No.06 Discussion:氷の世界で無双するのです
総合ランク7位の実力は伊達ではなかった。
一騎当千とは彼女のような存在を指すのだろう。
ものすごい速度で走り回るアルパカ。
それを乗りこなし、檻ハルコンソードで敵アニマルを華麗に切り裂いていくオフトンスキーさん。
恐らく教授の意向とゲームの年齢制限のためなのだろう。
切り裂かれたアニマルから血が流れることはなく、機械的に光の粒子となり散っていく。
教授と井宮はついていくので精いっぱいだった。
「教授、彼女すごいですね。一体どうなってるんでしょう?」
教授は自慢げに答える。
「イーミャ、もふライオンはステータス的にはこのゲーム最強のアニマルだ。しかし、飼いならすのが難しい。いくら課金をしたところで、もふ度は簡単には上がらないのだよ」
もふ度。
それはこのゲーム内では、アニマルとの親密度を表しており、これを上げることで全体のステータスが上昇するというものだ。
「そうは言いますが教授、もふライオンとアルパカでは元のステータスに圧倒的な開きがあると思うのですが」
走りつつ井宮が反論した。
「圧倒的ねぇ。それは彼女のアルパカがどれ程のもふ度か知ってから発言して欲しいね」
「というと?」
「彼女のアルパカは、もふ度999だよ」
「カンスト!?」
「そうだよ。並大抵の愛情では到達できない領域だ。そしてその結果、もふライオンに次ぐステータスを持っているんだよ」
「そうだったんですね。しかし、それほどの愛情があるならそれこそもふライオンを捕まえて育てた方が良い気もしますね」
「きっとアルパカだけが好きなんだよ。それに彼女の凄さは、所持しているアニマルの強さだけじゃない。イーミャも気づいているだろう?」
問いかける教授。
しかし井宮が答えるよりも早く、オフトンスキーさんの怒声が放たれる。
「なにごちゃごちゃ言ってんの? 置いてくよ!」
オフトンスキーさんは一度振り向き、教授と井宮を見ると、すぐにまた前を向いてアルパカを走らせた。
もはや彼女一人でも十分なのではないこと思うほどの快進撃でエリアを攻略していく。
そしてマップの表示からすると、戦闘エリアの中間地点を少し超えた所までやってきた。
そこにはもふペンギンの群れが臨戦態勢で待ち構えていた。
しかし、彼女の前では数の暴力も意味をなさない。
圧倒的な起動力で敵の間合いに入ると、ばっさばっさとなぎ倒していく。
このゲームでは基本的にどれだけもふアニマルを育成できるかがカギとなる。
しかし彼女の場合はその育成を防御性能に振り切り、攻撃は自身が主に行うという珍しいスタイルをとっているのだ。
VRの世界とはいえ、かなりの戦闘技術が無くては出来ない戦法だ。
「グアァァァ~!!」
可愛らしい見た目に反して、恐ろしい断末魔を放ち消滅していくもふペンギン達。
敵とは言えども少しかわいそうになるほどだ。
「イーミャ、これが弱肉強食というものなんだね」
少し遠くを見つめつつ教授が言った。
「そうですね。俺達ものろのろしてたら狩りの対象にされかねないですね」
それほどまでにオフトンスキーさんは迫力満点だった。
そして気が付けばボスの部屋の前まで到達していた。
教授と井宮がやったことといえば、オフトンスキーさんが倒し損ねた敵アニマルを少し小突いた程度であり、ほとんど無傷であった。
「到着しちゃいましたね。薬草大量に用意してきたんですが、無駄になるかもしれませんね」
「それは分からないよイーミャ。備えあれば憂いなしだ」
「その通りね! 中堅ランクだからと甘く見てたけど、状況判断だけはしっかりしてるみたいね。これなら少なくともおとりくらいの役割は果たしてくれそうね」
「おとりって……」
「いや、イーミャ。僕達にできるのはそれくらいだし、もとよりそのつもりだったからね」
その発言にフードを深々と被ったオフトンスキーさんは満足げにうなずいた。
「えっと、モフスキーとイーミャだっけ? よろしく頼むわよ!」
「ああ、こちらこそだ」
「よろしくっす」
出会ってまだ三十分も経っていないが、共通の目的を持った三人の心はまとまりつつあった。
目の前には氷でできた大きな扉。
この先に凶悪なボスアニマルが潜んでいるのだろう。
しかし突入を前にしてオフトンスキーさんは一つ質問を投げかけた。
「こんな時に言うのもなんだけど、ずっと気になってたから聞いてもいい?」
「何でしょう?」
「君のそのプレイヤーデザインって、スキャン? それともクリエイト?」
「僕もイーミャもスキャンだよ。クリエイトとか面倒だし、普段の姿とかけ離れちゃうと違和感あるからね」
「てことは本物のちびっ子?」
「ちびっ子とは失礼な」
「すまない、ちょっと驚いただけよ。さあ、ボスとご対面しますかね!」
オフトンスキーさんは扉に取り付けられたスイッチを押した。
するとガリガリと床面の氷を削る音と共に扉が開き始めた。