08【仲間】
平たい大岩に近付いて行くと不自然い舞う砂煙が見えて来た。
やっぱり何かが居るみたいだ。
耳を澄ませば戦っているだろう金属と金属がぶつかる様な音が聞こえる。
「岩の左側に何か見えるわ!」
「戦っているみたいだな。早く応戦するぞ!」
「うんっ!」
平たい岩の横では背丈が2メートルほどで銀色の鎧を着た剣士が巨大な剣を振っている。よく見ると頭が無い。ってことはただの人間ではない。人型の魔物だ。
そしてその魔物と戦っているのは一人の冒険者だ。その見た目を見たとき自分の目を疑った。
戦っている冒険者の格好や戦闘スタイルはまるで忍者そのものだ。
忍者の冒険者は軽やかに動き回り首無し剣士を圧倒していた。
これは助太刀に入る隙が無い気がする……。
僕は杖を出し臨戦態勢に入ったが何かを悟ったアルラとレイサは武器を仕舞うとその場にあった岩に腰を掛けた。
「もう終わりか」
「そうね。私たちの出番は無いみたい」
「えっ? それってどういう――」
理由を聞こうと瞬間首無しの剣士が前のめりに倒れ砂煙が舞うとともにその姿を消した。無事倒したようだ。
しかし忍者の冒険者もそこそこダメージを受けていたらしくその場に膝を付いた。
「ナギサ、あいつに回復魔法を頼む」
「うん、わかった」
僕はすぐに忍者の冒険者の下へ向かった。
近くで見ると忍者の格好に似せた感じだ。
お手製なのだろう。所々縫い合わせた部分が目立つ。
「大丈夫? 今、回復魔法かけるね」
僕は杖を忍者の冒険者に向け、回復魔法をかけるとその身体が光に包まれ傷口が塞がっていった。
実際にこうしてみるのは初めてだ。魔法を使ったって感じがする。
「ありがとう。お前たちは冒険者か?」
「そうだよ。僕は昨日なったばかりだけどね。その忍者の服自分で作ったの?」
「えっ、あ、うん。似ている服を買って改造しただけだけど」
「器用なんだね。よし回復完了っと」
傷は完全に跡形もなくなり血の跡なども綺麗さっぱり無くなった。
流石に服の破けなどは直せないけどね。
僕は忍者の冒険者と共にアルラとレイサの下へ向かった。
「えっと自己紹介がまだだったね。僕はナギサ。白魔導師だよ」
「俺はアルラ。剣士だ。そんでこっちが――」
「レイサよ。アーチャーをやっているわ」
「俺の名前はカケル。よろしく」
忍者の冒険者はカケルと言うらしいが思いっきり日本っぽい。
もしかして僕と同じ転生者なのかな?
いやいや、まさか……。でも偶然すぎる。
僕たちはカケルと共に荒野を歩き続けた。
「そう言えばカケルは誰かと一緒にクエスト受けに来たの?」
「ギルドで会った人達と来たんだが砂嵐に巻き込まれたとき逸れて、探しているときにあの首無しの奴が現れたんだ」
「逸れた他の冒険者も探さないとね」
僕たちは逸れた冒険者と魔物を探しながら歩いた。
道中何体かの魔物を倒していると進行方向にある大きな木の所で休んでいる人影が見えて来た。よく見るとそこには甲冑を着て剣を腰に構えている冒険者と同じく甲冑姿で大きな盾を持っている冒険者、大きな杖を構えているロングコート姿の魔導師が居る。
「あそこに三人居るね。カケルと一緒に来た冒険者じゃない?」
「んーっと……うん、あの人たちだ。全員居るな三人とも無事そうだ」
僕たちはカケルと一緒に来たという冒険者に合流した。
どうやらあっちもカケルを探していたらしい。
アルラは近隣の状況報告を大盾の冒険者と共有した。
「――ってことはこの辺りにはもう居ないんだな?」
「あぁ、仲間が周囲を感知したが魔物が全然居なくてそろそろ引き返そうとしていたところなんだよ。俺たち全員魔力の限界が近いし」
「それじゃ俺たちはもう少し見て回ろうか。ナギサはまだ魔力大丈夫か?」
「うん、まだ平気だよ。カケルはどうする?」
「俺はまだまだ戦える。回復してもらったし」
カケルと一緒に来た冒険者は先に町に戻り僕たちはカケルと共に一緒にもう少し周囲を散策することになった。
しかし周辺を散策しても魔物が思ったより居なかった。
他の冒険者が狩りつくしたのかな?
