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当然の責務と同じことと出血

どこか生気の抜けた川伊達を連れて、

繁牙達が去っていく姿を見送る。


しばらくすると、控室から着替えの終えた北斗が、

ゆったりと歩いてきた。


「少しぐらい時間をとってもかまわんぞ?」

「いいよ、早く帰りたい。」


少し疲れを見せる北斗の様子に、

スマホを取り出したとき、

パタパタと着替えを終えた太一が走ってきた。


「さっき、事務所から連絡があったんだけど。」

「太一殿の移籍は嘘ではない。」

「どうして僕のことを………。」


思わず目をそらせてしまう北斗。

だが、朱鷺は軽くその様子にため息を付くも答えた。


「太一殿の存在がいる生活が、

 北斗と藤にとっての当たり前の生活だ。

 私はその当たり前の生活を守ることを仕事にしているのでな。

 太一殿を守るのも当然の責務だ。」


そっか、と呟くと太一は優しく笑った。


「うん、僕にとっても、

 北斗くんと藤くんのいる生活は当たり前なんだ。」


気まずそうだった北斗の表情が和らいだ。


『太一殿のこういう所は誰もかなうまい。』


魔法のような仙羽 太一の魅力に朱鷺は尊敬の念を込めた。

すると、太一は突然「あ」と何かを思い出した。


「そういえば!北斗くんって、どうやったの!?」

「何を?」

「クイズの答えだよ!

 どうして僕と全く同じ回答が出来たの!?

 回答の冊子だってパラパラって見てただけなのに!!」

「あ、それは………。」


微妙な表情に変わった北斗に詰め寄る太一。

それに答えたのは朱鷺だった。


「“瞬間記憶”であろう?北斗。」

「瞬間記憶?」


太一の持っていた冊子を朱鷺は受け取りパラパラと見る。


「一瞬で見たものを覚えてしまう能力のことだ。」


全ページを見終えると彼に返し、

そして、問題と解答を最初から順に答え始める。


北斗と太一二人とも驚いた。


「と、まぁ、こんな感じでな。」

「え、凄い!朱鷺ちゃんも同じこと出来るの!?」

「君って人は………。」

「お主も前に言っていただろう?

