土竜と糸くずと笑顔
ジェット機の中。
帝人は優李の淹れた紅茶を味わっていた。
「本当によろしかったのですか?」
少し、困った顔の優李に「何がです?」と答える。
「いえ…朱鷺は…その。」
「朱鷺は可愛い、それだけで十分です。」
どこか納得のいかない優李だったが、
帝人の様子を見て、諦めることにした。
「まだ出発しないんですかー?」
八馬弦が退屈そうにだらしなく座る。
「ちゃんと座れ社!」
そこへ待っていた人物が現れた。
「いやー!すんません!遅れちゃいまして!!
朱鷺さんが心配で色々準備してたら遅くなっちゃいました!!」
苦笑いで入ってきた清理。
「あれ?せーちゃん、どうしたの?こんなとこに。」
「いやぁ、この間の一件で朱鷺さん激怒させちゃって、
罰として一か月間も長期休暇とらされちゃいましたよー!
ま、ヨーロッパで俺の家族匿ってもらってるんで、
ついでに乗せてもらえてラッキーですよ♪」
「へぇ、家族ってお母さんとか?」
「いや、嫁と娘息子ですよ?」
「は!?せーちゃんいつのまに結婚してた!?」
「いや、俺、朱鷺さんと会う前から結婚してましたけど。」
「どんな嫁さんよ?」
すっと写真を差し出す。
「は!?金髪青眼の美人嫁じゃん!?」
「めっちゃ綺麗っしょ?子供ももう可愛くて!!」
「おぉ、良かったね。嫁さん寄りで。」
「可愛いからいいの!!」
「朱鷺姉さんもヨーロッパで匿ってあげるなんて粋だね~。」
「匿ってるのは私ですよ、社。」
帝人のその一言に八馬弦は怪訝な視線を帝人に送る。
失礼だと優李は八馬弦に拳骨をお見舞いした。
「そ、会長に匿ってもらってる代わりに、
俺は“土竜”として、会長の依頼を受けてるんですよ?」
「潜らせてある土竜ってせーちゃんだったんだ。
ってか、依頼って何?」
ふふふと不敵な笑みを浮かべて、
清理は帝人の向かいの席に座る。
帝人は広げていた本を閉じて机をあけた。
「さて、今回の取引といきましょうか?」
「随分と自信があるようですね?城酉。」
「もちろん♪」
清理は鞄から依頼されていたブツを取り出して広げる。
「これが今回のもの全部ですよ。」
「ふむ………。」
その様子を見ている八馬弦は複雑な顔の優李に、
「…ゆーさん、確認したくはないっすけど……あれって、」
「何も言うな。わかるなら黙っておけ。」
机に広げられたもの。
それは朱鷺の“隠し撮り”写真だった。
「腕をあげたようですね、前より枚数が多いかと。」
「壊されてるカメラの数も減ってますよ。」
「やはり、どの朱鷺も変わらず可愛らしい…。」
「ですが、今回は、こんなものもございますよ?」
ゆっくりと、数枚を引き抜いて見せる。
帝人の表情がほんの少しだけ変わる。
「………ドレスアップとは、久しぶりですね。」
「おまけにこのドレス。」
「こんな大きいスリット入りですか?なんと……。
こんな妖艶な姿をあの馬鹿2人に見せつけるなどとは…。」
「ねぇ、ゆーさん。」
「頼むから黙っていろ。」
「しかし!こっちはもっとレアですよ!!」
ばばん!と帝人の前に広げる。
帝人の表情が驚愕という顔に変わった。
「こ、これは!女医ですか!?」
「まさに!!初女医朱鷺さんです!!」
口元を抑えて必死で己を落ち着かせる帝人。
「何故このような格好を…。」
「これはクリスマスパーティの時ですね。
何故か衣装担当の向日葵さんがチョイスしましてね。」
「………優李、その向日葵という人物を調査なさい。」
「は?どういう用件で?」
「何が褒美になるのかを調べるのです。」
「……………承知いたしました。」
「ゆーさん、その顔、」
「見るな言うな聞くな。」
しばらく考え込んだ後、帝人は決断を下した。
「前回の金額の三倍出しましょう。」
「交渉成立です!ありがとうございます!!」
この時ほど、清理が悪い笑顔を作る時は無い。
「それと、朱鷺の様子はどうですか?」
「変わりませんよ?
