お姫様と動物園とお礼
四ヶ月。
早いような遅いような。
色んな事がありすぎて、知らなさ過ぎて。
けれど、心が微かにざわざわする。
わかってる。
きっとこれは期待をしているんだ。
もうすぐ世界が動く気がする。
[7月]
それは随分昔の記憶の夢だ。
「にいちゃん!」
「ダメだ、おまえはここにかくれてろ!」
「……でも。」
「いいか?おれがもどってくるまでゼッタイここからでるなよ?いいな!?」
「うん、わかった……。」
俺は言われた通りずっと隠れてた。
結果的に、それを後悔することになった。
それは、俺の人生の中の唯一の“後悔”だ。
『………ずっと見なくなってたのに……久しぶりだな。』
北斗はそう冷静に思いながら夢から覚めた。
昔の記憶を何度も夢で見る。
久しぶりの感覚に気分がすぐれない。
「酔ったか?」
運転席から朱鷺が声をかけてきた。
「いいや。今日は随分優しい運転だからうっかり寝てしまってた。」
説明しておくが、毎朝朱鷺の運転が絶叫マシン並なのは運転が下手だからでは無く、間に合わせる為にレース感覚になるからである。
「そんなに優しいか?普通だろ。」
「う~ん、何て言うか…そうだなぁ、例えるなら女性を激しく抱いた後のゆるい感じ?」
「………おっさんだな。」
「It is right!(それは正しい!)」
北斗は上機嫌だった。
いつものノリと変わらないのだが、自覚するほど機嫌が良い。
それは、朱鷺が彼の希望を叶えてくれたからだ。
「ちゃんと組み立て方や注意事項は覚えてるな?」
「大丈夫!昨日しっかり練習したし、ちゃんと約束は守るよ。」
彼らは以前来た豪邸の前に居た。
朱鷺が荷物を車から降ろし、北斗に手渡す。
中から警備の男も二人やってきて、荷物を預かる。
「じゃ、また終わったら連絡するよ。」
「承知した。」
朱鷺と別れて北斗は中に入る。
「あ、ほくとぉ~!!」
「楓~!!!」
飛び込んでくる彼女を抱き抱え、いつものように額をぐりぐりして挨拶をする。
「また大きくなったかな?」
「ほくと!れでぃにしつれいですよ!」
「おっと、これはこれは、大変失礼しました!」
北斗の肩越しに何やら見慣れない荷物が見えた。
おや?と思う楓の視線を反らし、彼は言った。
「ちょっと今から魔法をかけるから、後ろを向いて待っててくれる?」
「うん!!」
するりと彼の腕から降りると、素直に後ろを向く。
北斗はすぐさま荷を解き、準備を始める。
「もーいーかーい?」
「まーだだよー。」
時折、そんなやり取りをする。
瑠依も二人のやり取りを楽しそうに見守る。
幾度目かの「もーいーかーい?」を言った時、
「もういいよ~。」
と返事が返ってきたので、勢いよく振り向こうとしたら、ひょいと体が持ち上げられた。
「お姫様、大変お待たせしました。」
一緒にくるりと振り返る。
「北斗の動物園へようこそ!」
「わぁ~!!!」
そこにはぐるりと一周するサークル。
その中には色んな動物達が細かに区切られるように設置されていた。
北斗は楓を抱えたまま、サークルの内側に入り彼女を降ろすと、近くの仕切りから小さな動物を優しく抱えてきた。
そっと優しく彼女の腕に持たせてあげる。
「ほくとぉ!このこは?」
「兎さんだよ。」
「このこがうさぎさん!?わぁ!ふかふかだぁ~!」
まだ赤ちゃんの小さなうさぎは大人しく楓に抱かれる。
優しく撫でてやると気持ちよさそうにした。
「まだいるよ~?」
今度は別の動物を彼女の膝にのせてやる。
「このこはぁ?」
「猫さんだよ。」
「このこはふかふかじゃないね!」
「嫌だった?」
「ううん!可愛い!」
万遍の笑みを浮かべる楓。
本当に嬉しそうで、見守る瑠依もつられて笑顔になる。
「おっと、いけない。もう一人のお姫様も連れて来なきゃ。」
「え?」
そう言って北斗は軽々と瑠依を抱き抱えた。
「北斗!」
「どうぞ、お姫様♪」
恥ずかしくも、瑠依はサークル内へ丁寧に降ろされた。
すると、今度はまた別の動物が連れてこられる。
「あら、可愛い!」
「ママ!そのこはぁ?」
「ワンちゃんだね。」
「わんちゃん!」
今日はまだ小さな子供の動物達を連れてきていたが、ヤンチャな彼らはとても愛くるしい様を見せてくれる。
北斗は丁寧に動物の抱き方を教えたり、おもちゃを使った遊びも体験させた。
「北斗、本当に有難う。」
瑠依のその一言で、北斗は十分満足したのである。




