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うさぎの森

 大阪・日本橋をにぎわせたコンセプト系メイドカフェで忘れてはならないのが「うさぎの森」だ。

 壁に森が描かれた階段を登っていくと現れる、二階の入り口へと導く「二本橋」(ただの床の絵だけど)。

 その先で呼び鈴を押すと現れるうさぎをモチーフとした制服のメイド。

 ランプを点灯(とも)して案内される暗い席。

 途中には天井に連なる大木の模型まであった。

 そこを抜けると本格的な内装をほどこした店内が広がる。

 百席くらいはあっただろうか。

「世界観に没入するテーマパーク型メイドカフェ」と評されただけのことはあった。


 実は私、「うさぎの森」には開店初日に行っている。

 が、そこにはイマイチ推せない堅苦しさがあった。

「勝手に立ち歩かない。知り合いがいても話してはならない。ルールに反したら即退店」

 そして、インカムをつけた黒服の男性――コウモリさん――が店内を厳しい目つきで見張っているのだ。

……いやもう。案内された席の三方に知り合いが坐っていて、目礼だけでやり過ごさなくてはならない居心地の悪さといったら。

 カクテル類は充実していたと思う。来店レベルが上がるとオリジナルカクテルも残せる、という制度もあった。ただ、ご飯メニューがひどかった。

 お好み焼きとおにぎりのセットがこの値段!? という感じだった。

 とにかく高かった。そして、その値段に見合う出来ではなかった。

 お好み焼きならずっとおいしい有名店が歩いてすぐのところにある。おにぎりはコンビニで買えばいい。内装とコンセプトと衣装でここまで頑張って、なんでこのメニュー設定なんだよ!

 さて、私には「一度行っただけで評価は定めない」という信念がある。

 だからしばらくして再度行った。

 黒服の姿は消えていた。よほど評判が悪かったらしい。

 けど、料理のまずさは相変わらずだった。お好み焼きは二度と頼むまいと思った。

 それでも月に一度は通っていた。知り合いのメイドがいたのと、そこそこおいしいカクテルが飲めたからだ。――量は少なめだったけど。

 ちなみに、以前書いた『夢が壊れるメイド喫茶』では、両手をべったりつけたシェイカーで、何やら呪歌を唱いながら氷がとけて酒が薄くなるほどの長時間シェイクをするというひどいパーフォーマンスがあった。そういうアホな事をせずに、きちんとした配合のカクテルを出してくれたのはありがたかった。

 開店時のブームが去ると、案の定「うさぎの森」の客数は減っていった。

 ある時、なじみの「うさぎさん」にこう言った。

「せっかくオープンキッチンになってるんだから、ステーキ焼いて炎を立ち上がらせるくらいはやってもいいんじゃないか?」

「それはやってみたいんです。けど、防災上の問題が……」

 ガラスで囲われた鉄板焼きのキッチンなのだが、言われてみると確かにうさ耳ヘッドドレスに火が燃え移っては大変だ。

 やがて「うさぎの森」はキャストの生誕イベントをやるようになった。

 なるほど、その日には一定の集客がある。

 けど、それ以外の日が過疎るのは今まで通りだ。

 ある時、なじみの「うさぎさん」が面白いことを言った。

「この以上売り上げが下がると、私たち皮を剥がれて下のお店で売られちゃうんです」

 確かに、一階の店は中古のコスプレ衣装も売っているアニメショップだった。

 渾身の自虐ギャグだった。

 さすがに可哀想になって、いつもの倍くらいは酒を飲んだ。

 でも、来店頻度が上がることはなかった。


 しばらくして「うさぎの森」は東京へと移り、なじみの「うさぎさん」もそこに移って行った。

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