を見せて無造作にコクピットに入り込んだ。



 海中基地Dから、数本のケーブルを引っ張ってマクリールが射出される。背中には照明器具と大量の特殊繊維を背負っている。

 この深さではまだ海上からの光が届くから、その姿がかすかに見える。ときどきは魚の群れも泳いでいる。

 青い海の水の中を、マクリールはゆっくりと、見た目にはほとんど停止しているように見える速度で沈降しはじめた。光の届かない、真っ暗な海の底へ向かって。



 メルは、もしゃもしゃとスナック菓子を食べながらキーボードを叩いていた。モニターには、外部カメラでとらえたまだ光の届く青い海中の様子が、暗く映っている。

「沈降速度、秒速0.1m。安全だけど、100mに約15分、3000mには8時間と20分くらいか……」

 ひとり言は慣れている日本語でもらしていた。

「泳いで潜っちゃえば数倍のスピードで……」

 が、メルは首をプルプルと振る

「万が一にもトラブッちゃだめだもんね、今度は」

 そうつぶやいて、スナック菓子の空き袋をくしゃっと握り潰した。



 基地Dの通信室では、ボックが疲れた表情でモニターを見ていた。その後ろからサィードが声をかける。

「当直交替だ」

「頼む。現在、深度1000、着底まであと6時間弱……今のところ異常なしだ」

 シートから立ち上がったボックの横では、キースもモニターを睨んでいた。

「キース、あんたも少し休んできたらどうだ。昨日は徹夜だったんだろ?」

「黒ンぼが一人でがんばってるのに、俺が寝てられるかよ」



 マクリールのコクピットでは、メルが一人でがんばって……

「おお~し、宝剣(ブレ=カシ)ゲット!」

 キースにもらったレトロなゲームを遊んでいた。スナック菓子も相変わらずほおばっている。

 誰も見ていない空間で、食って飲んで遊んで。狭いことと眠れないことを除けば、ある意味でパラダイスと言ってもいい。

 ふと、メルは時計に目をやった。続いてモニターを見る。

「深度2300……」

 すでに未体験ゾーンに突入して、一時間以上が過ぎた。モニターに外部カメラの映像を写してみるが、真っ暗で何も見えない。

「もう光なんか届かないわね。それにしても、ちょっと寒いな……」

 カチャカチャ、ピッ、ピッ。ピッ。キーボードを操作するうち、メルの表情が微妙にこわばった。

「マクリール・ゼロより、基地《ベース》D! 基地D!」

 電話線を通じ、サィードの声が返ってくる。

「Get、どうした?」

「海水中に石油を感知。予想よりも早く広がってるみたい」

 そう報告してから、日本語でつぶやく。

「まずいんじゃない、これ?」



 (つづく)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。