第三十八話 家庭的な地雷系女子はむしろ最高
だいたい一時間くらいだろうか。
凛々子の料理ができるのを待つ間、とりあえず役作りのためにも働いているふりをしてみることに。
とはいえ、この部屋で可能な労働なんてあまりない。せいぜい掃除くらいだ……普段は使用人さんに丸投げしているのだが、少しやってみようかな。
そう思って、一時間前からだらだらと掃除をしていた時のこと。
不意にモニターの映像がついて、おっさんの顔が映し出された。
『ふむ。大田君は掃除に、凛々子君は料理か……宇宙から何か変な電波でも浴びたのかい?』
おい。超常現象みたいな扱いをするなよ。まぁ、俺も凛々子も普段はだらだらしてばかりなので、そう思う気持ちも分かるけど。
『良い調子だね。このまま続けてちゃんとした人間になりなさい』
「うん。明日からやらないけど」
『……今日やっただけでも、良しとしておこうか。太田君、私は仕事で一時間ほど出かけるから、何かあったら使用人に言いつけてくれ』
「了解」
どうやらおっさんは仕事で忙しいみたいだ。
金持ちだから当然か。いや、金持ちならむしろ暇な方が普通なのか? 金持ちだったことがないのでよく分からないけど、とりあえずおっさんはどこかに行くようだ。
(帰ってくるまでには結婚しておくか)
一時間という短時間だが、おままごと……じゃない。結婚のシミュレーションには十分な時間だろう。
「ぴっぴ。準備できたよ~」
ちょうど、凛々子の料理も完成したみたいだ。
「分かった。ちなみに、何を作ったんだ?」
「それは後のお楽しみ♡」
……うん。地味に楽しみにしている自分がいて、なんだか恥ずかしい。
正直、凛々子が料理もできると聞いて、俺はかなりドキドキしている。家庭的な女の子が嫌いな男なんていない。家庭は女が守る時代じゃないとか文句は言われそうだけど、これはたぶん生物としての本能なんだと思う。料理ができる女性を男は無条件で好きになってしまうものだ。
「じゃあ、ぴっぴは仕事から帰ってきて。わたしがお出迎えするから」
「出迎えてくれるのか!?」
「うゅ。お仕事してくれてるんだから、それくらい普通やるくない?」
やるくない、という日本語の是非はさておき。
凛々子……お前を見直した。こんなに愛情深くて、献身的なタイプだとは思っていなかった。
(凛々子って、顔がかわいいだけじゃなかったんだ!)
今まで、かわいいだけのバカと思っていたけど、訂正しよう。
凛々子はかわいい上に、料理もできて、しかも愛情深い男性の理想に近い女性だった。
(くっ。なんか、嬉しさを感じている自分が恥ずかしい……!)
凛々子の魅力に、心がときめいている。
今までで一番、彼女に対して強い好意を感じている。
(もしかして、これはシミュレーションじゃなくて……『本物』の始まりなのかもしれない)
そんな予感がして、なんだか楽しくなってきた。
テンションも上がっている気がする。
「ぴっぴはトイレから出てきて。こっちがお家って設定だから」
「トイレから……まぁいいか。分かった」
凛々子はたぶん、おままごと気分なのかもしれない。そして意外と、設定のディティールにはこだわるタイプらしい。
言われた通りに一旦トイレに入る。よし、ここからスタートだ!
「ただいまー」
まずは自然な態度で入室したのだが。
「違う。もっと疲れた感じを出してっ」
まさかのリテイクが出た。
どうやらマイムが不十分だったらしい。そんな細部にまで……!
「いい? ぴっぴはくたびれたサラリーマン。ブラック企業でいっぱい働いてすごくしんどい気持ちなの。そんなぴっぴを、かわいいお嫁さんのわたしが癒す――そういう感じでやって」
「お、おう。やってみる」
意外と、凛々子の方が熱っぽい。
おままごとにも本気で取り組む姿勢は、嫌いじゃない。
(そうだな。照れてないで、俺もちゃんと向き合おう)
凛々子、すまん。
俺もちゃんと『夫』になりきる。そして、結婚生活ごっこをする!
そう決めて、俺はトイレへと戻った。
さぁ、TAKE2だ――!
【あとがき】
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