第二十一話 元の生活と比較すると、意外とこの生活は悪くない
日中はずっと病んでいたが……日が沈んできて、少しずつ調子が戻ってきたのかもしれない。
起き上がった凛々子の表情は、朝よりも大分元気そうだった。
「ぴっぴは楽しくないの?」
「……この部屋での生活について、か?」
「わたしとの生活、ね」
い、言いなおさなくてもいいだろ。
どっちも同じ意味だし……まぁ、こういう時に凛々子のと生活は最高だよ――って言えるような男なら、今頃もっとイチャイチャしてたんだろうなぁ。
凛々子の愛情に応えられる器のない、ヘタレ童貞野郎で本当に申し訳ない。
今の俺には、こう言ってあげることで精いっぱいだった。
「……嫌いではない」
「ねぇ、男のツンデレって意味あるのかなぁ」
「男のメンヘラくらい需要はないだろうな」
「ま、こんなぴっぴを好きになれるのはわたしくらいだし? そう考えると、誰にもとられる心配がないからお得かにゃ♡」
お。地雷系女子特有の、変なポジティブさも出てきてる。
メンタルの不調はどうにか落ち着いたようだ。いつもの調子に戻っていて、少し安堵した。
やっぱり、凛々子はこうやって明るい方が彼女らしいと思う。
……そう思っているあたり、なんだかんだ俺も凛々子のことを心配していたのだろうか。
男のツンデレはまったく可愛くないのに……やれやれ。
「てか、オタクくんは高校受験してたの? やっぱり頭は良かった感じ? 頭良いところしか取り柄なさそうな顔してるもんね」
「どんな顔だよ……まぁ、実際そうだったんだけど」
悔しいけど、凛々子の言う通りだった。
「学校の成績はそこそこ良かったよ。何せ、友達がいなくて勉強時間がたくさん確保できてからな!」
「すごーい。ぼっちなことがカッコイイとか思ってそうできもーい」
「か、かっこいいとは思ってないけど!?」
人間強度が下がるとは思ってたが、それはさておき。
とにかく、成績は良かった。高校受験も、地域内では名の知れた有名なところを目指していた。だが、一つだけ注釈を入れておかないといけないことがあるだろう。
「まぁ……高校受験の日に交通事故にあってさ。俺も実は、本命の高校に受験できてない」
不運、という言葉で片付けていいことなのかは怪しいが。
受験に備えて、前日に夜更かしして勉強していたせいで、その日は少しだけ寝坊した。慌てていて注意力も散漫だったうえに、普段は透らない小道を近道のつもりで歩いてしまって……結果的に、視界の悪い場所で角を曲がってきた車とぶつかったのだ。
車は減速していたので、大きなけがはない。ただ、衝突の際に転倒したので、念のため病院に行って受験を受けることができなかったのだ。
「えー!? めっちゃ最悪じゃん……それで受験できなかったんだ」
「いや、俺が原因の問題ではなかったから、二日後に特別に受験を受けることはできたよ。ただ、点数が足りなくて落ちてた」
「……む、むずかちぃ」
「分かる。これって事故のせいなのか、俺の勉強が足りなかったせいなのか、よく分からんよな」
反応に困る、というのはまさしくこのことを言うと思う。
ともあれ……伝えたかったのは、俺が第一志望の高校に行けなかったという話だ。
「一応、二次で別の高校には合格してたよ。名前さえ書けたら誰でも受かる高校だったけど、そこでちゃんと勉強して大学に行こうかなって思ってた矢先に……この部屋に連れてこられたわけだ」
一応、俺は高校生にはなることはできていた。
ただし、それは妥協的な結果に過ぎなかったのは否定できないわけで。
「まぁ、治安の悪い高校だったし、たぶんヤンキーにもいじめられてたと思う。あと、大学進学のお金も用意できるか怪しかったから……うん。ここでの生活は、意外と悪くないよ」
俺も凛々子も、人生が順風満帆とは決して言えない状況だった。
そう考えると、この部屋で凛々子と過ごす生活は……むしろ楽しいと言えるものかもしれない。
「えへへ。それなら良かった♡ ぴっぴに迷惑と思われていたら嫌だったもん」
「迷惑とかではないよ」
「うん。じゃあ――これからもよろしくねっ」
「こちらこそ、よろしくな」
強く握手を交わした。
これでまた、俺と凛々子の絆が深くなった……って、待て。
なんでこんな結末になったんだろうか。
最初は別の話をしていたと思うんだけど。
でも、まぁいいか。
凛々子と話していると、細かいことなんてどうでも良くなる。
とりあえず、今が楽しければそれでいいか――。
【あとがき】
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