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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第三章 合宿と幻の獣
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037


「おはよう。久しぶりだが、元気していたか? 鍛錬はしっかり積んでいたか?」


 エヌディー先生の号令と共に、久しぶりに学校が始まった。久しぶりに見る学友たちはに変化は特にない。強いて言うなら、ヤンキーの視線が痛いくらいだ。


 なんであいつそんなに僕のこと睨んでるの……?


 いや、よく見たらヤンキー以外にも僕のことを睨んでいるな。一体何だ……?


「合宿まであと三日と迫っているが、このクラスの全員チームが組めていると報告が来ている。全員仲が言いようで私は安心している」


 エヌディー先生がわざとらしく胸に手を当てて、ほっと息を吐く動作をした。まぁ、安心しているのは確かなのかな。


 報告に関してはクロムンが昨日あたりに学校へ書類を提出してくれたみたいだ。なんせまだ文字が全然かけない僕だから、そういったデスクワークは他の人に頼むしかないわけだ。


 早く書けるように、せめて読めるくらいにはならないと……!


「では、合宿も近いですのでみなさんの実力を確かめるために今日一日使って模擬戦を行ってもらいます。組み合わせは私が考えます。準備して競技場へ向かってください」


 というわけで、模擬戦に備えて準備を行うことになった。



 模擬戦の時に着替えるってことは特になくて、そのまま学生服で模擬戦を行うことになる。何故なら学生服がそのまま戦う用にデザインされているからだ。


 さすが戦いを学ぶところだ。汚れたらもちろん着替えたりするのだけど、基本的に模擬戦は午後にやる。模擬戦が終わったらそのまま帰宅だから、着替えずに帰ってから着替えるって人が多い。


 でも今日は午前から模擬戦だ。今日は早く帰れるのかな?


 なんてことを考えながらボーっとしながらエヌディー先生が教室から出ていくのを眺めていたら、ヤンキーが突然立ち上がり、僕の机に前までやってきた。


「おい貴様。シェス様に何をした?」


 ……早く帰れないかも。


 なんだなんだ? 何をしたって、何を聞きたいんだ?


「心当たり無いけど……」


 と無難に答えておく。というか、それが真実なんだけど。


「シェス様に何かなければなぁ、クロムンとならまだしも、お前と遅刻魔、暴走女とチームを組むはず無いだろうがァ!!」


 突然の咆哮。そして掴まれる襟。く、苦しい。


 咄嗟に僕は周りに目配せしてみた。ふむふむ……。そっか。さっきから感じていた視線は、嫉妬なのか?


 この現状にクロムンとシェスが気づかれないように神素を集め、臨戦態勢を取り始めた。う、う~~~~~ん。どうしよう。って、あれ? だんだん目の前が暗くなってきた。


 あ、やべ。絞められてた。息がっ。


「おい、答えろ!!」


 いや、この状況で声出すの無理だっつの!! 僕はヤンキーの手をたたいて限界だという意思を伝えた。


「……ちっ」


「ぐはっ……すぅうううぅぅうううう。はぁあああああ!」


 死ぬかと思った!


「てめぇ、おちょくってんのかぁ!?」


 僕の行動が感に触ったのかまた切れた。切れる十代かお前は!?


「ストップストップ! ほら、次授業だし、急がないと先生に怒られるぞ!?」


 困った時の先生頼み! これで止まらなかったらシェスの神素量が上級の術が打てる程度になってるから、やばいぞヤンキー!


「~~~~ッ!!」


 ヤンキーがなんとも言い切れないような表情になって、僕から離れていった。ふぅ~。一難去った。


「……ユベル、大丈夫?」


 クロムンが僕のもとに来た。シェスは……。


 いた。いたけど、申し訳なさそにしながら、同じクラスの女たちに連れられて教室を出る直前だった。なぜか神素は蓄えたままである。


「……これは、次の授業荒れるね」


 クロムン。わかりきったことを言わないでくれ。








 そう、案の定あったわけで。


「では、今日は合宿チームの人間同士が組んで戦う、チーム模擬戦を行うぞ。基本3:3でやるが、3人いるチームはそのまま3人で組んで、2人や1人のとこは私が勝手に合わせてもらうぞ」


 合宿のチームを組む条件に、僕たちのいるエクスキューサークラス1人以上、3人以下っていうのがあった。だから、チーム模擬戦をやるのにちょうどいいんだろう。


 さて、その気になる僕、シェス、クロムンチームの試合の相手が……。


「では、最初はシェスのチームとグレッドのチームだ」


 ヤンキーじゃないか!! すっげー嬉しそうに僕の顔見てるし!


