第三十九話 もしもオタク男子と地雷系女子が結婚したら
――俺の名は太田久信。情報系の企業に勤める五年目のSEだ。
ふっ……我ながら、よく続いているものである。何せうちの会社は、いわゆるブラックと呼ばれる企業だ。安月給、サービス残業、デスマーチ、パワハラ、飲みハラ、横領、脱税、なんでもありのクソ企業である。
正直、もう体力は限界に近い。朝八時に出社して夜の一時に帰宅する生活なのだから、それも無理はない。
だが、俺には唯一の癒しがある。そおかげで、ここまで頑張ってこれた。
俺に取っての、癒しとは――彼女だ。
「ふぅ……ただいま」
ガチャッ。ネクタイを緩めながら、ドアノブを回して室内に入る。
すると、まるで俺の帰りを待ち構えていたかのように……妻が三つ指をついて、俺を待っていてくれた。
「おかえりなさい、ぴっぴ♡」
愛らしい笑顔を見て、疲れて節々が痛い体が一気に楽になった。
俺の嫁が可愛すぎる件について。
「今日もお仕事お疲れ様♡」
妻――凛々子の笑顔につられて、俺の頬も緩んだ。
会社では一切笑うことがないので、表情が強張っているのだが……やっぱり凛々子といると、笑顔があふれだす。
「ありがとう。疲れたけど、凛々子のためならいくらでも頑張れるよ」
「えへへ。もう、ぴっぴったら」
その笑顔に、疲れなんて一瞬で吹き飛んだ。
そう。彼女こそ、俺が会社を辞めずに働けている一番の理由である。
田中凛々子……いや、今は太田凛々子か。
彼女という癒しがあるおかげで、俺は日々をがんばれているのだ。
「それで、まずはお風呂にする? ごはんにする? それとも……わ・た・し♡?」
ほら。これだ。
お茶目でイタズラっぽい表情は、やはりかわいくて仕方なかった。
こんな嫁がいるなんて、勝ち組でしかない。いくらブラック企業に勤めていようと、かわいい嫁という存在で全男性にマウントを取れるだろう。
「ふっ。まずはごはんにしておくよ……凛々子は、デザートだ」
「うわ。きも」
「おい、素になるな。役になりきれ」
「あ、そっか。ごめんごめん、キモすぎてつい」
一瞬、現実に戻りかけたが強引に修正。
結婚シミュレーションこと、おままごとを継続した。
「じゃあ、ごはんからだねっ」
「ああ。お腹ぺこぺこなんだ」
「ぺこぺこなんだぺこね~」
ぺこ~。
と、頭の悪そうな会話をしながら、二人で食卓へと移動。そこにはもう凛々子が作った料理が皿に盛りつけられていた。
「今日のメニューは――ハンバーグだよ♡」
「ハンバーーーーグ!!!」
さすがだ。美少女にハンバーグを作ってもらう、という男なら誰もが憧れるシチュエーションが今、目の前で起きている。あと、単純に俺はハンバーグが好きだ。家が貧乏だったので給食でしか食べたことないのだが、初めて食べた時はめちゃくちゃ美味しくて感動した。
ハンバーグが出てきただけで感無量だ。しかし感動はこれだけに留まらない。
「美味そうだ……!」
とにかく見た目がいい。楕円形の大きな肉塊はできたばかりだから微かに湯気が立っていて、すごく美味しそうに見えた。付け合わせで目玉焼きも乗っているので、ロコモコにして食べても良いだろう。これは……期待しかない!
「さ、早速食べていいか?」
「いいよ……はい、あーん♡」
う、ウソだろ。
凛々子が食べさせてくれる……だと!?
(これは、もしかして夢か?)
まぁ、男の夢であることには間違いないのだが。
それにしても、俺に都合が良すぎた。
美少女が、俺の大好きなハンバーグを作ってくれて、しかもあーんまでしてくれるなんて。
(もう死んでもいいかも)
気分は夢心地だ。
ニヤニヤが抑えられない。そんな俺の口元に、凛々子が一口大に切り取ったハンバーグを近づけてくる。
それを頬張って、咀嚼。
途端に肉汁が弾けて――俺は死んだ。
「ぐはぁ!?」
爆弾だ。
何かが口の中で爆発した。
「え? そ、そんなに叫ぶほど美味しかったの!?」
旨味の破裂なら、どれほど良かったことか。
凛々子……ポジティブなのもいい加減にしてくれ。
「ぎ、ぐ……っ」
ダメだ。舌が痺れて、まともに言葉が話せない。
だから、凛々子の勘違いも訂正することはできなかった。
……そ、そうだよな。
こんなに男に都合が良いこと、起きるわけないよな。
間違いない。
凛々子はいわゆる、『メシマズ嫁』だった――
【あとがき】
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