173.新王国 その名はイングランド
『ギルド本館第一タワー』の4階『産婦人科』フロア、聖女アイリスの入院している病室。
三聖女が王宮から駆けつけた、たくさんの女性従者やメイドさんにお着替えしてもらっている様子。
ルナ様とジャンヌ様の子、『ユニコーン』と『ペガサス』もお着替えのために部屋の中に留まり、もちろんパパだけ部屋の外に追い出される。
無属性専用法衣『インフィニティ』を装備しているおかげで、かつての農民服に比べて見栄えも良くなっている。
これなら、ベストドレッサー賞も上位へ入選出来るレベル。
オスカー俳優も夢では無い、ルックス以外は。
ライン=ハート兄さんからの『ブラザー通信』のメールによると、『戴冠式』はすでに始まっているらしく、間もなく『ウェストミンスター寺院』での儀式が終了するとの事。
三聖女は、そのまま執り行われる結婚式に来て欲しいとの内容だった。
自分もラインをする感覚で、ギルドカードに「了解しました」と打ち込んで三聖女の準備が整うのを待つ。
「(ガチャ!)スズキ様、お待たせしました」
「一郎、入って良いよ」
「なっ・・なんて綺麗な天使様・・」
「(二聖女)えっ?」
部屋のドアが開き、中から2人の天使が出てきた。
両肩から白い肌が見える。
純白の白いチャペルドレスを着ている。
髪には花の髪飾り。
白いブーケを片手に持ち、アイリスお母様のバージンロードを先導するであろう純白の天使の登場に、思わず絶句してしまう。
「スズキ様、お時間は大丈夫でしょうか?」
「ああ、えっとルナ様・・もう『ウェストミンスター寺院』に来て欲しいって、ライン=ハート兄さんから『ブラザー通信』が今入りました」
「まあ、では急がねばなりません。スズキ様、お早く中へ」
「はい」
部屋に入る許可が下りたので、先ほど追い出されたアイリスの病室にふたたび戻る。
王宮の女性従者や、メイドたちはその場で下を向いて部屋の隅に立っていた。
このまま新婦の聖女アイリスを見送るつもりだろう。
先ほどまでベッドの上にいたアイリスが、ベッドの横にあるイスに腰掛けて座っていた。
肩が透きとおるウェディングドレスに身を包み、頭には先ほど王宮のお部屋でジャンヌ様が見つけてくれた、ダルク家の新婦に伝わると言われる『ダイアティアラ』を付けていた。
顔もお化粧がされ、ルナ様とジャンヌ様よりも大人びた彼女の姿に、自分も酔いしれてしまっていた。
「イチロウ様、もうお時間なのでしょうか?」
「えっ?ああ、そうだよアイリス。今頃、ハルトは『アーサー王7世』の『戴冠式』の真っ最中らしいよ。もうすぐ終わるから、もう『ウェストミンスター寺院』行かないとなんだ」
「まあ、ハルトが・・イチロウ様、わたくしはこれで良かったのでしょうか?」
「どうしてアイリス?好きな人と結婚できるって、これ以上ない幸せだと思うよ」
「そうなのです・・そうですねイチロウ様。わたくしはもう迷いません。だって、あなた様が背中を押していただけるのですから」
「はは、アイリスはいつも大げさだな。ハルトは良いやつだよ、彼なら間違いなく君を幸せにしてくれる。僕が保証書出してあげるよ」
「イチロウ様、保証書とは、一体どういう意味なのですか?」
「うぐっ・・ハルトと結婚すれば、絶対幸せになるって事だよ」
「まあ、それは嬉しい」
「変わんないね君は。もう行こう、ハルトが待ってる」
「はい、イチロウ様。あなた様の仰せのままに」
「はいはい、今日は良い子だねアイリス。さあルナ様、ジャンヌ様行きましょう。それに『ペガ』も『ユニ』も、綺麗な白のお洋服着せてもらって良かったな。今日は頑張れよ2人とも」
「(2人)はい、お父様」
「じゃあ『カーバンクル』君、ゲートを開いてくれたまえ。行先はもちろん、幸せの1丁目1番地、『ウェストミンスター寺院』へ」
「はいマスター。『転移』!」
妖精『カーバンクル』が『転移』魔法を唱えると、アイリスのいた病室にゲートが開く。
ゲートの向こう側から、『トロント』の国民の歓声がこちら側に響いてくる。
そしてその歓声が一瞬静まり返ると、ライン=ハルト・・『アーサー王7世』の大きな声が響いてくる。