「どうする?」


 そう話を持ちかけてきたのはシェスだ。


「どうしよう」


 それに対して僕は何も案がないというアピールをした。いや本当にどうしよう。


「私達チーム組んで戦うなんてやったことないね」


 あ、あれ? そういう話? 僕とヤンキーのいざこざとの話かと思ったけど、関係なかった。


「……僕っちは一度シェス様」


「クロムン?」


「……シェスと一緒に戦ったこともあるし、模擬戦もしたことあるからなんとなく動きはわかる」


 僕は共闘したことも戦ったこともない気がする。シェスが戦っている姿は見たことあるけど、人相手だとあっさりシェスが勝っちゃうし。悪魔とかの人外相手と戦ってる姿見ても、人と対した時の実力なんてよくわからないし。


「もしや、僕ってチームで戦うと邪魔?」


「……いや、僕っちはそうは思わない。ルードって騎士とユベルが悪魔と戦ってたとき、一応前衛後衛で役割分担がしっかりこなせていた」


 あの時か。確かに悪魔を2人で倒した。けど、それを連携が取れていたかと言うかなぁ。僕が時間を稼いで、ルードが大技叩き込んで、それを僕が追撃。全部打ち合わせて攻撃してただけだ。


 掛け声なしに連携取るとなるとかなり難しい。


「……じゃあ、提案がある」


「実は、私もある」


「え? なになに?」


 クロムンとシェスが同時に作戦を持ちかけてきた。流石だ。僕には作戦なんて簡単には思いつかないや。


 年齢的にも僕より優っているし、この世界にいる年数も圧倒的に違う。


 何か、この状況を解決するいい案が……。


「私とクロムンで2人相手するから」

「……ユベルがグレッドと1対1を仕掛けて」


 それは、作戦とは言わないと思うのです。


「それって、僕がヤン……グレッドより強いこと前提……無理だよ」


 ヤンキーは僕が知らない、練った神素を武器に纏わせる技術を習得している。同じ模擬武器でも武器の威力が変わってくる。もしかしたら打ち合うのも難しいかもしれない。


「武器の打ち合いで神素は、関係ない」


「どういうこと?」


「神素を纏わせるのは、相手の体に内在する神素や魔素を単純な衝撃に変化させて、体を内部から攻撃する技術。武器自体が硬くなったり、切れ味が良くなったりという技術ではない」


 ……そうなのか? でも、確かにそうなのかもしれない。


 よくよく思い出してみれば、ヤンキーと一戦交えたとき、ヤンキーの木剣を僕の木剣で防げてたな。直接攻撃をもらった時に、大きなダメージを受けた。なら、一撃もらわなければ、なんとかなるってことか?


「1対1か……」


 魔剣も使えない状況だし、神素で左手が痛む点を除けば完全にフェアな状況だ。僕の実力を知るいい機会かもしれない。


「わかった。やってみよう! 二人共、よろしく!」


「……任せろ。僕っちが20秒で引き剥がして」


「5秒で仕留める」


 なにそれ。25秒で2人どうにかできるなら僕いらねーじゃん。








「それじゃ、試合を始めるぞ」


 エヌディー先生の掛け声で武器を構える6人。僕、クロムン、シェス、ヤンキー、取り巻き二人。


 取り巻き二人には見覚えがある。ヤンキーと一緒にリンチされるのかと思いきや、意外と手を出さずに見ていた人だ。


「覚悟しろよユベル」


 ヤンキーが木剣を構えながら睨んできた。え、えっと。


「お、おう」


 とりあえず返事だけしてみた。


「始め!!」


 急激に辺りの神素が高まる!


「「螺旋波!!」」


 エヌディー先生の掛け声とともに神聖術が放たれた。放ったのはシェスと取り巻き。渦を作りながら空気を切り裂きながら突き進む神素の塊は、互いに空中でぶつかり合いその地点から風を巻き上げながら相殺した。


 僕はその間に貯めておいた神素で身体強化を行う。体に充実していく力と痛む左手に意識を取られないように、ゆっくりと木剣を右手で構える。


「螺旋波・集!」


 シェスの手から複数の螺旋波が放たれた。シェスから少し離れた位置で螺旋波同士が重なり合い、普段より大きな螺旋となり、あたりを巻き込みながら突き進む神素の塊がヤンキーたちに一直線へ飛んでいく。それ人殺してしまいませんか?


「くそ! 回避しろ!」


「シェス様の攻撃強すぎる!!」


 取り巻きの悲痛な叫びとともに3人は散り散りになって大きな螺旋波を回避した。着弾と同時に、大きな砂埃を巻き上げた。


 その爆風に乗じて、僕とクロムンは走り出す。


 作戦は、散り散りにして僕がヤンキーを引き剥がす。その間にクロムンがヤンキーと僕の戦いを邪魔できない位置へ誘導。そして、各個撃破。というもの。


「……じゃあ、頑張って」


 一緒になってとなりを走っていたはずのクロムンが、空気のゆらめきを残して消えた。


「うぇ!?」


 消えた? 神聖術? 見えないだけなのかな?