 “君の脳と俺の脳はちょっと似てると思う”とな。

 てっきり気づいているものだと思っていたのだが。」

「本当に。」


何でも見抜いたようなその目をそらす。

気づかれている。


それだけでは無いことも。


その時だった、朱鷺のスマホが鳴り響く。


「清理!連絡が遅いぞ!」


開口一番にダメ出しが飛んだが、

朱鷺の表情がすぐに変わった。

わかったと返事をすると通話を切った。


「二人とも急いでついてきてくれるか?」

「了解!」


『まさか。』


北斗の脳裏に嫌な予感が走る。


*********************


「藤!!」


藤と清理のいる部屋に急いで駆けつけると、

そこには床に倒れる藤の姿があった。


「何事だ清理!!」

「すみません!藤さんの鼻血が止まらなくて!」

「鼻血だと?」


北斗が藤を抱き起すともはや紙では足らず、

タオルで鼻を抑える。


「大、丈夫だよ………。」

「無茶をしたな!」


力が入らない藤の代わりに北斗が抑える。


「何をしていたんだ!?」

「それが藤さんがここのシステムをあたってて、」

「システムを?」


パソコンに触れて様子を確認する。

確かに操作された形跡があった。


「どういう、」

「荒方さん!ごめん!話はあとにして!」


北斗の声にはっと我に返る。


「早く藤を運ばなきゃ、発作が起きるかもしれない!」

「発作!?藤さん、持病持ちですか!?じゃあ、病院に、」

「それはダメだ!!」


すぐに北斗の静止が入った。


「ごめん、病院には………ダメなんだ。」

「何を言ってんですか?」

「頼むから、家に………家に急いで帰らせて。」


彼のいつもと違う様子に清理も困惑していたが、


「わかった、清理、車を入口に移動させてこい。」

「と、朱鷺さん。」

「急げ!!太一殿も悪いが清理と一緒に行ってくれるか?」

「わかった!!」


2人が部屋を後にすると、朱鷺は藤の意識を確認する。

気を失ってはいないが体に力が入っていない。


「立てるのか?」

「俺が背負うから、荒方さん、支えてもらえる?」

「わかった。」


藤を北斗に背負わせると、

手早くパソコンの接続を外して荷物に入れる。

藤の真っ赤になったタオルを綺麗なものに取り換えて、

朱鷺が抑えてやる。

出血量が少し減ったように思える。


「………ごめん。」

「藤、気にしないで。」

「ほんの少しだけ耐えてくれ。

 車に乗ればすぐに帰る。」


もう片方の手でスマホをあたる。


「野菊、帰り道を誘導を頼めるか?

 最短最速で行けるルートを割り出してくれ。」

[承知いたしました。

 それと、今は会話をしてもよろしいでしょうか?]

「大丈夫だ。」

[そちらのシステムへの侵入が思ったよりも簡単だったので調べたのですが、

 回線がいくつかすでに解放されてありました、

 荒方様がおやりになられたのですか?

 少し、様子が違うようなので気になったのですが………。]


野菊の言葉にぐったりとしている藤を見た。

ほんの少しみたシステムは清理ではあたれなかったはずだ。

それなりに高度な技術だった。


『それを解除したというのか、藤が。』


そういえば以前、ゲーム大会の時に、

プログラミングをあたれるようなことは言っていた。


だが、時間が短すぎる。

野菊でも侵入するのにある程度の時間を要していた。


今回は野菊方面と藤方面からシステムの解放を進められたから、

こんなにも早い段階で野菊と通信が出来ている。

朱鷺の予想ではもっと時間がかかるはずだったのだ。


『まるで野菊とほとんどかわらない能力だぞ?』


朱鷺は一度、考えることをやめた。

とにかく今は家に素早く帰ることを先決するべきだと判断した。


「野菊、その点については問題ない。

 ここで使われていたシステムを解析してくれ。

 出来るだけ、周殿の情報を得たい。」

[お任せください。

 それと帰宅ルートのご案内は送っておきました。]

「いい調子だ、頼んだぞ。」


電話を切った後、藤の様子を確認する。


「出血は止まったようだな。」

「藤も意識なくなってるでしょ?」


北斗は一度背負い直した。


**********************


家に帰りつき、北斗は藤を部屋に運んでベッドに寝かせた。

そして手慣れたように机の引き出しからあるものを取り出す。


朱鷺はその行動を理解して、北斗の行動を手伝う。

2人の腕を一本の管でつないだ。


「………いつもしているのか?」

「滅多にないよ、今回は本当に久しぶり。」


北斗はタイマーを確認しながら、藤に輸血を行っていた。


「これで発作は起きなくなるのか?」

「いいや、そういうわけじゃない。

 ただ、発作が起きた時に抑えやすいのはこの部屋だから。」


ベッドの脇から拘束具を取り出して見せた。


「このためにおぬしは…。」

「ばっちり勉強したよ。」


藤のためだけに。


「………や……ま、と…………。」


聞きなれない言葉を、途切れ途切れに藤が呟いた。

聞いていいものかと悩んだ朱鷺の視線に、

気づいた北斗が悲しそうな笑みを浮かべて答えた。


「藤の実の弟の名前だよ。」


そういえば、先球 桜は養母だった。

藤が養子である話は知っていたが、

それ以前の話を聞いたことがなかった。


「前の家族は失ったからね………。」


2人の絶対的な壁を感じて、朱鷺はそれ以上聞かなかった。

失うことの意味を理解していたから。

そっと何も言わず彼女は部屋を出た。


藤の手を握る。


「君はどうしても教えてくれないんだよね?藤。」


ずっと身近で苦しむ君を見てきた。

手を伸ばせば触れられるというのに、

誰にも打ち明けられない想いも、

過去も、頑なに潜めているんだ。

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