「・・今日より雷の国『トロント』は生まれ変わる。先代のアーサー王6世は、まやかしの闇の国王であった。その忌まわしき過去を捨て、国民よ、我と未来を共に歩もうぞ。我が『アーサー王7世』の名において、『雷のクリスタル』にかけて我は宣言する。今日、これより、『トロント』の名を捨て、新たなる王国、我が祖国の名を『イングランド』と改名する!」
(「わーー!!」)
(「アーサー王7世!万歳ーー!!」)
(「イングランド!万歳ーー!!」)
「『トロント』が・・雷の国『イングランド』に・・歴史が動いたって感じですね。アイリスやったね、ハルト・・いや、『アーサー王7世』の旦那様が頑張ってるよ。アイリスもハルトの力になってあげて」
「はい、イチロウ様。ルナ、ジャンヌ、お願いします」
「(二聖女)はいお母様」
二聖女のルナ様、ジャンヌ様が、ウェディングドレスを着た身重のアイリスに手を携える。
双子長女のルナ様がアイリスの左に、双子次女のジャンヌ様が右に立ち、それぞれ利き腕で新婦アイリスお母様の手を取ると、アイリスがイスから立ち上がる。
『ユニコーン』と『ペガサス』の、小さな小さな天使2人がおめかしして、その三聖女のさらに先を歩く。
手には小さな白い花を入れたカゴを持ち、先導しながらバージンロードにお花をまくよう教えられているようだ。
「『ユニ』、『ペガ』。このゲートを抜けたら、まっすぐゆっくり歩きながら、持ってるカゴの中のお花を少しづつまくんだよ。たくさんのヒューマンたちがいるけど、慌てないようにゆっくり歩いて。まっすぐ歩くと、その先に神父様と、冠をかぶった王様が待ってるから。お母さんと、お母さんのお母さん、アイリス様をちゃんと王様のところへ連れて行くんだよ、いいね?」
「(2人)はい、お父様」
「良い子だ、行ってこい『ユニ』、『ペガ』」
「お父様は?」
「パパは一緒に行かないの?」
「パパには大事なお仕事があるんだ。後で行くから、お母さんたちと先に行って来なさい」
「(2人)はい」
「スズキ様・・」
「一郎・・」
「ルナ様、ジャンヌ様。アイリスを頼みました」
「(二聖女)はい」
最近二聖女がやたら聞き訳が良くなったような気がするのは、きっと気のせいに違いない。
天使となった『ユニ』と『ペガ』が先にゲートをくぐり、『上位昇進』も使っていないのに天使化した三聖女がその後をゆっくりと歩いて進み、ゲートの向こうへ消えていった。
しばらくすると、ゲートの向こう側から大歓声が起こり、結婚式が始まる音楽がゲートの向こう側から流れてくる。
(パパパパ~ン パパパパ~ン)
(「わーー!!」)
(「花嫁がオルレアンからやって来たぞーー!!」)
(「聖女アイリス様ーー!!」)
『トロント』・・ではなく、今は生まれ変わった雷の国『イングランド』王国。
『イングランド』の国民が、新婦聖女アイリスの登場に湧いているようだ。
しばらく時間をおいて、自分もゲートをくぐると、すぐ目の前に『ウェストミンスター寺院』があるが、すでに大衆で寺院の周辺が埋め尽くされ、結晶石の大ビジョンに寺院内で行われている結婚式の模様が映し出されている。
振り向くと、『イングランド』の街の至る所で結晶石の大ビジョンが生中継されている模様。
どうやら『イングランド』王国の全国民が同時に、『戴冠式』での『アーサー王7世』の就任や、国名が改名された事、それに今まさに行われている結婚式の様子が伝わっている様子だ。
『カーバンクル』が話しかけてくる。
「マスターは参加されなくて宜しいのでしょうか?」
「ああ、僕は良いんだよ『カーバンクル』。そうだ、ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」
「はいマスター。なんなりと」
妖精『カーバンクル』にお願いすると、『カーバンクル』は空を飛んで『ウェストミンスター寺院』の中に入って行く。
すると自分の目の前に、『転移』魔法のゲートが開く。
どうやら少し離れている位置でも、『カーバンクル』は自分の近くに『転移』魔法のゲートを開く事が出来るようだ。
そしてカーバンクルが見た景色の場所にも『転移』出来る事が分かる。
それもそのはず、ゲートをくぐると、実際に入った事が無かった『ウェストミンスター寺院』の2階席、普段は人が立ち入れないであろう場所にゲートが通じていた。
