エピローグ: Some day
……タイムアウト。解凍モードに入ります。解凍モードに入ります」
オペレーションセンターの中で無事だった数少ない区画の一つ。緊急退避施設の中に、大きなアラートが鳴り響いた。
その数時間後、一台の冷凍睡眠装置が開く。
さらに数時間が経過し、その装置の中から女性がゆっくりと起き上がった。
約五年間の冬眠期間を越えて起き上がったユキナだ。
いつのまにか裸になっていた。
その周囲には人影はない。
ユキナは、冬眠明けのためか、うまく動かない体をゆっくりと動かし、近くにあったロッカーの中に毛布を見つけ、体に巻きつけた。
「どういう事?」
久しぶりに出す声はしゃがれていた。
椅子を見つけ、そこに座り記憶がゆっくりと戻ってくるのを待つ。
振り返ると自分が眠っていた睡眠装置の横にカゴが設置されてあり、そこには血まみれの服、コウから受け取ったカードと、液晶モニタが割れている携帯端末が残されていた。
(服は……恥ずかしいけど、これでいくしかないわね)
ユキナは、冷凍睡眠装置のモニターを確認した。右下に日付が出ており、どうやら、あの日から五年の歳月が経っている事が解った。
「誕生日、五回分……」
そう肩を落とすも、
「ここにいても仕方が無いか……もう誰もいないんだろうなぁ」
そう思い、カードと動きそうも無い携帯端末を持って外に出ようと、両開きの扉の前に立った。
まだここは電気が生きているのか、その扉は自動で開いた。
外に出ると、そこは瓦礫の山になっている。瓦礫の山の向こうに空が見える。どうやら地上まで天井が崩落してしまっているようだ。
ここにいても助からないし、どうも身体の機能に致命的なダメージがあるようで、あまり残された時間が少ない気がする――
なんとなく自分の死期を悟ってしまい、瓦礫の山をブツブツと文句を言いながらも登る事を決意する。
そして、一時間ほどかけて、なんとか外へ出た。
大きく息を吸い、ユキナは、
(五年振りの空気は……美味しいのかしら?)
そんな事を思った。
瓦礫の山の向こうには、宿泊棟の建物が綺麗に残っていた。業務棟は倒壊したが、宿泊棟は助かったらしい。見慣れたオブジェがあった。
「あそこまで行こう……」
瓦礫の先に何とか一般開放エリアの中に入れそうな場所があった。そこを通りユキナは、ソラといつも一緒にいた場所、コウと一緒にいた場所を目指す。
(いつもだったら、すぐなのにな……)
どうやら本格的に残された時間は少ないんだろう――
そう思いながらも意外とはっきりとしている意識のおかげで、よろよろと歩きながら、なんとか巨大な球形モニタの下にたどり着く。
「よかった……壊れていない……」
一番奥にあったおかげか、風雪にさらされたはずの球形モニタはユキナが近づくと自動的に電源が入った。ユキナは、部屋の隅にあるブースで、慣れた手つきで端末を操作する。
(こっそりコウの操作を見ていたのが、役にたったわ。どうせなら、音声も聞きたいわね)
そう思い、持っていたコウのカードを使って、音声設定をONにする。この設定をユキナにしてしまった事で、コウは査問にかけられたのだ。そしてそれが、二人が付き合うきっかけになった。
なんだか懐かしい――
ユキナの口元が軽く緩む。
コウのカードを使ったことで、ブース内のモニタにいくつかのメッセージの通知があった。
「ソラ……ソラ……」
そこにはソラの名前がある。
ユキナは溢れる涙を拭う事もなく、その名前をなぞる。
電子世界の様子を映し出すモニタから少しブーンという雑音が混じりながらも、声が聞こえてきた。ユキナはその音に反応し、ゆっくりと手と足を使ってモニタの下にあるベッドに移動し、天井を見上げる。
ユキナが見つめる、ここでは無い別の世界。
そこには――
数多くの幸せの姿。
余計な争いから解放され、健やかな人生を送る沢山の家族の姿。
言い争う男女の姿もある。
だが、貧困から来る争い、宗教観の違いから来る争い、そういった「醜いモノ」から解放された人類の姿が、明るい笑顔がそこにはあった。
どれくらいの時間、その世界を眺めていただろうか。奇跡のような偶然からか、ユキナはその中で歩く二人の姿に気がついた――
「パパー! こっちこっち!」
「ソラ! そんなに引っ張らないでも、遊園地は逃げないよ!」
「だって、久しぶりのお出かけだよ! パパ、全然どこにも連れて行ってくれないんだもん!」
「そうだな。じゃあ、パパも走るか! 久しぶりのソラとのデートだもんな!」
そこには、ちっとも変わらない頼りなさそうな笑いを浮かべる男と、すっかり成長して、母親の子供の頃にそっくりになってきた少女の姿があった。ユキナは、その姿をじっと見つめながら、何かを呟き、一度だけ、何かを思い出すように暮れかけてきた空を見上げ、そして再びモニタをみつめた――
数分後、ユキナが見ていたモニタの中で女性の声が響き渡る。
『ただ今をもちまして、人類は絶滅しました……』
その瞬間、男の視線がモニタ越しにユキナの姿を捉えたようにみえた。
—— The End, but it's only the beginning of the "COLONY"
『第1部完結記念 ちょと長めの後書きです』
ここまで読んでいただき、心より感謝申し上げます。
エピローグ、いかがでしたでしょうか?
