第八話 〇〇をキスだと思っちゃうオタクくんさぁ
「はぁ。呆れた……やっと手を出してくれたってドキドキしてたのに、キスってなに? しかも手の甲ってどゆこと? 王子様か何かのつもりですかぁ?」
凛々子は怒っている。
怒られることは覚悟していたので予想通りなのだが……こんな怒られ方だとは思っていなかったので、そこは納得いかなかった。
「おい、キスされたんだぞ? もっと動揺するだろ普通は!」
「唇ならね? ちゃんと照れたかもしれないけど」
「唇、だと……!? そんな破廉恥なことできるわけないだろっ」
「どーてーかよ。アニメの見すぎじゃないの?」
「どどどどどーてーは関係ないから」
あと、どーてーかどうか俺はまだ言ってないんだが?
まぁ、どーてーなんだけど、それはさておき。
「おい、おっさん!」
凛々子と言い争うのはとりあえず後だ。
とりあえず、まずはおっさんに確かめたいことがある。
『はぁ……なんだね?』
やっぱりこちらの様子は確認していたのだろう。すぐに呼びかけに応じてモニターにおっさんが映った。
なんか呆れたような表情にも見えるのだが、どうしたのだろうか。いや、年を重ねてお疲れなだけだと思うので、気にしないでおこう。
「俺『あれ』をしたぞ?」
『……あれとは、キスのことかね?』
「そ、そうだ。きききキスのことだっ」
「キスくらいスムーズに言えないの? 好きぴだけどさすがにかわいい通り越して弱くない?」
「弱いってなんだよ」
強弱の話なんて今はしてない!
てか、凛々子。黙っていてくれ。うるさいぞ。
俺はとても大切なことを確認しているんだ。
「〇〇とはキスのことだよな? いいかげんにこの部屋から出してくれ!」
なんとなく、分かってはいた。
〇〇しないと出られない部屋。この〇〇に当てはまるものは、たぶん男女の関係が深まった時にする行為だと、予想はしていた。
でも、愛情がないとしてはいけない行為である。
今までは抵抗があってできなかった。しかし凛々子と仲を深めた今なら、土下座で許してくれると思って実行した。
よし、これでようやくこの部屋から出られる!!
『違う。不正解だ童貞め』
おっさんにまで童貞って言われた!?
「うわぁ……〇〇をキスだと思っちゃうオタクくんさぁ」
『やれやれ。まぁ、こちらから言えることは『手の甲にキス』ではない、ということだね』
「おじぴ、むりじゃね? そうやって煽ってもぴっぴが唇にちゅーするわけなくない?」
『そうだよねぇ。はぁ』
凛々子はうんざりした様子である。
おっさんも似たような感情みたいで、深くため息をついていた。疲れていたわけじゃなかったらしい。
『まさかここまでだったとは』
「ねぇ、何を食べたらこんなにどーてーになれるの?」
何やら言われたい放題になっているが、それは一旦無視。
「き、キスじゃないとは……!」
まさかの不正解に、俺は大きく動揺していた。
ここに来てから三年目なのだが、ずっとキスだと思っていたのである。
「もっと大人なことに決まってるじゃん」
「た、たとえば?」
「……たとえば、脱いでから――」
「言わせねぇよ!? お前、頭の中ピンクすぎるだろ!!」
「そっちの頭の方が心配だから……はぁ。寝たふりして損した」
寝たふりだったのかよ、と怒りたかったのだが。
あまりにも凛々子がうんざりした様子だったので、これ以上は何も言えなかった。
長く一緒に過ごしているので、分かる。
こういう時は何も考えずに謝った方がいい、と。
「な、なんかごめんな」
「……何もしないよりはマシかなぁ」
『ああ。少しだが、正解には近づいているよ。童貞君、引き続き頑張りたまえ』
おっさんにまで童貞と言われるのは不本意なのだが。
ひとまず、後でノートに『キスはダメだった』と記録しようかな。
これでまた一つ『〇〇』の可能性が潰れた。
……一応、正解には近づいているらしいけど。
キスのような行動、ということだろうか。うーん、それはなんだ?
すぐには思いつきそうにないので、後でじっくり考えようか――。
【あとがき】
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