2階席から下を見ると、バージンロードをゆっくりと歩き、王が待つ場所へ歩く三聖女の姿。
新婦アイリスの両脇には、最愛の双子姉妹の二聖女の姿。
その前を、教えた通りにカゴの中のお花を少しづつまきながら歩く『ユニ』と『ペガ』の姿があった。
「じゃあ『カーバンクル』、お願いできるかな?」
「はいマスター。それでは行ってまいります」
「頼んだよ」
妖精『カーバンクル』に合図すると、妖精さんはバージンロードの先にいる王、『アーサー王7世』ことライン=ハルトの傍を旋回する。
(「アーサー王の傍に妖精様が現れたぞ!」)
(「神の奇跡だ!アーサー王7世様は本当に凄いぞ!」)
『ウェストミンスター寺院』の内外から、大きな歓声が上がる。
普段妖精など街中に飛んでいるわけも無く、突然の妖精の出現に、『イングランド』国民のボルテージが最大限上がる。
そして『カーバンクル』は、バージンロードをまっすぐ飛び、三聖女の近くまで飛んで行くと、さらに大きな歓声が上がる。
全員が三聖女の周りを飛びまわる妖精に注目する中、バージンロードの先で待つ『アーサー王7世』・・ハルトと目が合う。
お互い無言でうなずき、こちらの意図がハルトに分かった様子。
兄から弟への、今できる最大限の援護射撃。
これで王の威厳が高まるなら、この程度の芝居は協力を惜しまない。
聖女アイリスを含む三聖女が王の近くまで歩み寄る。
寺院内の参列席に、オルレアンのシャルル=ドゴール女王陛下の姿。『ベネチア』のアクア王女やキグナス将軍、それにジョン大臣の姿も見える。『マドリード』のサム国王も含めて、『四国同盟』のトップの参列の前で開かれる結婚式に、誰しもが新婦のその美しさに目を奪われていた。
新婦アイリスが壇上へ上がり、王と向き合う。
壇上の上には神父様の姿。
アイリスの頭には『ダイアティアラ』が光り、王であるハルトもまた『戴冠式』で得たであろう王の冠をかぶる。
オルレアンの聖女と、『イングランド』の王が、大衆が静まり返る中、熱い口づけを交わす。
『ウェストミンスター寺院』の内外から、大歓声が上がり、人々の拍手が、鳴りやむ事が無かった。
・・そして時間は経過し、その日の夜を迎える。
夜空には満月が明るく光る。場所はオルレアン。
『ギルド会館第二タワー』10階、自宅マンション。
玄関でたたずむ、『インフィニティ』を身に纏う副ギルド長。
「・・あの、なんでお2人がまた僕の家にお泊りするんですか・・」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ぐるぐる!ぱぱ、たらこ!」
「スズキ様、『ユニコーン』ちゃんがお馬さんに戻ってしまったのです」
「そうだよ一郎。オルレアンは王宮で晩餐会してるの!『ペガサス』ちゃんが晩餐会で空飛んでたら、私たちの立場が無くなるでしょうが!」
「こんな生活いつまで続けるおつもりなんですかお2人とも・・たしかに夜になって、もう馬に戻ってますし・・おい『ユニ』、『ペガ』。お腹が空いて限界なのは分かったから、暴れるなって。ニンジン蒸かすからちょっと待ってろ」
「スズキ様、『ユニコーン』ちゃんがお腹ペコペコなのです。お風呂掃除はわたくしとジャンヌでやりますので、お急ぎお食事の準備を」
「一郎、『ペガサス』ちゃん、よだれ出ちゃってるよ!ニンジンちゃんと買ってきてるんでしょうね?」
「・・万事用意しておりますお母様。僕の『アイテムボックス』ニンジンだらけですよ」
結婚式が無事に終了し、アイリスお母様を『ギルド本館第一タワー』の病室へお戻しする。
今回の『戴冠式』と結婚式は、アイリスが子を身ごもっている事が事前に伝えられていたため、誓いのキスが終わるや、略式で指輪の交換が終わると、結婚式はすぐに終わってしまった。
その後、式が終了すると、大将軍となったライン=ハート兄さんや三聖女たちと合流。
ハート兄さんが、王族や貴族の相手をするので、ハルトはアイリスが出産するまでオルレアンにいるよう進言してくれる。
その申し出により安心して新郎ハルトと新婦アイリスは、ふたたびオルレアンの病室に戻りこもってしまった。
昨日と同じく、ルナ様とジャンヌ様も気をきかせて外に出る。
