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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第三章 合宿と幻の獣
44/45

036


「……ところで、ユベル」


「ん?」


「……僕っちとのメンバー集めを覚えているか?」


「あ」





 学校は3日後。学生が手伝える部分での復旧作業はほぼ終了したらしい。あとは建築に詳しい人が頑張るとのことらしい。住む場所を建築する作業は素人の学生は携われないよな。


 そして、こんな忙しい時期だからこそ、意識を高めるためということで合宿は中止せず開催するらしい。


 しかも、2国合同でやるらしい。


 聖なる都エイオーツと、破邪の都オゥディン。


 聖なる都3連合となっていた最後の国の正体をやっと聞くことができた。


 破邪の都か……。シャルルは浄化術と閃光術。エイオーツは治癒術が得意だったから。オゥディンは波動術が得意になるんだろうな。破邪の都って言うから、浄化術も得意なのかも。


 あえてその国との合同合宿ってことは、やっぱり対悪魔を考えてのことなのかな。いざという時は学生が戦力になる世界なんだから、この合宿も正解なんだろう。


「……学年ごとに合宿する。その時期はずらして開催される。3年が3日後。僕っち達1年生は6日後。2年生は9日後」


「ということはメンバー集めあと6日でやらないといけないの!?」


 つかまだ合宿グループに属してない人なんかいるの!?


「クロムン、マセガキ、どうしよう」


「……クレリア、どうしよう」


 僕とクロムンの視線はマセガキへ向けられる。


「なんで私に聞くんですか……。そういえばシェスお姉ちゃんはどうですか?」


「いやぁ、シェスは実力あるし、いろいろなところから誘われててもうグループ決まって」


「ないですよ?」


「「……え?」」


「決まってないですよ。どこにしようって悩んでます」


 ダメもとで誘ってみるか……?


「でも仮にシェスがOKでも、4人だよなぁ……もう2人は確保したいところ」


「何してるの?」


 ん? 女性の声だ。サーチ・レイの競技場のそばにいるとよく話しかけられるな。誰だろう? ……って本当に誰だろう。顔に覚えがない。緑のロングヘアーに、緑色の瞳。端正な顔つきで、結構綺麗な人だ。学生服を着ているって事は、多分僕らと同じ学生なんだろうけど……。


「誰?」


「む、まぁ、10日ほどあってないしあの時はバタバタしてたししかないか……。セレネイ・クロノトカルよ」


 んー? あ、ああ!! あの悪魔が襲ってきた時にシェスと行動一緒にしてた女だ!


「あー。セレネイ。いきなりだけどメンバーになりません?」


「へ? まだメンバー集まってないのグループなの?」


 セレネイが大きく驚いて、口元を手を抑えてる。


「ぐ、実は、そうなんです」


「……ユベル。セレネイも結構成績高かった。きっと駄目だ」


「だよなぁ~。あの場で戦う人だもんなぁ」


「えっと、2人共私の噂を知らないのかな?」


「噂?」


 セレネイに関する噂か……う~ん。友達少なすぎてそんな話も舞い込んでこないもんな。


「じゃあ教えてあげる。私は神聖術を使うと性格が変わっちゃうの」


「ふ~ん? どんなふうに?」


「……あ」


 クロムンが思い出したように顔をはっとあげた。思い当たる節があるのか?


「私が攻撃性のある術を使うと、術が暴発しちゃうの」


「なるほどね。それでサーチ・レイで発散してたの?」


「いや、私の術の威力だと競技に適さないから別なことだけど……それだけ?」


 それだけって聞かれても、どう答えて欲しいのかな。


「……クロムンが気づいてるみたいだから教えてあげて」


「……了解した」


「?」


 僕がまるで空気を理解できないままクロムンの話は始まった。


 クロムンの話は噂の題名がオーバーキル少女というところから始まった。セレネイは珍しく、どんな神聖術とも相性のある存在で、普通の人より毒素許容量が大きいらしい。そして、出力する部分もまた人より大きく、術を放つ際意識しないとどんな術でも高火力なものとして放ってしまう術師だ、そうだ。


 それだけ聞けば、戦う際には何も問題がなさそうなんだけど、その高火力っていうのと、本人の術を放ってスッキリしてしまうレベルに問題があるらしい。


 ある日模擬戦を行った際、誤ってその高火力な術を一発放ってしまったらしい。もちろん、生徒には向けていない。だけど、セレネイの放った一発は地面をえぐり、直径1m程の穴を開けた。


