1~東京ビデオゲーム高等学校~
僕の名前は田中ミノル。
千年に一度とも言われたバカ、というか劣等生。海外好きの母と野鳥写真家の父を持つ、これでもかってくらいありきたりな16歳。
しかし、ありきたりではないのが物語の主人公。
僕は中学三年間をFPSというジャンルのゲームに捧げ、プロゲーマーにもなり、仕上げには世界大会上位へ上り詰めた。
ある一通のメールから僕の人生は普通じゃない、主人公らしい非日常が始まる。
その日も僕は叔父の経営するスーパーマーケットからどうやって解雇されようか試行錯誤していた。
しかしそんなのは全くもって無駄。この店は永遠に俺を手放すことはなかった。
この店は代々、田中家の男が継ぐことが決まっている。父親は継がなかったが、叔父には息子がいないため僕しか継ぐ男がいないというわけだ。
…叔父さんも少しぐらい僕の努力を認めて解雇してよ……。
僕がため息を吐いたとき、
「ねぇ、疲れてるみたいだけど…大丈夫?」
後ろから声がかかった。
僕がこの店を無理矢理にでもやめない理由、それが彼女だった。
田中みゆき。叔父さんの娘で俺が今まで見てきた中で最も綺麗な女性だ。
「ん?…あ、ああ。大丈夫だよ。」
「本当に?またパパにお父さんの事言われたんじゃないの…?」
みゆき……みゆは僕の顔を覗き込む。
僕は今まさに、乳児用おむつのパックでメトロポリタン大聖堂を積み立てている最中だった。
「ああ……まあ、そんな感じかな。」
あははと笑って誤魔化す。
「気にしなくていいのよ?何も分からずに言ってるんだから、あの人。」
「いや、父さんの事分かってないのはむしろ俺だよ。顔だって覚えてないし。」
みゆは少し心配そうに俺の様子を見ていたが、仕事の戻ると言ってどこかへ行った。
僕は乳児用のおむつのパックを積み終えると、補充用の商品の入ったカゴをもって次の棚へ向かった。
しかし、そこへ叔父さんが来てしまったのなら仕方がない。
僕はわざと派手につまづき、カゴを店長の叔父さんへぶつける。こんな物凄く小さな抵抗から解雇への道は切り開かれるものだ。
……現代日本の社畜の言葉とは思えないが。
とは言っても僕は社畜なわけではない。まだ16歳だしここへはバイトとして来ているだけだ。
「おい、ミノル!」
叔父さんは僕の肩を力強く掴むと、客から見えない壁へ押し付けた。
「このくそがきめ!…何度おれに迷惑をかければ気がすむんだ」
「あえて言うなら、何度でも?」
僕は挑発的なコメントで叔父さんを煽る。
「なんだと?……お前も所詮おれの兄貴の息子だな!あいつとよく似てクズ野郎だ!!」
我ながら、何故逆切れなんだと思ったが、俺は思わず彼の店の制服の襟を掴むと自分と立ち位置を変えて壁へ押し付けた。
「いいか…。僕の前で父さんを馬鹿にするな……。」
まだ何か言おうとしている叔父を置いて僕はカゴを持つとさっさと仕事にかかった。
その帰り道だ。
事の起こりは。
僕は帰り道、携帯端末でSNSを確認すると、友達からのメッセージに返信する。友達と言っても中学を卒業したから、ゲームをやってる友達だけど。
すると一つの通知がくる。このご時世珍しいメールだ。
送信先は【東京ビデオゲーム高等学校】、件名は『我が校への招待状』だ。
僕はこの学校を調べるために小走りで帰宅すると手を洗い、すぐに自分の部屋へ。パソコンを起動し検索する。
【東京ビデオゲーム高等学校】…去年造られた東京にある高等学校。様々なジャンルのゲームについて学び、プレイする学校で新作ゲームの先行プレイも来るらしい。
へぇ、僕のためみたいな学校だな。
ミノルは口角を上げた。
僕はメールにすぐ返信すると、入学式兼学校説明会のタイミングで東京へ発った。
中学を卒業してから基本いつでも暇だったので、簡単に東京へ行けた。
説明会では私服可能というだけあり、チャラい格好や女の子らしいオシャレな格好などそれぞれの個性が効いた服で参加していた。
かくゆう僕も中学の時の制服で来るつもりだった。…さすがに悪いので普通にパーカーで来たが。
さっき入学式と説明会が終わり、今から校内案内というのが今日のスケジュールみたいだ。
校内案内では通常の学校じゃ考えられない量の教室と、考えられない大きさの女子寮、男子寮の場所を紹介された。
その日は制服を配布…なんでサイズ知ってるのかは謎だが……して家に帰された。
今日はうまくいった……。
僕はため息を吐くとベッドに倒れこむ。……ケータイを手に取り、SNSやらお気に入りの動画投稿者、ゲームのまとめサイトを確認しながら、もう一度ため息を吐く。
今日は誰とも話していないから問題はなかったが、明日はどうだ?