 僕は身体強化を高めて、例の、あたりの動きが遅くなる能力を発動。知覚速度が上がるのを利用して、僕はクロムンの神素を探ってみた。見えないけど、ほんわかと結構前方にいるのがわかる。少しだけ変に歪んでいる部分があるだけだ。陽炎みたいな感じだ。


 光学迷彩、みたいなそういう術なのかな? ……クロムンばっかり見てないで僕も僕のやることやらないと。


 身体強化のレベルを多少下げて、動きが遅くなる能力を解除。……これもそのうち能力と身体強化が別々に使い分けできるようにならないと不便だな。これも課題の一つだな。それはさておき、ヤンキーへ接近だ!


「!! 貴様ァ!!」


 僕の接近に気づいたヤンキーは態勢を立て直し、すぐさま僕へ攻撃を仕掛けてきた。


「うぉ!?」


 クロムンが短刀振るうくらいの速度で木剣が僕の脳天狙ってきた!! アホか! 死ぬわ!!


 それを自分の木剣で防御して、貯めていた神素を一気に身体強化へつぎ込む!! 長期戦は不利だ。戦いながら神素を取り込むことが下手な僕が長期戦をやると、どんどん身体強化の質が下がっていく。だから、一番実力を最大限発揮できる最初で決着をつける!!


 一気に神素をつぎ込んだことで意識しなくても能力が発動して、あたりが遅くなっていく。気持ちいつもよりゆっくりになっている気がする。


 ヤンキーが僕へ横薙ぎに木剣を振るう。見え見えな攻撃だが回避するには一度下がらないといけない攻撃だ。


 この攻撃に対して木剣を斜めに構えて、攻撃を下へ受け流した。


 くっくっく。驚いているヤンキーの顔が滑稽だ。この前の僕を散々ぼこぼこにしてくれたお礼を今してやる! 


 ヤンキーの胴へ木剣で突きを放ってみた。が、片足で土が爆ぜるのとともに踏み込みなしで大きく横へヤンキーが飛んだ。


 なんでだ、と驚くがすぐに回答が頭の中ではじき出される。神聖術。多分足から簡素な神聖波動術を放って、その勢いで移動したんだろう。相手が僕じゃなきゃ不意をつけただろうけど、相手の行動を見てから行動しても間に合う速度なら僕相手じゃ意味がないぜ。


 ヤンキーが飛んだ方向へ大きく踏み込み、ヤンキーが着地するかしないかくらいのタイミングで、再び胴を狙って木剣を振り切る。今度は回避されず、木剣が食い込んだ。


 よし! 前回は動揺しててすぐにやられたけど、今回はまともに戦えるぞ!


 ……て、あれ? ヤンキーがあまり痛そうにしてない。というか、痛みなんか気にせず、怒っているようにも感じる。


 なぜだか不安な気持ちになり、素早くヤンキーから距離を離す。するとヤンキーが何か話そうと口を開こうとしている。


 あたりが遅くなるモードだと、音も遅れて聞こえて気持ち悪い。ちょっと勿体ないけど、喋るなら神素を集める時間もあるはず。ということで折角練った神素を開放して、身体強化を弱める。


 それと同時にあたりの動きが元の速度へ戻っていく。


「てめぇ……。手を抜いているのか!! 屈辱だ!!」


「え?」


 一体どういうことだろう。僕は一矢報いるどころか、前回の借りを返すくらいの気兼ねで戦っているのに、手を抜いているという判断をされるとは……。


 不意打ちがいつ来るかもわからないので一応神素を貯めながら、考えてみよう。


 えーっと。


 ……。


「いや、手を抜いてるつもりは全くないんだけど……」


 心当たりがなさすぎる。本当、このヤンキーの言動は突拍子もないな!


「神素も纏わないただの木剣で攻撃することが、手を抜いてないのとどう違う!!」


「え? だって、それ出来ないし……」


「はぁ!?」


 あ、反射的に答えてしまった。


「……」


「……」


 場が凍りついた。唖然としたままヤンキーは喋らないし、シェスやクロムンに目配すると「何この空気どうしよう」って気持ちが通じ合った。つまり、何を話していいかわからない。


「お、おい。出来ないのに、身体強化のレベルがそんなに高いのか?」


 沈黙がたまらなくなったのかエヌディー先生が質問してきた。なんか、変なのかな? 今まで扱ってきた聖剣は神素流すだけで勝手に剣が神素を練って炎に変換してくれてたし、その技術を学ぶ機会が今までなかったから……。


「……えーっと。どうやるんですか」


「どうって。練った神素を誰でも使える波動術でも浄化術の基礎術式に沿って、武器に纏わせるだけだぞ。基礎術式なら才能がない人間でも自動発動するほど簡易な術式だからな。常識だぞ?」


「お、おぅ?」


 やばい。僕の常識知らずがここに来て露呈されていく!! 基礎術式って何だ!? そういえば前にマセガキとクロムンが変な模様見ながら数学みたいに話し合ってたあれか?