気が付けば地平線に太陽が沈み始め空は闇色に染まり始めた。
もうすぐ夜がやって来る。
「だいぶ暗くなってきたな」
「戻るのも危険だからこの辺りで野宿するしかないわね」
「だな。明日の早朝、日の出とともにここを出て町に帰るか」
「うん、わかった」
僕たちは近くにあった巨大な洞穴で野宿をすることにした。
一晩くらいの食料なら念のために持って来ていたので何とかなる。
荒野の夜は寒くなるらしく僕は魔法を使い枝に火を点けた。焚火なんてやるのは小学校の林間合宿以来だ。
「見張りを立たせて交代で寝るとするか」
「僕が最初見張り役引き受けるよ。みんな疲れているだろうから先に休んで良いよ」
「それじゃナギサが一番で残りの見張り役の順番決めるか」
「了解」
「分かったわ」
クジの結果、僕の次はカケルでその次がアルラ、最後にレイサという順番になった。
僕は杖を出し、洞穴から入口辺りを監視した。
最初にやると言い出してなんだけど魔物が来たらどうしよう……。
ちょっと怖くなってきたかも。
魔力はまだある為、時折魔力探知も使ったが反応はなく気が付けば交代の時間が近づいて来ていた。
「(結局他の冒険者も魔物も見つからなかったなぁ……)」
僕は収納魔法で異空間に仕舞ってあった魔導書を取り出し松明の明かりを使い読み始めた。
この本には初級の魔法が載っている為、魔力の使用量が少ない魔法の練習をして時間を潰した。
支援魔法の練習をしているとカケルがやって来た。
「魔法の練習していたのか」
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、なんか目が覚めちゃってさ。何か異常とかあったか?」
「何もなかったよ。冒険者も魔物も反応は無かったし暇だったよ」
「大丈夫そうならちょっと外行こうか」
「外?」
僕はカケルと共に洞穴から外に出た。
昼間とは違い涼しいというか寒いくらいの風が吹いている。
遠くまで見えていた景色も今は闇に染まっていて不気味だ。
「上を見て」
「上? ――っ!?」
空を見るとそこには満天の星空が広がっていた。
町に居たときは気が付かなかったが凄い星の数だ。
僕たちは近くの岩に腰を掛けた。
「わぁ、綺麗……」
「だろ。俺たちの世界じゃ滅多に見られないからな」
「俺たちの世界?」
「ナギサもあっちの世界出身だろ?」
「なっ、なんでそれを?」
「なんでって、俺の服装見て忍者って言っただろ? この世界では忍者って言葉は存在しないからな」
「あっ……」
「こうやって忍者の格好をしていればナギサみたいに転生者が気づくかと思ってな」
「その罠に僕はまんまと引っかかったわけね……」
「まぁそういう訳だ。さてと、後は俺が見張っておくからナギサは休んで良いぞ」
「でも交代時間までまだまだだけど」
「回復してもらったお礼だ。ナギサだって魔力使って疲れただろ?」
「それじゃお言葉に甘えさせてもらうね。お休み」
「おぉ、お休み」
僕は洞穴の奥へ行き焚火で少し暖かくなった岩の上で横になった。
硬くて寝心地が最悪なはずなのに急に疲れが出てあっという間に眠りに着いた。
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