 それで終わればただの事故だったのだが……。


「あはは、気持ちいい……あはは、あははははは」


 急にセレネイが笑い出し、複数術式を発動し、あたりかまわず術を放つという高難度の偉業を成し遂げながら暴挙を行うという事件が発生した。セレネイは自分の中から一気に神素が抜ける感覚に喜びを感じ、さらに何かを破壊するいう事実が合わさると、トリップしてしまうらしい。今までうまく隠していたが、そんなひょんなことからバレてしまったらしい。


 本人の意識はあり、破壊対象はちゃんと選べるんだけど、一度破壊衝動に囚われると限界まで術を放ちたくなる衝動に駆られるらしい。


 その事件でもグランドを半壊させる事件であったが、それでも本人の全力ではないというから驚きだ。トリガーハッピーならぬ、マジックハッピーってやつですか?


 治癒術など、破壊を伴わない術にも開放感はあるらしく、いつも必要以上に神素を消費し、攻撃性のある術とは考えられないほど必要以上の効率の悪さで治癒術を発動してしまうらしい。直ぐに限界を迎えてしまうというアンバランスな術師。それがセレネイ。


 その話を聞いて僕が思ったことはたった一つ。


「ははは。変なの」


 性格変わるっていうか、ただのトリップ状態に陥るだけじゃん。


「……まぁ確かに」


 クロムンも納得してくれたみたいだ。


「……変なので終わらせる程簡単な話じゃないのよ? まだ、治らなくて……」


 バツを悪くしたような顔を作るセレネイ。でも、最近変人としか関わってないからそれくらいなら問題ないように思えてしまう僕も結構変かも。


「しょうがないじゃん。病気じゃなくて、そういう欲求なんでしょ? まぁ、そのうち慣れるよ」


 僕がそう言うとセレネイはキョトンとして、苦笑いを浮かべた。


「それで、その噂のせいでグループには誘われてないの?」


「舐めないでよ。仲のいい友達には誘われたわ」


 僕の発言に憤慨して、睨みつけてきたけれど、力がこもってない。「はぁ」と一息ため息つくとセレネイは表情を暗くした。


「けど、友達だけでグループは作れない。私と友達でいてくれる奇人は多くない。私がいるとグループメンバー作りがはかどらないと思って、辞退しただけよ」


「じゃあ今フリーなんだな!?」


 ちょっと悪いけど、希望の光が見えた!


「僕たちのグループメンバーになってくれよ!」


「え? い、いいの?」


 セレネイはクロムンを確認するように目配せをした。


「……女の子大歓迎」


 そう、一言だけ述べた。流石だよクロムン。


「……でもやっぱり迷惑はかけられない、少しだけ考え「あとはシェスを誘ってみるだけだな!!」え?」


 ん? セレネイの言葉遮っちゃったかも?


「セレネイ、今何か「是非とも一緒のグループで合宿行きましょうね!!」……はぁ?」


 迫真迫る顔で喜ばれた。い、一体何が……。はっ!? 殺気!!


「……可愛い妹の名前が聞こえてきたんだけど」


「!?」


 神素を左手に圧縮して術を放つ準備が完了しているルニが現れた!! おとなしくスポーツしてろよ!! 次から次へとなんだなんだ!?


「……なにかあったらぶち殺すわよ使用人」


「無論何事もありません!!」


 僕が返事を返すと、ルニは僕を睨みつけながら競技場へと再び戻っていった。もう二度と来んな!!


「ふぅ……よしじゃあ、皆ってなにやってんの?」


「「「……」」」


 凶悪なルニの登場に3人とも固まってるのか? ルニがいなくなった方向を見つめたまま3人とも固まって動かない。ど、どうしたらいいんだろう?


「……ユベル」


「ん?」


「……よくあんな殺す目的で貯められたような神素の気を当てられて平然と喋れるね」


「それは慣れです」


 ほら、2日に1度はあるから。


「……僕っちね」


「ん?」


 急にクロムンが語り始めた。一体何を。


「……スタンテッド家の使用人になりたいって思ってたことがあったんだけど、僕っちなら挫ける職場なんだなって、今とってもユベルを尊敬している」


「私もよ……」


 クロムンとセレネイがなんだか僕を可哀想なもの見るような目で見つめてくる!! な、なんだ!? 僕が一体何をしたって言うんだ!?







