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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
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003

彼の才能は?





「すげぇ! ゴブリンみたいだ!」


「みたいだじゃなくてゴブリンですよ!!」


 僕は予定通り、お金を麻袋に適当に詰め込んで、聖なる都シャルルへと向い村を出た。その村を離れて30分くらい歩いたときのことだ。


 突然僕と偶然一緒になった女の目の前に奴らが現れた。そう、ゴブリンだ!


 緑色で二足歩行で、布切れで体を覆って片手に棍棒を持っている魔物だ。大きさ的には僕と同じくらい。僕は今150cmくらいあるから、ゴブリンも150cmくらいなのかな。


 ……って、あれ? 魔物と会うことは限りなくない、ってシュッテイマン言ってたはず。確か、シャルルってとこで魔物が入りにくくなる装置みたいなのがあって、それが正常に活動している限る魔物はこの付近には近寄らないって。たとえ迷い込んでも、すぐに国が感知して、冒険者が討伐するって言ってたし。


 その装置がおかしくなったのか? それとも、近寄らないのはゴブリン以外とか、そういうことなのか?


 にしても、このゴブリン。いろんな冊子とかゲームとかで載ってるままだなぁ。元の世界のそういう情報もあながち間違ってないんだね。猫背で、骨ばって細い体に、緑色の肌。骨ばった人間に近い顔。それに大事な部分はぼろぼろな布で隠されているみすぼらしい格好。ゴブリンたちの棍棒装備はデフォルトなのかな?


「ちょっと、何喜んでるんですか! た、助けてください! どうにかしてくださいよぉ!」


 そう叫ばれたように、見ようによっては僕たちは危機的状況にいる。僕と隣にいる少女を5匹くらいのゴブリンが囲っているようにも見えなくない。


 うーむ。ここで死ぬわけにはいかないしなぁ……。でもこの剣は出来るだけ人前で使わないに越したこと無いってアンデが言ってたしなぁ。周りは森で、人影は無い。走って逃げるにも、シャルルに行くも村に戻るも30分はかかる。


「ほら、僕、武器ない? あなた、どうにかしてください」


「えぇ!? 冒険者じゃないんですか!? 神聖術を習得していらっしゃる学生さんでもないんですか!?」


「……?」


 色々不可解な単語が出てきたな。神聖術ってなんだ?


 あ、そうそう、この女性は、シャルルに買い物をしに行くと言う事らしく、たまたまシャルルに行こうとする僕を見つけ


「心細いんです!」


 と断っても何度も何度も頼み込んでくるものだから、最後には僕が折れてしまった。そのため今の今までついてきてた女性だ。どうやらこういった事態に対応できる人間だと思われていたみたいだけど、残念ながら冒険者ではないし、神聖術も知らない。というか、僕みたいな子供でも冒険者やってる人っているの?


 ただ、それを聞くような状況じゃないし、情報収集よりは事態打破に向けて努力したほうがよさそう。


「ただの村人ですよ。だから、逃げませんか?」


「ひぇ、やだぁ、怖いよぉ。男なんだからどうにかしてくださいよぉ!」


 泣き出してしまった。座り込んでしまった。この馬鹿女、これじゃ逃げられないだろ。


 ……見捨てるには後味悪いし、はぁ。面倒だなぁ。


「はぁ、じゃあ、ちょっと目を瞑ってくれたら、助けますよ」


 ばれなければ使ってもいいよね。斬り捨てたゴブリンの残骸とかは確認されるかもしれないけど、特に問題もないでしょ。さて、急がないと。ゴブリンはケタケタ笑いながら僕と女に近寄ってくる。にしても、調子が上がらないなぁ。


「はぃ、言うとおりにしますからぁ、助けてぇ」


「じゃあ、早く目を瞑ってください」


 女が目を瞑ったのを確認して、袖を捲る。すると僕の二の腕に変な黒い模様が描かれているのが目に入る。円が二周ほど、描かれている。


 その模様に集中する。何も無い空間から、剣を取り出すイメージ。


 すると、左手から不思議なオーラが現れ、そのオーラが剣をかたどり、やがて、本物の剣となった。左手の模様も消える。……いや、若干残ってるのかな。薄くなってるだけみたい。


 キィン


 魔剣ライフドレイン。アンデが魔剣の効果から推測した名前だ。切った相手の生命力を奪い、剣の力へ変換する。世界には、魔剣とか、神剣とか、特別な能力を持った剣が存在するらしい。そのうちのかなりレベルの高い魔剣で、体の中にしまいこめる魔剣なんて、数えるほどしかないらしい。


 レアな一品てわけで、マニアとか、金に目がない無法者な冒険者とか俺を殺しにくるだろうから、ってことで使うのは控えたほうがいいとのこと。他にも理由があるんだけど……。


 そんな凄い一品をなんで持ってるかって? そりゃ、異世界に来た瞬間に拾ったボロボロの剣がたまたま魔剣だった。それを無価値だと思わず拾った僕の運の良さ。今はボロボロじゃなくて、鋭い刃を携えた頼りになる武器だけどね。


 とりあえずそれを両手で構える。ちなみに左手から取り出したけど利き手は右です。


 ゴブリン達は僕が武器を取り出したのに驚き、2匹が僕に攻撃しようと近づいてきた。大振りで、すきだらけ。剣道2段の僕にそんな攻撃は、流石に通用しない。


 それでも、2匹同時に切るのは難しいので、まず1匹に接近する。僕が向かってくるとは思わなかったのか、ゴブリンがたじろいで握っている棍棒を振りぬけず、慌てふためいている。そんなゴブリンに僕は容赦しない。


『面!!』


 久々に、日本語で気を入れて振る。後ろで小さく悲鳴を上げる馬鹿女が目を開けていないか気になったけど、ここで集中切らすのも良くない。


 ……集中できてるのか、僕?