 異常事態というか、模擬戦が一時的に中断される事態に気づいた人達全員の視線が僕に集まっている。この沈黙と視線が痛い。


「あ、あはは」


 苦し紛れに笑って、実際に纏わせる作業をやることにした。いやまぁ、やるフリ、なんですけどね。いやだってさ。


 ……基礎術式ってなんだよ!?


 さも一般常識のように言ってくれてるけど、僕にはわからんよ!! 試しに木剣に神素を流してみるけど、ただ単に垂れ流してるようにしか感じない。多分これは不正解。ど、どうすれば纏わさるんだ。


「お前、一体なんなんだ?」


 ヤンキーが怒っているが、呆れてもいるという、微妙な表情で話しかけてきた。


「いやぁ、ちょっと常識知らずでして」


 もう常識知らずがばれてしまった以上、隠す必要もないと思ってヤンキーに真実を告げてみた。


「いくらなんでも、ありえねぇだろ。おま……」


 と、何かを言い続けようとして、急に言い淀んだ。


「いや、あの時、全く俺の攻撃を防御できていなかったな。俺が強すぎて防御できないのかと思ったが、まさか防御方法を知らなかったのか?」


「え? あれって神素集中すれば」


「それは身体能力の向上だろ。皮膚が多少固くなった程度で攻撃が防げるわけないだろバカか?」


 バカにするのはいいがそのあと盛大なため息をつくな!


「もしかして、俺たちのこの学生服には基礎術式が標準で刻んであるのも知らないのか?」


「へ?」


 ヤンキーは制服の襟を指差した。確かに、ここに変な模様が刻んであるけれど……。これが基礎術式?


「基礎術式は練った神素を流せば勝手に発動する。範囲は全身だ」


「成程。それで皆、防御してるんだな」


「馬鹿が。そんなわけ無いだろう」


 なんか知らんが馬鹿にされた!?


「俺達は基礎術式なんか自分で作れる。術式に対しての適性がなくてもそれくらいできるだろうが」


 出来ません。


「制服の術式に頼ってたら部分防御ができねぇ。いちいち全身防御してたら必要ない部分で使われる神素がもったいない。制服にある基礎術式は中等部位に卒業だよ。制服の術式は部分防御が間に合わない時の緊急用だ。あと、神素集中で強化されるのは皮膚の強度だけだ。術式での攻撃は防げねぇ」


 ちょ、話長い。頭悪い奴だと思ってたのにめちゃめちゃ頭良い奴に思えてきたぞ。えっと。制服の術式に神素を流すと、制服に防御術式の効果が反映されるのかな。でも、全体を防御してたらもったいない。さらに、神聖術の攻撃は神聖術の防御じゃないと防げない。だからヤンキーとの喧嘩の時僕の防御が全然意味を成してなかったのか。


 成程……。要するに、この術式を覚えて自分で作って発動できるようになればいいというわけだな。術式覚える必要が出てきたよ! ちくしょぉおお!!


 わかるかよこんなの!! だいたい、この世界の言語ですらないじゃないかこの言語!!


「……はぁ。畜生。こんなやつにシェス様が……。いや待てよ? そうか」


 僕が神聖術の術式を覚えることに絶望していると、ヤンキーが急に1人で喋り始めた。


「お前、シェス様にそのことを知られているんだな? なら、納得がいく」


 なんだこいつ? 何言っているんだ?


「シェス様はお優しい方だ。誰にだって戦い方を教えてくれるほどに。だから、あまりのもの知らなさにシェス様に秘密の特訓をさせていただいてるんだな!?」


「はぁ??」


「こそこそ帰るのも秘密だからに決まっている。合宿が一緒なのもお前だと魔物相手だと遅れを取るかもしれない。他人には任せられないからシェス様がお前を守るために一緒になった」


 な、なんか物凄い妄想が繰り広げられているんだが。


「そして、お前の物知らなさをクラスの全員にばらさない様にするため、秘密の訓練という形をとったに違いない……でないと基礎術式すら出来ない奴がそんな身体強化ができるわけない。」