これにて第1部の本編は終了となります。
明日投稿するサイドストーリーと、第2部へつながる短いエピソードの後から第2部を始めます。
エピローグでうわっ……となった方は是非明日投稿するExtra Episodeを読んで「ん?」となってください。
本作は2016年4月、「小説家になろう」で当時執筆中だった処女作「異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -」の次の作品を検討している際、ふと脳内に浮かんだ映像からプロットを作りを始めました。
プロローグを起点とした当初は電子世界移行後の世界を描く予定でしたが、気が付けば電子世界へ移行前の世界の方へ構想が拡がり、2日ほどでプロットが完成。そこからすぐ書き始めて2016年5月24日に投稿を開始しました。
実はプロローグとエピローグが最初に書き上がっていた作品でした。
そこへ向けて予定調和のように物語が展開していくはずだったのですが……第3章の冒頭あたりで一度、詰まってしまい他の作品に浮気していた頃に「第2回お仕事小説コン」で楽ノベ文庫賞の候補に挙がっているとの連絡をいただきました。
その後、慌てて全面的に改稿を進め同年11月初旬に初稿が完成し、小説家になろう版は完結。分量は当初予定の倍以上に膨らみましたが、その後、なろう版を何度も改稿を重ねてようやく2017年6月20日に電子書籍単体ではありますが出版となりました(副賞での電子書籍化にもかかわらず、マイナビ出版eBooks編集部のご担当者様には多大なるご尽力をいただきました。ありがとうございます)
出版契約の条件に従い、出版後小説家になろうから削除させていただきましたが、電子書籍単体作品ではなかなか出版数が延びないこともあり2019年4月にマイナビ出版様と協議させていただき、その後、小説家になろうの運営様に問合せし問題無いことを確認した上で、このような形で再掲させていただくことになりました。※再掲しているのは電子書籍版から誤字脱字を一部修正した最新版となります。
なお、売れなかった事については『余談: 電子書籍化作家は売れるのか?』で理由を含め記載しておりますので、ご興味がある方はご参照ください。特に電子書籍のみで自費出版をご検討されている人にはネガティブな情報になりますが、お勧めです。
さて、中身の小ネタ情報です。
第2章に登場する映画は小松左京先生の「さよならジュピター」(1984年)になります。ブラックホールが地球を掠めて通過するため、これを防ぐべく木星を恒星化させて対消滅をさせようとする人類と、それに反対する自然環境保護団体というお話です。本作の底ネタとなった名作でした。
これとは別に私が影響を受けていたのが児島冬樹先生の「黄金の竜騎兵」(1984年 アサヒソノラマ文庫)という名著です。この作品が電子世界と現実という2つの世界がある世界観の原点になっています。「黄金の竜騎兵」に関してはマトリックスよりも面白いと思うのですが、絶版になっており入手困難になっているのは残念ですね。実家にあるので、私は読めますが……。
また、電子世界におけるリソースという概念は、森岡浩之先生の「優しい煉獄」(2005年 徳間書店)の影響を受けているかと思います。リソースは第2部でも活躍(予定)する概念だったりします。
作中で登場した保安局長と警備部長の奥様の名字は、「さよならジュピター」を主演されました三浦友和さんと、ヒロイン役の小野みゆきさんのお名前を拝借させていただきました。
本作は「家族になる」「家族とは」をメインテーマに据えて執筆いたしました。戸籍上の話ではなく、主観的な「家族」というものに対して「失う」「探す」「見つける」「壊す」といったアクションをいくつかの視点で書いたつもりですので、この点が伝わっていれば幸いです(主観というのがポイント)
第2部でも引き続き、色々な人類としての制約から解放された電子世界での人々が「家族」を求めて様々な問題に直面し、葛藤し、抗い、向き合っていくような展開になればと思っております。
主人公は勿論、第1部に引き続き電子世界に移行したコウとソラ。新キャラも登場します。そしてあの人も――
第2部の投稿開始は2019年6月3日を予定しておりますが、電子書籍版を改めて投稿していた第1部とは違い書きながら投稿という形になっていきますので更新頻度は遅くなります。気長にお付き合いいただけると幸いです。
それでは引き続きお楽しみいただければ幸いです。
2019年5月 作者