 僕たち4人はシェスをグループメンバーに誘うため、4人揃ってスタンテッド家の屋敷の前まで移動した。


「よし、じゃあシェスを呼んでくる」


「……頑張れ使用人!!」


 クロムンが熱い声援を送ってくれた。べ、別にそんなに頑張るような仕事は今しないけれど……。僕は屋敷に入り、まっすぐシェスの部屋を目指して移動した。幸い、メイド長にも見つかることなく、シェスの部屋の前まで移動できた。


 僕は軽くノックを2度して、返事を待った。


「何よ……?」


 重低音抜群の低い声がドアの向こう側から聞こえてきた。やばい、シェスさんが超不機嫌だ。理由はわかってる。今朝の事件が原因だ。


「えっと、ユウです」


 ガタッガタガタガタガタガタッガチャ!!


「どど、どうぞどうぞ!!」


 冷や汗をかいたシェスが満面の笑みで素早く扉を開いて僕を招き入れてくれた。そ、そんな慌てなくてもいいのに。


「あ、いや、ちょっと会って欲しい人がいるんだ」


 僕がすかさず要件を伝えると、シェスは目に見えて不機嫌になった。


「初めて」


「ん?」





「ユウが私の部屋に自分から来てくれたと思ったのに……」

 




「ブッ!?」


 いやいやいやいや、僕、言っておきますけど紳士ですよ。元の世界で言う中学三年生ですが、かなり紳士度は高いと思います!!


「ふぅ、それで? あって欲しい人って?」


 シェスの表情が少しこわばっていく。


「えっと、クロムンと、セレネイ。今日じゃないけど、タリスってやつにもあって欲しい」


「何で?」


「シェスに僕らの合宿のグループメンバーに入ってもらいたいんだけど」


「入る!!!!」


 一瞬前の硬った顔はどこに行ったんだ? ってくらいの満面の笑みが僕の目から20cm程先にあった。待て待て、状況を整理しよう。僕はシェスを合宿のグループメンバーに誘った。すると、シェスが物凄い瞬発力を発揮して、僕の目と鼻の先まで移動してきて、凄く近寄ってきた!!


「うぉっ!? ち、近いよ!!」


「やったー!! 待った甲斐があったよ!」


 シェスの急なテンションの上がり方についていけないぜ!! シェスが僕の両の手を掴んで縦にぶんぶんと振るせいで僕の頭がその衝撃で、ぶんぶん揺れるからちょっと気持ち悪いっ……!


「おお、落ち着けって!!」


 僕がそうひと声かけると、シェスがぴたっと動かなくなり、心配そうな表情に切り替わる。そして、上目遣いのまま


「ユウは嬉しくないの?」


 と、聞いてきた。嬉しくないかって? そりゃ、シェスが喜んでくれたし、こっちとしてもグループに入ってくれて嬉しいし、知り合いと一緒に合宿行けるのは嬉しいし……可愛いし……って僕の馬鹿。何考えてるんだ。


 でも、青色の髪が凄くさらさらしてて、深い海のような目の色に吸い込まれそうだ。あれ? なんで僕こんな緊張しているんだ?


「嬉しいよ」


「よし、そうと決まればメンバーに挨拶は必須だね!! えっと、人前で見せる笑顔ってどうやれば出来るんだっけ!?」


「今僕に見せてる笑顔そのままでいいと思うよ!?」


 思わず突っ込んでしまった。現在進行形で僕に笑顔を振りまいているシェスが笑顔の見せ方を聞くなんて、どう答えればいいんだ!?


「え……?」


 シェスは喜びからまた一転して、暗い表情に変わった。もしかして踏んではいけない地雷を踏んでしまいました……?


「それは、嫌だな……」


「……恥ずかしいとか?」


「違う……違うの……」


 シェスが両肩を震わせている。未だに僕の手を掴んでいるシェスの手からその震えが直接伝わってくる。そうだ。シェスが心を開く相手には普通に接することができるのに、心を閉ざしている人に対して極端に自分を見せないのには理由があるって、知ってたじゃないか。


 僕がやってしまったと後悔している間にシェスの震えは止まり、暗い表情がはっとしたような表情に変わっていた。


「……そうだ」


 ど、どうしたんだ?


「私も、隠し事あるんだった。なのにユウのことばかり一方的に聞くなんて変だよね」


「……あ、いや、別にそう言うわけじゃ」


「ユウ」


 僕の言いたいことは遮られて、名前を呼ばれてしまった。


「はい?」


 僕はそれに反射的に返事をすると、シェスがこういった。


「とりあえず、グループメンバーに会おう」


「あ、あぁ」


 シェスは行動が突拍子もないことが多いからな。もしかしたら僕の心臓が耐えられないほどのドッキリがあったり……しないよね?






