No.07 Conclusions:絶対不利的状況なのです
扉を開くと、そこは大きなお城のエントランスホールのようになっていた。
氷雪の城。
全体が氷で覆われ、天井と床、そして外壁といったシンプルな作り。
お城にしては装飾が少なく、入り口の扉の豪華さからすると少々拍子抜けする内装である。
しかし、戦闘を行う場としては適しているのだろう。
「複雑な罠やギミックはなさそうですね」
井宮が中を見渡して呟いた。
「確かに無駄な小細工はなさそう。でも……」
「これはつまり、正々堂々の勝負をボスが望んでいるということだよ。それだけおのれの強さに自信があるということだ。下手な小細工仕掛けてくるやつより厄介だぞ」
「あら、分かってるじゃない。私も今までの経験上そう思うわ。みんな、気を引き締めて!」
城の中は空っぽだが、どこから襲ってくるのか分からない。
三人は各々お供のもふアニマルと共に戦闘態勢に入った。
静まり返る城内。
しばらくして入り口の扉が勢いよくしまった。
勝敗が決まるまで逃さないつもりなのだろう。
閉まる音に驚いて後ろを振り向いた教授と井宮だが、オフトンスキーさんはずっと城内中央を向き、構えていた。
「よそ見しない! 来るわよ!」
その声に反応し、構え直す教授と井宮。
城内中央部分が突如明るく照らされ、細かい氷の粒がパラパラと降り注ぐ。
初めのうちは綺麗だと思える現象であったが、その量はどんどん増していき、あっという間に滝のような降り注ぎ方になった。
そして降り積もった氷の粒は人型のような形になると、バリバリと音を立てて固まり、巨大なゴーレムとなった。
「嘘でしょ! アイスゴーレム? 動物ですらないじゃない。世界観どうなってんのよ! まあ、エリア5のボスがスコーピオンだった時点でおかしかったけどさ」
「ゴーレムですね教授」
「ああ、ゴーレムだ」
「これも教授達の設計ですか?」
「いや、違うよ。実は言うと、僕とイケメン達が携わっているのは、このゲームのエリア1と大まかな設定だけなんだ」
「他は?」
「自立思考型AIに任せてる」
「それってエリア7のラスボスに使われてるやつじゃないですよね?」
「まさしくそれなんだよ。当初は上手くやってくれる予定だったんだが、どうやら僕らの意図するところから外れて自分勝手な行動を始めたみたいだね」
「それはまた難儀な」
「とにかく、今は倒す以外に対処法はないよ」
教授は冷静にそう言った。
「ちょっとあんた達、こんな時にまで無駄話? 死にたいわけ?」
もちろんこのゲームでやられたところで実際に死ぬわけではない。
しかし生死について言及するということは、このオフトンスキーさんがそれだけゲームというものに真剣に向き合っているということだ。
荒っぽいゲーマーの中にも、生死について口にする者がいるが、彼女にはそれとは違うものを感じる。
ゲームの世界であろうと生き抜きたい。
命を大切にしたいという意思が込められているように感じられる。
「ウゴォォォ!」
城内にアイスゴーレムの叫びが響き渡る。
氷でできているから透き通るような美声になるなどと言うことはなく、イメージ通りの低い声だ。
「私が先頭を切って攻撃を仕掛けるから、あんた達は両サイドで援護! トライアングルフォーメーションよ!」
「承知した。イーミャは左を頼むよ。僕は右行くから」
「はい!」
とうとう戦闘が始まった。
相手がどう出るのか、それは分からない。
ならば先手必勝と、オフトンスキーさんがゴーレムの懐まで一気に距離を詰めると檻ハルコンソードを大きく振り下ろす。
しかしどういうことか、彼女の刃が当たることはなく、それどころか驚くほどの速さで回避し距離をとられた。
「どうして?!」
驚くのも無理はない。
あれだけの巨体でありながらとんでもない起動力。
本来なら移動の直前に大きなアクションを必要とするような動きである。
