第十話 りりぽんが意外といい子すぎた結果
この部屋の浴室はなぜかガラス張りである。
凛々子がずっと前にこう言っていた。『ラブホ』かよ、と。
俺は行ったことないのでよく分からないのだが、どうやらラブホはこういう構造のところもあるらしい。いや、なんであいつは知っているんだと不思議に思うのだが、返答が怖いので聞いてはいなかった。
凛々子は基本的に明るいのだが、なかなかの闇を抱えていそうなんだよなぁ。
三年経って彼女がどういう人間なのかはある程度把握できた。でも、この部屋に来る前のことは、実はあまり分からない。
いつだったかな。前に一度だけ、凛々子の家庭環境について教えてもらったことがある。父親はいなくて、母親だけの家庭だったとのこと。しかも母親がかなり若くて、よく男を連れ込んでいたと言っていた。だから彼女は家にあまり帰らなかったようだ。
……うん。彼女の家庭環境はちょっと重い。
まぁ、俺の家も父親しかいなくて、しかもギャンブル中毒だったので負けず劣らずなのだが……それはさておき。
とにかく、この部屋の浴室はガラス張りなので外から丸見えである。だからすぐに服は脱がずにボタンを押してまずは浴室にお湯を貯め始めた。こうすればお湯を張っている間に湯気で曇って外から見えなくなる。
この部屋で快適に過ごすための対処法だ。こうしておけばお互いの裸は見なくてすむ。
「おい見るな」
「湯気で見えてないよ~」
「あっち行け」
「ぐへへ」
ガラスに手を当ててこちらを覗こうとしていたバカを追い払ってから、ようやく服を脱いだ。
凛々子はトイレかな? ついでに俺の様子も見に来たのか……まったく、貧相なオタク男子のもやしみたいな体なんて見たところで楽しくないだろ。
ピッとボタンを押して今度はシャワーから水を流す。前に住んでいたおんぼろアパートは蛇口だったし、お湯もたまに出なくなったりしていたので、この高そうな設備を使えることだけは少し嬉しかったりする。
(ふぅ……本当に、あいつは変なやつだな)
シャワーを浴びながら、ぼんやりと凛々子について考える。
共同生活を過ごして三年目だ。最初の方は険悪だったが、徐々に俺に慣れてきたのかいつしか態度が好意的になっていった。
田中凛々子。自称りりぽん。
彼女が嫌な人間であれば、あるいはもっとこの部屋から出ることに必死になっていたとしてもおかしくない。
窮鼠猫を噛む。人だって、追い詰められたらなんだってする。
だが、凛々子は見た目に反してまともだった。一緒に過ごしていても、悪くないと思わせるほどである。
……長く一緒に過ごしたからこそ、分かったことがある。
地雷系女子りりぽんは、根がかなり善良である。人の話を聞かないところとか、ノリの軽さや垣間見せる闇の深さこそあるものの、他者を害してまで自分の利益を得るような真似はしない。
(もし、生まれ育った環境が普通だったなら――)
地雷系女子のような雰囲気を出してはいるが。
しかし、そうなってしまったのは家庭環境の問題が大きい気がしている。もしまともな場所で育ったなら、真っ当な人間になっていたかもしれない。
つまり、彼女は悪人じゃない。
だからこそ、やっぱりこの状況で俺と二人きりにさせていることは、可哀想だった。
もっとイケメンで、気が遣えるようないい男なら良かったと思う。
でも俺はそうじゃない。凛々子のためを思うなら一刻も早く部屋を出たい……そのために先ほど頑張ってはみたのだが、失敗に終わった
凛々子には申し訳ないが、この部屋を出るのはもっと後になりそうだ――。
【あとがき】
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