第二十話 普通に生きてるより、この部屋にいた方が幸せじゃん
どうでもいいんだけどさ。
凛々子……うつ伏せのまま語り続けるって苦しくない?
「あの、凛々子?」
「――わたし、最初はすっごい嫌だった。この部屋には友達も先輩もいないし、唯一の生きがいだった推しのライブも行けないし……なんかすっごい地味顔がいるし、マジむりって思った」
ダメだ。俺の言葉はもう彼女に届かない。すっかり自分語りに熱が入っていた。
まぁ、俺も最初は地雷系女子なんてマジで無理って思っていたので、このあたりは気持ちが一緒だったらしい。
「最初に一年くらいは、なんで『わたしってこんなに不幸なんだろ?』って毎晩泣いてた」
「うん。泣き声がうるさかった」
「太田久信。黙れ」
「ひゃ、ひゃいっ」
本名で呼ばれた!?
ドスの利いた声に体がビクン!と震えて変な発声になってしまった。
凛々子は怒らせると怖いタイプである。いつもの甘ったるい猫なで声はどこにいった。
「はぁ。ほんと……ぴっぴは変なやつだよね」
お前には負けるけどな。
と、普段なら言い返すところだが、先ほどの声が怖すぎて俺は何も言えなかった。へらへら笑って誤魔化している自分が情けない。まぁ、ヤンキーとかを前にするとオタクはだいたいこんな感じになるので仕方ないのである。根っからのへたれなんだ。
「最初は、どうせこのもやし野郎もママの彼氏みたいにすぐ本性を出すんだろうなって、思ってたけど……いつまで経ってもわたしに何もしないし、それどころか気を遣ってくれてて、ふと思ったの」
「な、なにを思ったんだ?」
「こいつなら、わたしに対して酷いことしなくない? って」
「まぁ、酷いことなんてしないけど」
「うん。わたし、女を下に見てない男って初めて見たから、びっくりした」
「お前の周囲にいた男が異常すぎる件について」
「しかも、こんな綺麗な部屋に住めて、ごはんもちゃんとあって、ベッドもふかふかで、好きなお洋服もたくさん買えて……だから、気付いちゃったわけ」
田中凛々子という、不幸な境遇の少女がこの生活に思っていること。
それは、意外な内容だった。
「あれ? この生活って、わたしが普通に生きてるより幸せじゃん――って」
……そうなるんだ!?
でも確かに、凛々子の境遇を考えると、そうなっちゃうのかもしれない。
「パパ活もしなくていいし、お金に困ることもない。ママとヒモ男に付きまとわれる心配もない。しかも、隣には優しいオタク君がいる。へたれどーてーなのがムカつくけど……まぁ、わたしのこと大切にしてくれてるって思ったら、なんかかわいいから許せちゃう♡」
そこまで言ってから、凛々子はようやく顔を上げた。
先ほどまでうつ伏せ状態だったのだが、少しは気持ちが前向きになってきたのかもしれない。愚痴を吐き出してスッキリしたのかな? 表情も明るくなっているように見える。
「それに、この部屋での生活ってあれじゃん? 夫婦生活みたいなものだから、別に大変でもないんだよね。てか、むしろ楽しいって感じ?」
「楽しんでるのかよ」
「うゅ」
なるほどね。
道理で、凛々子がこの部屋から出るための行動を何もしていないわけだ。
彼女はこの生活にストレスがないのかもしれない。
むしろ、元の生活の方が大変なことが多かったのか。この部屋は外に出られないが、逆に考えるとそれだけしか制限がない。そう考えると、凛々子にとってここの生活は穏やかになるみたいだ。
ふむふむ。そうか。
凛々子はここの生活を気に入っているのか……ずっと嫌がっていると思っていたので、そう感じているとは知らなかった――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もし続きが気になった方は、ぜひ『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m