「……そ、そうですね」


 ここは便乗しておいたほうがいいかもしれない。なんか勝手にいい方向に解決しようとしているんだから、わざわざ否定する必要もない。そして、あながち間違ってもいないし。


「成程。ちっ。そういう事なら早めに言えばいいものを」


 いやぁ。信じなかったでしょ、僕の口から言っても。


「全部、俺の勘違いだったのか?」


「え? あー、まぁ、勘違いっちゃ、勘違いかも……」


「くそ、ちっ、ちっ、ちっ!! 」


 勘違い? に気づいて顔真っ赤にしてうつむきながら舌打ちを繰り返すヤンキー。なんだか本当にヤンキーなだけで、根はいいやつだったんだな。


「……エヌディー先生。試合はどうする?」


 頃合を見てか、クロムンが声をあげた。僕はクロムンの声が聞こえた方へ顔を向けた。


 クロムンとシェスが既に2人を伸して、僕の方へ歩み寄っている状態だった。服の乱れも、汚れもなく、汗も一切かいていない。


「うむ、そうだな……」


「いや、俺たちの負けだ。俺1人ではシェス様には勝てない」


「そうか。ならばこの試合はシェスのチームの勝利だ。引き続き模擬戦は続けるが、お前たちは少し休憩をしろ。各チームそれぞれ連携について話し合いを行うように」


 エヌディー先生がそう告げると、あちこちで模擬線が始まり、模擬戦が終わったチームから腰を下ろしてわいわい楽しげな会話が始まった。


 僕とヤンキーのやりとりを見ていて、僕とシェスとの繋がりが変なふうに広まったおかげでか今朝のような変な視線は一切感じない。


「ラッキー、なのかな」


「よくわからないけど、ユウへの誤解が解けてよかった」


 シェスが呑気にそう言うと、腰を下ろして草むらに座った。


「……解けたというよりは、誤解が広まったというべき」


 クロムンが正しい突っ込みをすると、シェスに習って腰を下ろした。










「いいか。そもそも基礎術式っていうのは、術の原理を記述しているんだ」


 ふむふむ


「神聖術は4つ種類があるが、それぞれ原理が違う術には違う基礎術式を使う。閃光術なら、光を集める基礎術式とは別に、光を遮る基礎術式がある


 基礎術式だけでもかなりの種類があるが、まぁ今はいい。


 基本的にはこの基礎術式にいろいろ手を加えることで発展した術式を行使できる」


 成程。波動術にもいろいろな種類があるのは、基礎術式に捻ったり、固めたりとかの効果を加えてるってことなんだろうな。


「なぜ基礎術式に神素を通して物に纏わせるだけでその効果が得られるのかだが」


「ちょっと待ってくれ」


「ん?」


「どうしてこうなった!!」


「急に何だ?」


 僕は今、模擬戦ではなくヤンキーに基礎術式についての講義をしてもらっている。


 エヌディー先生の許可を得て、基礎ができてないと話にならないという理由から特別に模擬戦ではなく基礎のつけるために教わっているわけなんだけど。


「どうしてその講師がシェスとかクロムンとかじゃなくヤンキー何だ!!」


「シェス様に講義をしてもらおうなんて100年早い!! ちっ!! どうして俺もお前なんかに講義をしなきゃいけねーんだ!!」


 実は理由は簡単だ。ヤンキーのチームの2人がシェスとクロムンにこてんぱんにやられて絶賛気絶中だからだ。


 シェスやクロムンはまだ2人でセットで動けるため、そのままチーム模擬戦続行ということになり、このような状況になってしまった。


「くそ。続けるぞ。


 基礎術式に通した神素はその特性を持った神素になるだけなんだ。何も、起こらない。波動術の基礎術式に通したら、波動を発生させる神素になるだけで、なんにも形になっていない。


 だが、それを物に付与すると、物自体が波動を発生させる物という形になる。


 神素を纏わせる技術ってのはだいたいそう言う理屈だ」


「そうなのか。でも防具にするとか、それだけだと難しんじゃない?」


 仮に服に波動を放つ特性をもった神素を服に纏わせたら、間違って自分に波動が放たれたりとかするんじゃないのか?


「馬鹿か? 自分で操る神素をどうして自分に打つんだ」


「え? でも波動術とか放ったら放ったまんまじゃないか」


「あれは術としての放つ形を持ったからだ。基礎術式に通した神素は、その特性をもった神素ってだけだ」


 形とか、特性とか、どう違うんだよ!?


「そして同じ特性を持った神素同士は相乗効果をもたらしたり、相殺させることができる」


「よくわからんけど、攻撃効果にしたり、防御効果にしたりできるのか?」


「ちっ。頭が悪いな。まぁそういうことだって理解しておけ」


 くっそ~!! こちとらまだ中学生だぞ!! 高校生が中学生をいじめていいのかよ!! 中身いいやつだったとしてもこのヤンキー嫌いだ!!