「予備動作もなく移動ですか。あの巨体ですから攻撃力が高いだろうという予測はしていましたが、まさかスピードも兼ね揃えているとは。どういうことなのでしょう?」
「イーミャ、摩擦抵抗だよ。ここは全面氷でできている。ゆえに摩擦抵抗が著しく下がっているんだ。やつはそれを自在に利用できる能力があるということだ。そうだろ? オフトンスキーさん」
「なるほど! 摩擦抵抗ね……って、そ……そんなの気づいてたわよ! とにかく、単体でせめても逃げ場が生じるわ。各々別の方向から攻撃を仕掛けるわよ!」
「俺らも攻撃に? 援護向きの小型もふアニマルで攻撃しろと?」
「ダメージは期待してないわよ。ヒットアンドアウェイでいいから、そうすれば多少の隙は生まれるでしょ!」
「イーミャ、戦況は刻々と変わるものだ。止む終えまい、行くぞ!」
「分かりましたよっと」
三者三様に攻撃を仕掛ける。
右から左から。
時には背後から。
しかしこの作戦も思ったような成果が出なかった。
「なんで、なんで、なんで! どうして当たらないのよ!」
彼女の剣さばきは間違いなく一流だ。
しかし、一度も当たることはない。
踏み込んだ段階ですぐに距離をとられてしまう。
それが背後からの攻撃だったとしてもだ。
「えい」
そんな中、何を思ったか教授がゴーレムに向かって氷の破片を投げた。
その破片がゴーレムの近くに落ちると、ゴーレムはその場から距離をとる。
「聴覚が良いのか。あんな小さな破片の落下音にすら反応するとは。オフトンスキーさん! やつは僕達が踏みしめる床面の氷の音を察知して回避行動をとるようだ」
「はぁ? そんなの反則じゃない! こっちは踏みしめないと滑って転ぶっての!」
「ごもっともですね」
「どうしろっていうのよ! ずっと鬼ごっこしてるわけにもいかないのよ!」
怒りに任せて切り込むオフトンスキーさん。
しかしオフトンスキーさんを乗せているアルパカの体力も無限ではない。
疲れが出たのか踏み込んだ瞬間に滑ってしまった。
バランスを崩すオフトンスキーさん。
転びはしなかったが、その隙をゴーレムが無逃すはずもなく、オフトンスキーさんめがけて腕を振り回すゴーレム。
「もふ柴ドッグ、ゴーレムの気を引くんだ!」
「もふキタキツネ、狐火と使え!」
オフトンスキーさんの危機を回避させるため、教授と井宮は攻撃を仕掛ける。
「ウゴォ?」
するとゴーレムは攻撃をやめて回避行動を行った。
「おっとっとぉ~」
そしてその間にオフトンスキーさんは体勢を立て直した。
「ナイスバランスだ」
「どうも。そっちこそ、助けてくれてありがとう」
「お互い様だよ」
何とか危機は回避したが、状況は変わらないどころか悪くなる一方。
「さて、どうしようかなぁ。アイテムは薬草と閃光弾三つか。君らは?」
「俺はアイテム枠全部薬草で埋めてるっす」
「同じく」
「うわぁ~」
落胆するオフトンスキーさん。
「そういうオフトンスキーさんも似たようなもんじゃないすか」
「当たり前でしょ? 無課金なんだから」
「ええ! 無課金なんすか? でもその檻ハルコンソード……」
「今まで得たアイテムのほとんどを売ってそのお金で買ったのよ」
「それで総合ランク7位って、すごいですね」
「彼女はプレイヤースキルの高さでのし上がってるんだよ。下手な無課金より数倍すごいぞ」
「な、何か褒めてくれてるけど、これからどうすんの? 相手は滑って回避。こっちは滑ってピンチよ?」
彼女の言うとおり、相手の地の利が大きすぎる。
「せめてここが平原なら上手く立ち回れるんすけどね」
「平原……」
「どうかしたの? ちびっ子」
「ちびっ子って言うなよ。でも喜べ、いい案を思い付いたぞ!」
「何をするつもり?」
すると教授は両腕を広げて答えた。
「ここを平原にしてしまえばいいんだよ!」