二聖女に連れられ、自分は10階ギルド長室へ連行。二聖女から育てのパパへ、たくさんのおねだりチュッチュタイムとあいなり、あっさり2泊目のお泊りが承認される。
昨日のデジャブ、二聖女と馬二頭、ついでに妖精付きで自宅マンションへ帰宅。ふたたびこの状況に至る。
今朝、市場で大量に仕入れたニンジンをお湯で蒸かすため、自宅マンションのリビングのキッチンで料理を始める。
昼間の『ウェストミンスター寺院』の『戴冠式』と結婚式が、まるで嘘のようなありふれた日常。お腹を空かせた馬2頭が、リビングの上空を飛び回る。
お湯が火の結晶石のコンロによって一瞬で沸き、ニンジンを投入する。
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ぐるぐる!ぱぱ、たらこ!」
「もうすぐ出来るから、我慢しろ『ユニ』、『ペガ』」
「スズキ様、今日のアイリスお母様の結婚式を手伝っていただいて、本当にありがとうございました」
「妖精さんも飛んで来てくれて、一郎がお願いしてくれたんでしょ?お母様も王様も、すっごく喜んでくれてたよ」
「ええ、結構上手くいきましたよね?ありがとう『カーバンクル』。これでハルトもアイリスも、『イングランド』王国の国民から絶大な支持が得られたと思うよ。なんせ空から妖精さんが降りてきてくれたんだもん」
「はいマスター。『イングランド』の王様も、マスターに大変感謝されておられました」
「そうだね。ハルトもアイリスも2人とも、さっきギルド会館で凄く喜んでくれてたね・・おっ、ニンジン良い感じになってきましたよ(ざっざ)さて、少し水で冷やして・・はい完成。ルナ様、ジャンヌ様。お母さんはお皿をお願いします」
「はいなのです。それでは『ユニコーン』ちゃん、ただいまニンジンさんをお持ちするのです。ではお皿に・・召し上がれ」
「『ペガサス』ちゃんも食べて良いよ、お待たせ~」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!」
(ガツガツガツガツガツガツ・・)
「すごい勢いですね・・昼間の『サンド』だけじゃあ、ボリュームが足りないのかな・・それにしても、このゆるキャラの馬に戻ると、そんなに成長を感じませんね。多少話す言葉が増えたような気もしますけど」
「『ユニコーン』ちゃん、ヒューマンの姿になる昼間は背が伸びましたし、お話も上手になっていたのです。今日はお名前も書けるようになったので、大変成長されているのです」
「そんなもんでしょうか、ルナ様・・親馬鹿じゃないんですかそれ?」
「スズキ様はお黙りなさい!」
「・・はい」
「ジャンヌはこっちの『ペガサス』ちゃんも大好きだよ~」
「さすが美馬さん。そういえば美馬さん、日本のマンションで猫飼いたいとか言ってましたよね?うちのマンション、犬猫禁止でしたけど」
「そうよ一郎!あんたがマンション買う時に、ちゃんと契約書に目を通さなかったのが悪いんでしょうが!」
「ちゃんと契約書見てましたって美馬さん」
「美馬言うな、美馬。じゃあなに?ペット禁止だったから、ペットが苦手なあんたに都合が良かったって言いたいわけ?」
「そんな事ありませんって。新婚だったあの時は美馬さんだって、僕さえいれば良いとか言って、毎日お風呂一緒に入ってくれてたじゃないですか~」
「(かぁ~)うるさいわねあんたは!前世の話は禁止だって言ってるでしょうが!ルナ姉に誤解されちゃうでしょ!」
「はいはい、落ち着いて下さいよ美馬さん、ど~ど~。ちゃんとこれから晩御飯ささっと作りますから」
(ピンポ~ン)
玄関のチャイムが鳴る。
自分が応対するため、リビングから玄関に移動する。
妖精『カーバンクル』と、二聖女が後ろについてくる。
「あっ、やっぱりそうだ(ガチャ)どうぞ」
「こんばんわ、『白猫ヤマト』です!」
「お荷物です、こちらにサインかハンコをお願いします!」
「じゃあサインで・・ス・ズ・キ・・っと、はいお願いします」
「お荷物です!」
「(ドサッ!)おおっ、届いた届いた」
「それでは私はこれで」
「ありがとうございました『白猫ヤマト』のお兄さん」
「(二聖女)かっこいい」
「ちょっとお2人とも、僕の『白猫ヤマト』のお兄さん取らないで下さいよ」