「そしたら、次は実践だ。ほら」


 ヤンキーは僕に木剣を投げてきた。その木剣には制服に刻まれていたものと同じ模様が刻んであった。基礎術式だね。


「実際にその基礎術式に神素を流して、術式の構成内容体で覚えろ」


「はぁ? 意味がわからん。文字とか覚えたほうがいいんじゃないのか?」


「てめーの頭が理屈で覚えられるとは思わないね!! さっさと体で覚えろ馬鹿が」


「ぐぅううう!! 腹立つううううう!!」


「こっちもだよ!!」


 さっさと習得して、シェス達の元に戻ろう!!


 神素を集めて……。流す!! って、あれ? 反応しない。


「馬鹿か。術式に神素を流すんだがらある程度練った神素じゃないと反応しないに決まってるだろ」


「ぐっ……」


 いちいち腹立つ言い方しやがって……!! フランとベルジュは勝手に練ってくれるのに、普通の剣は神素を流すだけじゃ練ってくれないのか。


 木剣に身体強化する要領で使う神素を体にではなく、木剣へ流す。木剣というか、木剣に刻まれた術式めがけて。


「うわ!?」


「あ、馬鹿!!」


 神素が急に僕の制御下を離れた!?


 次の瞬間には、木剣が粉々に爆散した。


「……えー?」


「馬鹿が! 覆うって言ってるだろう!! 術式に通して、覆うんだよ! 術式めがけて神素流してどうする!! 馬鹿か!? 術式は中間点。目的は木剣を覆うんだよ! 馬鹿め!!」


「あー! もう! バカバカうるせーよ! 変態!」


「あぁ!? だれが変態だ!!」


 あんなの無視してもう一回だ! 畜生腹立つことにアドバイスしっかりしていきやがって!! 無駄に頭いいなこいつ!!


 予備でヤンキーが持ってきていた術式の刻まれた木剣を持って、神素を流し込む。


 術式を通して、木剣に纏う……。


 って、え? こんな感じでいいの? 割と簡単じゃん。


 でもこれ、かなり効率悪くない? 神素垂れ流しだし、木剣伝ってそのまま神素が剣先まで行ったら遠くへ飛んでいってしまうんだけど。


「下手くそ」


 ヤンキーが笑いながら僕の木剣を見ながら言った。一体何ができてないんだ!?


「流すだけでどうする。纏わせんだよ」


 ヤンキーが術式が刻まれていない木剣を持って、今僕がやろうとしていることをやって見せてくれた。


 こいつ凄く腹立つのにすげー親切でそれが更に腹が立つ。


 ふむふむ……。1直線にするんじゃなくて、木剣の周りをくるくる渦巻くように神素を流せばいいのか。確かにそうすると神素がなかなか外に出ていかないし、かなり多くの神素をまとわせることができそうだ。




◇数時間経過◇




「……よし、だいぶ安定してきた。思ったより簡単だな」


 体感1時間ほど練習した結果、木剣に刻まれた術式を利用して木剣に波動術の特性を持った神素で覆うことができるようになった。


「当たり前だ。中等部なら誰でもできる」


「うるせ~……」


 はぁ。なんだかとっても疲れた。こいつに反抗する気力もわかないし、気持ち悪い。


 なんだろう。この体の倦怠感。


「ん? ……フラフラしてるな。そりゃそうか。そんだけ練った神素を垂れ流したら毒素も貯まる」


 ああ、これが毒素の溜まってる状態なのか。初めて感じた。結構具合悪くなるし、体が倦怠感に包まれている。これ、横になったらすぐ寝れそうだ。


「ちっ。じゃあ今日はもう訓練は無理だな。考えなく神素垂れ流しにさせた俺も俺か。ちっ。合宿までには基礎術式なしでできるようにしたいが……」


 本当にこいつは舌打ち多いな。でも、確かに訓練は無理……な気もしないけど。ちょっと休めば割と体調も戻ってきた。訓練は続けられそうだ。


「いや、訓練をつづけ」


 よう。と言おうとした。でも、ちょっと待て僕。いろいろおかしい。


 なんでちょっと休んだだけで体調良くなってる? 毒素が溜まったら1日は安静にしてないと中毒症状起こして倒れてしまうって聞いてる。つまり、毒素は1日かけないと抜けないし、体調も回復しないはずだ。


 毒素が溜まったそばから回復してる?