 僕とシェスは屋敷を出て、玄関で待機してくれていた3人と合流した。シェスはくるりと3人に目配せすると、一歩引いた。その瞬間、クロムンとセレネイの表情が固くなった。僕も気を引き締めないと。何をいうかわからないぞ……!?


「グループに参加させてもらう、シェス・スタンテッドです。宜しくお願い致します」


 と言うと、シェスが軽くお辞儀をしていた。なんだ。普通。と僕が思ったのに対して、2人は僕と違った感想を抱いたらしい。


「こっ、こちらこそ!? ってあわわわわわ!! 顔をお上げに!! 恐れ多いですぅ!! はははわわ。お顔! ありがとうございます!!」


 まずセレネイは暴走した。うん。暴走だね。両手がせわしなく上下して、目はぐるぐる回し、語調に統一感がなくなってしまっている。最後何にお礼を言ったかさえ不明だ。


「……ッ!!」


 クロムンは顔を真っ赤にし左手を振りながら、右手でカメラのシャッターを押している。本能と理性が両方働いている人間っているもんなんだなぁ……。しかも右手ぶれっぶれだぞ。それでちゃんと撮れてるのか?


「? なんで2人は慌ててるの?」


 そんな2人を他所に冷静なシェス。ちなみに僕も同じ気持ちです。場の空気についていけなくてなんだが置いてかれてしまった気持ちだ。


「何2人とも落ち着いて!」


 マセガキが暴走した2人を落ち着かせる様子を見て、僕はシェスへの返事を考えるのも放棄し、空を見上げてみた。


 雲が少なくて、いい青空が見える。綺麗な青だ。いい天気だなぁ……。





「よくわからないけれど、同じメンバーなんだから気は使わないで欲しい。私も自由に呼ぶから、2人とも私を好きに呼んで欲しい」


「分かりました! シェス様!」


「……わかった、シェス、様」


 2人が頷きながらシェスの名前を様付きで呼んだ。ちらりと僕はシェスの顔を覗いてみた。ほんの少しだけだけど、眉が寄っていて不機嫌そうに見える。無表情状態のシェスの表情が変化するくらいだから、物凄く不機嫌なんだろうな……。


「わかってないみたいね」


 シェスは小さくため息をついた。


「好きに呼んでといったの。クロムンは呼びにくそうじゃない」


「……シェス、でいいで、すか?」


「敬語もなくてもいいのに。できれば合宿中は完全になしでお願いしたい」


「……逆に難しいかもしれない」


 う~ん。クロムンが凄く不自然な動きしているな。……あ、カメラに意識向けてるな。シャッターチャンスを探しているような雰囲気だな……。うまく撮れたのがあれば融通してもらおうかな。一体どうやったらいいかな。やはり、お金か……? お昼を食べる用に貰っているお金を節約していけば、行けるか……!?


「ねぇ?」


「ん、セレネイか。どうした?」


 クロムンに写真を融通してもらう方法を試行錯誤してたのに、一体何の用だろう。


「なんであなた使用人なの?」


「へ?」


 どういうことだ?


「いや、使用人らしくないし、クレリアちゃんみたいに養子っていう方がしっくりくるのに」


「あー確かに」


 確かに僕は使用人ぽくないな。使用人らしい口調で喋れないし。全部アンデとアンデの店にやってくるシュッテイマンのような冒険者たちとの話し合いが僕の異世界言語の勉強手段だったから、そりゃがさつな喋り方になっちゃいますよ。


 それでも、慣れないことやってでも使用人をやっているのは、そんなに深い理由はない。ただ。


「タダ飯はダメかなって思って」


 何もせずにご飯ばっかり食べるのはダメかなって。


「それだけ?」


「……強いて言うなら、癖?」


「癖??」


「そう、癖なんだ。働くの」


 毎日毎日働くのが僕の日常だったんだ。そりゃアンデみたいにアホみたいな体力ないから休み休みだったけど、身体強化を覚えてからはほとんど休みなく働いていた。そんな毎日を過ごしていたのに、急に何もしなくていいよなんて、体が疼いて疼いてしょうがないよ!!


「私も変だけど、ユベルも変ね」


 セレネイが僕を見て小さく笑っている。僕が変だって? ちょっとくらい女の子に興味あるしがない魔剣所持者な学生さ。変なとこなんてどこにも……。


「……否定、できないっ」


 何1つ誇れる部分がない!? これはこれで結構由々しき自体なんじゃ……!?