「一郎、なにそのお荷物?あんたまさか、また日本から家電仕入れたんじゃないでしょうね?」
「もちろんですよ美馬さん(ザッ)おお!さすが、色がワインレッドで綺麗ですね~」
「一郎、それ『オーブンレンジ』じゃないのよ!嘘でしょ、ちょっと信じられないんですけど」
「さすが美馬さん、分かってる。うちにあった、この木なんの木スズキの木の会社の『オーブンレンジ』ですって。たしかオーブンシェフでしたっけ?これで今日はグラタンを作ります」
「やった一郎!私もうお腹ペコペコだよ~」
「はいはい。どういうわけか、魔法の力でなんでもかんでも一瞬で出来ちゃいますから、こっちの世界は不思議なもんですよね」
「スズキ様、このオルレアンでは、なんでもかんでもお料理だって、魔法の力でも一瞬ではお料理は出来ないのです」
「そうだよ一郎。あんたが作ったら、なんでそんな一瞬で料理が出来ちゃうのよ。ちょっと信じられないんですけど!」
「はいはい、クレームならフリーダイヤルにお願いしますよ美馬さん。お腹空いたんでしょ?僕、腕力1しか無いんで、美馬さんの有り余る腕力で持つの手伝って下さいよ」
「良いよ~」
朝『アリゾナプライム』カードで発注した、第4の家電『オーブンレンジ』到着。
リビングまでジャンヌ奥様が運んでくださり、雷の結晶石に接続。
なぜ50ヘルツの家電がこの異世界オルレアンで起動するのか理由は不明だ。
グラタンを準備し、チーズをたくさん乗せて『オーブンレンジ』に投下。
スイッチを二聖女と3人で押す事に。
「(3人)せ~の(ピコッ)」
(ブゥゥゥ~ン)
「(3人)おお~」
しばらくオーブンレンジの中を3人で見つめる。
不思議だ、いつまでも見ていられる。
お腹が3人ともペコペコ。
『ユニ』と『ペガ』は無心で、蒸かしたニンジンさんをガツガツ食べている。
オーブンレンジにしばらく3人で見とれていたが、ふと我に返る。
「あっ、美馬さん。今のうちにお風呂沸かしちゃいますか?」
「ああ、そうね。ぼ~っとしちゃってたわ、押すね(ポチッ・・給湯を開始します)もう日本ね、この家・・」
「どうです美馬さん。ますますこの家に戻って来たくなりました?」
「・・かなりね」
「またまた~冗談ですって。さっきもライン=ハート兄さんと見つめ合ってたじゃないですか~。ハート様、ハート様って、もう見てられませんでしたよベタベタで~。揺れ動く乙女心ですね美馬さん、青春してますね~」
「(かぁ~)うるさいわねあんたは!ルナ姉の前で不謹慎なのよ馬鹿!」
「ジャンヌ、お口。わたくしとジャンヌで、今日もサラダを作るのです」
「ルナ様、野菜も市場で買ってきましたんで、これ使って下さい」
「はいなのです。スズキ様・・」
「はい、なんですルナ様?」
「今度わたくしも一緒に、オルレアンの市場でお買い物がしたいのです」
「ええ、そうしましょうルナ様。ジャンヌ様も一緒に、お2人が食べたいもの一緒に選んで下さいよ。特に美馬さん、あなた味しないんでしょ?16年も散々我慢してきたんですから、たくさん食べて太って下さいよ」
「あんたね、私を太らせるんじゃないわよ!」
「(2人)あははは」
ルナ様と一緒にジャンヌ様を見ながら笑う。
『アイテムボックス』から、オルレアン市場で朝買った野菜を、今日食べる分だけルナ様に渡す。
ルナ様とジャンヌ様が、仲良く並んで野菜を水の結晶石から出る水で洗って手でちぎっていく。
お皿の場所も覚えたので、昨日より短い時間でサラダを準備して、テーブルの上に並べていく。
(ピコピコピコピコピコ~)
「あっ」
「グラタン出来ましたね」
「わ~い」
『オーブンレンジ』でグラタンさんが完成したらしい。
オルレアン市場にいけば、大抵の品は手に入る。
テーブルの上にはグラタンとサラダが3人分並ぶ。
水を注いだコップも3つ、かりそめの家族の晩御飯が始まる。
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~エッチ~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~やらしい~」
「食べ終わったのか『ユニ』、『ペガ』。『カーバンクル』、こっち飛んできたから、あっちに連れてってよ」
「はいマスター。さあさあ、こっちにいらっしゃい~」
