100.第5章 <消えた花嫁> 白猫(しろねこ)
第5章<消えた花嫁>
「・・君、・・キ君、スズキ君起きて!」
「(がばっ!)ミューラ!?・・マミはどこに!・・じゃない、ジャンヌは・・」
「先に王宮に戻られたわ、なんだか嬉しそうにお帰りになられて。スズキ君、顔真っ青だったから、宿のベッドに横にしてあげてたの」
「ありがとうミューラ」
ジャンヌの突然の告白に驚き、しばらく意識を失ってしまったらしい。
「大丈夫?なにかあった?」
「ミューラ・・レンジャーって、心を読むスキルとかあるかな?」
「無いわよそんなの。他の職業でもありません」
「他人の過去の記憶をのぞいたりは?」
「ありません」
「変装とか、誰かと入れ替わったりとか」
「・・ジャンヌ様が・・自分がスズキ君の前世のお嫁さんだって言ったの?」
「えっ!?・・うん」
「・・信じられないわね」
「ミューラは、冷静だね・・」
「またスズキ君の勘違いとかは?」
「・・結婚を決めたプロポーズの・・誓いの言葉、僕ら夫婦しか知らない秘密、全部言い当てられた・・」
「なるほどね、じゃあ真実らしい」
「らしいって・・」
「確かに可能性の話。『上位昇進』なんてスキルがあるんですもん、まだ私も知らないスキルはこの世にたくさんあるはず。嘘か本当かは分からないわ」
「たしかに・・」
「何か他に気になる事言われた?」
「・・金貨3枚」
「金貨?」
「毎月送金してたんです、金貨10枚」
「スズキ君、言ってたね。家の借金の金貨7枚と、奥さんと子供の・・養育費が金貨3枚って」
「養育費の金貨3枚。15年間、入ってたんですよ、ジャンヌのギルドカードに、毎月・・」
「そう・・」
「スキルポイントが、不自然に増えてて。自分ではゴブリンなんか一匹も倒してないのに、なんで・・」
「・・落ち着こう」
「・・うん」
「わたしは、そんな過去の幻想を引きずる必要は無いと思う」
「どうして・・」
「今が大事、過去よりも未来。いつまでも縛られるのは駄目・・時間が解決してくれる事もあるの」
「ミューラだから言える事だよね」
「それは失礼です」
「・・ごめん」
「だってそうでしょ?仮に前世があるとして、その前の、そのまた前の、その前の前の前のお嫁さんの記憶があったからといって、スズキ君?今ここで生きているあなた、一体何人のお嫁さんの責任取り続けるつもりなの?キリが無いでしょ?」
「たしかに・・おっしゃる通りです・・」
「スズキ君、私、生まれが『マドリード』って知ってるよね」
「ええ、『マドリード』の王宮で、サム国王の話聞いてましたし、その・・」
「水の国『ベネチア』への貢ぎ物だった私を・・たしかに『ベネチア』では迫害もあったし、差別もあった。私、『火属性』だし、兄さんだって・・」
「・・うん」
「でもね、優しくしてくれたヒューマンもいたの。その人、あなたと同じ、『水属性』で・・」
「良かった。そんな心の優しい人がいたんですね・・今は?」
「もう先に亡くなられたの、ヒューマンは私たちエルフより寿命が短いの。ましてや種族間の恋愛なんて・・エルフの女の子にとって、とてもリスクが高い行為なんだから・・」
「先に大切な人を失う気持ちは、僕にも分かります」
「スズキ君も?」
「母を失いました、子供の頃に」
「そうだったね、悪い事言っちゃった」
「いいんです、本当は40歳手前のおじさんなんですから僕。この年になれば、2世代上は大体亡くなる年齢ですし。母さんはその・・ちょっと、早すぎました・・」
「つらくない?」
「母さんは、なんだか、ずっと近くで見守ってくれてる気がします。不思議と喪失感は無くて・・やせ我慢ですかね・・はは」
「・・そう」
「僕の嫁さんは・・マミは今でも生きてると信じて15年前からここまで頑張ってきたんですけど、なんだかもう分からなくなってきました」
「つらいわね」
「でも・・」
「なに?」
「ミューラと話せて、少し気が晴れてきました」
「それは良かった」
「これからも・・頼りにして良いかなミューラ?」
「もちろんです、頼りにしてるのはこっちの方よスズキ君」
互いに自然と握手をする。何か似た者同士の自分とエルフ、初めて会った時から・・他人の、他エルフの気がしない。
「スズキ君、これからも・・君がどんな選択をしても、わたしたちは最後まであなたの味方だからね」
「うん・・でもわたしたちって・・」
「アイリス様だってそうよ。でも・・アイリス様の最後までは、私とはちょっと意味が違うんだけどね~」
「なに分かんない事言ってるんですか」
「それだけ元気ならもう大丈夫そうね」
「ええ、ミューラのおかげだよ。本当ありがとう」
「それにしても不自然ね。お2人のご婚約の件、ルナ様はあまり乗り気じゃ無かったのに、打診があった時、ジャンヌ様が2つ返事でオッケーされて」
「どこが不自然なんです?」
「もう、鈍感なんだから!ご婚約を発表されて、許嫁が出来てから、前世の、転生前の嫁ですって言ってるのが不自然でしょ?」
「ああ、なるほど。僕が感じてたどうでも良くなってきたのって、たしかにその順番関係してましたね。言われるまで気づきませんでしたよ」
「本当にもう・・何かお考えはありそうなんだけど・・」
「単に僕への当てつけだと思いますよ。離婚届出されて、直後に死にましたから、僕」
「もう、本当に能天気なんだから・・2日後は『トロント』で決戦だし、明日も大丈夫スズキ君?」
「そうでした・・まだ何も準備が・・」
(コン コン・・失礼します!)
