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ざわつくと重なると溢れてくる

何事も無く収録は始まった。

問題など何一つ無かった。


クイズが出題されて、二人が答えていく。


ただそれだけのはずだった。

引退がかかっているなどとは公表はされない。

そう、ごく普通のクイズ番組。


突如、スタジオ内がざわついた。


「え………。」


と、声が出たが、偶然だろうとクイズは続いた。

再び、正解が続く。

だが、またざわついた。


「偶然か…?」


不穏な空気が少しずつ広がってくる。

それでも番組は続くのだが、

しばらくすると、また、ざわつく。


「何かおかしくないか………?」


川伊達が気が付かないはずがなかった。

スタッフを呼んで話を聞く。

彼らの答えにはっと頭が冴えた。


回答者である太一はどこか驚いた様子であり、

スタッフたちも戸惑い始めている。


ただ、朱鷺と北斗だけは余裕と嫌味の笑みを浮かべている。


「荒方…あんた、ただの無駄話に付き合わせただけじゃないのね。」

「さぁ?何のことだろうな?」


何度目かのざわつきにスタッフから中断の合図が入る。


「川伊達さん!これじゃあ、無理ですよ!」

「こんなの番組になりませんよ!!どうなってるんですか!?」


詰め寄られ、思わず歯ぎしりを立てる川伊達。


「どうかしたんですか?」


わざとらしく尋ねる朱鷺にスタッフは答えた。


「どうかしたじゃない!

 クイズ番組なのに回答者の間違え方が、

 全く同じなんて考えられるわけないだろう!?」


正解も不正解も、二人とも全く同じ回答だった。

一度や二度であればそうもなかったであろうが、

半分が過ぎても尚も全ての回答が二人とも一致している。


どう考えても仕組まれたようにしか見えず、

番組としては全く成り立たなくなっているのだ。


「とりあえず、中止ってことでいいのかな?」


ステージから降りてきた北斗がにこやかに聞いてきた。

その隣には困惑した太一もいる。


「北斗とは接触をしないでと指示をしたはずよ?太一君。

 結局、君はこの世界では生きてはいけないってことね?」


川伊達の冷たい視線に目をそらしたが、

北斗が二人の間に立ちそれを遮った。


「今ならまだやり直させてあげるわよ?

 北斗、あんたは太一君を守らないわけ?」

「いいや、守るよ。」

「この状況で何を言っているわけ?

 やってることと言ってることがかみ合ってないわよ?」

「………大丈夫だよ、俺は俺のやりたいようにやるだけだから。」

「自分で何を言ってるのか理解してるの?」

「俺は俺の願いを叶える。だから、太一を守るって言ってる。」

「いい加減にっ」


「僕は従いません!!!!!」


はっきりとそう響いた。

太一は北斗の隣りに立ち、真っ直ぐに川伊達を見る。


「これ以上、僕はこの番組に参加することは出来ません。」

「それがどういう意味だかわかっているの?」

「………僕の夢は誰かを傷つけることじゃない。」


川伊達の目に、彼の姿がある人物と重なる。


「僕はこの世界でどうどうと胸を張って、

 僕を見てくれる人たちを笑顔にしたい。

 だから、大事な友達を貶めることもしたくはありません。」

「この世界は弱肉強食よ?」


北斗と朱鷺の目にも重なった。


「例え、綺麗事だと言われても、あなたの指示には従わない。」


まるで最氷やまねのような強い眼差しがそこにある。


川伊達はスマホを取り出して電話をかける。

一言二言話すと顔色が変わった。


「何ですって?」


驚愕する川伊達の目前に今度は朱鷺が立つ。


「現地点を持って、仙羽 太一は、

 最氷プロダクションの所属となった。」

「「!?」」


北斗も太一も驚いた。


「最氷プロダクションはこの番組の契約に同意はしない。

 よって、このまま二人は引き取らせていただく。」


朱鷺は振り返り「帰宅の準備を」と二人に指示をする。

太一が控室に向かうと、北斗は朱鷺に手で合図をした。

軽く頷いた彼女は太一のほうへ向かって行った。


北斗が自分の控室に入ると予想通り、

川伊達 愛がノックも無しに部屋に入ってきた。


「やってくれたわね。」

「ずいぶん、君の手も甘くなったもんだね。」


北斗が振り返ると同時に、

川伊達が彼の首に注射器をあてた。

その状況でも北斗は顔色一つ変えない。


「その注射器は何?」

「中身はあんたもよく知ってるドラッグよ。」

「俺に使うの?」

「これ以上無駄なことはしたくないのよ。」


注射器の持ち方を変えてすぐに打てるようにする。


「玄宇 奄にも同じものを与えたね?

