1.第1章 <風のささやき> 異邦人(いほうじん)
転生前の日本で結ばれた夫婦。15年の月日が経ち、夫婦は離婚の危機を迎えていた。そんなある日、暴走トラックに引かれ異世界に転生した主人公。そこは魔法と剣、エルフやドワーフたち異種族の住む別世界であった。
第1章 <風のささやき>
(ざざ~ん ざざ~ん)波の音
眩しい日差しにうっすらと目を覚ます。
仰向けの体、頭の後ろにやわらかい砂の感触、浜辺だ。
「あれ?」
さっきまで交差点にいたはずなのに・・。
「・・・どこだ、ここ?」
体を起こしてあたりを見回す。目の前には海、地平線の向こうにうっすら1つ島が浮かんで見える。後ろを振り向くとしばらく平地が続き、奥には山が見える。
それにしてもおかしい。さっきまで夜中だったのに、突然の昼間、現実感がまるでない。
「たしか大きなトラックが見えて・・はっ!」
とっさに自分の体を確認する。コンビニに出かける時に着ていたはずのパーカーが無くなっており、布のような薄白い上下の服に変わっている。まるで農民みたいだ。
トラックのぶつかった痛みも感じない、見る限りどこも怪我はしてないようだ。
「はは・・。ここが天国か・・」
来た事は無いけど、目の前に海が広がるここが天国らしい。
(ざく ざく ざく)
自分の背中の方から、砂浜を歩いて近づく音が、ざくざくと聞こえてくる。
「★※□」
「えっ?」
おもむろに女性の声が聞こえ、その方向を振り向く。
「※★□・・★□※?」
「え?な、なんですか?」
まったく聞いた事の無い言葉、なんて言ってるのかまったく分からない。
しかも容姿もおかしい、見た事無い服装。背中に弓矢、狩りでもしてるのかな?
よくよく見ると色白で美人の女性だけど、耳が長い、とにかく長い。
「□★※」
女性が身振りで近くを指さす、何やらカードみたいなのが落ちてる、なんだこの黄色いカードは?
「★※」
(つんつん)
女性がカードの中央を押すようにうながしてくる・・・押した。
(ビュン!)
「うわ!」
思わず声を出す。押すとカードからタブレットサイズのビジョンが投影され、なにやらクリスマスツリーのようなアプリアイコンが表示されている。
(つんつん)
「★※ ★※」
「これ押せって事?」
「※★」
うんうんと、目の前の女性がうなずいている、それで良いらしい。
(ぽちっ)
美人と先生の言う事は素直に聞く、それが男の流儀。
クリスマスツリーアイコンをクリックすると、なにやら家系図のようなものが広がっている。
「★※ ★※」
「えっ、今度はこれ?」
耳の長い美人さんが、家系図みたいな表の一番左を指さす。他の文字は「★※□」の表示でさっぱり読めないが、お姉さんの指している先頭の文字だけアルファベットの「A」が表示されてる。
「★※!!」
お姉さんがさっさと押せって怒ってる、美人と先生を怒らせると面倒。
(ぽちっ)
ピカっ!一瞬あたりを光が包む、思わず目を閉じ、ゆっくりと開く。
「どう?」
「え?」
「私の言葉分かる?」
「あ、はい。分かります」
「教えてあげてるんだから、早く押してよね、まったく」
第1村人にさっそく怒られる男。