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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第22話 心の準備が一切間に合ってない翔栄館高校

県大会の会場は、第1試合より少し大きめの地方球場だった。

しかし客席は、“怪物が出るらしい”という噂を聞きつけた偵察部員と地元高校生でぎっしりだ。


実況席こそないが、ざわめきは十分すぎるほど。

夏目孝太郎がマウンドへ歩くだけで、波のようなどよめきが起きた。


翔栄館高校の選手は、アップの段階から青ざめている。


「……なぁ、本当に170キロ投げんのかよ」

「昨日の動画見た?ボール消えてたぞ……」

「いや編集……だよな……?」

「監督が震えてたんだけど……」


監督はベンチ裏で胃薬を飲んでいた。



開明高校、試合前円陣。


松葉杖の中村が謎テンションで叫ぶ。


「よし聞けぇ!!今日も勝つぞぉ!!勝って勝って勝ちまくって甲子園行くぞ!!」


「おー……(絶対夏目任せ……)」

という空気が広がる。


夏目は淡々と言った。


「あと4回勝てば甲子園か……長いな」


「お前のせいで短く感じんだよ!!」


伊藤はマネージャーノートに書き込む。


――『県大会第2試合:相手、開始前から精神崩壊気味』

――『夏目:体調良好。むしろ走りたそう』


「……高校野球をなんだと思ってるの?」


夏目は肩を回しながら答える。


「運動だ」


「情緒が無いのよあなた!!」


伊藤は呆れながらも笑った。



プレイボール。


翔栄館のエース・菅原は、県内で“速い横変化のカットとシュートで打ち取るタイプ”として知られていた。

その投球は実際キレがあり、打者を翻弄する。


ただ――今日の菅原は震えていた。


1回表、先頭は夏目。


菅原は外角ギリギリにストレートを投げたが、


カァン。


軽く振っただけのスイングで、打球は球場外へ消えた。


「散歩ついでにホームラン打つなぁ!!?」


球場がどよめく。

スコアは1−0。


中村が叫ぶ。


「今日も絶好調だな夏目ぇ!!」


ベンチはもう察していた。


(この試合も……夏目次第……)



1回裏。


マウンドへ向かう途中、夏目は佐藤に言った。


「今日はカットボールとシュートにポイント使ってみる」


「なんでそんな急に!?さっき菅原が投げてた球だろ!?お前練習してないよな!?」


夏目は首を傾げる。


「……ポイントでできた」


「できたって何!!?説明しろよそのポイント!!」


夏目は説明する気がなさそうにマウンドへ。


バッターボックスの打者は夏目の影に覆われただけで固まっていた。



初球。


佐藤が低めに構え、夏目が頷く。


ズドォォォォン!!!


打者は反応できず、佐藤のミットが悲鳴を上げる。


(今日も痛ぇぇ!!軍手二枚仕込みじゃ無理!!)


「ストライーク!」


ざわめきが広がる。



二球目。

夏目は指先に少し意識を乗せ――何となく投げただけ。


キュッ……!


内角に向かいながら横へ鋭く滑ったカットボール。


「ひっ!!?」


打者は尻もち。

ストライク判定。


佐藤は震えながら叫ぶ。


「なんでそんなキレ出んだよ!!?」


夏目は平然。


「ポイント効いた」


「効きすぎなんだよ!!」



三球目、シュート。


真っ直ぐに見えて、急に右へズレた。


空振り三振。


翔栄館ベンチは沈黙した。


(……さっきの菅原より、動きエグくない?)


打者たちの顔が青ざめていく。



二番、三番も三球三振。

夏目は淡々と戻る。


佐藤は半泣きで言う。


「なんで一回見ただけの変化球、そんな完璧に投げられんだよ!!」


夏目は少しだけ首を傾げる。


「さっき見たやつ、ポイント結構使ったらできた」


「だから説明になってねぇんだよ!!」


中村が割って叫ぶ。


「いいぞ夏目ぇ!!完全試合あるぞ!!」


夏目は水を飲みながら淡々。


(……完全試合ってなんだ?)


その無表情さが、逆に相手の心を折る。



2回、3回。


打者は涙目。三振して安心して戻る者まで出てきた。

ついに一年生が泣き出す。


「監督……無理です……あの人、目が……!」


監督は肩を震わせる。


「俺も怖い……」



3回表、無死一二塁。


相手投手はストライクが入らない。

心が折れていた。


夏目は不思議そうに言う。


「なんでストライク投げないんだ?」


中村が叫ぶ。


「投げたら死ぬほど飛ばすからだよ!」


そして夏目、地面スレスレの球をゴルフスイング。

レフト最深部へ。


「今の絶対ストライクじゃねぇ!!」


スコア4−0。



4回裏。


夏目は覚えたての変化球を自由自在に操り三者三振。

フォームは無駄がなく、圧倒的。


伊藤は息を呑む。


(……すごい。本当に……)


胸が熱くなる。



5回終了。

4−0、走者ゼロ。


ベンチで水を飲む夏目を見て、伊藤の胸が跳ねた。


(こんな人が……本気で誰かを好きになったら……)


夏目が振り向く。


「伊藤、なんか顔赤いぞ」


「赤くない!!」


全力否定すると、中村が爆笑。


「きたぁ!!伊藤が照れてる!!夏目ぇぇ!!春だ春!!」


夏目は純粋に首をかしげた。


「春ってなんだ?」


「黙れ!!黙って投げろ!!」


中村の叫びで、試合は後半へ進んでいく――。

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