 あの子はそれの副作用を知っていたの?」

「さぁ?無駄話は好きじゃないから覚えていないわ?

 所詮使い捨ての駒なんかに使う気なんてないもの。」

「親父にもこの国で使うには早いって伝えたはずだよ?」

「関係無いわ、あんたの言葉など。」

「そうだね、君たちにとって必要なのは俺の脳みそだけだもんね?」


北斗が不敵な笑みを浮かべた。


「どうしたの?打たないの?愛さん。」

「いい加減に大人しく従いなさい。」

「打てないんだよね?それを打ったら大事な俺の脳が、

 使えなくなるのわかってるから。」

「黙りなさい。」

「それを打てば、親父が黙ってられるかな?」

「北斗!!」


一呼吸おいて北斗は言い放つ。


「ねぇ、愛さん。ゲームをしよっか?」

「!?」

「俺と愛さん………親父はどっちを選ぶのかな?」


ぎりっと歯ぎしりを立てる川伊達。


「あんたも優李も馬鹿なのよ!!

 兵佳様とあたしたちがどれほどの苦労をしてきたのか、

 微塵も理解できない!!

 このドラッグが周殿の家にとってどれほどの価値があるのか!?

 私たちはやっと大きな力を手に入れて、

 世界を変えていけるってことを理解できていないのよ!!」


そっと北斗は川伊達の両頬に両手を添えた。


「………もういいんだよ。」


川伊達は目を見開いた。


「もう、そんなことしなくても、世界は変わる。」


―――この子はいつから、


「俺や、君が思っている以上に、」


―――こんなにも、


「世界はとっても綺麗で眩しいよ?」


『優しい笑顔をするようになったの?』


「小さいころは、俺の話し相手なんて、君か兄貴しかいなかったけど。

 大きくなって大学に行ったら生まれも育ちも違う人が話しかけて、

 俺をイケメンだと言ったりこの世界に引き込んでくれたりする人がいて、

 俺の我儘を願いだと称して叶えてくれる人もいてくれるんだ。」


初めて人から与えられるその優しい笑みに、


「だから、もう少しでいいから周りを見てみなよ。

 そういう人たちが愛さんにもいてくれるかもしれない。

 ………というより、愛さんも、もうわかってるんじゃないの?」


北斗の瞳から流れる涙に、


「だから、敏腕プロデューサーしてるんじゃないの?」


もう何年も忘れ去っていたものが溢れてくる。


―――ねぇ、北斗!そのゲーム私にも教えてよ!


「愛さんも兄貴と一緒で面倒見がいいからね。」


悪い思い出ばかりじゃなかった。

本当にたまにだけれど、

“親戚のおばさん”の顔をしていた。


「………いい男になったわね。」


泣きながら呟いた彼女に本当に申し訳なくなった。


「ごめんね、悪い男にもなってるんだ、俺。」

「何それ。」

「ある人がね、教えてくれたの。

 俺たちは“サバンナの小鹿”なんだって、

 だから発言には気をつけなきゃいけないってね。」


ゆっくりと北斗はジャケットの内ポケットから、

あるものを取り出して彼女に見せた。

「馬鹿ね」と彼女が呟くとドアが開いて数名の人物が入ってきた。


「ご同行を願おう、川伊達 愛。」


仕込んでいたマイクから中の様子を伺っていた繁牙たちだ。

川伊達は大人しく彼らに従った。


「ごめんね、愛さん。」


―――あんたの口からごめんが出るなんて。


そんな言葉も出せなかった川伊達は、

代わりにまた「馬鹿」と呟いて笑った。

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