 とにかく、ゴブリンを一刀両断。抵抗なく相手の体を通過した刃は煌き、切られたゴブリンは右側と左側がお別れする。その間から赤黒い血が飛び出して、倒れる。赤い血なんだね。


「……」


 ちょっと、気分は良くないね……。


 剣が振動して、刃の輝きを微かに増して、ゴブリンから温かみが消えたように感じた。


 ボロボロだった剣がここまで鋭くなったのはこういう理由だ。始めは切れなかったから、なんどか使っていたら、どんどん切れ味が回復していった。名前の通り、斬れば斬るほど相手の生命力を奪い、その切れ味を増す武器ってことだね。


 2匹目も


『面!!』


 さっくり倒す。ちょっとだけ、罪悪感のようなものを感じたけど、人じゃない生物を殺すのにそれほど悪いことをしているとも思わない。


 ゴブリン3匹が僕へ向きなおり、警戒しながら迫ってきた。しかも、頭も悪くないようで、3匹とも互いにフォローに入れるような距離を保っている。


「……ま、まだですかぁ……!? ゴブリンの声が怖いですぅ」


 ゴブリンの標的は女へと切り替わった。でもそれは僕にとってはチャンス。素早く1匹に近づく。僕の接近に気づき、棍棒を防御へとあてがうけど。


『胴!!』


 素早く踏み込んで突きを放つ。木の棍棒を貫き、そのままゴブリンも貫く。僕の手には豆腐のように柔らかものを突き刺すような感覚しか伝わらなかった。抵抗なさすぎだろ!? どれだけよく切れるんだこの剣は!! 僕は剣を素早く引き抜いた。その剣を引き抜く動作で、貫かれたゴブリンの傷口が大きく開き、グロテスクな感じになった。心底気が滅入る光景だ。って、そんなこと見てる暇はない! って、すぐ隣にいたゴブリンも動揺しているこの剣の切れ味に動揺していた。魔物でも思うことは一緒なんだな。そんな同様を隠しきれていないゴブリンに向かって、僕は容赦なく剣を


『篭手!!』


 横になぎ払う。ゴブリンは不思議そうな顔をしながら直立して立っている自分の日本の足を地面から見上げていた。……気持ち悪い。


 そして、最後の1匹は


『面!!』


 一刀両断。


 弱い。小学生を相手にしてるみたいだ。不意をついたといっても、割とあっさり出来るんだね。


 ……まぁ、これで命の奪い合いは2度目になるわけだけど。血を見るのは好きじゃないから、やっぱり出来れば逃げるに越したこと無いね。服は汚れるし、気分も清々しくない。人間同士の切りあいは2度としたくないね。あんな思いをするのも、もう御免だ。あの時は必死で、殺したときのことがよく思い出せないけど、最悪だった後味は忘れられない……。


 でもゴブリン相手だと、そんな感じもしないな……。やっぱり同じ生物が相手じゃないからなのかな。でも、この血生臭い感じは……うぷっ、気持ち悪いっ。


 キィイイイン


 ああ? ……お前は人間を斬りたいってか。


 キィイイイン


 女を切りたいって? やだよ、悲鳴とか、うるさいじゃん。まぁ、そういうこと関係なく切りませんけどね。世間の目が冷たくなるよ。そういうことすると。だいたい、血生臭いのはもういいです……うっ、ぐ、具合が……。


 ……キィイン


 はいはい、ありがとね。


 剣を左手にしまうイメージ。実物から再びオーラに代わって、左手に収束していく。そして、左手に完全にオーラが収まる。そして、左の二の腕に変な模様が濃く現れる。それを確かめてから、袖を元に戻す。


 どうもこの剣は人を切りたがる傾向にあるらしい。呪われた刀、ムラマサ、みたいな? 洗脳効果とかあったらやばかったけど、この魔剣はそんなことは無かった。たまに唆してはくるけど、そういう趣味もないし、必要が無きゃ切りませんよ。


「終わったよ」


「ひぇ……キャアアア!」


 馬鹿女はゆっくり目を開き、僕の姿を見て悲鳴を上げた。確かに、血まみれだけど。ちょっと傷つく。


「僕も好き好んでこうなったわけじゃないんだから。あまり叫ばないでくれますか」


 ちょっと怒り気味に、低く声を出して注意すると、女はひっ声を上げて小さくうずくまった。


「ご、ごめんなさい。血が苦手で」


 がくがくぶるぶる。隆介風に言うとガクブルしてる。んー。まぁ、こういうときは皆そうか。春も、流石の隆介もやっぱりケンカが終わった後とか震えてたしなぁ。


「僕も、苦手だよ。早く行こうか?」


 僕がぎこちなく笑いかけてみる。こういうときは笑いかけるのが一番だって春が言ってた。


「は、はい、ぷっ」


 顔を上げて返事してくれた瞬間、急に笑われた!? な、なぜ!?


「へ、変な顔……」


 う、嘘だ。僕は確かに、今微笑んでるはずだ。決して変な顔ではない。


「ぷっ、もう、やめてくれませんか……?」


 涙を瞳にためて、笑いをこらえている。


 く、屈辱……!!





異世界生活91日

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 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 魔剣ライフドレイン


防具   異世界での服(血まみれ


重要道具 もってない


所持金  二万ギス (家に3000ギスと500円を置いてきている。


技術   剣道2段


     異世界の言葉(聞く、話す、ちょっと読む、ちょっと書ける


     中学2年生レベルの数学


職業   デトラオン(悪魔の)食堂店員 (バイト)


2012/5/16 見直し、表現の修正、誤字の修正などなど

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