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第2話 バッドエンド(2)

「世界の子ぉ?」

「はい」


 とある雑居ビル。

 二十坪くらいだろうか。ガランとした部屋の真ん中に長テーブルが四枚並べられ、その上に脚を投げ出している眼鏡をかけた筋肉質の男が、部屋に入ってきた中年の男性から報告を受けていた。


 机の上には、飲みかけのペットボトル、ビールの空き缶、そして灰皿の上に積み上がった、最近では珍しいタバコの吸い殻。何も無い部屋と雑然としたテーブルが混在し、少し古ぼけた蛍光灯。まるで、ここだけ昭和の時代から切り出されたような空間である。


「クリア最終日に移行する子供を、世界の子として宣伝に使うみたいです」

「へぇ……」


 そう言って筋肉質の男は少し考える。見た目の割に口調は軽い。


「決めた!」

「はい?」

「その日にしようか」

「決行日ですか?」

「そう、世界の子を殺す。そして、オペレーションセンターの本部ビルを壊す。予定より遅くなるけど、インパクトはでかいんじゃない? そのタイミングなら世界もまだ、三、四億人は残っているだろうし、そいつらは全員まとめて、生贄にしちゃおう」


「わかりました。全セクトに協力を要請します」

「そうだね! 全国一斉蜂起って感じで、派手に行こうよ。主催は僕たち『ハピネス』! 人類最後の祭りと洒落込もう!」

「はい」


***


「どうやら、移行最終日(クリアポイント)をターゲットに武装蜂起がありそうです」

「そうか……」


 同日。

 保安局では定例のテロ対策会議が開かれていた。

 LPO事件の反省から情報部、警備部と執行部の保安局直下の三つの組織は、連携をより密にすべく、週一回の定例会を開いていた。


 コウが職場に復帰した日の夕方には、情報部よりテロの危険性が高まったという連絡が入ってきたのだ。


「近々、テロがありそうだという話も出ていたが……」

「そうだったのですが、どうやら東日本のクリアポイントに合わせ、全国一斉蜂起という計画を始めたようです」

「いかんな……その時期だと東日本は手薄だ」


 情報部員の報告に、警備部長が顔をしかめる。

 

 それに対し、新しく執行部長となった白髪の男が静かに提案をする。


「モグラ叩きをしましょう」

「それだと、泥沼の戦いになるぞ」

「全国一斉蜂起よりはマシですよ」


 保安局としては、西日本を含めた全移行(オールクリア)が無事に完了できれば良いと考えていた。そのため、この後増えるだろう予測されていた単発のテロについてはある程度のガス抜きとして許容するしか無いと考え、各組織の動向を追うにとどめていたのだ。これは慢性的なオペレーションセンター保安局の人材不足も理由の一つである。


 守勢から攻勢に出ることがテロの呼び水となって、モグラ叩きのような状態になるのを保安局としては恐れていたのだ。


 だが、


「そうだな……クリアポイントまで放置して、人手が一番足りない時期を攻められるよりはマシだろう。よし、まずは武装蜂起を先導しようとしている、その『ハピネス』を潰すぞ」


 そう保安局長は言い、執行部部長の提案を承認した。


「オペレーションルームのシライから情報が入ってきた例の男か」


 局長の言葉に警備部部長がうなる。


「はい。どうやら海外に行っていたようで、入管から先日、日本に戻ってきたとの情報を受けて追っていたのですが、一週間前から足取りがつかめていません。警戒して姿を消したようです」


 情報部員からの報告に、執行部長が机を叩き、


「テロで犠牲が出る事は、この俺がもう許さん……LPOでは、俺達の仲間が殺された。あいつらの死を無駄にしないためにも、テロ組織は徹底的に叩く! いいですね、局長」

「ああ、だがやりすぎるなよ」


 執行部は、LPO事件後、当時の部長が保安局長に昇進した事で空いた椅子に、現場指揮官だったクギを座らせた。そして、その配下に警備部で監視チームを指揮していた隊長を、チームごと移籍させ、戦力の集中を図ったのだ。


 こうして、執行部の最大戦力。白髪の警備員ことショウゴ・クギが、執行部の精鋭とともに野に放たれたのだが――


***


「空振りだと!」


 クギから入った報告に保安局長は唖然とした。


「どういう事だ? ついさっきの情報で特定した居場所だぞ!」


 二日前、テロ組織『ハピネス』を潰すという方針が決まり、情報部の調査の結果、主要メンバーがアジトにしている雑居ビルの存在が確認できたのが、今日の夕方。すぐさま、クギを中心に急襲チームが組織され三時間後には内部階段、エレベーターと、全ての逃走経路を塞いだ上で突入したのだが……


「情報部員は死亡」


 急襲したクギ達を嘲笑うかのように、部屋の真ん中にある長机の上に、大の字で転がっている男の死体があり、口にはバラの花を大量に咥えさせられていた。死因は額に空いている刺し傷。サバイバルナイフか何かで一突きされたのだろう。


「局長、間違い無く情報が漏れています」

「うかつな事を言うな。今日の襲撃だって、知っているのは保安局の部長級以上、他の部局は局長以上だけだ。あとは、お前のチームだけだぞ」

「その部長級以上……全員、洗い直してもらえませんか」


 状況として情報が漏れている事は確かだろう。

 クギは物理的な制約を考え、そう考えていた。


 部下の隊員には作戦の内容をギリギリまで伝えず、あえて急襲する直前にブリーフィングという形を取っている。通信手段についても作戦用ATSの中からは物理的に封鎖をしているため、不可能だ。


 部下を疑いたく無いという気持ち以前に、執行部としては、味方に変な疑いをかけなくて済むよう、情報流出を防ぐような運用をしている。


 ならば考えられるのは部長及び局長以上の管理職。

 クギのターゲットが絞られてくる。


 つい先刻、これ以上の犠牲は出さないと誓ったばかりだったのに、その舌の根が乾く前に一名の殉職者を出してしまった。


「許さん……許さんぞ……」


 その姿には強面ながらも、普段は一般開放エリア(PA)でにこやかに一般の来訪者に応対していた面影はなかった。

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