第1話 人は死して(1)
「へっ?」
恩人でもあり敬愛する上司でもあるミウラ管理官の頭が突然、小さな光の粒を撒き散らしながら爆散した瞬間のコウの反応は間抜けなものだった。
「……先輩、これって」
「演出……じゃないよな」
コウ自身、オペレーションセンター勤務時代、2度のテロリスト襲撃を受け、一度ならずとも銃を突きつけられた経験を持っていた。だが、肉体に対する危険という点では一切の心配がないはずの、この世界において目の前で発生した事態を咄嗟に理解して反応しろというのは無理な話だ。
(これって、演出なのか?)
ネギ先輩やセリ、いやこの会場にいる数万の、モニタ越しに配信されている情報を見ているであろう数百万人の人々も同じような反応だったのだろう。
頭部を失ったミウラの身体は、何かに突き動かされるように壇上でクルリとターンをした。そしてバタリと倒れ、そのまま光の粒となり消えてしまった。
「先輩!」
「ああ」
ソラとアサヒをセリに頼むと二人は舞台に向かってかけ出した。
「これは演出じゃない!」
そして同じように呆然としている壇上周囲の警備局の人間を無視して、そのまま駆け上がった。
「先輩! ミウラ管理官は?」
「いない! システム! ミウラ管理官の所在地を!」
ネギ先輩が焦ったようにシステムに問い合わせたが、その問いにシステムが返したのは、短いエラーメッセージ。
『 Not exists 』
「駄目だ。存在していないって帰ってくる。コウ! そっちでもやってみろ!」
「はい! システム! ミウラ管理官の魂の状態をウォッチしろ」
『 Not exists 』
「システム! ミウラ管理官の移動経路!」
『 Not exists 』
コウとネギ先輩はあらゆる方法をもってミウラ管理官の居場所を探すが、同じエラーしか返ってこない。コウはやや声を落とし、
「システム! ミウラ管理官の過去のログを出してくれ」
と問合せを行った。
『 Not exists 』
その結果を見てネギ先輩も最後の質問を投げる。
「システム。 過去を含めた管理センターの従業員名簿にミウラ管理官の名前はあるか?」
『 Not exists 』
「なぁ、コウ。俺達トツカチームはミウラ管理官管轄のエリア担当だよな」
「はい、そのはずです」
「どういうことだと思う?」
「さぁ……」
警備局の人間も周囲に集まってきた。
「「何か解りましたか?」」
コウと警備局の一人の声が重なる。
どちらも何も解っていないという状況だ。
「トツカさん、状況は見えていますか? はぁ、そうです。ええ、わかりました。コウと管理センターに向かいます。警備局も戻します」
その間にネギ先輩はチーム長のトツカに連絡をしていた。どうやら管理センターの職員に召集がかかったらしい。二人は壇上から降り、家族の元へ戻った。
「ソラ、ごめん。パパは仕事にいかないとならなくなった」
「それはいいけど……ミウラのお爺さんは?」
「わからない」
ソラの心配そうな質問にコウは首を横に振った。
状況的には演出ではなく、そしてミウラがこの管理エリアにいた痕跡が完全に消えてしまっていた。何も解らないということだけが理解出来ているのが今の状況だ。
「セリさんとアサヒ君と帰っておいてくれ。遅くなるかも知れない」
「わかった」
「あ、ああ……戸締まりに気をつけて」
コウはコロニーに来て初めての言葉をソラに告げた。
「戸締まり?」
そもそも仕組み上、オブジェクトの所有者が許可したもの以外が、住居といったパーソナルスペースの中に入ることは不可能である。
「いや、いい」
自覚はなかったが戸締まりという言葉自体が死語になったらしい。
コウはそう思いながらも、セリ達に自宅へ戻るよう促した。
***
「集まったな。状況を説明する」
アドミニストレーター室に集まったのはトツカチーム合計12名である。
最後に自席についたコウに一瞥を送るとトツカは状況の説明を始めた。
「ミウラ管理官は死亡と認定された」
「死亡?」
ネギ先輩が素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ。死亡だ」
「この世界で死ぬんですか?」
「死なないはずだったんだがな」
ネギ先輩の質問にトツカが苦笑いを浮かべて答えた。
「何人かは調べたようだが、ミウラ管理官の痕跡がこの管理エリアに残っていない。だが、我々の記憶には残っている。システムが俺達の記憶を弄らないことが前提だがな」
「映像記録は?」
アドミニストレーターの一人が質問した。
「残っている」
「じゃぁ、システムのログがおかしいのでは?」
「改竄された痕跡はまだみつかっていない。それに……」
トツカが奥歯に物が挟まったような物の言い方をして口を閉じた。
「『それに』とはどういうことでしょうか?」
コウが思わず先を促す。
「……同様の事件がすでに7箇所で発生している」
「それって……」
「ああ、この世界で7人もの人間が死亡したと認定されたということだ」