「……シェ、ス……さん」


「だから、さんは付けないで」


「……む、無理です。僕っちの腕が限界です」


「腕は今関係ないでしょう? ほら、もう一度呼んでみて」


 そんな僕の苦悩をよそにまだクロムンがシェスとの対話方法に四苦八苦している、ように見える。クロムンのカメラのシャッターに添えられた右指と右腕が震えいる。きっと、撮りたい衝動を抑えるのに精一杯で会話に集中出来てないっていうのが真実だろうな……。


「私、帰るね」


 セレネイが大きく伸びて、深呼吸をした。……結構身長が高い。僕より5cmは高いんじゃないか?


「わかった。メンバーになってくれてありがとう」


「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」


 ……そりゃ、高校生くらいの歳の女性と中学生の男性の身長を比べることが間違ってるのかもしれない。男性は成長がちょっと遅いって言うし。でも、悔しいなぁ。背が高いほうが有利なことも多いだろうし。あー、早く身長伸びないかなぁ!!


「どうしたの? 私の頭の上に何かある?」


「いや、何もないです……」


「? それじゃ、またね」


 セレネイが軽く手を振って、その場を立ち去ろうとした。その時!! シェスのお別れの一言がセレネイへ突き刺さる!!


「またね、セレネイ」


「ハィイイイ!! またお会いできたら最高に嬉しいですぅ!! 失礼いたしましたァ!!」


「「……」」


 僕と クロムンは 引いた!!


 なんだあの性格の変わりよう!? 僕とクロムンの前じゃ割とクールな感じなのに、シェスに話しかけられるとなんであんなに崩壊しちゃうの!? 目が輝いてるよぅ……っ!!


 おかしいな。ついさっき聞いた話だと、神聖術を使うと暴走するって話だったのに、シェスと会話している時にも暴走しているじゃないか。セレネイにまつわる暴走の話の真相って、たまたま神聖術の授業の時に、本当にたまたまシェスが通りかかったから暴走した。とかが原因なんじゃないの? 2重人格とかあんまり関係ないんじゃない?


「……面白い子ね」


「違うよ。あれは変な子だ」


 セレネイの言うとおり僕は変だ。だが僕以上にセレネイはもっと変だ!!


「ごほん」


 マセガキが軽く咳払いした。そういえば、忘れてた。


「どうした?」


「お兄ちゃん。後ろ後ろ」


「後ろ?」


 僕が振り向くと、スタンテッド家の屋敷が僕の視界に飛び込んだ。うん。異常なしだ。そう、特に屋敷に異常は見られない。今日も素晴らしい輝きだ。僕が定期的に壁を拭き掃除したり、屋根を拭き掃除したり、庭の手入れなんかも最近手伝ってるし、玄関なんかは毎日掃除している。


「……だから、掃除に関しては問題ないと思うんですけど」


 屋敷の入口に、メイド長が腕を組んで僕を睨んでいた。何故だ。


「夕飯の支度を手伝ってもらいますよと、今朝伝えたはずですよ」


「あはは、そんなこと言ってましたっけ!?」


 やばい僕の中の警報ががんがん鳴り響いてる!! 確かに今朝そんなこと言われたような気がする。すっかり忘れてたけど。


「ええ、言いましたよ」


 どうしよう。メイド長の口調に全く温かみを感じない。目を軽く閉じて、微笑むメイド長を前に、僕は恐怖しか感じられない。メイド長の背後がなんだか真っ赤なオーラが立ち込めているようにさえ感じられる。


 つまり、メイド長は、怒っている!!


「私が紅茶を1杯を飲みきる前に、3軒回って買出しに行ってきてください」


「そんな無茶な!?」


「なんのために修行してるんですか?」


「そりゃもちろん戦うた「いいえ、この時のためです」なんでメイド長が言い切るの!?」


 買い出しの為に鍛えるなんてそんなワーカーホリックじゃないよ僕は!!


「ハイネ。少しやりすぎじゃ……」


「!」


 シェスがメイド長に話しかけた。その瞬間、メイド長はやってしまったという顔を作った。シェスがハイネってメイド長のことを呼んだけどもしかして。


「ハイネって」


「……私の名前です」


 やっぱり。何回聞いても教えてくれなかった名前がやっとここで明らかになった!