 ……確かにそうなら、納得がいくことがいくつかある。僕はいままで毒素が体に溜まりすぎて具合が悪くなったことがない。牧場の時もそうだ。シェスが疲れ果ててたのに僕が疲れてないなんてありえない。


 使ったそばから毒素が抜けて回復してるなら具合が悪くなるはずがない。今回神素を練って、練ったそばから外にどんどん流すっていうかなり非効率で燃費の悪いことをしていたから、消耗が回復を上回って毒素が溜まったという症状が出た。


 つまり、身体強化を適度にしてる分には僕ってずっと身体強化していられるのか。反則な能力だな。


 いや、そもそもこれって僕の能力か? 反応はしてないけど、魔剣の能力ってことも考えられる。この世界に来てから魔剣といるから、何が僕の能力なのかわからないなぁ。でも、一般人的な感覚で行ったら、本来人間がそんな能力持つわけないんだから、ほぼ間違いなく魔剣の力だろうな。もしかしたらこの目の力も魔剣が影響しているのかも。


 仮にこの毒素が超回復する能力があったとして、それが魔剣由来の能力なら、バレるわけにはいかない……!




「おい、聞こえなかったぞ。なんか言ったか?」


「いや、ちょっと見栄はっただけです」


「……なにか隠しているのか?」


 なんだ妙に勘がいいな!?


「いや、具合悪いだけです」


 汗が、嫌な汗が久々に流れてる……!!


「……まぁ、いい。あれだけ使えば流石の俺もかなりやばい。嘘つく意味もないだろう」


 ふぅ、危なかった。


「なぁ、僕はこれから何すればいい?」


「馬鹿か? 神素を練れないお前が模擬戦に参加できるわけないだろう。自主練習以外に何かあるか?」


「……ねーよ」


 いちいち刺のある言い方するなこいつ!!


「ふん。俺は模擬戦に戻る。神素呼吸でも剣の練習でも好きなことしてろ」


 ヤンキーはエヌディー先生のもとへ向かって行った。ちくしょ~あいつ本当にムカつく!!


 ……神素呼吸でもしてるか。







 ただ神素呼吸をしているってのも暇だから、クロムンとシェスが戦っている姿を見学しながら神素呼吸をしよう。


 と思ってチーム戦を見に来たら、不思議なことに2対3での試合が行われていた。あれー? 3対3の対抗戦なんじゃないの?


 クロムンとシェスが2人で戦ってるわけなんだけど、3対3になるように調整するって言ってなかったっけ?


 でもまぁ、この試合模様なら納得かもな。


 クロムンが素早いという能力を活かして、3人をうまく攪乱している。ヒットアンドウェイ戦法っていうのかな。相手チームはクロムンから致命傷を受けないように連携を組んでうまく対応している。けど、そこはシェスが許さない。


 相手のチームリーダーと思われる1人の男性をシェスが集中して狙っている。ほかの2人がクロムンの攻撃と攻撃の間に割り込むように援護するけど、そんな集中しきれていない援護なんてものともしなかった。


 シェスは木の槍を使っている。さっきヤンキーに教わった武器に神素を纏わせる技術を使って、相手を攻撃している。


 相手は木剣を使っている。シェスの点の攻撃を回避したり、時には槍の横を剣で払ったりして保っている。体に槍を何度かかすらせているけど、相手も相手で神素による防御をしているから大きなダメージには至ってない。


 にしても、シェスはなんであんなに読まれやすい攻撃してるんだ? 僕だったら次の攻撃を読んで、踏み込んで槍を回避してからシェスの懐に……。


 なんて考えていたら、相手が踏み込みながらシェスの槍を回避し、懐に踏み込んだ。やっぱり。僕ならそこからシェスに攻撃すると見せかけて、1歩引いて、槍を狙いに行くけど。あ、だめだ。シェスのほうが攻撃早そう。なのに、シェスに踏み込んだやつ気づいてないな……。


「失礼します!」


 大声で相手が叫ぶと、剣を大きく振り上げた。シェスは何をするんだろう。


 え? 槍を手放した!? なんで!?


 槍を手放したシェスはそのまま流れるような動きで手を相手の腹部に当てた。ということは、術による攻撃? と思ったがそれも違った。


「覇!!」


 足腰を落とし、手のひらを突き出した! その手には、武器に神素を纏わせる技術が使われてる。あれって自分の体にも使えたのか。


 武器に纏わせる時には多少時間がかかるけど、自分の体だと纏わせる時間が必要ない。しかも直に神素を練って出力できるわけだから、かなり威力も高い!


 使ったそばから放出されていくから、常時体に纏わせるってことはできないだろうけど、ちゃんとポイントを抑えて使うことができればシンプルだけど相当強い技になる!


