第3話 不幸せな大人たち(1)
「おい!」
オペレーションセンターの保安局警備部の部長は、正面に立つ男を怒鳴り付けた。
「は、何か問題がありましたか?」
目の前に立つ男――
コウとユキナを監視する二つの班を指揮する監視チームの隊長は直立不動のまま、答えた。
「問題だな。なんだ、この報告書の『花火打上代』『花火倉庫 扉錠前の弁済』という二つの項目は?」
「書いてある通りですが……」
「だから、何で花火なんかを使ったんだと聞いているんだ」
「祝砲です」
「祝砲?」
「はい、祝砲です」
「だから、それは何だ?」
「シライとユキナちゃんのカップル成立祝いです。いやー、我が部下ながら良い仕事をしました」
「……」
「たまたま河原の近くに花火工場があるのを知っていた部下が、急遽、準備したんですよね」
「続けろ」
「まぁ、急いでいたんで、倉庫の錠前を壊して……あ、明細をつけてありますが、安物です」
「そうだな……たしかに四百八十円は火薬が保管してある倉庫にしては安いが……」
「そうなんですよ。だから簡単な道具で開いたのですが……あ、その点は管理者にちゃんと伝えてあります。そして、中にある花火を持ち出して、河原にセット。タイミングを合わせて」
「合わせて?」
「ドッカーンと」
「……」
「以上です」
そこまで聞いて部長はコメカミ付近を押さえ、
「もういい、頭痛がひどくなりそうだ」
「薬を持ってきましょうか?」
「お前と話していると頭が痛くなると言っているのだ」
「それは失礼しました」
「とりあえず、この費用は経費として認められん。金額も金額だし立て替えてはやるが、お前たちの給与から引くぞ」
「喜んで!」
そう言って、隊長は敬礼を一つすると、踵を返して立ち去ろうとした。
「……いいのか?」
隊長の反応に、警備部の部長が訝しがる。
その言葉に言いたいことは言ったと満足げな表情を浮かべていた隊長は足を止め振り返った。先ほどとは打って変わり剣呑な雰囲気を漂わせている。
「私達が、喜んで若い二人を監視していたとでも?」
そして、静かに見つめ、警備部長が口を開くのを待つ。
「いや、それはそんな事は無いが、あくまで任務で……」
「これが私達なりの贖罪です。我々年寄りが、自分たちの都合で犠牲を押しつけてしまった若者達へのね」
二人の間に少しの沈黙があった後、警備部長はこう言った。
「そうか」
「はい」
「解った。この費用については……私も出させてもらおう」
隊長は最大限の敬意をもって、敬礼をし、警備部長室を後にした。
***
昨日の話をコウはネギ先輩に報告していた。
細かい事はさすがに伝えていないが、ユキナが家に来たこと、二人の気持ちを色々ぶつけあった結果、これからもデートをしようという事になり、二人並んで花火を見た事。
「で、付き合い始めたのか?」
「えっ?」
「いや、お前は告白したんだろう? それでユキナちゃんは?」
コウは昨日の会話を思い返す。
確かにユキナはコウに好意を抱いているような言葉はあったが、決定的な言葉は聞いていない。ましてや、『付き合う』みたいな会話は一度もなかった。
「先輩! どうしよう! 僕が告白しただけで、あとは何も進んでいない!」
「馬鹿だなぁ……あーあ、女の子は待っているぞ。好きだという言葉の続きを。女の子相手に『言わなくても解るだろ』は、通じないからな」
「そ、そうなんですか」
「そうだ。気持ちは言葉に。気持ちは形に……だ」
「言葉と形ですか?」
「そうそう。言葉だけじゃ伝わらない。ちゃんと形も無いとな」
「形って……」
「それは自分で考えろ」
ネギ先輩は、形という言葉にキスなどといった積極的な行動という意味を込めていたのだが、
(形、形……花束かな……どうしよう、女の子にプレゼントをした事なんて……)
コウはしっかり、勘違いをしていた。
「そういえば話は変わるけど、昨日、お前の家の近くで花火が上がっていただろ」
「はい、ちょうどタイミングが良かったので、ユキナちゃんと二人で観に行きました」
なんのタイミングかは言わない。
「あれ、主催者が解らないって、いまネットで話題になっているぞ」
「そうなんですか? 結構な数が上がっていましたよ」
「ああ、どうもゲリラ的なイベントだったらしくてな。どこの主催で、何の目的だったのかって、今、色々な推測が流れていて、ある種の祭りになっているみたいだ」
「へぇ」
偶然とはいえ、本当に素晴らしいタイミングで上がった花火だった。
(絶対、この夏の花火の事は忘れない)
そう思うコウだった。