「そうなんだ、ハイ「あなたは私の名前を呼ぶことは禁止です」なんで!?」


 僕がメイド長のことを名前で呼ぼうとしたら怒られた!? 意味がわからない。


「あなたがまだ半人前、いえ、半人前にもみたないような使用人である限り、あなたが私の名を呼ぶことは許しません」


 きつく睨みをつけて、強い口調で突き放されてしまった……。


「えっと。ハイネ。少しは手加減したほうが」


「いいえ、お嬢様。彼は使用人見習い以下なんですから。いくらお嬢様のご友人でも、仕事は仕事です。やってもらいます。いいですね?」


 有無を言わせない威圧感に僕は即座にうなづいてしまった。僕の体がメイド長と敵対することを拒否している!!


「了解しましたぁ!!」


 僕はメイド長が差し出したメモ帳を奪い取る勢いで預かり、買い物籠と必要分の資金をポケットに突っ込んだ。


「クロムン悪いけど今日は」


「……ファイト」


 クロムンはその一言を告げて、親指を立てて僕を応援してくれた。


「行ってまいります!!」


 ああ、空が青いや……。





Side ハイネ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……僕っちも帰る。合宿宜しくお願いします」


「最後まで治らなかったね。ちょっと練習しておいてよ」


「……ぜ、善処する」


 ユウが買出しに出発してから、お嬢様はご学友であろう1人と別れ、クレリア様と屋敷の中へ戻ってきた。お嬢様は私を見つけると、素早く駆け寄ってきた。一体何の用でしょうか。


「ハイネ。ユウの事、嫌い?」


 突然ですね。


「いいえ」


「本当?」


「ええ、本当です」


「そう、よかった」


 そう呟くとお嬢様は少し綻ぶように微笑んだ。最近お嬢様はよく笑うようになった。家族の前でだけ本音を晒し出すことのできるお嬢様でも、笑うことはあまりなかった。私の前でも滅多に笑うことがなかった。


 しかし、最近ではよく笑う。良い傾向だと思う。


 でも、少しなからず不満もある。なぜ、彼なのかと。いきなり現れた彼が、お嬢様の笑顔を引き出すことができたのかと。その役目は、私が行うべきだったのに。


「でもハイネはどうしてユウに厳しく当たるの?」


「お嬢様。彼は使用人としての仕事を舐めすぎです。仕事を始めると真面目ですが、彼の中の仕事の優先度が低いのです」


「あー。たしかに。お兄ちゃんよく仕事忘れてどっか出かけちゃうもんな……」


 彼の評価はメイド達の中でもかなり良いものなのに、仕事を放って何処かへ出かけてしまうことからその評判も伸びが今一歩のものとなっている。まったく。いい加減なのか真面目なのかはっきりして欲しいものです。


 でもだからこそ。私ではなく、どこか掴みどころのない彼だからこそ、お嬢様の心の氷を溶かしてあげられたのではないかと思う。


「……お嬢様。お茶でもいかがでしょうか?」


「うん。ハイネもお茶してたのよね。一緒に飲みましょうよ」


「失礼ですが、メイドがお嬢様とご一緒にお茶を飲むわけには……」


「いいからいいから。誰かにバレても私が言いくるめるから」


「は、はぁ……」


 心の氷が溶けたせいか、最近少し強引に物事を推し進めるようにもなった気がします。どうしましょう……? メイドとしてここは丁重にお断りするのが良いのですが……。


「私も、混ぜて欲しいな」


「ええ。もちろんクレリア様も一緒にハイネとお茶しよう」


「それでは、準備してまいります」


 ……確か、棚に青いクッキーが有ったはずです。お茶と一緒にお出しするのがいいかもしれませんね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 なんだろう!? 僕が苦労している間誰かが凄く楽しいことしている気がする!!


「はい全部で7980ギグスだよ」


「あっ、はい!!」










使用人兼ボディガード生活 69日目

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器    神魔剣?

     聖剣 ベルジュ (青い剣


     ↓修理中

     聖剣 フラン (赤い剣 損傷:中


防具   学生服


重要道具 なし


技術   アンデ流剣術継承者


     魔素による身体強化 


     神素による身体強化


     異世界の言葉(少し読み書きが出来る


     中学2年生レベルの数学


     暗算


     神魔剣制御(効果低下中)(侵食:停止)


     霊感


職業   スタンテッド家使用人兼スタンテッド嬢ボディーガード







とりあえず、書き溜めは以上です。

これからもぼちぼち書いていくので、宜しくお願い致します。

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