あ、でも、ヨーロッパの飛行プランを見てたみたいですけど。」
帝人は嬉しそうに「そうですか」と呟いた。
「あ!でーも!優李さんと北斗さんの仲がうまくいかなくなったのは、
自分のせいだと思い込んじゃってるみたいでぇ!!」
わざと大きな声で優李に聞かせる。
ふんっとそっぽを向く優李だったが、
「優李、彼と和解しなさい。」
「は!?帝人様!?」
「長年、兄弟として過ごしたのでしょう?
君にしては珍しく可愛がってたようにも思えますが?」
「そ、それとこれとは、」
「楓が悲しんでもいいんですか?」
「そっ、それはっ…。」
「いい大人なんですから、もっと寛容になりなさい。」
「………しょ、承知いたしました。」
本当に不本意ながらも承諾する優李。
だが、八馬弦と清理はあることに気が付く。
『『優李さんと血がつながってないんなら、
楓ちゃんの結婚も実は行けちゃうんだけどな。』』
こればかりは黙っておくことにした。
「あぁ、それと優李。先珠と周殿はどうしました?」
「逃亡しているので追っています。」
「彼らには聞かねばなりませんからね。
あの日、何故その場所にいたのかを…。」
帝人の本来の“皇帝”の表情に三人ともが背筋が凍る。
「じっくりと責めてさしあげなさい」
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思いっきり泣いたせいか、
朱鷺の足取りは軽かった。
その数歩後を2人は歩いていた。
彼女の薬指にはダイヤが光っている。
どんな気持ちでそれをつけているのだろう。
気にはなったが、なんとなく聞けずにいた。
「ねぇ、荒方さん。」
「なんだ?」
「マネージャーは今月でやめちゃうの?」
「あ……そうだったな。」
彼女の両隣に並ぶ。
「もうちょっとぐらい続けてもいいんじゃないの?」
「それはお主らの希望か?」
「まぁ、そうとも言う、かな。」
「………今のところ、面白そうな案件も無いし。」
「お、じゃあ…。」
「しばらくは延長ということにしておこう。」
「「いいね!」」
子供っぽく笑う2人に、吹き出しそうになる朱鷺。
そこで藤が言った。
「じゃあ、延長祝いってことで、何が食べたい?」
「何でもいいのか!?」
「もちろん!」
「食べたいものは山ほどあるからな…そうだな……。」
「俺は君の食べたいものをいつでも好きなだけ作ってあげられるから、ね?」
ふふんと得意げな顔をして北斗を見る。
その意図を察したのか、北斗は少し考え込んで、笑みを作って言った。
「そうだ、荒方さん、今度アメリカ行かない?」
「何だ、急に。」
「いや、ルニスが荒方さん連れておいでってさ、しつこくって。」
「な、なんだと!?」
「なんでも、撮影現場案内してあげたいらしいよ?」
「本当か!?スケジュールを調整せねば!!」
どうだ?という顔を藤に返す。
お互いに火花を散らすが朱鷺は気が付かない。
「「あれ?」」
藤と北斗が朱鷺を引き留めた。
「荒方さん、髪の毛に白い糸くずついてるよ…。」
「え、どこだ?ここか?」
「あ、いいよ、とってあげるから、じっとして、」
「痛!髪を引っ張るな!」
「いや、糸くず………、」
「「あ。」」
藤と北斗は顔を見合わせて気が付いた。
それが糸くずではなくて、
止まっていた時間が動き出したことを
感じさせるものだったということを。
そう、これからまた新しい時間が流れるのだった。
世界に“笑顔”があふれますように。
終わり
これにて完結になります。
書き始めてから随分時間が経ってしまいましたが、
ただ、感情をぶつけるだけの文章でしたが、
ここまでお読みいただき誠に心から感謝いたします。
書き始めたきっかけは、私の人生に楽しいを教えてくれた、
憧れの人たちが笑っていてくれればという個人的な欲望でした。
その気持ちは今でも変わってなく、
終わり方も当初の予定通りでした。
また、いつかお会いできたらと思います。
あ、まだ書きかけのがありました。
皆様が笑顔であられますように。