「あれ?」
「誰かしら・・ちょっと待ってねスズキ君、『感知』・・悪いオーラは感じない・・とても真面目、それに・・良い男」
「なんですかそれ?危険は無いんですよね、じゃあ出ます」
「うん」
扉のドアを開けると、白い帽子に黄色いラインの入った白い制服を着た、カッコいい青年が両手に布袋を抱えて立っていた。
「こんばんわ、『白猫ヤマト』です!」
「どうも・・なんでしょう・・」
「お荷物です、こちらにサインかハンコをお願いします!」
「ハンコ?じゃあサインで・・ス・ズ・キ・・っと、はい」
「お荷物です!」
「ええ!?(どさっ!)重いけど・・腕力補正で・・持てない事も無い・・」
「では、わたくしはこれで失礼します!」
「ちょっと!あなたはどこから!」
「お気になさらず、お荷物あるところ、一歩前まで必ずお届けします!」
「カッコいい・・」
(かん かん かん)『白猫ヤマト』のお兄さんは2階から下の階へ階段を下りていく。どこかへ消えていなくなってしまった。
「(どさっ)ふうっ、重い・・」
「なにそれスズキ君?」
「布の袋で包まれてますね・・ちょっと開けてみます」
「ちょっと待って。『感知』・・温かい・・大地の恵みを感じるわ」
「ああ、お米ですよきっと」
「お米?なにそれ・・」
「(ざっ)あ、やっぱり。パッケージは無いですが、僕が発注した新潟県産『コシヒカリ』で間違いなさそうです。米俵・・とはいかないですよね」
「何よパッケージって?コシヒカリって何?米俵って何よ?」
「アイリスみたいな事言わないで下さいよ。これの事、あの子に黙ってて下さいよ、面倒くさい事になるんですから」
「それは約束できません」
「またまた~最後まで味方とか言っといて、ジョンもルナ様にすぐ寝返りますし、ミューラもアイリスにすぐ寝返る気満々じゃないですか」
「当然です」
「ほら~。まあせっかく発注しましたし、ちょうど良いですねこれ。明日僕のブース寄ってくださいよミューラ先生」
「なにこれ、食べ物?どこだったか『マドリード』で見た事があるような、ないような・・」
「さすがレンジャー、察しが良いですね。お腹が空いたら寄ってください。ずっと持ってても重くてしょうがありませんし、明日中に全部売りさばいて見せますよ」
「でもこれ、そんなにたくさん無いでしょ?」
「膨れるんですよ、水を含むと」
「美味しい?」
「最高に」
「期待して向かいます」
「聖女は一緒に連れて来ないようにお願いします」
「どうしてよ~」
「アイリスとジャンヌの板挟みになって、正直『トロント』王国なんてどうでもいい状況ですよ僕」
「ふ、ふふふ」
「笑い事じゃないですよ先生~。用が済んだらさっさと帰って下さいよ」
「ははは、そうします。でもそれどうする気?水で何で膨れるのよ~」
夕日が地平線に沈み、まもなく夜を迎える。部屋に結晶石の明かりが自然と灯る。ヒューマンとエルフの明日に向けた会話が止まる事は無かった。




