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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第64話「終わった場所で」

決勝が終わって数時間。

甲子園の外周は、試合があった日の独特の静けさに包まれていた。

昼間あれほど鳴り響いていた歓声も、今は壁の向こうに沈んでいる。


外壁の前で、夏目は立ち止まった。


中のグラウンドは見えない。

けれど、ついさっきまでそこで投げていた。

汗も、土の匂いも、歓声も――全部、胸の奥にまだ残っている。


(……ここで終わったんだよな)


夏目は壁に手を置いた。

冷たい感触が返ってくる。


そこへ、足音。


伊藤がゆっくり隣に来た。

決勝の後だからか、目元が少し赤い。


「……来ると思ってた。夏目くん、ここ好きだもんね」


「別に好きではない」


「嘘。ずっとここ通ってたの見てたわよ」


夏目は答えない。


代わりに、壁を見つめたまま小さく言った。


「……終わったんだよな」


伊藤は夏目の横顔を見た。

この怪物が、今だけはどこか“普通の高校生”に見える。


「終わったわ。でも、全部できたじゃない」


「全部……か」


「うん。全部」


夏目が息を吐く。


その瞬間――背後から、叫び声。


「おーーーい!!青春してんじゃねえ!!!」


振り返ると、中村が猛ダッシュで走ってきた。

決勝の疲労はどこへいったのか。


伊藤が呆れた声を出す。


「何でそんな元気なの……」


「キャプテンだからだよ!!おい夏目!!

 ここで黄昏れるとか似合わねぇぞ!!!」


夏目は少しだけ眉をひそめる。


「別に黄昏れてない」


「黄昏れてんだよ!!黙って外壁触ってるやつ初めて見たぞ!!」


中村は勢いよく夏目の肩を叩いた。

夏目の身体はびくともしない。


「でもさ……いい試合だったろ?」


夏目は少しだけ考え、それから言った。


「……まだ投げられた」


「だろ!?だから終わりじゃねぇんだよ!」


伊藤は二人を見ながら、ふっと笑う。

こういう感じが、ずっと好きだった。


「夏目くん」


「ん?」


「終わりたくないって思ったんでしょ」


夏目は黙った。


否定しなかった。


中村はニカッと笑う。


「じゃあ続けろよ!野球!大学でもどこでも!

 お前ならいくらでもできる!!

 俺たちは今日で終わりだけど……それで十分だろ?」


夏目は壁から手を離し、仲間の方へ向き直る。


その表情は、決勝よりずっと強かった。


「……ああ。続ける」


伊藤の目が潤む。


中村は満足そうに大きく頷いた。


「よっしゃ!飯行くぞ!!

 優勝した夜に壁触って終わりは寂しすぎんだよ!!」


伊藤は吹き出した。


「ほんと……空気壊す天才ね、中村くんは」


「キャプテンだからな!!」


夏目は、少しだけ笑った。


それだけで、二人は足を止めそうになった。


甲子園の外壁はもう静かだった。

中は見えない。

声もない。


けれど――


今日ここで見た景色は、

もう消えることはない。


三人はゆっくり歩き出した。


夏目は最後に一度だけ、壁を振り返る。


(……また、いつか)


そう心の中で呟き、

仲間の背中を追いかけた。


夏の終わりを告げる風が、静かに吹き抜けた。



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