リビングで宙を舞う『ユニコーン』と『ペガサス』を、妖精『カーバンクル』が誘導して一緒に飛んで遊んでくれている。
食事前に2人は神に祈りを捧げている様子、自分も合わせて手を合わせてお祈りする。
今日は授業で2回も立たされたけど、アイリスの花嫁衣裳を見る事が出来た。
今目の前でお祈りしている二聖女も綺麗だったし、まんざらでもない1日だった。
夕飯をいただける事を、今日は三聖女に祈ろう。
父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます。
ここに用意されたものを祝福し 私たちの心と体を支える糧として下さい。
二聖女が神に祈りを捧げるのに合わせて、自分も片言であるが、覚えている限りフレーズを合わせて口ずさんでみる。ご飯を粗末にしてはいけない、そんな感じにさせる大事な呪文だ。
「(3人)いただきます」
今晩の夕食は、グラタンにサラダ。
第4の家電、『オーブンレンジ』を手に入れ、さっそくこしらえた初めての晩御飯。
二聖女の顔に、笑顔の花が咲いている。
「(モグッ)スズキ様、とても美味しいのです」
「どうです美馬さん、味します?」
「(モグモグ)凄く美味しいよ!ジャンヌチーズ大好き!」
「それは良かった。美馬さん、チーズに目がありませんもんね」
「そうだよ~(モグモグ)一郎、私の事分かってる~」
「そりゃ15年も一緒にいれば分かりますって」
「まあ、スズキ様もジャンヌも。わたくしは2人が・・とてもうらやましいのです」
「なに言ってるんですかルナ様。15年間、毎日大変だったんですから~」
「ちょっと一郎、あんた前世の話は禁止って言ってる!」
「はいはい。それにしても今日のアイリスお母様のウェディングドレス、綺麗でしたねルナ様」
「本当なのです。わたくしもお母様のあのお姿を見てしまうと、結婚にとても憧れてしまうのです」
「ねえルナお姉様。ルナお姉様がさっきお母様からもらってた『ダイアティアラ』。お姉様が結婚したら、ジャンヌにくれるの?」
「もちろんですよジャンヌ。あなたが先に使ってしまいなさい」
「え~ジャンヌ、ルナお姉様が結婚するまで、『ダイアティアラ』使わないもん」
「まあ、この子ったら」
「お2人とも、相変わらず仲が良いですよね。そうそう、そういえばさっきサンダース様から、明日は『マドリード』の『火のクリスタル』の浄化をお願いされてたんでした」
「そうでしたスズキ様。わたくしもそれをずっとあんじておりました。アクア王女も心配されていたのです」
「そうだねルナお姉様。一郎、明日は『マドリード』行くの?」
「そうしましょうお2人とも。エルミタージュの授業があるので、授業してるミューラやガイア師匠の協力も必要です。『クリスタルの使徒』全員、または『クリスタルのかけら』のペンダントがあれば浄化は可能ですよね。『水のクリスタル』も浄化出来ましたし、浄化する方法は分かってます。今日は『戴冠式』と結婚式の一大イベントでしたから、とても『マドリード』まで行く余裕がありませんでしたし。『火のクリスタル』を助けるために、明日にはみんなで『マドリード』に向かいましょう」
「(二聖女)はい」
「う~ん。お2人が素直だと、やっぱり調子狂っちゃいますね・・」
「(二聖女)どうして?」
「はは・・お2人とも・・そっくり・・」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~エッチ~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~やらしい~」
自宅マンションのリビングで、天馬が2頭空を飛び回る。
明日は『マドリード』の火力動力炉『テムジン』にある『火のクリスタル』の浄化へ向かう決意を固める3人。
『火のクリスタル』もまた、『水のクリスタル』がかつてそうであったように、闇に染まる危険にさらされるクリスタルの1つ。
闇から浄化する方法はもう分かっている。
『三種の神器』もこちらのもの。そんな心のゆとりから、食事を囲む3人には笑顔が絶えない。
そしてこの日が3人にとって、最後の晩餐になろうとは、この時の3人には、知る由も無かった。




