第3話 不幸せな大人たち(2)
その日の朝、ユキナは意を決して教授の所へ顔を出した。
コウに告白された事で、ユキナはAM2Cとの完全な決別を決意していたのだ。だが、それは両親を失ったユキナを後見人として支えてくれた教授との決別を意味する。
「失礼します」
「どうぞ」
教授室のドアをノックし、返事を待ってユキナは中へ入った。
「ユキナ君、今日はどうしたのかな」
「教授、今日はお詫びにお伺いいたしました」
「ん? それはどういう……まぁ、とりあえず、そこに掛けなさい」
教授室にある応接用のソファを進められた。
「コーヒーでいいかな? インスタントだけど」
「はい、あ、私が淹れます」
「いいから、座っていなさい」
「はい」
そう言って、教授は二人分のコーヒーを準備してユキナと自分の前に置く。
「それで、どういう事かな」
「はい……教授には両親が亡くなってから、長い間、大変お世話になってきました。本当に感謝の言葉もみつかりません」
「おい、止めなさい。照れるじゃないか。僕は友人だった君の父上への恩返しのつもりで……」
「いえ、本当に困り果てていた私に手を差し伸べてくれたのは教授だけでした」
「ユキナ君」
「でも……本当にごめんなさい。私はAM2C……組織の活動についていけません」
「え?」
「私はAM2Cが反対するオペレーションセンターの事が……電子移行の事がどうしても悪い事だと思えなくなったのです。だから……教授の期待を裏切る事になってしまい、本当に申し訳ないのですが……」
「待ち給え、ユキナ君」
教授が、口調を強めたので、ユキナは言葉を止めた。
「何か、大きな誤解があるようだが……」
「誤解……ですか?」
「私は、君が言う『組織』という言葉が思い当たらないのだが……たしかに私は教会の敬虔な信者ではあるし、AM2Cという組織で、それなりの立場もある。だけど……君が言う組織とは一体何の話かね?」
「えっ?」
「僕は君が『組織』というものに属していて、その活動に参加しているというのも初耳なんだが……」
「でも、教授は入学前に『オペレーションセンターの人と知り合いになって、報告するように』って……」
「ああ、似たような事は言ったと思うが……細かい言葉まで覚えていないが、『オペレーションセンターの職員と知り合うような事があったら、報告してほしい』とは言ったはずだ」
「だからてっきり、それはAM2Cの活動として……」
「誤解を与えたようで申し訳ないが、それは、教会とは違う考え方に触れる機会があったら、教えて欲しい。その上で、一緒に電子移行について考えていこう……というつもりだったんだ」
「へっ?」
ユキナは自分が誤解をしていた事に気が付き、真っ赤になっていく。そして、その後、真っ青になり……
「それじゃぁ、メッセージって」
「メッセージ?」
「これです」
ユキナは自分の携帯端末に届いた、複数のメッセージを見せる。
「これは……」
「私はてっきり、教授か、『組織』の人からのメッセージかと……」
「このメッセージ、僕宛に転送してくれないかな」
「え、あ、はい」
「少し調べてみるよ。それから……おめでとう」
「え?」
「ごめん、前後のメッセージが少し見えてしまったよ。オペレーションセンターの彼と付き合うことになったんだろ?」
「え、あ、はい、えーと、付き合うというか……」
青ざめていたユキナの顔が再び赤くなる。
「若いんだし、良いことだと思うよ。それに、僕は君のご両親や一部の過激な思想を持つ人達みたいに、電子移行そのものを絶対悪とは考えていないんだ」
「そうなんですか?」
「この身体や魂は神から与えられた大切なものであり、神の意思の元、生きている間は不可分な存在ではあると考えているけど、肉体から離れた魂は神の元に還る実在のものであり、その経路の途中に一時的に電子世界に立ち寄る事は、不自然じゃないと考えているんだ」
「それじゃ、電子移行を認めるんですか?」
「寿命が尽きる前に、神から与えられた自分の肉体を殺して、電子移行をすることは認められない。でも、電子世界の全てを否定する訳じゃない……という所かな。だから、出来れば僕は命あるギリギリまで現世にとどまり、研究を続け、その後、電子世界に立ち寄った後、神の元へ還りたいって考えているんだ」
「そういう考えもあるんですね」
「少しずるいというのは自覚しているけどね」
その言葉に、ユキナも微笑む。
「とりあえずメッセージの件は、僕も調べてみるよ。ユキナ君はあまり気にしないように」
「はい」
「成人になって君は、すでに僕の手は離れている訳だが、僕はいまでも親代わりのつもりでいる。だから、一度、君の彼氏にも会わせて欲しいな」
「え、あ、まだ彼氏じゃ……でも……はい、今度、一緒にご挨拶させて……」
「挨拶? うーん、それだと泣いちゃいそうだな。もう少し軽めで……」
挨拶という言葉に含まれる意味を少し想像して、
「あ、挨拶って、そういうつもりじゃないです。はい、えーと、紹介、紹介です」
「うん、それでお願い。僕にも心の準備というものがあるからね」
「はい」
ユキナが教授室を後にした後、残された教授の顔が険しくなる。
「ユキナ君のアドレスに直接メッセージが届くという事は……」
そう呟き、どこかへ電話を始めた。
平成最後の投稿です!
新しい時代、楽しみですね。
明日は折角ですので(?)、午前0時に予約投稿します。午前7時にも投稿しますのでご注意ください。




