3年生3学期 はじめての高校受験③
1時間目・国語。
問題1:「ら抜き言葉」を説明しなさい。
(あ。これ、簡単だ!)
アリスとトライブの2人だけに用意された、領家北稜高校の特別な入試問題。
小説を読んで、下線部を漢字で書いて、カッコに接続詞を入れて、状況を説明して、主人公の気持ちとして正しいものを答えて――といったmここまで問題集で見てきた問題は、1問もなかった。
なにより、A3用紙見開きで終わる試験用紙である。それに対して、解答用紙は完全な白紙。
書けば書くほど点になる。アリスは、そう思った。
(まず、文字どおり「ら」のつかない言葉、と書けばいいはず……。それで、私やクラスのみんなが使ってきた「ら抜き言葉」を書いていけばいい……)
筆が動くアリス。
一方、完全に筆が止まったのはトライブだった。
厳格な家に育ったために、そもそも「ら抜き言葉」に親しみがなかった。
(アリスと私に解かせる問題なんだから……、名前に「ラ」のついている私のネーミングを説明しないといけないか……)
評論文の中で具体的な説明がされているわけでもなく、単純な1行問題。
これには、その言葉自体に親しみのないトライブは完全にお手上げだ。
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2時間目・数学。
問題1:1+1の答えが2ではなく、3+1の答えが8になる「新しい数学」を考えることとします。この「新しい数学」では1+1の答えを何にするか、どのような計算法則の「新しい数学」にするかを含めて自分なりに説明しなさい。
(何よ、これ……)
既に、国語で参ってしまったトライブは、またしてもA3用紙見開きでしか配られなかった数学の問題用紙を開けた瞬間に固まってしまった。
トライブどころか、いま高校入試を受けているほぼ全ての受験生にとって、1+1は2であり、3+1は4である。これを、全く別の答えにするなど、想定の範囲外だった。
言うまでもなく、作問者の模範解答は、「自力で関数を作る」ことであるのだが。
(これ、私やアリス以外の受験生も解いていたら、間違いなく質問してきそう。こんなの、私の学んできた数学じゃない……)
固まるトライブ。
一方で、アリスの筆はまたしてもスラスラと動いていた。
(「新しい数学」は、そもそも○京書籍の数学の教科書であり、勝手にその名前でリアルの世界の数学を置き換えるのはおかしいと思います……、と説明しよう。学校で使ってたんだし)
東京○籍に怒られても知らないぞ。
(それと……、思いついた。3+1は、マッチ棒を使えば簡単に8になる!)
答案に出来上がる、マッチのイラストで作った8。
当然、1+1は漢数字の10としたのだった。
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3時間目・社会。
第1問:アリス・ガーデンスが社会の教科書で太字になりました。未来の学生に、名前と一緒に何を覚えさせるか、自分なりに教科書の文章を作成しなさい。
4時間目・理科。
第1問:「このテスト死んだ」「剣が死ぬ」のように、実際には生きていない物質に対して「死ぬ」という言い方がされます。実際に生きていないものに対する「死ぬ」を、科学的に説明しなさい。
5時間目・英語。
第1問:新しい言語を習得したことで、何が変わりましたか。英語で説明しなさい。
(終わった……)
5時間目は、トライブもエクアニアを離れるときまでに新たにオメガ語を覚えているわけだが、ここまでの試験問題で完全に滅入ってしまい、まともに答えられない。
これに関しては、最後の最後に英単語をひねり出さないといけないアリスも同様だった。
「以上で、バカ2人のための高校入試を終わります」
「待って!」
さすがのトライブが机を叩き、同時にアリスが笑った。
「どうかされましたか。
答案を、ほぼ白紙で出されたトライブさん」
「私は、バカじゃない。
そもそも、今日のテストは知識を問われてないじゃない」
試験官が、回収した2人の答案をトライブの目の前に近づけた。
「そうは言っても、アリスさんはバカなりにちゃんと説明しています。
どんな強い相手、戦ったことのない相手でも、自分の力を出し切る。
それが、剣士としてのあなたが言ってきた名言じゃないんですか」
「それは……」
アリスは、その間に何度も笑った。
これで高校に入れるわけではないにもかかわらず、この時アリスは初めて、3年間中学生をやり直してよかったと感じるのだった。
「授業以外でも、いろいろ学べるんだ……。
それで、おバカがおバカじゃないと言われる……」