明日は実際に授業を受けて、絶対に人と話さなければならない。
そして次の日、実際にクラス……一学年2クラス、1クラス25人で去年造られ2学年しかないので、つまり全校生徒数・丁度100人……に別れて担任となる教師の話を聞いた。
配布された制服を着ている生徒は半分くらいしかいなかった…僕も上からパーカーとジャケット羽織ってきたけど。その方が落ち着くし。
担任教師は30代くらいの男性教師だ。
「えぇ……えっと、はい、今日から皆さんの担任となります。影山です。……え、えーと…少し前までFPSというジャンルでプロゲーマーをしていました。」
僕がぼーっと先生の話を聞いていると、生徒の一人が手を上げながら
「強かったんですか!?」
と質問を出した。
「えっと、まあ強かったですよ。それなりに。……まあでも、そこの田中ミノル君には勝てませんがね。」
窓の外を眺めていた僕は「ふぁ!?」と変な声を上げて影山先生の方を見る。先生は不敵な笑みを浮かべていて、クラス中の視線がこちらに集中していた。
ああ、まずい。これだ……これが嫌だったのに。
「く、くん?……ミノル君って、こいつ男か!?」
頭の弱そうな男子生徒が声を上げると男女ともにワキャワキャと騒ぎ始める。中には「ちぇっ!可愛いと思ったのに。」とか馬鹿なことを言う男子もいれば尚も喜ぶ女子生徒も男子生徒もいた。
「ちょっと待って……ミノル君よりは弱いってミノル君もFPSプレーヤー?一緒にやったことがあるの?」
一人の女子生徒が先生に問う。僕は精一杯に首を横に振るが、影山先生は違った。
「はい。……敵としてね、クラン戦ってやつを。ボコボコにされましたがね。」
影山先生はまた不敵な笑みを浮かべた。不気味な人だ。
先生の自己紹介が終わり、最初の授業までの10分間、僕は女子に囲まれ男子にグチグチと陰口を言われ続けた。
………そう、僕が入学式の日気にしていたのは僕の外見だ。
僕の外見はおおよその“男子高校生”とはかけ離れており、狭い肩幅、つぶらというか大き目の目、髪を切っているのに女の子のショートカットレベルで綺麗な髪。
女装もメイクもしていないのに唇も生まれつきピンクっぽく、”男子っぽくない“どころかそこらへんの女の子よりもワンチャン可愛い。……自分で言うことじゃないけど。
その日の授業が一通り終わり、僕は荷物をまとめると教室から出る。
「おい、嬢ちゃん!」
すると、後ろから肩を掴まれる。振り返るとそこにはいかにもなヤンキーが。
「今から暇?俺と遊ばね?」
男が言う。
こんなやつ今時いるんだな、とは思ったがこうゆうタイプにはめっぽう弱いのが僕だ。
「あ、ああ……ええと…ま、また今度で。」
アハハとほほんで誤魔化す。声まで女の子みたいなのでどうにもならん。
「えぇ~、じゃあさ、ラ○ンやってる?」
うわ出たよ、こいつまじか。僕が仮に女の子でも、初対面で連絡先聞くやつと何か遊ばないけど…まあ、新学年だからワンチャンと思ったのか。
さらっと逃げようとした僕の肩をヤンキーさんは強く握りなおす。
「きゃっ!」
我ながら恥ずかしい、女の子のような声を漏らしてしまった。
「おい、可愛い声出すねぇ!」
ヤンキーさんの鼻息が荒くなるのが分かる。ダメだ辛い帰りたい……。
「おい!」
僕らの後ろからたくましい青年らしい声がした。
「ああン?」
ヤンキーさんと同時に振り返ると、そこには体育会系のイケメンが立っていた。たくましいという言葉がこの世で一番似合いそうだ。
「ンだ?てめぇは?」
体格だけなら負けてないヤンキーさんが僕から離れ、男に近寄る。……そして素早く殴り掛かった、しかし、男はそれを片手で防ぐともう片方の手でヤンキーさんの頭を掴み、片足を引っかけ、素早く投げる。ヤンキーさんの身体が地面に叩きつけられ、気を失ったようだった。
すごい、としか表せられない。少なくとも僕の語彙力では。
青年は僕の方へ歩いて来て、
「大丈夫?怪我とかはないか?」
と顔を覗き込んだ。
僕が「うん」と頷くと、続けて青年は
「俺はけんじ。君の先輩ってやつだ。」
青年は優しい笑顔でそう言った。