「がはぁ!!」


 相手は数歩、引き下がってその場に倒れた。凄い。中国拳法みたいだ。むしろ、中国拳法だ。


 おそらく、シェスが突き出した手の平にそれほど力も籠ってない。シェスならあの状態でも身体強化していればもっと突き飛ばすこともできたと思う。それをしなかったのは、必要なかったからだ。相手は攻撃する直前だったから武器の方に神素が集中してたし、防御はほとんどなかった。だからシェスは倒せると確信していたんだろうな。


 流石シェスだなぁ。色々な戦い方を知っている。


 シェスはふぅと一息ついて、槍を拾うと残りの2人を見据えた。鋭い目つきだ。凄い、可憐で格好良いな。堂々と立って、敵を見据える。


 シェスってちょっとぽっちゃりしているように見えるけど、あれって筋肉なんだよな……。だからちょっと線が太いように見えるけど、実際すごく鍛えてるって証拠だよな。そりゃ1年そこそこしか鍛錬積んでない僕がシェスに勝てないのは当たり前だ。


 ? って、あれ? 僕に目配せしている。なんでだ?


「どうだった?」


 シェスが僕を見たまま言った。どう言う意味だろう。も、もしかして、今の戦い方って僕のためにやったのか? それで、出来る? とかそう言う意味なのかも!


 ……いやいや、それは流石に考え過ぎかな。もっとシンプルに、私って強いでしょ? って聞きたいのかもしれない。


 それとも、僕の調子のことを聞いているのか? ……あ~もう! 言葉が足りないよ!!


「えっと、格好良かったよ」


 よくわからなかったから、シェスの姿に対しての感想を言ってみた。


「!?」


 それに対してシェスは愕然とした様子で、その表情は青ざめている。え? なんで急に?


 と思ったら、ふつふつと煮えていく水のように、怒気という名の神素の波動が強く放たれ始めた。何に対して、怒ってるの!? 気持ち僕を睨んでいるようにも見えなくもない。僕なんか悪いこと言った!? 


「……シェス、様?」


 シェスを様付けで呼んでしまったクロムン。シェスは素早くクロムンのほうを振り向いて睨みつけた。そのシェスの姿にクロムンは完全に萎縮して、ごめんなさいと呟いた。シェスやめてあげて! クロムンは何も悪くないんだ!!


 その後シェスは、相手2人を1人で戦闘不能にした。


 具体的には、シェスが近接戦闘のスペシャリストとは思えないほどの強力な波動術を放ち、1人を倒した。そして、クロムンが手を出す前に槍を投擲した。その槍はただの木の槍だから、距離があったし簡単に回避された。でも、槍が投擲された速度とほぼ変わらない速度で接近したシェスは攻撃を回避した相手を殴り倒した。


 ちなみに、殴り倒した相手は女の子でした。


 女の子同士でも容赦ってないんだなとしみじみ思った。ただ、不思議と殴られた女の子が嬉しそうだったのが印象に残っている。








使用人兼ボディガード生活 72日目

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 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器    神魔剣?


     聖剣 ベルジュ (青い剣


     ↓修理中


     聖剣 フラン (赤い剣 損傷:?


防具   学生服


重要道具 なし


技術   アンデ流剣術継承者


     魔素による身体強化 


     神素による身体強化


     異世界の言葉(少し読み書きが出来る


     中学2年生レベルの数学


     暗算


     神魔剣制御(効果低下中)(侵食:停止)


     霊感


職業   スタンテッド家使用人兼スタンテッド嬢ボディーガード










037 Extra シェスの葛藤


Side シェス

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 何故か知らないけど、ユウが私にている。きっと今の戦いをちゃんと見ていてくれたんだろう。基礎術式の練習もしているみたいだし、その参考になるかと思って、基礎術式の発展形である、身体への纏わせをやってみた。どうだろう。その感想を聞いてみたい。


「どう?」


 ? なぜか少し返事に困っているみたいだけど……。


「えっと、格好良いです」


 え?


 ……え!?


 格好良い!? どういうこと!? 私は今の戦い方が参考になりそう? という意味だったのに、どうして格好良いって返事が……?


 !! ユウは見ていた。つまり、私を見ていた。私を見て、私の姿の感想を、言ったの? 私が格好良いって。


 確かに、クラスのみんなが私を格好良いって言ってくれることがあるけど……。ユウに言われるなんて……。嬉しくないわけじゃないけど……。


 ユウには可愛いとか、普通の女の子に抱くようなイメージを持ってもらいたい。


 もしかして、男っぽいとか、思われている?


 確かに、私って結構ほかの女の子より線が太い。ほとんどが筋肉なんだけど、お父様に似て表面上ではそれがわかりにくい。太っては、いないんだけど……。


 あ! 戦い方もお父様に教わっていたから、男らしい戦い方になっていたのかもしれない!!


 というか、私の女の子らしさって、何!?


 ……私のばかぁ!!


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