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捨てられないとミートソースと宣戦布告

「タイピンのお礼は何がいい?」

「お礼にお礼するの?」

「したいの。」

「ん〜、じゃあ今度誕生日だからケーキがいいなぁ。」

「どこのケーキ?」

「ふうちゃんの手作り!」

「………また難題を言ったな。」


 そんな毎日が続くわけないのに。

 あの頃の俺は楽しんでた。

 眞璃は嘘偽りのない女性だったから。

 ずっと、本当に俺は………。


****************


 藤はタイピンを眺めていた。

 古い物はほとんど処分するのだが、それだけは捨てられ無かった。

 時折、取り出しては眺める。


『……眞璃は、何を思ったんだろう。』


 彼女も目が合った時、とても驚いていた。

 だから、間違い無くわかっていた。

 10年以上経っているからといって、藤はさほど見た目の変化は無い。

 テレビに出た時点で気づいてはいるだろうが。


 別れてから会うのは初めてだった。


*************


「先珠の側にはいてやらなくていいのか?」

「だって元カノの事考えてんだもん。嫌だよ。」

「……………。」

「嫉妬ぐらいするよ?」


 怪訝な表情の朱鷺に噴き出しそうになる。

 

「ま、嫉妬だからじゃないけど。今は一人にしていたほうがいい時って事。

 必要ならすぐにでも飛んで行くし。」

「随分引きずっているんだな。」

「人生で唯一、本気になった女性だからね。」


 嫉妬というわりに、ずっと優しそうな表情を見せた。

 朱鷺はつくづく不思議な男だと思った。

 掴み所がイマイチ見えない。

 烈火の如く怒ると思えば、氷柱のように鋭くて冷たい、かと思えば、今みたいに春の野原のように柔らかく微笑む。

 恐らく、無意識なのであろう。


「それで、荒方さんはどんな恋愛だった?」

「は?」

「ほら、昔一人だけ居たんでしょ?太一に似てた人。すっごい聞きたい♪」

「女子高生か、貴様は。」

「女性の気持ちはよく理解してるつもりだけど。で、どんな感じ?馴れ初めは?」

「知らん。」

「話すまで聞き続けるよー?」

「勝手に言ってろ。」


 そんなやり取りをしていると、顔色の悪い藤が出て来た。


「ごめん、ご飯…。」

「パスタ作ってるよ。」

「ありがと。」

「いいよ、パスタなら簡単だから俺にも作れるし。

 それに、ミートソースは荒方さんが作ってくれたし。」

「え?」

「………丼以外もちゃんと作れる。」

「いや、ごめん。丼以外見たこと無かったから、つい。」

「俺も驚いたけど。」


 だが、彼女のお皿は見たことの無い大盛りだ。


「具合はどう?」

「大丈夫だよ。」

「そっか。」


 いつもより素っ気ない態度だが、北斗の最大の優しさだと藤は知っている。

 あぁだこうだと論議するのは好きでは無い。

 落ち込んだ時はそっとしておいて欲しい。

 そんな事を一度も口にした事は無いのに、不思議と北斗は期待に応えてくれる。

 そして、側に居て欲しい時にはすっと目の前に現れるのだ。

 多くは聞かず、全てを見放さない。


 そんな事を想い、ふと笑みをこぼす。

 藤の心をよんだのか、目が合った北斗もふと笑みを見せた。


 だが、二人の穏やか空気も次の瞬間には崩れ去った。


「奄ちゃん!今夜はどうでした?」

「やっぱり、クイズって難しいですねー!!」


 たまたまテレビをつけた瞬間に玄宇が映し出されてしまった。

 一気に空気が淀んでしまい、朱鷺は「すまん…。」と呟いてチャンネルを変えようとしたのだが、


「藤さん!見てます!?」


 突然、テレビの中の玄宇が藤を名指しで呼んだ。

 三人は驚いて固まったのだが、次の言葉で更に驚愕する。


「俺、玄宇 奄は最氷プロダクションの藤さんに宣戦布告します!!

 藤さん、俺と対決をお願いします!!」


 テレビの中では驚きの叫び声が次から次へと上がる。

 だが、テレビを見つめる三人は声一つ出せずにしんとしていた。


 ようやく、次の場面に切り替わり三人は互いを見つめ合った。


「せ、宣戦布告……?」

「対決………?」

「………あの子は一体、何がしたいの?」


 全く状況が掴めない。

 朱鷺ですら、訳がわからず首を横に振る。


 この直後から問い合わせの電話が立てつづけに事務所を襲い続ける事になった。

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